52.過去は曖昧らしい
この二人の前世の時代では既に日本の年号は使われなくなっていたそうだ。
ていうかそもそも住んでいたのが日本かどうかも定かではない、というよりは少なくとも本人たちは「日本人」じゃなかったとか。
「×◆○州の▼◆○×で」
発音、聞き取れなかった。
もちろん年号はあるけど西暦でもない。
「今、そこら辺を歩いている人に『平安時代の何とか天皇の時の元号は?』とか聞いても判らないのと一緒。
最初から興味ないし、例えそんなもんは習ったとしたって頭から飛んでいるから」
「アンタたちだって、西暦の前に使われていた年号って知らないでしょ?」
言い訳じみているけど矛盾はないよね。
「すると、お二人の前世はかなり未来ということになりますな」
「だと思う。
化石燃料が尽きかけているとかで、物凄いエコだったことは覚えてる。
原子力はなかったような」
「実は私ら、その辺はあまりよく知らないんだよね。
いや前世の記憶がないというよりは、そもそも前世の私らってあまりそういう事を考えないで生きてたみたいで」
あー。
なるほど。
ラノベでもよくあるよね。
異世界に転生したのはいいけど、前世が普通の女子高生だから知識チートも何もないとか。
乙女ゲームの世界の悪役令嬢なのに、肝心の乙女ゲームを知らないせいで五里霧中とか。
考えてみれば僕だって日本や世界の歴史ってよく知らないからな。
江戸時代に転生して僕には前世の記憶があるとか言ってもあまり役に立たないだろう。
織田信長がどうのというのは無意味だ。
庶民に何が出来るわけでもないし、そもそもそういう知識は江戸時代の人だって持っている。
百年後に明治維新が、とか言ったってそんなの証明しようがないしね。
(確かにそうだな。
俺も瑞穂皇国史や世界史なんか全然だ。
戦争が始まったり終わったりした年号すら怪しい)
無聊椰東湖も同じか。
ということは、この未来人が本物かどうかの証明が難しいと。
「宇宙進出はしてました?」
加原くんが尋ねた。
王国臣民の中では数少ない理系というか、前世が錬金術師だもんね。
そういう事が気になるんだろう。
でもそれは僕も知りたい。
「してたけどショボかったと思う」
「少なくともアニメに出てくるような銀河帝国はなかった」
いやそこまで極端じゃなくても。
「太陽系の開発くらいは?
火星に植民地とか」
「なかった」
武野さんが無情に断定した。
「採算が合わないとかで中止になったんじゃなかったっけ?
火星基地の廃墟があるって話をどっかで聞いた気がするんだけど」
「そうだった?
悪い。
覚えてない」
武野さんと鞘名さんが相談するのを白けた気持ちで聞いていた。
やっぱ駄目だったのか。
そうだろうなあ。
一応SFファンの僕としては忸怩たる思いだけど、どう考えても宇宙開発って経済的に無理があるよね。
化石燃料が尽きかけているんだったら尚更だ。
「宇宙ステーションや月基地くらいはなかったのか?」
僕が言った。
ていうか無聊椰東湖が口に出してしまったんだけど。
「あ、それはあった」
「でも人間じゃなくて機械がやってたんじゃないかなあ。
地球じゃ出来ないような事をするって事で」
この二人、思ったより語彙が少ないというか。
そういや僕たちと違って商高だとか言っていたような。
いや別にだからといって頭が悪いわけじゃないと思う。
つまり、単なる女子高生なんだろう。
そんなことに興味がないんだよ。
「そうか。
真空や低重力/無重力環境下における原料精製や特殊加工のための工場はあるんだな。
宇宙進出、してるじゃないか」
加原くんが興奮して言った。
王国臣民の錬金術師というよりは科学好きの高校生になっている。
そういう人もいるんだろうな。
ITを趣味でやっていたらそうなるはずだ。
「……それだけでは証拠にならんぞ」
「そうかもね。
別にいいけど。
私ら、そんなに積極的に信じて貰いたいわけでもないし」
晶さんの詰問に武野さんが拗ねたように返す。
「申し訳ございません。
言葉が過ぎました」
高巣さんが謝った。
晶さんもばつが悪そうにちょっと頭を下げる。
何となく白けた雰囲気になってしまった。
「本日はこの辺にしておきましょうか。
初対面でございますし」
黒岩くんがまとめた。
さすが相談役。
「そうだな。
とりあえず我々の他にも前世持ちがいる可能性があることは判った」
晶さん、それは言わない方が。
「うん。
あたしらは納得した。
王国語や帝国語が判る人がこの時代にいるとは思ってなかったからね」
武野さんもちょっときついよ。
鞘名さんは何も言わない。
どうもこの二人、スポークスマンは武野さんの方みたいだね。
連携がとれている、というよりは仲が良いのか。
「そういえば二人の前世は同じ時代なのか?」
つい聞いてしまった。
「同じっていうか、前世でも知り合いだったよ。
アンタらもそうでしょ?」
なるほど。
「もう一つ。
前世っていつ頃思い出した?」
「思い出す」ってちょっと変だけど、それ以外に言い様がないよね。
「今年の5月13日。
何かいきなりだった。
私は未来にいたんだって」
僕たちと同じだ。
つまり、あの日に前世持ちが一斉に目覚めた(笑)わけか。
無聊椰東湖も。
(俺の場合、朝起きたら矢代大地になっていたという笑えない状況だったけどな)
無聊椰東湖は前世なんだからいいんだよ。
「……最初は怖かった。
厨二病が発症したのかと。
高二にもなって何で」
鞘名さんが暗く呟いた。
出た厨二病の自覚!
「こよりちゃんがいなかったら不登校になっていたかもしれない」
「私は逆に感動したけどね。
ヲタクが罹るっていう難病ってこれなのかって。
いやー、クラスにいるのよ厨二病。
痛いのは判っていたけど、内心がこうなっているのなら無理はないかって」
逞しいな武野さん。
ていうかやっぱ同じクラスにいるのね。
本物? の厨二病患者が。
「んで、桜加に冗談交じりに話してみたらいきなり抱きつかれて」
「だって嬉しかった、じゃなくて私だけじゃないって判ったんだもの。
救助隊が来てくれた気分だった」
大変でしたね。
それにしても武野さんの性格がああで助かったみたいだな。
前世を面白がるって想像を絶しているけど。
「お二人はどのような関係だったのですか?」
高巣さんが聞いた。
「親友。
前世が出る前から。
前世でもそうだった臭くて」
「前世からの縁だって話していたんだけど、まさか本当だったなんて。
感動でした」
そうか。
王国臣民も前世が蘇る前から影響を受けていたみたいだしね。
性向や趣味はもちろん、前世でオトモダチだったら現代でも何らかの関係がありそうな。
本人の感情だけじゃなくて、どうも運命的にも影響されていそうだ。
厨二病患者の設定そのものだけど。
因縁とか。
「実は家も隣同士で両親も知り合い、というよりは友達なの。
幼稚園から一緒だったし」
「前世からのコンビ。
最強でしょ?」
やっぱギャルか(笑)。




