352.ヲタクのカミングアウトらしい
まあ、この程度でいいだろうね。
宝神国際大学の事は大体判ったし、もうこれ以上この人たちと付き合ってもしょうがない。
それに何かさっきから嫌な予感がするんだよ。
厨二病的な。
「それでは僕たちはこれで」
言いかけた途端に遮られた。
「少し気になるのですが」
比和さん!
寝た子を起こさないで!
藪を突いたら碌でもない話が出てくるかもしれないから!
「何?
俺らに判ることなら何でも答えるよ?」
服部さん、調子がいいね。
本人は美男子なんだし美女を二人もつれているんだから比和さんにまで過剰に親切にしなくてもいいのに。
「それでは。
あの……さっき私を誰かと間違えませんでしたか?
花京院とか雫とかフェリーナとか」
一瞬で場が凍りついた。
特大の地雷踏んだーっ!
敢えて忘れようとしていたのに!
それは僕だけじゃなくて服部さんたちも同じなのに!
「そ、それは」
「何でもないです」
「ちょっと間違えただけで!」
大慌てで否定する三人組。
駄目でしょう!
間違えたとか言っちゃったら!
「間違えた……すると私とその方が似ているのでしょうか」
「ううっ」
茶髪の砧さんが呻いた。
黒髪の清水さんは唇を噛んで俯いている。
この二人は駄目か。
すると美男子の服部さんが呻くように言った。
「……どうしても聞きたい?
結構痛いよ?」
なら止めようよ比和さん!
「教えて下さい。
私はともかく大地……くんに関係しているとしたら聞き捨てには出来ません」
決然として困難に立ち向かう比和さん。
そうでした。
比和さんってそういう人でした(泣)。
「いや、そっちの大地くんは関係ないんだけど……でも彼氏だとしたら影響は受けるかもしれないのか。
判った。
話すよ」
無理に話さなくてもいいのに(泣)。
「お願いします」
僕の願いは届かなかった。
服部さんは二人の美女に「仕方がないからな」と確認するように言う。
「そうね。
隠してもしょうがないし」
「正直にお話ししても信じて貰えないでしょうから」
覚悟が決まったようだ。
さて何が出てくるのか。
服部さんが言った。
「ええと君たち、高校生だよね。
ゲームとかやる?」
比和さんが困惑した表情を作った。
「ゲームですか。
私はほとんどやりませんが」
しょうがない。
「僕はある程度なら。
スマホじゃない方ですけど」
とは言っても囓った程度だけど。
ちなみにスマホのゲームはやってない。
あの小さな画面で細かく動かれると目がチカチカしてくるんだよ。
「そうか。
大地くんはPC持ってる?
そっちではゲームしない?」
「パソコンは持ってますけど、ほとんど使わないです。
親父の中古を貰っただけで」
ノートパソコンなら持っている。
ネットにも繋がっているけどゲームはやってないなあ。
すると服部さんはほっと溜息をついた。
「ラノベとかは?」
「それは読みます。
アニメも」
今の高校生でそういうのと完全に無縁なのはガチガチの運動部員くらいじゃないだろうか。
いや全国級の運動選手でアニメヲタクってのも時々いたりして。
ラノベはともかくアニメはテレビつければやってるからね。
もっと言うとスマホ使っていればそういうのと無縁ではいられない。
最近は何にでもアニメキャラが使われている。
コンビニでもよくコラボしているしね。
読んだり見たりするつもりがなくても刷り込まれていると思う。
「だったら知ってると思うけどPCゲームの中にギャルゲーや乙女ゲーという分野があってね」
来ました(泣)。
厳密に言えば厨二病とは言いがたいけど、それに近い。
そういえばアクションゲームも最初はエロゲーだったというモノがかなりあるそうだし。
やっぱこの人たち、アレなのか。
まあ、むしろそっちの方が面倒なくていいかもしれない。
何せ矢代興業はガチの厨二病なんだもんなあ。
僕は務めて表情を消して運命の時を待った。
「私はよく知らないんですが。
ダイチ……くんは知ってる?」
比和さん。
あなたの積極性が裏目に出てます(泣)。
「ちょっとはね。
それで?」
何とか躱す。
「大地くんが知っているのなら話は早い。
実は俺たち、そういうゲームを研究するサークルのメンバーなんだ」
服部さんが告白した。
そうですかヲタクですか。
なるほど。
美男美女でヲタクってのはラノベ的だけど最悪の事態は避けられたようだ。
助かった。
「そうなんですか。
ええとギャルゲーでしたっけ。
そういうゲームを研究すると?」
やり込んでいたりして。
そんなアニメがあったなあ。
主人公は完全なヲタクでありとあらゆるギャルゲーをやり込んでいて「神」と呼ばれるほどの天才だったとか。
僕に言わせればただの廃人だけど。
ていうか「廃人」ってその世界ではむしろ賞賛の言葉だったりするんだよ。
僕みたいな凡人には理解不能な世界だ。
「いや……研究というよりはプレイするだけなんだけどね」
服部さんの口調が重くなる。
まー、研究会とついていても本当に研究しているサークルはあんまりないだろうし。
メイド研究会みたいに得体の知れない方向に研究を推し進めている例もあるから油断は出来ないけど。
ああ、そうか。
「するとさっきの、ええと花京院とか雫とかフェリーナとか言うのはギャルゲーのキャラですか。
それがひ……ハルミに似ていたと」
重度のヲタクは二次元と三次元の区別がつかない、じゃなくて敢えてその境界線を踏み越えると聞いたことがある。
ボーカロイドと結婚式したり、アニメキャラの誕生日にディスプレイの前にケーキを捧げて祝ったりするらしい。
それがとことんまで逝ってしまったと。
「いや……うん。
それはそうなんだけど」
服部さんの口が更に重みを増した。
砧さんと清水さんは両人とも俯いたままだ。
ヲタクがカミングアウトしたんだからしょうがないよね。
しかし「それはそうなんだけど」ってどういうこと?
服部さんはしばらく悩んでいたけど突然吹っ切ったような表情で僕たちを見た。
「もういいや。
ぶっちゃけよう。
大地くんと晴海さんだったっけ。
君たち、前世って信じられる?」
止めて(泣)。




