290.親友だったらしい
話しているうちに眠くなってきたとかで高巣さんが引き上げると他の人たちも解散になった。
と言っても比和さんはこれから明日の研修の準備があるそうだ。
「無理しないでね」
「はい!
ダイチ様!」
元気いっぱいな比和さん。
僕が心配しても始まらないか。
みんな自己管理は出来ていると信じよう。
僕は一度部屋に帰った。
布団が敷いてあった。
だだっ広い和室の真ん中にでん、とあるんだよ。
これが噂に聞く温泉旅館の「お客がいない間にお布団敷きます」サービスか。
何か落ち着かないけどしょうがない。
スマホや財布を一応キャリーバッグに仕舞ってからタオルだけ持って部屋を出る。
部屋に備え付けられていたガイドというか旅館の説明によれば、お風呂は朝6時から夜中の12時まで開いているそうだ。
つまり午前0時で閉まるらしいので急がないと。
男風呂はあいかわらず人気がなかった。
ていうか使われた形跡がない。
僕が入ったはずなのに、その跡すら完璧に消されていたりして。
凄腕の掃除人とかいるんだろうか。
まず身体をざっと洗ってから露天風呂に入って暖まる。
この時刻になるとさすがに冷えてきているんだよ。
旅館の高度が高い上に山の中にあるからだと思う。
空を見上げれば満天に近い星。
贅沢だなあ。
こんなことしていいんだろうか。
ていうか矢代興業の資金、大丈夫なのか。
かなり儲けているという話は聞いたけど具体的にどれくらいなのか判らないんだよ。
神薙さんに頼んで会計書類とか見せて貰ったけどさっぱりだったし。
元々は僕の大学進学の学資保険から始まったのかと思うと何かぞっとする。
こんなに簡単でいいのか。
いや、僕が何もしてないだけでみんなは頑張ったんだろうけど(泣)。
露天風呂から上がり、サウナで暖まってから身体をしっかり洗う。
それから大風呂に入っているとさすがに逆上せてきた。
今日はこの辺にしておこう。
一人でいるときに立ちくらみでも起こして気を失ったら命の危機だし。
脱衣場の壁掛け時計を見たらそろそろ日が変わりそうだった。
危ない危ない。
慌てて浴衣を着て風呂場から退却する。
部屋に帰る途中も誰にも会わなかった。
メイドさんたちはみんな研修の準備かなあ。
何か申し訳なくて、トイレに寄ってから部屋に逃げ込んですぐに寝てしまった。
眩しくて目が覚めた。
そういえばカーテン閉め忘れてた。
太陽の直射日光が斜めに射し込んできている。
スマホを見るとまだ午前6時前だ。
いつもより2時間くらい早い。
僕の家から学校まですぐなので、いつもはギリギリまで寝ているんだよね。
まあ比和さんたちが迎えに来てくれている間は頑張って早起きしたけど。
さて。
ちょうど朝6時ということは風呂は開いているはずだ。
一番風呂といくか!
幸い晴れていて露天風呂から見える山の緑が綺麗だった。
朝の空気が冷たくて心地良いなあ。
相変わらず誰も来ないので大風呂でちょっと泳いだりしてから身体を洗って出る。
余は満足じゃ。
「よう、ダイチ」
ロビーの所で晶さんに捕まった。
ソファーに強引に座らせられる。
「お早う晶さん。
早いね」
「俺は大体このくらいだぞ。
あまり寝なくても平気だ」
それは羨ましい。
僕なんか最低でも6時間は寝ないと頭がボケてくるのに。
「他の人たちは?」
「王女ならまだ寝てるぞ。
低血圧だからな。
朝飯ギリギリまで起きないはずだ」
そうなのか。
ていうか詳しいね?
「何で知ってるの?」
「ああ?
そりゃ同室だからな」
「じゃなくて低血圧とか朝が遅いとか。
帝国の将軍と王国の王女だとほとんど接点がないんじゃないの?」
転生してから親しくなったのかもしれないけど、それにしても個人情報を知りすぎている気がする。
「知らなかったのか?
俺と王女は前世では親友だったんだよ」
衝撃の事実!
「だって戦争してたんでしょ?」
「国と国が戦争することと支配者層の交際は別問題だからな。
そもそも戦争が終わったら手打ちしなきゃならないだろう。
その時に相手国に知古がいなければどうしようもなくなる」
だから帝国と王国に限らず周辺国家の支配階級同士は普段から交際してるんだよ、と晶さん。
そうなのか。
そういえばそうかも。
ヨーロッパだってまだ王国がたくさんあった頃は王族同士で嫁に行ったり婿入りしていたりしていたみたいだもんね。
そのおかげでみんな親戚になってしまって。
確か第一次大戦前にはイギリスやロシアやドイツの王族や皇族がみんな近い親類だったと習った気がする。
イギリスの女王の甥がドイツ皇帝とか。
「晶さんと高巣さんが親友ねえ。
やっぱ同じ学校だったとか?」
うっかり言ったら馬鹿にされた。
「前世は日本と違うんだぞ。
学校なんぞなかった。
そもそもラノベに出てくる貴族向けの魔法学園なんぞ有り得ん。
どれくらい金がかかると思っているんだ」
「そうなの」
「そうだ。
第一そんなものを作っても誰も入学しない。
入れるほど金や身分がある奴には家庭教師がつくからな。
ない奴はそもそも教育自体受けられん。
大体、身分が違ったら同級生とかあり得ないだろう」
なるほどね。
悪役令嬢モノのラノベだと王太子に子爵令嬢が絡んだりするけど実際には無理だ。
ていうか王太子はともかく子爵家が令嬢を学園に出せるはずがない。
学費は天文学的だろうし。
だって王太子が通っている学校なんだよ。
教師なんか超一流が揃っているばずだ。
ラノベだと「学費は国が出します」とか平気で書いてあったりするけど、それって税金だからね?
そんな不急不要な施設に国の予算はつかないんじゃないかなあ。
「じゃあどうやって知り合ったの?」
「一応、国際会議みたいなもんがあるんだ。
舞踏会や懇親会付きの。
というよりはそっちがむしろメインだ。
国の面子がかかってるから各国は競って王族を送り込む。
もちろん会議に出席するのは一部なんだが子供たちが集められて一緒に遊ばされたりして」
若年層のうちにお互いに知古を得る目的らしい。
「そこで王国の王女様と?」
「今となっては記憶は曖昧だが。
奴……王女はなかなか面白い奴だったよ」
くくくっと思い出し笑いする帝国将軍。
何かあったんだろうか。
「これ以上は秘匿義務があるからここまでだ。
まあ、俺と王女は親しい間柄だったということだけ覚えておけ」
まあ別にいいけどね。
しかし二人は親友だったのか。
それが戦争になり、休戦協定の場で顔を合わせる。
悲劇?
「いんにゃ。
そもそも俺と王女に面識があるからこそ組まれた協定締結の場だったからな。
一応交渉とかしたけど全部茶番だ」
顔を合わせるとお互いに笑いを堪えるのに苦労したぜ、と晶さん。
それって酷くない?




