20.方針は2つあるらしい
「そういうわけで、我が王国臣民の日本適応作業は今後も継続して行ってゆく所存でございます。
ダイチ殿の見事な采配で比和を筆頭とするメイド部隊は見事に順応致しました。
これからもよろしくお願い申し上げます」
黒岩くんが頭を下げた。
しょうがないっスね。
利用されているだけという気もするけど、断ったらどうされるか判らないからな。
自分の安全のためにもここは承諾の一手しかない。
それにしても比和さんたち上手くやっているのか。
あのクリーニングバイトから僕は完全に手を引いたからよく知らないんだよね。
親父たちも何も言わないし。
ていうか最近また忙しくなったとかでこのところ顔も見ていない。
別に構わないけど。
でも比和さんたちの事は気になるな。
「どうなったの?」
「比和を会長として同好会を立ち上げました。
『家政研究会』でございます」
「メイドじゃないの?」
「比和が申すには、メイドと名乗ってしまうと別の意味に取られかねないとのことです。
現代日本ではメイドという言葉を違う意味で使っていると本人は怒っておりましたが」
そうか。
確かにメイド研究会とかそういう名前だと萌え系のサークルとしか見て貰えなさそうだからね。
比和さんからしてみたらメイド服でウェイトレスやって「萌え萌え何とか~」とか言っている人はメイドとは認められないんだろう。
でも現代日本じゃそっちの方が正統メイドなんだよ。
そこら辺は妥協したと。
「高校の部活ならある程度は信用おけますもので。
ダイチ殿のご指導の通り、今後は王国臣民以外にも広めてゆく所存とのことでございます」
黒岩くんが平然と言った。
え?
僕はそんなご指導なんかしてませんけど?
(いややってるぞ。
矢代大地の言う事には確実性がある、と王国臣民は思っているわけだ。
同好会を作れと言われて、自分たちの間だけだと思うわけがないだろう)
無聊椰東湖の視点で考えてみたらなるほど。
クラス内の集まりだけだったら最初から「班」でいい。
高校の部活とか同好会はクラス内で完結するもんじゃないからね。
最低でも校内の生徒全員に開かれているわけか。
部活によっては学外にも普及するかもしれない。
対外試合とかで。
メイドの試合って何するんだろう?
「そちらの方はおいおい進めてゆくと致しまして、問題はもう一つの活動方針でございます」
黒岩くんが話題を変える。
高巣さんが頷いた。
両手の平を胸の前で組んで話し始める。
「以前申し上げたと思いますが、わたくし共の最後の記憶は停戦交渉のために砦に詰めていたというものです。
その場所に我等王国の民は多数おりました。
ダイチ殿を除く2年1組の生徒34人は全員そこにいた者共ですが、前世の記憶を持つ者がそれだけという証拠はありません」
「他にも前世持ちがいると?」
何とか平常な声で返せた。
僕も前世持ちなんだよ。
その前世が王国臣民じゃないというだけで。
原因も理由も不明だけど、僕だけボッチなわけだ。
高巣さんが頷く。
「可能性がある限り、そのように想定する必要があります。
どこかにはぐれた王国の民がいるかもしれません。
わたくしは王国王女として、あの使節団を率いた責任者として見過ごすわけにはいきません」
高巣さんってやっぱり王女様なんだなあ。
自分がやりたいとかじゃなくて、まず最初に責任が来る訳か。
そうなんだろうね。
ラノベの王女様や悪役令嬢って基本は自分の欲望のために行動するけど、産まれながらの王族や貴族って本当にそうだろうか。
僕はもちろん貴族出でも何でもないから判らない。
でも支配者の家に生まれて幼い頃からそういう教育を受けてきたら、自分の事より「家」を優先して考えるようになるんじゃないのか。
まあ、ラノベやアニメの設定に文句言っても始まらない。
エンタテイメントの主人公がひたすらお家大事だと話が進まないだろうし。
話は判った。
「具体的には?」
まさかあなたの前世は王国臣民でしたか、とか尋ねて歩くわけにもいかないでしょう。
「一応、学内では何気ないふりで王国語で話しかけるという確認を行っているのですが」
高巣さんががっくりと肩を落とした。
「現在の所見つかったという報告は受けておりません。
そもそもその方法では非効率的過ぎますし、対象が学内にいるとは限りません。
そこで」
高巣さんがすっと顔を上げた。
マジな顔で僕を見る。
瞳が鋭い?
ホントにあの癒やし系の高巣さん?
(まったくだ。
あの比和ちゃんよりいい女になってないか?)
無聊椰東湖は引っ込んでて!
「ダイチ殿にご教授願いたいのです。
何か良い方法はありませんでしょうか」
来た。
あいかわらずの無茶振りだ。
比和さんの時もそうだったけど、この王女様は人を何だと思っているんだろう。
ドラえ○んか?
「姫様。
お話を急ぎ過ぎでございます」
黒岩くんが割り込んでくれた。
「ああ、そうですね。
申し訳ありません」
「いやいいんだけど。
つまり僕にアイデアを出せと?」
「お知恵をお借りしたいだけでございます」
同じ事じゃないか(怒)。
(まあ待て。
上司なんてもんはそんなもんだ。
命令すれば部下がやると思っているんだよ)
無聊椰東湖が諦めたように考えていた。
てことは僕がそう思っている訳か。
やれやれ。
「判りました。
考えてみましょう」
「おお!
よろしくお願い致します!」
黒岩くんが相貌を崩し、高巣さんがにっこりと微笑んだ。
異世界に召喚された勇者候補の高校生ってこんな気持ちになるのかなあ(泣)。




