177.衝撃の自己紹介らしい
始業式は滞りなく終わった。
例によって校長先生が短く話して、あと新任教師の紹介があっただけだ。
担任の教師はまだ判らない。
アニメとかラノベでもそうだけど、ああいうのは生徒が教室に入ってから徐に現れるものだ。
もっとも3年5組の担任が誰になるのかは大体予想がつく。
如月の教師の中でも貧乏くじを引かされ慣れているあの人に押しつけられたんだろうな。
始業式が終わると全員で各教室に移動だ。
僕の腕には相変わらずシャルさんがくっついているのはラノベの通りで、まさか本当にそんな行動に出る人がいるとは思わなかった。
ラノベって荒唐無稽が信条なはずなのに、意外に現実なのかも。
まあ、みんな厨二病だし(泣)。
僕の周りには宮砂さんと比和さんを初めとしたもと2年1組の生徒がいてくれているため、周囲の生徒の視線から逃れられたのは嬉しい。
だけど新しい同級生は厨二病ばかりじゃないからね。
結構比率は高い気がするけど。
教室のなるべく後ろの方の席につく。
窓際は真っ先に占領されていたけど、どうせすぐにくじ引きで移動することになる。
落ち着いてから見回してみても明白にアメリカ人と判る人はいなかった。
アレックスとアドリアンなんて名前だからてっきり白人種かと思っていたけど、ひょっとしたら中国系とか?
「みんなはもう会った?」
「いえ。
会社にも来なかったようです。
ただ須藤姉妹たちとは接触したらしく」
やはりそうか。
ならば須藤姉妹に押しつけてしまえばいいかも。
その時、いきなりドアが開いて誰かが入って来た。
岩淵先生。
生徒会の顧問だ。
やっぱし(泣)。
外国人の編入生が3人もいるクラスの担任に他の先生が耐えられるわけがないと思われたんだろうな。
生徒会の顧問ということは、つまり校内のトラブル対処係みたいなものだし。
だから生徒会長の僕をクラスに入れて手下を確保したと。
「静かに。
このクラスの担任の岩淵だ。
これから1年間よろしく」
岩淵先生は簡潔に言って、それからなぜか僕と視線を合わせた。
はいはい、判ってますって。
「自己紹介して貰うところだが、みんなもう知ってるだろう。
今年から当校に編入する生徒がいる。
入れ」
なぜか目を伏せて命令する岩淵先生。
すると開けっ放しだったドアから2人の生徒が入って来た。
アレックスくんとアドリアンくん……じゃない!
クラス中の生徒たちからざわめきが聞こえる。
「アレクサ・ロンズデールさんとアデリン・ロンズデールさんだ。
アメリカ合衆国のフロリダから来た」
面倒くさそうに紹介する岩淵先生。
カカワリアイになりたくなさそうだなあ。
そう、二人は女の子だった。
コーカサイドというかロシア系というか、抜けるような色白の美少女だ。
長身に見えるけど、多分細身で小顔だからだろう。
短い髪の色は濃茶色でちょっと縮れている。
何とかいうロシアの美少女スケーターにそっくりなんですが。
でも双子だ。
これかよ!
宇宙人ということははっきりしたけど本当にアメリカ人なのか。
「Please introduce yourself.」
あいかわらず中学生英会話な岩淵先生の命令でアメリカ人の美少女が口を開いた。
「Hello everybody.
We came from Florida in USA.
My name is Alexa Lonsdale.
Please call me Alex.」
続いてもう一人。
「My name is Adrian.
Too do.」
アレックスさんとアデリンさんね。
アデリンさんの方はものぐさらしい。
名前から男だとばかり思ってたけど、そういえばアレックスって女性名でもあるよね。
そういうテレビドラマを見た覚えがある。
でもアドリアンとアデリンは違う気がするんだけど。
まさか男の娘とかじゃないよね?
「矢代。
この二人を頼む」
岩淵先生のご指名が入ってしまった。
しょうがない。
僕は立ち上がって言った。
「I am Daichi Yashiro, Student council president of this school.
I will accompany yours until you get used to it.」
「「Thank you!」」
二人の白人美少女は大きく頷いてから僕に向かって歩いてきた。
やっぱそんなに大きくない、というよりはむしろ小柄だ。
でもとにかく細い。
バレリーナか何かか?
僕の後ろの空いている席に着いて貰う。
あー、何かラノベとは違うな。
「ダイ……矢代くん」
宮砂さんが遠慮がちに僕の手を引いてくれたおかげで周囲の状況に気がついた。
何注目されてんの?
「いきなり外国人と流暢な英語で話したりするから当然で……だよ。
これ以上目立たない方がいい……と思う」
もっともだけど、モブの僕なんかすぐに忘れられるから。
教室内では気を取り直した岩淵先生の指示で同級生の自己紹介が始まっていた。
ほとんどは知らない人たちだ。
僕、サークル活動してなかったからね。
2年1組の同級生にも名前と顔が一致しない人もいたくらいだから、他のクラスの人なんかほぼ判らない。
それでよく生徒会長になれたよね。
まあ、無投票当選だったんだけど(泣)。
順番が回ってきたので僕は立ち上がりざまに「矢代大地です。生徒会長やってます」とだけ言って座った。
まばらな拍手が上がった。
みんなそんなもんだからいいんだよ。
どうせ如月高校なんだから受験予備校くらいにしか思ってないし。
高校3年ともなれば同級生なんかライバルかモブだ。
推薦で進学出来そうな僕にとってはライバルすらいないからね。
宮砂さんが「生徒会書記です」とだけ言って終わる。
一応美少女だからそれなりの拍手。
「My name is Shallot marnak, from UK.
Nice to meet you!」
元気がいいシャルさんの挨拶には万雷の拍手が沸き起こった。
やっぱり金髪美少女の威力は大きいな。
次の比和さんも同じくらいウケていた。
この人は去年から、というよりは入学した時から如月高校のヒロインだからね。
まあ、ギャルやってた時はイロモノ扱いだったんだけど。
それでも巨乳で美人な上に性格もいいから常に人気者だ。
アレックスさんとアデリンさんは教壇の前で自己紹介したからパス。
全員の自己紹介が終わると岩淵先生が言った。
「よおし。
もちろん判っているだろうがこのクラスは私立理系コースだ。
従って必ずしも馬鹿正直に全科目でいい成績取る必要はない。
志望校の受験科目にない単位については一人一人相談に乗るから考えておけ。
来週辺りから個人面談を始める。
何か質問は?」
シーン。
質問なら個人面談の時にすればいいよね?
「よし。
それでは今日はここまでとする。
みんなそれぞれサークルの世話などあるだろう。
判っているとは思うが入学式は来週だ。
部員募集の準備を急いだ方がいいぞ。
では解散」
それだけ言うと岩淵先生は教室を出て行こうとして、ドアの所で振り向いて言った。
「そういえば矢代。
入学式とその後の新入生歓迎会の件で連絡がある。
生徒会室に役員を集めておけよ」
面倒くさっ!




