171.条件闘争らしい
暇な割に慌ただしい春休みが半ばを過ぎた頃、つまり4月に入ってすぐだけど、僕は生徒会顧問の岩淵先生に呼び出された。
春休みと言っても休暇中なのは生徒だけで、先生たちは出勤して仕事している。
それどころか新年度からのクラス分けや新入生のチェック、その他色々あってメチャクチャに忙しいそうだ。
そんなの生徒である僕には関係ないんだけど、呼び出しをくらって登校してみたら早速生徒会室に連行された。
先生と向かい合って座る。
腹が立ったからお茶は出さない。
僕は高校生としての正当な権利をもって休暇中なのに、先生の都合で呼び出されたんだからね。
「すまんな。
だが新学期が始まる前に伝えておくべきだろうと」
先生、何か奥歯にものが挟まってませんか?
「僕だけでいいんですか」
「後の連中には矢代から伝えてくれ。
例の件だ」
「だと思いましたけど」
「正式に決まった。
3人が編入してくる。
国籍はアメリカ人が2人にイギリス人が1人だ」
それは聞いていたけど黙っていることにする。
「そうですか」
「あまり驚かないな。
まあ外国人と言ってはあったか」
「驚くと言うよりは、ほっとしています。
これがボリビアとかウガンダとか言われたらパニックだったでしょうけど」
本当だよ。
まだ英語圏の人で助かった。
「そうだな。
ちなみに3人とも3年の私立理系コースに入る予定だ。
矢代もそうだったよな」
「そうですが。
嫌な予感がしますけど?」
「残念ながら当たりだ。
3人とも矢代と同じクラスになる」
やっぱかよ!
(まあ当然だな。
学校側としては矢代大地に丸投げするつもりなんだろう)
頭痛え。
しかも3年からはコースごとに別れてしまうから、国立理系コースの黒岩くんや国立文系コースの神籬さんなんかには逃げられると。
きつすぎる。
でも学校側が決めた事なんだからもうひっくり返せないんだろうな。
「それから」
岩淵先生が僕の顔から視線を逸らせながら言った。
まだあるのかよ。
「生徒会が出した条件について校長と掛け合って、渋ったものの何とか認めさせたよ。
とりあえず奨学金の件はOKだ。
それから推薦については、することはするが成績次第で進める大学が決まる」
それはそうか。
如月高校側としても成績を無視して推薦なんか出来ないからね。
でも、これで成績が悪くても推薦はして貰えることになったと。
「言っておくがこれは成功報酬だからな?」
それは困る。
「奨学金の件ですよね?
推薦については生徒会役員を引き受けた時点でクリアしているはずですけど」
「まあお前はな。
残りの生徒会役員については推薦も含めてだ」
それもそうか。
まあ僕が無事ならいいけど。
(矢代大地ってある意味、物凄く冷血だな)
今頃気がついた?
「で、勝利条件は」
「具体的には編入生たちが如月に馴染むとまでは言わないが問題を起こしたり周囲からクレームがつかなければの話になる」
「それってどの程度なんですか」
「ケースバイケースだな。
今から条件は決められんよ」
確かに。
(この辺が限界というか妥協点なんじゃないか。
条件としては悪くないだろう)
無聊椰東湖もそう思う?
まあいいか。
「判りました。
みんなに相談してみます」
「いい返事を期待している」
岩淵先生は僕と視線を合わせないまま去った。
僕って嫌われてるのかな。
(いや、教師の立場で矢代大地に厄介事を押しつけるのが後ろめたいのさ。
俺もよく忘れるが矢代大地ってまだ高校生だぞ。
常識で考えて、学校側のトラブルを一方的に押しつけていい相手じゃない)
そうか、僕って高校生だったんだっけ(笑)。
周りがみんな厨二病なもんで時々忘れるんだよなあ。
それはいいとして、早速報告しないと。
スマホを取り出して2年1組の幹部専用掲示板で集合をかける。
責任は出来るだけ分散しておかないとね。
生徒会室で問題集を解きながら待っていると、ポツポツと人が集まってきた。
「ダイチ殿。
何事でしょうか」
真っ先にやってきたのは黒岩くんだった。
早いね?
「会社におりましたもので。
緊急連絡ということですが」
そう、集合はかけたけど議題については伏せたんだよ。
だって正直に言ったら逃げられかねないし(泣)。
「ダイチ様!
遅れて申し訳ありません!」
比和さんも来てくれた。
つい最近幹部入りしたんだよ。
具体的には執行役員に昇格したんだけど。
それで自動的に幹部専用掲示板にも登録されたのか。
飛んで火に入る夏の虫か。
哀れな。
でもちょうど良かった。
これで比和さんの推薦も何とか出来るかも。
「……遅れました」
最後に到着したのは神薙さんだった。
やっぱり仕事していたんだろうな。
スーツ姿だった。
もう女子高生に見えないどころか女子大生やOLすらすっ飛ばして大企業の総合職社員のようだ。
ちなみに宮砂さんは気がついたら僕の隣に座っていた。
どうやって?
怖いから聞かないけど。
生徒会室に役員+比和さんと黒岩くんが集合したところでドアを閉めて鍵をかける。
比和さんがお茶を煎れてくれるのを見ながら僕は言った。
「みんな忙しいところをご免。
岩淵先生から編入生について指示があったんで、その情報共有したいと思って」
みんな頷くだけで何も言わない。
ここに集まったのは生徒会役員である高巣さん、神籬さん、宮砂さん、僕に加えて黒岩くんと比和さんだ。
比和さんだけ場違いな気がするけど、それはとりあえず無視して僕は岩淵先生の話を報告した。
編入生は3人。
アメリカ人2名にイギリス人1名。
全員、3年に編入になる。
「承知しております。
英国の者は我が同胞でござりますれば」
黒岩くんが慎重に口を挟んできた。
そんな判りきっている事だけで呼ばれたんじゃないのは当然だからね。
「岩淵先生の話では3人とも私立理系コースになる。
僕と同じクラスに決まったみたい」
ざわっ、と反応があった。
「それはそれは」
「つまり僕に丸投げしてきたんだと思う。
そこで相談なんだけど、黒岩くんは無理としても2年1組の人たちを出来るだけ私立理系コースに集められないかな。
今ならまだクラス変更が出来ると思うから」
そうなんだよ。
学校側は僕一人に丸投げして世話をさせようという腹らしいけど、いくら何でも無茶だ。
一人ならともかく3人だもんね。
だったらこっちの人数を増やせばいい。
もうクラス構成は終わっているはずだけど、学校側が無理を言ってきているんだからねじ込めばクラスメンバーの移動くらいはしてくれるはずだ。
ていうかしてくれないんだったらこの話は断る!
「……そうでございますね。
判りました。
人選させて頂きます」
さすが黒岩くん。
決断が早いな。
だったらもう一つ。
勇気を出せ矢代大地!
「比和さん」
「はい?」
いきなり呼ばれて飛び上がる比和さん。
「出来れば比和さんにも私立理系クラスに来て欲しいんだけど。
あと、生徒会にも入らない?」
強引過ぎた?




