109.生徒会室でダベリングらしい
幸いな事に2年1組たちに本物認定された双子の美少女は順当に部室を選んでくれた。
その後も特に何か文句を言ってくるような事もなく、如月高校生徒会は平穏を取り戻した。
「あの程度の事で動揺するとは。
私もまだまだでございます。
切磋琢磨せねば」
神籬さんが何か勘違いしたみたいで生徒会室によく来るようになったけど、あれ以後は厨二病の襲来とかないからね。
結局、新会社関係の書類とかを処理している。
生徒会役員としては本当に仕事がないんだよなあ。
考えていたよりずっと閉職だった。
「意外でした。
生徒会は如月高校という組織体の統括機関だとばかり思っていたもので」
「親衛隊や諜報機関もないのですね」
宮砂さんや高巣さんが言うけどラノベの読み過ぎでは。
そこまでいかなくてもラノベにおける生徒会は結構仕事が多いからね。
アニメでも同じだ。
もっとも僕が読んだ中には生徒会活動が部活扱いになっている話もあったっけ。
如月高校の場合はそれに近いのかもしれない。
「そういえばわたくしが読んだ本の中に、生徒会が他校との交流を行うというものがあったのですが」
ある日のお昼休み、生徒会室でみんなでまったりとお茶を飲んでいると高巣さんが言い出した。
「ああ、晶さんたちね。
そういえばあれから音沙汰ないな」
わざわざ御厨台高校生徒会として正式に訪ねてきた割にはその後の動きがない。
サッカー部キャプテンとの確執はどうなったんだろう。
スマホを見てみたけど晶さん関係のメッセはなかった。
「まあ、こっちから何か言うほどの事でもないだろうし」
「そうですね。
将軍閣下とは新会社の件で頻繁に情報交換しておりますが、特に問題があるような話は聞いておりません」
神籬さんも知らないらしい。
「寝た子は起こさない方がいいよね」
問題がないんだったらわざわざこっちから掘り起こすこともないだろう。
「そういえば武野さん達はどうなの?」
聞いてみた。
あの人たちも新会社に関わっているはずだ。
「武野殿と鞘名殿の配置はまだ決まっておりませんが独立した事業部を担当する予定です」
何と。
そういえば未来人は謎の情報を使ってお金を得ているとか聞いたっけ。
それを会社組織に導入するつもりか。
あまり知りたくないなあ。
しかし社長になるはずの僕が完全に情報遮断されているって(泣)。
「近いうちに株主総会と取締役会を開きますので」
神籬さんはあまり詳しくは語りたがらなかった。
如月高校生徒会と関係ないからね。
二足のわらじを履くのも大変だ。
「武野さんたちって荒瀬川商業高校でしたね」
高巣さんが思い出したように言った。
「そうですね」
「先方の生徒会とは交流しないでいいのでしょうか」
気配りの王女様だな。
残念ながら方向を間違えているけど。
何で厨二病が確定していて、しかも一緒に会社をやろうとしている人たちの高校と関係を深めなければならないんだよ。
出来れば縁を切りたいくらいなのに。
「武野さんたちは別に生徒会役員とかじゃないみたいだよ。
未来人ってあの二人しか見つかってないし」
積極的に探そうともしてないからね。
ていうか捜索する方法が判らない。
そもそも武野さん達自身が同輩を見つけることに乗り気じゃないみたいだし。
人のことは言えない。
2年1組や帝国の仲間募集(違)も進んでないらしかった。
ホームページでの呼びかけや動画アップも続けてはいるみたいなんだけど、もはやネタ扱いされていると聞いている。
比和さん扮する王女様はあいかわらず人気があって、ますますヒロイン化しているそうだ。
このままだとコ○ケとかにコスプレが出そうな状況らしい。
比和さんや黒岩くん自身がコスプレなんだけどね。
高巣さんは安堵していた。
「比和には申し訳ないのですが、わたくしが露出すべきでないと黒岩が」
王女様大事の忠臣だからな。
対外的には比和さんを王女様として売っていくつもりなんだろう。
比和さんがまた、そういうある意味危険な役割を嬉々として引き受けてるもんなあ。
得がたいメイドさんだったりして。
高巣さんは浮かない表情だった。
「本当です。
比和には感謝してもしきれません。
ですがご迷惑をかけるだけでなく囮として使うなどと」
「王国臣民の義務でございます。
お気になさらぬよう」
出た。
王国臣民の義務。
僕には未だに理解不能な概念だったりして。
(俺にも判らんな。
民主主義国家の国民とは根本的に思想が違うんだろう)
無聊椰東湖もそう思うのか。
まあいいや。
僕には強制されないみたいだし、正直言って人の事まで考えている余裕はないからね。
それで思い出したけどそろそろ後期の中間テストが迫ってきているような。
僕にとってはそっちの方が差し迫った問題だったりして。
「そうでした。
わたくしには死活問題です」
高巣さんの表情が引き攣った。
黒岩くんが定めた「2年1組臣民は全員学年百位以内」という縛りは高巣さんにも適用される。
前期の期末テストは何とかクリアしたけど、高校2年の後半だとみんなそろそろエンジンがかかってきているからね。
僕も学年順位をもう少し上げておきたい。
何せ進学がかかっている(泣)。
「……それでは少し早いですが、勉強会を開始致しましょうか」
神籬さんが言った。
この人は学年一桁で教える側だからなあ。
僕の隣で頷いている宮砂さんも30番台。
心配なのは僕と高巣さんだけだ。
「是非!」
高巣さんの一声で補習授業? の実施が決まった。
「神籬には悪いのですが。
新会社のご用もありますでしょう」
「会社自体の立ち上げは近日中でございますが、本格的に始動するのは後期中間テスト以後になると思われます。
それに、手続き上の作業はほぼ終了しておりますので」
そうなの。
あいかわらず有能だな。
「それでは早速準備させて頂きます。
宮砂」
「……はい」
宮砂さんって神籬さんの部下というか、少なくとも身分的には下みたいなんだよね。
命令されたら逆らえない。
神籬さんが「失礼させて頂きます」と言って宮砂さんを連れて去ると、生徒会室には高巣さんと僕だけになってしまった。
もちろん廊下には鏡と琴根辺りが待機しているだろうけど、部屋の中には入ってこない。
何か色々あるらしい。
「王国での習慣のようなものです。
お茶入れましょうか?」
「あ、僕が」
「わたくしにさせて下さい」
立ち上がろうとした僕を制して動く高巣さん。
神籬さん辺りがいたら阻止されていただろうけど、高巣さんは「自分でやりたいのです」とか言いながらお茶を入れてくれた。
「王女様なのにいいの?」
「そんなものは幻想です。
そもそも自宅では当たり前に皿洗いやお掃除していますし」
それはそうだ。
厨二病だとしたって客観的にはただの女子高校生だもんね。
こんな機会は滅多にないので聞いてみる。
「そういえば聞きそびれていたけど、会社役員の件は親に許して貰えたんだ」
「最初はとんでもないと言われて断固反対でしたが、普段は大人しいわたくしが何を言われても引かないので根負けしたらしくて。
何かあったらすぐに引き上げる事を条件に、ようやく許可を頂けました」
高巣さんは肩を竦めた。
「黒岩や神籬といった信用ある同級生が一緒にやることと、後はダイチ殿のご両親とお話しして納得して貰えたようです。
素晴らしいご両親ですね」
(確かに矢代大地の親は規格外だからな)
「変な親でしょ」
「ダイチ殿を信頼されておられることが伝わってきました。
そんなダイチ殿を、わたくしも信頼しておりますよ」
にっこり微笑んでくれる高巣さん。
王族ってやっぱ高貴?




