9.マジで厨二病らしい
「詳しいとか言われても。
そういう小説が好きで読んでいただけだし。
ていうか高巣さん、何で知ってるの?」
「あら、有名ですよ。
矢代大地殿がアニメやライトノベルの趣味をお持ちであることは」
「我々も知識としては知っておりますが、残念な事に王国臣民は誰一人としてそういった方面の嗜好を持ち合わせておりませんでした。
それ故、前世が蘇るような事態における対応を大地殿にご指導頂きたいと」
高巣さんと黒岩くんが人の古傷を広げて塩を塗り込んでくる。
「本当に?
ラノベ読んでる人って僕以外誰もいないの?」
「おりません」
黒岩くんが最後通牒を突きつけてきた。
僕が衝撃を受けて黙り込むと、その隙を突いた無聊椰東湖が言った。
「それは、やはり前世の影響なのか?
そういう趣味を誰も持ってないというのは何か理由がありそうな気がするが」
「やはり鋭い方でございますね」
黒岩くんが満足そうに言った。
無聊椰東湖って鋭いのか。
「その通りかと。
まだ確認中でございますが、どうも王国臣民は前世の記憶が蘇る以前から無意識に影響を受けていたようでございます。
大半の者が王国臣民であった時の嗜好や職業、あるいは役職に近い性向や趣味を持っておりまして」
黒岩くんの説明によれば、王国臣民の人たちは前世の生き方に概ね沿ったような部活や行動に走っているそうだ。
例えば鏡賢吾は弓道部所属で前世は弓兵だった。
琴根誠次は剣道部だけど前世は槍兵だということだ。
「槍なのに剣道?」
「現代日本で槍に一番近いのは長刀ということですが、そういった部活動は存在しなかったための窮余の策だったと」
「長刀部がある高校への進学も考えたのですが、調べたら女子限定だったので諦めました。
でも大学行ったら是非!」
末席というか一番端に座っている琴根くんが表情を輝かせて言ってから慌てて頭をテーブルに打ち付けた。
「申し訳ありません!
護衛の分際で!」
「かまわぬ。
今は皆、同級生なのだからな」
黒岩くん、その言い方は同級生に対するもんじゃないと思うけど。
あれ?
その法則だとおかしいのでは。
「でも高巣さんや黒岩くんって王女様や相談役だったんでしょう?
それが何で手芸部や天文部なの?」
高巣さんが赤くなった。
「皆の者には秘密でお願いします。
わたくしはもともと刺繍や小物作りが好きで、公務の合間に細々と嗜んでおりました。
国王からはもっと政治向けの勉強をせよと命じられていて思うように出来なかったのですが。
日本人に転生してからは思う存分趣味に没頭出来ると」
「私も同様でございます。
王国の相談役として過ごしておりましたが私は元々は学者志望でございまして。
特に錬金術の中でも星の研究がしたいと常々思っておりました。
日本では制約もなく将来は天文学者に」
つまり二人とも、もともとそういう嗜好だったわけか。
でも前世では立場上、趣味や嗜好を制限されていたと。
その思いが日本での人生に影響を与えていたのか。
「なるほど。
王国にはアニメやゲームがなかったからそんな趣味に走った奴がいなかったわけか」
無聊椰東湖が呟くように言った言葉に黒岩くんが反応した。
「似たような娯楽はないこともございませんでしたが。
ただ、アニメやゲームに出てくるような状況は時として王国臣民にとっては精神的外傷に近いものがございます」
黒岩くんは顔を歪めた。
高巣さんも憂い顔だ。
「トラウマ?」
「はい。
例えば人類対魔族とか魔王を倒しに行くとかいうお話でございますね。
魔法で戦う事も王国臣民には現実でございました故」
「ああ、そういえば魔法があったんだね」
魔族もいたらしいし。
「でも日本のゲームやアニメは絵空事だよ?
魔族といっても人間なんでしょう」
「人間という分類には含まれますが、例えば休戦協定の魔族側代表だった□●×△将軍などは体長が3メートル近くありました。
随行員の方々も尾や翼をお持ちでございました」
「最初にご用意した会談用の備品が小さすぎて慌てましたからな。
魔族の方々は高貴になればなるほどお身体が大きくなることを失念しておりました故」
「ちょっと待って!
魔族って人間じゃないの?」
人間だと聞いていたけど。
確か帝国軍という話だったのでは。
「人間ですよ?」
「ああ、純粋な日本人である大地殿に誤解を招くような説明をしてしまいましたが、我々の前世の世界では『人間』の定義が違っております。
会話が出来る知性を持ち、道具を使う種族はすべからく『人間』と呼ばれておりました」
高巣さんと黒岩くんは何でもない事のように言った。
「それ故に魔族も人間の一種でございます。
魔族とひとくくりに申し上げておりますが、実際には雑多な種族の集まりでございますが」
「『魔族』という呼び名は、魔法を使う種族だからだと申し上げてもよろしいかと。
もちろん魔族でなければ魔法が使えないわけではございませんが」
黒岩くんは自分の胸を叩いた。
「私の前世は日本のゲームやアニメにおけるドワーフに近い種族でございました。
魔法はあまり得意ではございませんが」
「言い忘れておりましたが王国の王家はこちらの言い方ではエルフの家系です。
特に耳が長いというような特質はありませんでしたが、人類よりは長命族に近いかと」
何と!
マジでファンタジー世界の住民だったのか!
(まあ、そうだろうな。
魔族とかドワーフとかエルフとかいうのは、矢代大地の知識で言うと北欧系とかアフリカ系、あるいはアジア系みたいな区別になるんだろう。
知性があって意思疎通が出来て交配可能ならみんな「人間」だ)
なるほどね。
種族的な特徴と思えばいいのか。
身体の大きさだって北欧系人種とエスキモーとでは平均身長が全然違うし。
こういう時は無聊椰東湖の冷静な判断がありがたい。
「だからトラウマだと?」
「そうですね。
今になって思うのですが、どうも王国臣民はそれが故に前世を思い出させるアニメやゲームを敬遠していたような気がします。
ああいったお話ではエルフやドワーフ、魔族が『人間』には含まれませんでしょう?
無意識のうちに忌避していたのかもしれません」
高巣さんの説明を上の空で聞きながら僕は思った。
じゃあ高巣さんの前世ってエルフの姫君で、黒岩くんはドワーフの相談役だったって?
厨二病そのものだよ!(泣)。




