何故事件に巻き込まれるのか?
2話目です
なかなか難しいですね
入学式まであと3日。
入学するにあたり、学校の上履きやらジャージやらを購入しなくてはいけない。
その為、久しぶりに外出することになった。
近くにあるショッピングモールに
向かった。
母親と出掛けること自体は決して珍しいことではないが、俺は車中とても気まずかった。
俺の隣に藍さんがいるからだ。
母親から聞いた所、藍さんも同じ高校に
入学するそうだ。
だから、一緒に買いに行くのも分からなくもない。ただ、春休みということでショッピングモールも多くの客で溢れることだろう。
しかも、近くに商業施設がないため、ここに
遊びに来る学生も少なくない。
中学時代の同級生に一緒にいる所を見られたくない。
藍さんは容姿が整っているので周囲から自然と注目を浴びる事が想像に難くない。
俺自身はと言えば自分でいうのもなんだが、顔は中の上くらいはあると思う。しかし、服や髪型などといったオシャレに気を使うタイプではないので、
そんな男が藍さんと一緒にいるのはあまりに不自然だろう。
俺たちの事を知らない人からすればただ単純に兄妹だと思うかもしれないが
同級生の中に俺に兄弟がいない事を知ってる人もいる。そうすると彼女だと思われるかもしれない。
俺にとってみればさして気にすることでも
無いが、藍さんの方はどうだろう、
冴えない男が彼氏と思われるのは。
気にしないかもしれないが、俺が原因で今後の生活に支障をきたすようであれば対処しなくてはいけない。
離れて別行動とか、出来るだけ距離を置くとか、過剰な接触をしないとか。
そんな事を考えているとショッピングモールに着いた。
本屋や映画館やボウリング、多数のアパレルショップ、飲食店など様々な施設が
入っている。周辺の地域では最大規模の
ショッピングモールだ。
俺のお気に入りの洋菓子店もあるため、
休みの日は一人で来ることも少なくない。
なんなら一階から三階までのマップを
ほぼ暗記しているレベル。
早速ショッピングモールに入る。
いつもなら本屋へ直行して新刊のチェックをして、たまに映画を観て、帰りにシュークリームを買う。というテンプレルートに沿って行動するが今日はシューズやジャージなど学校で使用するものを買いに来た。それをさっさと済ませよう。母親と藍さんが話しながら歩くその後ろの位置を取り、ついていく。一人で買い物をする時は気分が高まるが
誰かといると沈鬱になる。二人きりの時は何話せばいいか分からないし、大勢だと自然と除け者にされてしまう。
とりあえず、黙ってついて行こう。
昼前には買い物は終わるだろうし、本屋にも
寄る事ができるだろう。
そうして、二時間くらい買い物に付き合い、必要なものは買い終えた。
俺は母親に尋ねた。
「買い物終わったんなら、本屋に寄っていいか?」
「骨折してて大丈夫なの?」
「まあ、大丈夫だと思うけど」
本屋はちょうど同じ一階にあり、ちょうど良いタイミングだ。それに本屋に両手を使う作業はないはず。そんな大量に本を買うわけでもない。
「そう。じゃあ私も洋服とか見ようかしら。
藍ちゃん。一緒に服選ぶ?」
なに!藍さんのいろんな服が見られるなら俺もそっち行きたい。
だが、自分で言ってしまった手前今更撤回することも出来まい。
さっさと切り上げてダッシュで向かおう。
俺は心中で血の涙を流していると藍さんが
控えめに言った。
「…わかりました」
二人のその会話にはまだ距離がある。
うーむ。まだ遠慮があるのかもしれない。
慣れてない環境にいるんだ。しょうがない事かもしれない。だが、しょうがないで済まして良いのだろうか?
出来るだけ早く生活に馴染めるように
俺にも何か出来ることがあるだろうか。
いや、決して下心があるわけではないことは
先に言っておこう。
ただ、俺にもその気持ちが理解出来るというだけだ。かつて同じような経験をした俺には
痛いほど分かる。
慣れない環境、場所、人間関係。
姉の方はどこへ行っても大丈夫そうだが
藍さんはと言えば、そうでは無さそうだ。
人生に置いて、環境が変わって一番大事な事は最初の一手を間違えない事だ。
誰かと会話をする際、初対面の人間のどこに地雷があるか分からない。触れてしまえば
ゲームオーバー。だから、下手に動けない。
環境が変わっても馴染むのが上手い人間がいるが、そういった人間は最初の一手何を指せば良いか分かる人間だと思う。
どんな人間と仲良くなれば良いか、どういう会話をすれば上手く溶け込めるか。
俺もそれが上手いタイプではないから
藍さんの気持ちに共感してしまうのかも知れない。
ただ、まあこちらから話しかけても余計警戒、遠慮されてしまうかも知れない。
現時点ではどうする事も出来ない。
この案は前向きに検討する方向で善処しよう。そして、俺と母親、藍さんで別れ自由行動になった。
俺はいち早く藍さんの服を見るため急いで
本屋へ向かった。
マップは脳に叩き込まれているため、
時間をロスせず向かうことが出来た。
俺が入院している間に発売していた新刊をすぐに手に取り会計をした。
入院中暇だから母親に買って来てもらっても良かったのだが、内容的に親に見られるのはアウトなので辞めておいた。流石に親に見られたら、しばらく目を合わせることが出来ない。そうして、店を出て、二人が行きそうな、ていうか母親が行きそうなアパレルショップに向かった。本屋へ入り会計を済ませるまで五分かからない、この神業。
ジェバンニ並みの仕事の速さだな。
いや俺には一晩でデスノすり替えるとか無理だな。
そうして、俺が向かったアパレルショップに
母親と藍さんがいた。
俺の予想が当たった。
これで藍さんの服が見れる!
藍さんなら何を着ても似合いそうだな。
俺の選んだ服着てくれるかな?と
俺はドキがムネムネしつつ、声をかけた。
「母さん。本買い終わった」
飽くまでも興味がなさそうに、素っ気なく言った。変に緊張しても怪しまれるしな。
「あら、早かったわね。今ね藍ちゃんに服選んでもらってるの」
若い子に服を選んでもらって嬉しいのか
いつもなら買わない少し高い服にまで手を伸ばしている。だが俺は母親の服には心底興味ない。おれの本命はこっちだ。
「藍さんは服選ばないの?」
俺はにやけそうな顔をこらえて話しかけた。
勘違いされては困るので言っておくが
けっして早く服を見たいから話しかけたのでは無い。いや、見たくは無いと言えば嘘になるが、だが、これを機にもしかしたら距離が縮まるかも知れない。
藍さんは俺に話しかけられて驚いたのか
一、二歩後ずさりをした。
その反応傷つくんだけど?
まあ、仕方がない。俺だっていきなり話しかけられたら警戒もする。
ここで嫌われたら服を見ることが出来ない。
それは何としても阻止したい。
俺はとびきりの笑顔で話しかけた。
詳しく言うと笑顔エネルギー三ヶ月分は消費するくらいには笑顔だった。
「服着てみないの?」
「…服にあまり…興味ないので…」
「そっか。気になるのあったら母さんに
声かけてみな」
ザンネンダナーフクニキョウミナイカー。
これで打つ手なし。
ただ服に興味がないのは俺と同じなので何も言えない。やる事が無くなり、女性客が多い店内にフラフラしてるのも不審者っぽいのでベンチに座り一休みする。
なんなら今からシュークリームを買って来ても良いのだが急に消えたらいらん心配をかけるかもしれない。
それにあまり動きすぎても腕に負担をかけてしまうことになる。後で買いに行こう。
俺はボーッと二人の買い物を見ている。
母さんの方は何度もどの服が良いか藍さんに
聞いている。服に興味がない藍さんは
困ったように答えている。
興味がないのに答えてあげるなんて、優しいなー。あとでシュークリームを奢ってあげよう。ていうか俺の母親浮かれすぎじゃね?
大丈夫?やはり義理とは言え自分の娘と
一緒に服を選ぶ事が嬉しいらしい。
でもね、藍さん興味ないんだよ。
ただこの事実は言わないでおこう。
真実はいつも残酷だしな。
言わない優しさもあるだろう。
この通りはアパレルショップが密集しているためか、カップルがやけに多い。
ちっ、騒々しい。
爆発しろ!と心で唱えてると俺の願いが
通じたのか不良がカップルに絡んでいる。
いつもなら不良を見たら即逃げるが今回は
話が違う。
ナイス不良!ついでにお前らも捕まれ。
そっと心の中で共倒れにを祈っていると
女性陣の買い物が終わった。
「お待たせー」
両手に紙袋を引っさげている母親と
少し疲れたのか、足取りの重い藍さんが来た。
「いや、別にそこまで待ってない」
「そう?じゃあ食材買って帰るわよ」
まだ買い物するのかよ。
付き添うのも面倒なので俺は単独行動を提案した。
「シュークリーム買って来て良い?
どうせ買い物してんなら」
「そう。いってらっしゃい。
どう?藍ちゃんも茜と一緒に行かない?」
いや、行かないでしょ。
きっと少しでも遠慮なく接せるように
するために一緒にしたいのだろうが、
男と二人きりだと逆効果だと思うんですけど
どうなんですかね?
「いや、男と二人きりだと、ちょっとあれだし」
気を遣わせるのも悪いし、わざわざ二人で買いに行く必要もない。
俺は母親の提案を拒否したが、思いもよらない言葉を聞いた。
「一緒に行きたいです」
聞き逃してしまいそうなか細い声だが
確かにそう言った。
そんなこと言われたら断れなくなるだろ。
「はぁ。分かった」
ついため息が出てしまった。
そして俺は藍さんと洋菓子店に向かった。
シュークリームを奢るつもりだったから都合が良かった。
洋菓子店は二階のファストフード店やらが
建ち並ぶ一角にある。
春休みということでどの店も盛況のようだ、
件の洋菓子店はシュークリームが美味いのは当然で他にもプリンやショートケーキなどと言ったスポンジケーキ類、モンブラン、フルーツゼリーなど多種多様なスイーツがある。
どれも素晴らしいのだが、中でも俺がいつも食べているのはシュークリームとモンブランだ。サクサクの生地のパイで中には濃厚なカスタードがたっぷりと入っている。手で持っても最後までパイが潰れることなく、シュークリームあるあるの[中のクリームが手に付く]という、問題にも煩わされずに済むのも
ポイントが高い。
甘さが苦手という人もいると思うが
ここの店のカスタードは甘さがしつこくなく飽きることなく食べることが出来る。
そしてもう一つのオススメのモンブラン。
国産の栗を使い、タルトの生地の上に
これでもかとばかりにクリームをあしらってある。少しアルコールが含まれてあり、
甘いのが苦手な人でも食べられると思う。
おっと、俺としたことが喋りすぎた。
スイーツ男子とか流行らないかな。
女子的に美味しい洋菓子店知ってたら、
好感度あがりそうだけどな。
俺が流行の兆しについて考えてると
洋菓子店に着いた。
女性客や家族で来ている人が多いなか、
いつも一人で来てるため肩身の狭さを感じてるところだが、今日はいつもとは少しばかり
状況が違う。
さっきまで、リア充くたばれ!とか思ってたけど側から見れば俺もそれに見えるだろう。
なまじいつも来てるせいで店員にも顔を覚えられている。そのせいで恥ずかしい。
さっさと済ませよう。そう思って藍さんのほうへ振り返る。すると藍さんの姿が見えない。迷子かと思い店内を見回すと異常にスイーツに食いついている女の子がいた。
見知った、ていうかこないだ家族になった
女の子だった。
なるほど。だから来たかったんだな。
ようやっと納得出来た。
柄にもなく口元で笑みを浮かべた。
一通り見て回り買い物を終えた。
俺の奢りだと言ったが藍さんは頑なに拒否を
したので各自お金を出した。
今時の女子はてっきり男に払わせて当たり前とでも考えてるのかと思ったが藍さんは違った。ただ、それでは俺の気が済まないので
今度はこっそり買いに行こう。
一緒に行ったらお金を出させてしまう。
そして母親の所に向かった。
向かう途中、俺は少し喉が渇いた。
「ごめん、ちょっとトイレ行ってくる。
待っててくれ」
俺は近くのベンチに座るよう促し、トイレに向かった。本当は飲み物を買いに行ったのだがまたお金を出させるのも気が引ける。
ここのショッピングモールはトイレの近くに
自販機が数台設置されているため飲み物を買うには都合が良かった。
俺は自販機でペットボトルや缶コーヒーを数本買い、藍さんの待つ場所へ戻った。
途中不良がいたが目を合わせないように、
気配を消した。
絶をマスターしてる俺は簡単に気配を消すことが出来る。
そろそろジャジャン拳使えちゃうレベル。
やだ、ヒソカに目をつけられちゃう!
数分歩くと藍さんの待つ所へ着くことが出来た。が、その周りに数人の男が囲むように立っている。
「お嬢ちゃん、俺たちと遊ぼうぜ〜」
「良いとこ連れてってやるからさ〜」
さっきすれ違った不良たちだ。
ヤバい!どうする?
そう思案する頭と裏腹に勝手に足が動く。
「すいません、俺の彼女なんで手、出さないでくれますか?」
「ああ?何言ってんだゴラ!」
本当、何言ってんだろうね。
ただもう取り返しがつかない。
何としても藍さんだけは逃さなくては。
「君、腕骨折してんだ?それで彼女守れんの?」
不良Aが嘲笑交じりに話しかけてくる。
俺の今の手持ちはさっき買った本と数本のペットボトルだけだ。
不良Aの問いに俺は無言で返す。
「黙ってねえでなんか言えよ!!」
不良Bが叫び散らす。
腹、括るか。
「聞いてるよ。耳元でギャーギャーうるせえな」
「なんだと?」
俺は出来るだけ不良を挑発する。
そして、不良の視線が俺に集中する。
藍さんを守るように少し後ろに下がり、
藍さんに小声で言った。
「俺が肩を叩いたら逃げろ」
藍さんからの返答は聞こえなかった。
「おい、にいちゃん。こっちは四人いるんだぞ。状況わかってんのか?」
「ああ。あんた達とは違って足し算くらい俺は出来る」
逆にこちらが嘲るように言った。
不良の表情が変わり、完全に藍さんへの
意識はない。俺の作戦通り。
ただ状況はあまり芳しくない。
全員身長175くらいはあり、
しかも俺は腕が折れている。
どう考えても俺の負けフラグだろ。
「なんだと!!」
馬鹿にされたのがよっぽど堪えたのか
不良Cがサバイバルナイフを出した。
抵抗するため、無意識に俺は買った本を手に取った。周りの一般客は悲鳴をあげている。
だが、俺を助けようとする人はいない。
「本でどうするつもりだよ?気でも狂ったか?」不良Dが馬鹿にするように言った。
クッソ!馬鹿に馬鹿にされた!
いかん、そんな事気にしてる場合じゃない。
余計な事を考えてるとサバイバルナイフを持った不良がこちらへ向かってきた。
「お前には痛い目を見てもらうぞ!!」
俺は藍さんの肩を叩き、逃げるよう促した。
逃げた事に気がついてるのかは分からないが
藍さんを追う気配は無い。
これで藍さんは無事に帰れる。
あとは俺がこの不良をどうにかすれば良いだけだ。
俺は向かってきたサバイバルナイフから身を守る盾のように本を前に突き出した。
すると、本にサバイバルナイフが刺さった。
ナイフを絡め取るように本を捻る。
サバイバルナイフにノコが付いてるため
簡単には抜くことができない。
サバイバルナイフは元々それ一本で生存できるように作られているそうだ。
だから、刃が大型でその反対側にはノコがあるといった頑丈性を有する。
だが、欠点もある。サバイバルナイフは
過去にノコ部分が布に絡め取られた事例があるそうだ。万能性を持ちあわせている分、欠点もあるということだ。
そして俺は不良からサバイバルナイフを取ることが出来た。
「テメェ!何しやがった!」
ナイフを取られた怒りで我を忘れているのか
無理やり突進してきた。
それを躱しざまに足を引っ掛けて、倒した。
そして後ろへ周りに首にナイフを突きつけた。
「動くなよ。動いたらこいつ首を切るぞ」
冷淡に淡々と告げた。
「警察に通報はしないでやる。
その代わり二度と俺の前に顔を見せるな」
不良達は狼狽している様子でこちらを見る。
俺はその顔が酷く不愉快に感じた。
「早くしろ」
短くただ苛立ち混じりにそう言った。
不良達は尻尾を巻くように退散した。
不良達をどうにか退けた俺は一人ショッピングモールの外にある公園で休憩をした。
ここへ来る途中ちらほらその件についての
話が聞こえてきたが気にするそぶりを見せずに歩いた。
母親と連絡を取り合流することも出来るがどうしても気が失せる。
ベンチに座りさっき買った缶コーヒーに口を付ける。口の中に広がる苦味が目を覚まさせ
た。そして、既にエネルギーが残っていない脳を無理矢理動かす。
先刻の不良との対峙した時の事。
あの時な自分の別の一面を見た。
攻撃的で排他的。そしてナイフを首に突きつける事に躊躇が無かったという事実。
もちろん自分でとった行動の自覚はある。
ただブレーキが効かなくなったというか理性が消えたというか。
ただそれが存在することが問題では無く、その本性と呼ぶにはあまりに判断材料が不十分だがその残忍かつ凶暴な一面を曝け出したという自分を案外嫌悪していないという事だ。
普段は人畜無害で誰に迷惑をかけるわけでない生活を送ってる。
そんな自分ですら別の一面を持ち合わせてる。そしてその一面を快くとまではいかなくとも嫌っては無いという自分に嫌悪すると同時に寒気がする。
誰にでも本性があり裏の顔がある。
そんな事は重々承知だがまざまざと自分自身で味わった。味わってしまった。
幸いにもその姿を藍さんには見られていない。だが、すぐに合流する気にもなれずこうして一人公園で休んでる。
既に昼時を過ぎ徐々に太陽が傾いてきた。
先程まで公園で遊んでいた子供達の姿もなく
この場には俺しかいない。
携帯には何通かメールが来てるがその内容は
、まあ見なくてもわかる。
ただ心配かけるのも悪いので簡単に返信し
一人で帰る旨を伝えた。
携帯をポケットにねじ込み二本目の缶コーヒーに口を付ける。
この場に来てどれ程時間が経ったのだろうか。どれだけ考えても結論が出ず、無駄だと
分かっていても諦めていてもそれでも思考は止まる事はない。その果てには焦燥感しか残らなかった。
結論を出さなければ先には進めずその反面、先に進んでいいのかという恐怖や焦りや不安が拭いきれずにいる。
俺はどうしたいのだろうか。
その問いに答えるものはいなかった。