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俺の平穏返してくれ!

初投稿です

誤字脱字やおかしな文章が沢山ありますが

温かい目で見てくださるとありがたいです

「新作のシュークリーム買えて良かったー

平日だから空いてたな」

春休みを迎え一周間が経った。

俺は今年中学校の卒業を迎え、高校生となる。

平日にシュークリームを買いに行ったからと

言って、決して学校をサボっていたわけでは無い。

「しかし、春休みも暇だな〜

ゲームと読書くらいしかやる事がない」

高校受験を終え、今まで勉強漬けの日々を送っていた反動で春休みに入ってからというもの、毎日正午に起床。昼食も食べずに漫画、ラノベ、ゲームというサイクルを繰り返し、深夜2時に就寝。

そんな生活を高校に行かずに続けたいと思うぐらいには満喫していた。

春休みだからといって誰かと遊ぶ選択肢は俺には無い。兄弟がいないためか、一人で遊ぶことには慣れている。一人ゲームとか一人将棋とか一人デュエマとか。なんなら一人で人生ゲーム出来るまである。

なにそれ悲しい。

それに母子家庭で母も朝早くから出勤し夜に帰って来るため文句を言われる相手もいない。

しかし今日は珍しく早く起きた。

なぜなら、今日は行きつけの洋菓子店の新商品の発売日だったからだ。

8時には目を覚まし、準備をした。

「帰ったら、シュークリーム食いながら

ゲームするか。まだフラグ回収し終わって無いんだよな。」

独り言を呟きながら自転車のハンドルを切り小道を曲がり大通りに抜ける。

大通りに出ると車通りが多くなる。

俺が住んでいる所は田舎で田んぼや畑も多く見られる。そのため舗装されていない道路が多い。歩道も然り。所々石が落ちていたり、ボコボコしている箇所もある。

「はぁ、ここの道路直してんくんねーかな?

危ないんだよ。怪我したらどうすんだよ」

愚痴をこぼしながら、漕いで行く。

今思うとこのセリフがフラグになってしまったが、

この時の俺はまだ何が起こるか知る由もない。

家に向かい暫く自転車を漕ぐ。

すると前から一人の女性がこちらに向かってくる。

呼吸が止まった。

おおよそこんな田舎に相応しく無いであろう風貌。

おしゃれに着飾った服。艶やかな黒髪。

俺は自転車を漕いでいるのを忘れて目で

追っていた。

「こんな田舎にあんな可愛い子が・・・」

一瞬現実を忘れ、トリップしていた。

いや、一瞬どころでは無くかなり忘れていた。

だが無理やりに現実に引き戻された。

俺は自転車の異変に気付き慌ててハンドルを切る。

大きい石でも踏んだのか滑ったのか分からないが

まずい事になった。

自転車はガクガクと揺れ、バランスを崩していた。

「っ、ヤバい!!」

急いでブレーキをしたが、間に合わず。

ガッッッシャァン!!!

自転車が倒れる音を聞いたのを最後に

意識が薄れて行った。




目が覚めると、白濁色の天井だった。

意識が戻った俺は担当医から診察を受けた。

「えっと 千草茜君だね?」

「はい。それで先生この怪我は・・・」

「左肘の脱臼骨折。脱臼の方は、はめれば

大丈夫だけど

骨折の方は固定器具を入れるため手術が必要だね。」

脱臼と骨折がセットって全然ハッピーじゃない。

「はぁ そうですか。どのくらいで治りますか?」

「そうだね。手術してもらうから、2週間くらい入院してもらって、リハビリ次第だけど

完治は大体3ヶ月ぐらいだろうね。」

「なん・・だと!?」

あれれ?おっかしいぞー?

入院してるだけで春休みがほとんど終わる気がするんだが、気のせいかな?気のせいじゃない。

卒業生は在校生に比べ一週間休みが長い。

とはいえ、春休みは3週間から1ヶ月で

それに高校の合否発表を明日に控えており、

高校の準備やらなんやらで忙しい。


「そういえばお母さんとは連絡取れているのかな?」

事故があったのにも関わらず携帯は奇跡的に壊れてはいなかったため、連絡は取れた。

携帯の方が俺より防御力高いってどういうことだよ。

「ああ、今向かっているって言ってました。もうすぐ来ると思います。」

「それじゃあ、先に病室を案内しとこうか」

「分かりました」

そう言って俺は先生の後について行った。





母親に着替えやら本やらゲームを持って来て

貰い、俺はゴロゴロしていた。

よくよく考えると春休み中と生活が

なんら変わりないのでは?と思っていた。

これはもう日常的に入院していたと言っても

過言じゃない。・・・いや、過言だな。

ていうか、左腕使えないのにvita持ってくるなよ、出来ないじゃねーか。

息子的にはそこは気を遣って貰いたかった。


母親が病室に来てから、先生も合流し

手術の日取りを教えてもらった。

一週間後の午後3時。

とりあえず肘に固定器具を入れるそうだ。

人生初の手術だ。担当医の話を聞いてる時は何食わぬ顔をしていたがぶっちゃけ怖い。

超怖い。

普段建設用の道具が自分の体の中に埋め込まれるんだ。怖く無いわけがない。

手術日には母親は仕事で来れないとの事だ。息子の手術ぐらい付き添ってくれてもいいじゃないかよ。

ただ、まあ事故を起こしたのも自分のせい。

甘んじて受け入れる他ない。

一抹の不安を感じるが気にしてもしょうがない。先生が仕事に戻り、病室も静かになった。読書にも飽き、暇を持て余した俺はベッドで微睡んだ。



一週間が経ち手術日となった。

受験の合格発表は母親に見て来てもらい、

結果は見事合格していた。

だが今は今日の事に集中しよう。

まず手術するにあたり、左腕に麻酔をした。

通常よりも一回り太い針で注射された。

すごく痛かった。痛すぎて少し泣いてたと思う。

そして一、二時間経って麻酔が効いてから

手術室へと向かった。

先に言ってしまうと手術中に寝ていたためか、すぐに終わってしまったように感じられた。想像以上に大した事なかったと思う。

ただ、手術台に自分の血が付いていたのを

見てゾッとした。

現実の血は妙に気持ちが悪いのなんでだろうな。ニ次元のグロい映像とかは何とも思わないけど、テレビで放送される手術中の映像

とかほんと無理。

まぁとりあえず、経過が順調なら一週間で退院出来る。

こんな窮屈な入院生活ともおさらばだ!

退院しても週一で診察に来なきゃいけないけどな。






退院日までの一週間。

特に変化なく平穏無事な生活を送っている。

母親も二日に一度見舞いに来てくれる。

病院食も思ったよりも美味しいし、

美人な看護師さんがたまに来てくれる。

てか、見舞いには毎日来てくれよ。

退院するにあたり、午前中には母親が迎えに来てくれるそうだが、なぜだかとても忙しそうだった。

仕事なのか家の事なのか分からないが

俺が入院してる事で負担になってるのなら、

申し訳ない。

とりあえず、お世話になった本と全く役に立たなかったvitaをまとめとこう。

身の周りの物を片付けていると

ノックの音がした。

「はい。どうぞ」

「茜。元気?」

母親が迎えに来た。

「まあ、とりあえずは」

「そう。じゃあ荷物まとめて先生に

挨拶するよ」

「ああ」

俺は二度と来ないであろう病室に別れを

告げドアを開けた。



先生に挨拶をした後、俺は病院を後にした。

久しぶりの外の空気、眩しい太陽。

病院で寝たきり生活を送っていたためか、

体がだるく体力も落ちている気がした。

歩くだけで息が切れてしまうレベル。

駐車場に行き俺は車に乗り込み家へ向かった。

二週間ぶりのマイホーム。寂しかったぜ!

どれだけ寂しいかというと入院中に夜には

枕を濡らす程度には寂しかった。

俺の家は病院から車で二十分程の距離にあるため少し遠く車中は暇だった。

車が揺れると、ときどき腕に衝撃が来るので

気を付けて運転してほしい。

まあ、こうして迎えに来てくれるだけ

ありがたいと思わなくちゃいけないやな。

車窓から外の景色をぼーっと見てると家に着いた。

普段は家に着いても何とも思わないが、

今はとてもありがたみを感じてる。

そんな気持ちで家に入るのも良いだろうと

そう思いながら、片手で玄関のドアを開ける。


「ただいまー」

俺は誰もいないのについ言ってしまった。

俺ってばお茶目さん。テヘペロ♪

すると、いるはずのない家の中から声がした。

「お帰りなさい〜」

バタン!!

反射的に玄関のドアを閉じてしまった。

何で返事があるんだよ!!

いつ幽霊が住み着いたんだよ!

いや待てよ。家に人がいるはずがない。

ついでに幽霊もいないはずも無い。え、本当にいないよね?

とりあえず一回状況を整理しよう。

うちは母子家庭で俺も母親も玄関の外にいる。

よって家に人がいるはずがない。

なのになぜ?!

ていうか、俺の目がおかしくないのなら家に女の子が2人と男性1人いるように見えたんですが、どういうことですか?

あ、そうか。家を間違えたんだ。

そうだ。そうに違いない。

「母さん。家を間違えてないかい?

家に人がいるんだけど。」

「あれ?言ってなかった?

私再婚したのよ。」



え??

唐突に告げられた重大ニュース。

おっかしいなー、息子の俺がそんな大事な事を知らないなんて。

まあ、百歩譲って再婚したのは良い。

何も良く無いけども。

何で再婚相手が家にいるの?何一つ聞いてないんですけど。

「前々から言おうと思ってたけど

どうせなら茜が退院した時に驚かそうと思ってうちに引っ越して来る事内緒にしてたのよ」

「はぁ?」

そんなしょうもない理由で聞かされてなかったのか・・・。

ちょっぴりショックだよ。

「そんなことより、とりあえず家に入って。

色々話す事もあるから。」

俺のガラスのハートを傷つける事態を

そんなことって。

まぁ、こんな所で話すより家に入って

話す方が良いだろう。

新たな住人に迎えられ、今度はしっかり帰宅した。自分の家なのに自分の家のように感じられない。少し複雑な気分だ。



家に入り、自己紹介をした。

「えっと。千草茜です。今年中学を卒業しました。趣味はゲームと読書です。よろしくお願いします」

つい、緊張して声が裏返ってしまった。

それも仕方がないと思う。

今まで顔も知らない人と家族になるんだ。

況してや、何一つ俺は聞かされてなかった。

緊張して当然だろう。

何より、目の前に美少女が2人いるのが

一番の要因だと思う。

今まで美少女どころか女の子と話す機会なんて滅多に無かった。そんな男が美少女の前でスラスラ話せるわけがない。

「茜ったら、可愛い女の子の前で緊張して、

上手く喋れてないじゃない」

今それを突っ込まないでくれ!

なに、心読んでんの?琴浦さんかよ。

俺は否定出来なかったので曖昧な笑みを

浮かべるしかなかった。

次に件の美少女の自己紹介タイムになった。

「姉の東雲・・・じゃなくて千草瑠璃です。

今年高3です。好きな事は友達と話す事です。これからよろしくね、茜くん」

綺麗な人にいきなり声を掛けられてしまった。どう対応して良いか分からなかったのでとりあえず引きつった笑顔をした。

家族になるとは言え、初対面でこの接し方かよ・・凄えな、軽く引くわー。

美少女シスターズの姉、瑠璃さんは俺の2歳上だった。

茶色がかった長い髪ををポニーテールでまとめてある。背は俺より少し大きい。足も長くすらっとしている。

快活で人当たりが良さそうな雰囲気を放っている。多分クラスでも人気者なんだろう。

そして。

「妹の千草藍です。

今年中学卒業しました。

好きな事は・・読書です。

よろしくお願いします」

美少女シスターズの妹、藍さんは俺と

同い年だった。

長い黒髪。

小柄で小動物系の女の子。

全体的にすらっとしているが、ある部分だけ異様に膨らんでいる。

単刀直入に言うと胸が大きい。

栄養が全部そこに言ってるんじゃないの?

って思ってしまう程のボリュームだ。

何と言うか、庇護欲をそそられてしまうと言うか、守ってあげたくなる。そんな雰囲気を

感じる。

こんな姉妹とこれから一緒に過ごすと

考えると心臓に悪い。

休息の場なのに休めないってどうなの?

俺の生活の危機を如実に感じてると

義父の紹介も終わり、とりあえず荷物を

片付けることになった。

俺の家はは一般的な一軒家と比べたら、やや大きいと思う。おまけに今まで2人で生活してたので部屋はやたらとあまっている。

俺は怪我しているが、軽い物ぐらいなら

持てるので最初は手伝ったが、入院してたからか、体が上手く動かない。

吊ってあるうでが重く、バランスも取りづらい。

人の腕は約三〜四キロあるそうだ。

普段何気なく生活していても、なんとも感じないが、人は重りを振って生活してるようなもんなのかもしれない。

手負いの俺がいても他の人の邪魔になりそうなので、

俺はキッチンに行き、とりあえずお茶の

準備をした。それぐらいなら片腕でも

出来るだろう。

っかー!俺ってばマジで出来るやつだなー、

怪我してても働くなんて。

こっそり一人悦に浸っていると二階から声がした。

「茜君ー。手伝ってー!」

この声は瑠璃さんかな?

怪我人に手伝わせるってどうなの?と

思ってしまうが、まあいい。


重い荷物とかあるのなら、男手が必要かも知れない。

しかし、この場面なら俺の方がお荷物なのではないだろうか。

階段を上り、瑠璃さんの部屋であろう場所にいった。とりあえずノックをする。

家族になったとは言え、女子の部屋に

入るなんて経験したことがない。

すると、部屋の中から声がした。

「入っていいよ」

俺はふと、疑問持った。あん?声が違くね?

心無しか自己紹介の時よりも声の温度が低い。冷たく威圧的な声だ。

俺は恐る恐るドアを開けた。

「あ、あの手伝いって・・

何ですか?」

「そんな緊張しなくていいよ。

少し話がしたかっただけだから」

「話?何のですか?」

「単刀直入に聞くよ?

私のこと、どう思った?」

いきなり何だ?

てっきり、いじめられるのかと思ったが

俺の予想は外れた。

「どう思ったかですか。会ったばっかりの人にも言うのもなんですが、綺麗な人だなと」

「それだけ?」

瑠璃さんが可愛く小首を傾げた。

しかし、態度とは裏腹に声に温度が無い。

「私ね、これでもモテるの」

いきなり爆弾発言だ!

ここまで包み隠さないのも凄いな!

少し胸を張って言い放った。

「男が鬱陶しく感じるくらいにね。

でも、君はそんな私の事をなんとも思わなかったよね?」

「いや、別に何とも思わなかったわけでも・・」

「本当に?」

「・・・・」

否定出来ない。何なら妹の方が好きなタイプだ。いやね、別に瑠璃さんが嫌いなわけでは無い。

ただクラスにいたら絶対に話かけないタイプだと感じただけだ。

「沈黙は肯定とみなすわよ。

やっぱりこういうタイプが良いわね」

瑠璃さんは一人で勝手に納得したように

頷いているが、俺は何の事かさっぱりわ

わからん。

「茜君。気に入った」

「は?何の事ですか?」

「そうね、簡単に言うと」



「君をおとしてみせる」



何言っちゃってんの?この人。


「え、えっと。

俺の事好きなんですか?」

反射的につい言ってしまった。

うわー!俺は何聞いてんだよ!

いや、でもこんな事わけわかんない事を言うんだ。少なくとも好意はあるかもしれない。

でも、

非モテだった俺が自称モテる女の子に好かれる訳がない。仮に好意があったとしても

俺は誰とも付き合うつもりは無い。

瑠璃さんとて例外ではない。

義理とは言え家族だしな。


「ちょっと良い?」

「はい」

やばい、なんて断ろう。

だが、その心配は杞憂に過ぎなかった。

「私がいつ君を好きと言った?」

え??

「別に君のことが好きだから落とす訳ではないわ」


やっべー!! 超恥ずかしい!

思い上がりも甚だし過ぎる。

何であんな事を口走ったんだ!

冷静に考えれば、モテる女が俺の事を

好きになるわけがないだろ!

俺の新たな黒歴史の誕生の瞬間だった。

俺は一週間ぐらいベッドで悶えるかもしれない。なんか瑠璃さんもちょっと笑ってるし。

咳払いして、真剣な眼差しを俺に向けた。

「私の周りに男が沢山いるけど、

やっぱり攻略難易度が高い方が燃えるよね。

私の場合は男が勝手に寄ってくるけど、

それじゃあ、つまらないし?」

さもゲームでもするかのように簡単に言った。

しかし、落とすって具体的に何するんだ?

とりあえず生じた疑問を解消するところから

始めよう。

「あの、質問いいですか?」

「なに?」

「俺になにするんですか?

危害を加えるようなら…」

「なにって、そりゃアピールよ」

「アピール?先に言ったらアピールに

なんないでしょ」

そう。先にアピールと言ったら

これからの瑠璃さんの行動が全て

アピールに見えてしまう事になる。

今から騙すと言われて騙される人間がいるだろうか? きっといない。

つまりそんなものに引っかかるわけがない。

「そうかしら?」

そう言って瑠璃さんは俺に近づいてきた。

え?なにすんの?なんか怖いんだけど。

俺の骨折してない方の右手を取り、

瑠璃さんの体へ引きつけた。

「ちょっ、あぶね」

急に引っ張るため、体を預けるように瑠璃さんの方へバランスを崩してしまった。


状況を把握するまで数秒かかった。

まず、腕に柔らかい感触が当たった。

決して大きいとは言えないが弾力があり

柔らかい。

そして自分の顔の近くに瑠璃さんの顔が

あった。

茶色がかった明るい髪からフローラルのいい匂いがする。

「これでもアピールにならないかしら?」

挑発的な声でそう問いかけてきた。

やばい、さっきから汗が滝のように出てくる。なんて答えるべきか必死に考えていると

ある事を思いついた。

しかし、これを言ったら100パーセント引かれる。いや、引かれるだけなら良い。

ひょっとしたら自転車で轢かれるかも知れない。自転車で怪我するのはまっぴらごめんだ。なんてふざけている場合じゃない。

正直、これしか思いつく手が無い。

俺は一度瑠璃さんから離れた。

「一ついいですか?」

俺は確認するように言った。

「なに?もう落ちちゃった?」

瑠璃さんは俺をからかうような笑顔で答えた。そんな笑顔も可愛いと思ったがそう

じゃ無い。

俺は深呼吸をして腹を括った。

「俺はあなたより妹さんの方が好きです!」

沈黙が生まれた。

やっぱ引かれたか?なら作戦成功だが

身内になる人間に速攻で引かれるのも心にこないでもない。

瑠璃さんがどんな反応をするか、恐る恐る確認した。

「あ、そう。それが?」

あっけらかんと言った。

「君は自分が妹の方が好きだと言えば、

解放されると思ったようだけど私に

してみれば、どうでも良いのよね」

しかも見破られてしまった。

家にエスパーが二人もいるってどういうこと? 能力開発してんの?

「ど、どうでも良い?」

「そう、どうでも良い。

だって結局私の事を好きになるんだから。

今誰が好きであろうと関係ない」

そう断言した。

それに、と何が可笑しいのかクスクスと

笑っている。

「やっぱり君は面白いね。」

「はあ、何がですか?」

俺からすれば何一つ面白くない。

結局何の解決にもならなかったし。

「さっき私になんて言ったかな?」

そう言われ、思い出す。

瑠璃さんから解放されるために

ハッタリだが、妹の藍さんの事を好きだと、告白した。

まあ、見事に作戦失敗したが。

「私の妹に告白したよね。

それが私しか聞いていないと思った?」

なに?この人おかしいの?

「いや、この場には俺と瑠璃さんしかいない

でしょ」

「君は少し頭が悪いのかな?

私は部屋にいるとは言ってないでしょ」

いきなり頭が悪いって言われたけど、それは

置いとくとしても。

部屋にいないのに誰が聞いてるって、

まさか!

俺は慌ててドアの方を見ると、

若干開いている。

誰かが開けた証拠だ。

「いつ気がついたんですか?

ドアの向こうで誰か聞いてる事を」

瑠璃さんは俺をからかうように笑った。

「そうね、私に抱きつく前ぐらいかしら?」

誰が見てたのかしらね?と

笑っているが、こっちはまるで笑えない。

母親か義父に見られるのもダメージが

でかいが、藍さんに見られる事が一番きつい。姉に抱きついた後に自分に告白する男を

どう思うか想像も難くない。

しかし後に俺の懸念は最悪の形で的中

してしまった。


とりあえず瑠璃さんとの話が終わり

自分の部屋に戻った。

机とベッドと本棚くらいしかない

簡素な部屋だ。

そこで今後の俺の生活について考えていると

今すぐに首を吊りたくなる。

傍からみれば女の子に抱きつき、

その妹に告白したようなものだ。

しかもそれを誰かに一部始終見られていた。

もう死んでいいよね?ていうか、この家で

生きていけない。

幸い瑠璃さんはこの事を秘密にしてくれるが

まだ信用できない。

それに誰かに見られたという事実は覆らない。もしもこの一連の行動を他の男がしていたら、俺は問答無用でそいつをクズ認定するし。まあ、起こってしまった事はしょうがない。この後の対処は後で考えよう。

少し気を緩めたら疲れがどっと出てきた。

窓から覗く空は薄暗くなり、夜の訪れを感じさせた。



夕飯を済ませ、とりあえず風呂に入った。

ギプスが濡れるといけないのでビニールを

巻き、シャワーだけに済ます。

湯船に浸かれるのもしばらく先だろう。

片手、というのもやはり不便でトイレや

食事などは一人でこなせるが、着替えだけは

どうしても手間取ってしまう。

こればっかりは慣れだろう。

人間なんだってそうだ。

「いつか」出来る日が来る。

「いつか」ちゃんとやる。

「いつか」どうにかなる。

誰しもが思っている事だろう。

だがそれは、俺の最も憎む言葉だ。

「いつか」それは明日かもしれないし明後日

かもしれない。だが、永遠に訪れないことだってある。

いつか出来るようになるよ、いつか成功するよ。このセリフは人間誰もが口に出すだろう。しかし疑問に感じる。

いつかっていつだ?

いつか出来るからそんなに頑張んなくていいのか?

そうじゃないだろう。

来るかも定かじゃない事を信じる事は、

努力を怠って良い理由にならない。

いつかを信じられない俺は傲慢かもしれない、短絡的かもしれない。明確に記されなければ信じる事が出来ない、浅ましい人間かもしれない。

それでも、

きっと人が信じて良いのは他人でもなく、奇跡でもない。自分自身だけだと思う。勝手に他人を信じて、その結果裏切られても恨んではいけない。

だから、自分自身を信じていれば良い。

そう結論付けた。

嫌な事を考えたら気持ちが沈んできた。

おっかしいな。湯船には沈んでないんだけど。ともあれ体にまとわりついた物は洗い流し終えた。着替えを済ませ、気分転換にウッドデッキに出る。春にしてはまだ幾分肌寒い風が吹いている。ただ、湿気もなく風呂上がりには心地の良い風だ。夜の闇を優しく包み込むような月明かりを浴び、少し心が浄化された気がする。 心休まる時間だ。

ただ、疲れもあってかいつもより眠気が来る時間が早い。まだ日付をまたぐ前に寝るのは

春休み中の俺の生活を考えたらあり得ない事だ。だが、今日はいつも以上に疲れた。

だから早く寝るのもわるくないだろう。

空を見上げると幽かに光る星が見える。

弱々しくも決して煌めく事をやめない。

儚くも美しい、そんな星につい見とれてしまっていた。

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