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闇姫魔鬼  作者: 獅兜舞桂
9/13

* 3-(5) *


(夜の学校って、ちょっと不気味……)

 秋山が体育館の鍵を開けている後ろで、小篠は自分を抱きしめながら、完全に明かりの消えた校舎や、黒々と庭木の連なる校庭を見回す。

「開いたぞ」

言って、秋山は小篠・日高・藤崎に中に入るよう促し、自分は最後に入って内側から鍵をかけた。

 時刻は夜の11時。 

 光水晶のカケラを使っての攻撃を練習するための広くて人目につかない場所として、小篠と日高の通う高等部の体育館が選ばれた。ここなら、秋山が、顧問を務めるバスケ部の朝練のために鍵を持っている上、夕方6時に部活が終わり、6時から8時までの約束で体育館を貸しているOBのバレーボールサークルの人たちが帰った後は、もともと市内から孤立するようなかたちで在り、小篠も感じたように、ちょっと不気味でもあるため、誰も好んで近寄ろうとしないので、好都合だと考えたのだ。

 小篠の母から秋山宛にかかってくる電話を待っていたために、この時間になったのだが、忘れ物でもして人が戻って来た時に鉢合わせてしまうのを避ける意味でも、良かったように思われる。

 実際、学園敷地内から出て来たのかどうかは不明だが、学園しか無い丘の上から下りてきた車と、丘を登り始める地点ですれ違った。


「先生、何か、的になるような物が欲しいんですけど」 

 日高の言葉に、秋山は、それなら、と、ステージ方向へ歩き出す。

 小篠・日高・藤崎は後について行く。

 ステージ脇の用具倉庫入口で足を止めた秋山は、倉庫の電気をつけ、

「あれなんか、どうだ? 」

倉庫内の奥のほうを指さした。

 その先には、膨大な量のジュースの空缶やペットボトルが山積みにされ、悪臭を放っていた。

「何よ、あれ! 」

藤崎が顔を顰める。

「男子バレーボール部の連中の仕業だよ。片付けろって言っても、聞かねえんだ」

 苛立たしげな溜息混じりの秋山の台詞に、小篠は、ヤンチャ坊主揃いの男子バレー部の面々を思い浮かべ、

(ああ、そうかも……)

納得し、一緒になって溜息を吐く。

 秋山はペットボトル等の山の前まで歩いて350ミリリットル缶1本を拾い上げ、日高に見せて、

「使えるか? 」 

 日高は、

「最終的には、そのぐらいの的を狙えるようになってほしいんですけど……」

少し考えながら、

「やっぱり、初めは、もっと大きな的が欲しいですね」

(もっと大きな的……)

小篠はキョロキョロ。そして偶然 足にコツンと当たったガムテープに気づき、何の気なく手に取る。

 すると横から、

「あ、それ、使えるんじゃない? 」

藤崎が言って、小篠に、貸して、と手を差し出しガムテープを受け取ると、ペットボトルの山へと歩き、その中から、一番数が多いと思われる500ミリリットルのペットボトルだけを選り集めて、

「日高クン、どれくらいの大きさが必要? 」

日高の、灯油缶くらい、との返事を受け、選り集めたペットボトルを適当数ガムテープで纏め、手早く、注文通りの灯油缶大の的を作り上げた。

「これでいい? 」

「うん、充分だよ」

 日高から合格が出る。

 藤崎の作った的を参考に、全員で手分けをして、あるだけのペットボトルを全部使って似たようなものを あと2つ作り、3つ全てを体育館の中央に運んで、日高の指導の下、練習開始。

「先ず念じて、手の中に光を作り出すんだ。次に、その光を、今の場合は的に向かって放つ。カケラでの攻撃の方法には、基本的に大きく分けて2つの方法があって、飛び道具として球体の光を撃つことと、光線を剣のように手元で操ることが出来るんだよ」

 日高の説明は、実に大雑把だ。恐らく日高は、たいした苦労も無く、光の力を使いこなせるようになったのだろう。勉強でもスポーツでも言えることだが、習得するまでの苦労が無かった者は、大抵、教えるのが下手なものだ。

 それでも、日高の説明後、危険が無く練習できるよう小篠・秋山・藤崎がそれぞれ離れた位置に分かれた直後、パンッと乾いた音が響き、音のほうを見た小篠の視線の先、真っ二つになった的が転がった。その傍らには藤崎。

 藤崎は的の前に膝をつき、それをガムテープで直すと、立ち上がり、的に向き合った。右手から光線が伸びる。右手に左手を添え、振りかぶって構え、勢いよく振り下ろして、的を上から下へと一刀両断。パンッと、小篠の注意を引いたものと同じ音が響いた。

 再び的の前に膝をついて的を直す藤崎。的を直して立ち上がり、的に背を向ける。何か考え込むような様子を見せ、今度はビー玉くらいの大きさの光の球を作り出して、右手のひらの上で転がしながら的から少し離れ、振り向きざま、右人指し指と中指の間に球を挟む形で持ちかえ、右手のひらを的に向けて突き出した。瞬間、指の間から球が消えたかと思うと、派手な音をたてて的の右上の一部を壊しながら、ふっ飛ばした。

 自分も練習しなければならないのは分かっているが、つい、藤崎に釘付けになってしまった小篠。

 藤崎は、ふっ飛んだ的を拾いに行こうとして初めて、小篠や、

「…すごい……」

と感嘆する日高、小篠と同じく釘付けになってしまっている秋山の視線に気づいた様子で、

「さっき、1度出来てたから、何となく感覚を憶えてたのよ」

言って、照れたように笑い、

「ほら、あたしのことはいいから、皆も練習してよ」

それから、ふっ飛んだ的を元の位置に戻し、再び光の球を作る。

 小篠は、藤崎の練習する様をこっそり盗み見ながら、自分もと両手を祈るように合わせ額につけて手の中に光が出来るイメージを膨らませる。

 少しして手の中が妙に温かくなったのを感じ、開いてみると、そこに、小さな小さな光の粒があった。

(出来た! )

喜んだのも束の間、光の粒はフッと消えてしまう。

 もう1度、同じようにイメージし、今度は藤崎が作ったようなビー玉大の球を作り出すことに成功した。

 それを手に小篠は的を見据え、

(飛んでけ! 飛んでけ! )

心の中で呟く。

 球が小篠の手から離れた。

 しかし、確かに飛んではいるが、球は、シャボン玉のように小篠の周りをフワフワ浮遊するだけ。

(何でだろう……? )

 日高に聞いてみるが、先ほどの説明以上のヒントは得られない。

 そこで小篠は、藤崎に頼み込み、彼女の練習を間近で見せてもらえないかと考えた。

 どうやら頼まれると弱いらしい藤崎の練習を、何度も何度も繰り返し見せてもらい、小篠は、藤崎の動きを目に焼き付ける。見ていて、特に気づくところは無い。ただ、一挙手一投足を克明に記憶する。 

 約30分が経過。休み無く光を放ち続けてさすがに疲れた様子の藤崎に、小篠は礼を言い、自分が狙う的の前に戻った。

 歩数を数えながら的から離れ、光の球を作り出す。その構えは、藤崎のものと全く同じだ。

 小篠は、藤崎の動きを、そのまま忠実に再現してみるつもりなのだ。

 自分で実際に動くと同時に、頭の中では、藤崎が光を放つ時の鮮明な映像。サル真似だが、人指し指と中指の間に球を挟んだ手のひらを的に向けて突き出した、すぐ次の瞬間、

(! )

指の間から離れた光の球は、的に向かって高速移動し、小篠自身驚くほど見事に的を弾き飛ばした。

 拾いに行くと、的は、球を撃つ前に置いてあった時に上になっていたであろう部分の右端……手本にした藤崎の的と同じ箇所が欠けている。

(……出来た! )

 小篠は考える。今、自分は、何かを強く念じたりはしなかった。初めの時のように、心の中で、飛んでけ、飛んでけ、とは言わなかった。そして、気づく。もしかしたら、大切なのは念じることではなく、はっきりとした映像を思い浮かべることではないか、と。なぜなら、的を弾き飛ばした時、小篠の頭にあったのは、藤崎の放った光の球が真っ直ぐに的を撃ち抜く映像だけだったからだ。

 それを確かめるべく、的を元あった場所へ置き直した小篠は、新たに作り出した光の球を手に、出来るだけ具体的に、違いの分かり易い想像をしてみる。

(主人公は自分。光の球は指で挟まない。自然に手のひらの上で転がってる。それを軽くほうるように手を動かすと、フワッと手を離れて、ゆっくりと、大きな弧を描いて的に向かって、その天井を向いた面の中心に穴を開ける)

 イメージを固め、小篠は的に目をやった。そこからは、自分の想像に沿って実行に移す。

 結果は、的に向かう球の動きから開いた穴の位置まで、イメージ通りの出来。

(やっぱり)

 小篠は確信と自信を得、練習を続けようとした。その時、背後から、粘着質の重たい視線を感じ、振り返る。

「小篠も、出来たのか……」

 視線の主は秋山だった。

 聞けば秋山は、まだ、光を作り出すことさえ出来ていないらしい。暗い表情の中に、焦りと苛立ちが見え隠れする。

「……」

 小篠は返答に困った。出来ないと言っているからといって、先生である秋山に対して、教える、というのは失礼な気がするし、自分が出来たことについても、頑張った、といえば、秋山の頑張りが足りないと言ったことになるし、何となくやってみたら出来た、といえば、余計に、出来ない秋山をバカにしているようにとれる。

 と、悩む小篠の横から、

「仕方ないわね、教えてあげるわよ」

いつの間にか小篠と秋山の傍へ来ていた藤崎が、軽く言ってのけた。自信に満ちた表情。

 その自信について、藤崎のすぐ隣に立っていた日高、

「藤崎サン、すごいよ。今、やってみてもらったところなんだけど、350ミリリットル缶1本の的を、狙って撃てたんだ」

太鼓判を捺す。

 確か、1本の缶を的として狙えるようになることは、最終的な目標だった。

 小篠は感心し、秋山も、

「仕方ねえな。教えられてやるか」

言葉こそ素直ではないが、その力を認めたらしかった。

 小篠は、秋山のことは日高と藤崎に任せ、自分の練習に戻った。

 はっきりとした映像を思い浮かべることで、既に出来ていた光の球で大きな的を狙うことは、もちろん、光線を操ることも、最終目標の缶1本も、全てが面白いように上手くいく。 

 夢中になっているうちに時間を忘れ、缶1本に替わった的を拾いに行く途中、足が縺れて、初めて自分の疲れを知った。

 時計を見れば、体育館に来てから3時間が経っていた。

 これまでにしたことを考えると、少なくても1時間は練習を続けていたことになる。疲れて当然だ。

 小篠は少し休憩することにし、体育館の隅へ移動しがてら、あとの3人に目をやる。

 的の前に3人固まり、やけに静かだ。練習が進んでいる様子も無い。

 気になるが、あまりにも疲れた。

 隅にドサッと腰を下ろし、壁に寄り掛かる。何だか、瞼が重い。



                  *



 バンッと、大きな音。

(何っ? )

 小篠は驚き、バッと顔を上げる。少し休憩のつもりが、眠ってしまったらしい。

 あれから、どれくらい時間が経ったのだろう。すぐ横では、藤崎が寝息をたてている。

 音のした方向を見ると、小篠の目を覚まさせた音と共に弾かれたであろう的の傍で、肩を叩き合って喜びを分かち合う日高と秋山がいた。

 小篠は立ち上がり、そちらへ歩く。

 小篠の姿を認めて、日高、

「小篠サン! 先生、出来るようになったよ! 」

嬉しそうに報告。

 秋山は小さく付け加える。

「ああ。やっと、な」

 藤崎が目を擦りながら起きてきた。

 高い窓から見える空は、既に白い。

 朝練の生徒と鉢合わせたらマズイと考え、4人は大急ぎで、的やその破片を片付けて、体育館を出る。


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