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闇姫魔鬼  作者: 獅兜舞桂
6/13

* 3-(2) *


 小篠と日高が秋山の家へ着くと、パソコンの横に置かれた秋山の家の電話を使って、藤崎が何処かへ電話をしていた。その傍らには、息を潜めて電話の内容に耳を欹てている様子の秋山。

 間に入って行けない感じの親密な雰囲気。小篠の胸の奥の奥がスウッと冷え込み、花が微妙に萎れた。

 藤崎が受話器を置くのを見届けてから、日高、からかうような口調で、

「仲良くやってるみたいじゃないですか」

 日高の言葉に、

「おう、来たか」

振り返った秋山は、チラッと小篠に視線を向け、

「仲良くしないと、小篠に叱られちまうからな」

冗談めかして言う。

(…私……? )

 突然自分に触れられた驚きで、小篠の胸の奥の奥の花が、シャンと頭をもたげる。

 小篠は初め、秋山が何を言っているのか分からず、ややして、

(ああ、夜中に私がここに来た時に言った『仲良くしましょう』……? )

思い出し、普通なら、こんな何時間も引きずるほど何がそんなに面白かったのか、馬鹿にしてるのか、と、ムッときそうなところだが、何故だか、くすぐったく感じた。胸の奥の奥の花が、嬉しそうに恥ずかしそうに、小さく小さく揺れている。

「ところで、どこに電話してたんですか? 」

 日高が口を開き、小篠を、夢見心地な くすぐったさから引き戻した。

 返して秋山、

「学校だよ。『風邪ひいたから休む』って、藤崎に、カミさんになりすまして電話してもらったんだ。本当は自分でするべきなんだが、嘘が下手でな……。日高と小篠は? もう、学校に連絡したのか? 」

「あ、はい、僕は……。まだかも知れませんが、執事の中丸なかまるさんがしてくれることになってます」

当然のことのように答える日高。

 小篠は、

(…そっか、学校に連絡しなくちゃいけなかったんだ……)

言われて初めて気付いた。

 その時、玄関のチャイムが鳴り、秋山が玄関へ。ドアを開ける音。何やら話し声。少しして、

「日高、妹さんだぞ」

秋山が、玄関から大きな声で言う。

「まさか……! 」

 異常に驚き、表情を険しくする日高。 

 その様子に、

(何だろ……? )

小篠は首を傾げる。

 高校生が保護者と離れて外泊する際、宿泊先くらい保護者に……両親が留守にしている日高の場合、保護者代理という執事に告げておくのは常識だろう。小篠のように嘘をついている場合は別だが、嘘をつく必要の無い日高は本当の居場所を知らせているはずで、住所までは知らせていなかったとしても、そんなものは、電話番号表に一緒に載っている。日高の妹が執事から聞いて訪ねて来ても、何の不思議もない。 

「お前に妹がいるなんて、知らなかったな」

言いながら、秋山が連れて来たのは、艶やかな長いストレートの黒髪と黒目がちの大きな目が印象的な、小篠と同じ年頃の少女。 

 少女は、日高を見るなり抱きついた。

(あれ……? この子……)

 小篠は、その少女とどこかで会った気がする。

 日高、自分の首に腕を絡めて頬を寄せる少女に、ちょっと途惑い気味に、

真姫まき、どうして、ここに? 」

 少女は、真姫という名前らしい。どこで会ったのか、思い出せない小篠。見かけただけじゃなくて、会話を交わしたと思うんだけど……と、考え込む。

 日高が真姫、と呼んだ少女は、顔を上げ、日高の問いに、

「お兄さんが1週間も帰って来ないと知って、何だか、とても寂しくなってしまって。それで、私もご一緒させていただけたらと思い、執事から宿泊先を聞き、電話番号表の住所を頼りに来たのです」

一息に答えてから、上目遣いで日高を窺う。

「ご迷惑、でしたか……? 」

 言葉に詰まる日高。

 真姫は縋るように日高を見つめたまま、

「ご迷惑、なのですね……? 」

今にも泣きそうに声を震わせ、

「ごめんなさい」

しかし、懸命に抑えた様子で下を向き、

「私、帰ります」

日高から離れて出て行こうとした。

 それを、

「待って! 」

呼び止めたのは藤崎だった。あまりにいじらしい真姫の姿を、黙って見ていられなかったのだろう。

 藤崎は真姫に歩み寄り、

「真姫ちゃん……って言ったよね? いいじゃない、一緒にいたら」

言って、日高に目をやる。

「ねえ、日高クン。事情を説明して理解してもらえば、問題ないでしょ? 執事さんにも一言ことわれば……」

 日高は何か言おうとしたようだったが、躊躇う様子を見せ、結局何も言わないまま黙り込んだ。

 日高が何も言わないのをいいことに、藤崎は、どんどん話を進め、

「あたし、藤崎。よろしくね」

再び真姫に向き直り、握手を求めて右手を差し出す。

 真姫は嬉しそうに目を輝かせ、その手を握り返そうと手を伸ばし、指先が触れた瞬間、ビクッとして手を引っ込めた。

「光水晶っ? 」

 酷く警戒している様子。

「あなた、光水晶のカケラを持っているのですね? 」

 その驚きように、逆に驚く藤崎。

 日高が静かに口を開く。

「君が、闇変化なんて作り出すからだよ」

(闇変化を、作り出す……? )

 小篠の心に、日高の台詞が丸ごと引っかかった。

 真姫は、弱く小さく首を横に振り、

「『なんて』…って……。皆、私の大切なお友達です」

 日高、それに対して、珍しく声を荒げる。

「あんな化け物がかいっ? どうかしてるよっ! 」

 真姫もつられたように、

「確かに化け物です! でも、そうでもしなければ、私に、お友達なんて出来ないでしょうっ? 」

大声。

 そんな兄妹のやりとりの中、小篠は思い出した。真姫という名前を聞いてピンとこないのは当然だった。小篠と会った時、真姫は違う名前、

「闇…姫……? 」

そう、確かに闇姫と名乗ったのだ。

 小篠が特に何を意識するでもなく声に出して呟いたのを聞いた秋山は、緊張を含んで目を見開き、くいいるように真姫を見つめ、藤崎に至っては、壁ギリギリまで後退った。

 空気が張りつめる。

 たった一言、小篠が発したことによる急な雰囲気の変化に、真姫は眉を顰め、

「これは一体、何の集まりなのですか? 」

疑問形だが、分かっているようだった。

「……お兄さんだけは、私の味方だと思っていたのに……! 」

 言って俯いた真姫の顔つきに、小篠はゾクッとする。赤みを失った頬、まともに見つめられたら凍りついてしまいそうに冷たい目は、一瞬前とは別人のものだった。

 暫しの沈黙。

 やがて、小篠・秋山・藤崎が固唾を呑み、日高がはっきりと後悔の色を浮かべて見守る中、真姫は表情の無くなった顔を上げ、一同に背を向けて立ち去ろうとする。

 日高、

「真姫」

遠慮がちに声を掛けた。

 真姫は足を止め、日高を振り返りざま、日高に向かって右手を突き出す。

 咄嗟に身構えようとする日高。

 しかし、それより先に、真姫の手のひらの中心から放たれた黒い稲妻のようなものが、日高の二の腕を撃ちぬいた。

 日高は撃ちぬかれた二の腕を反対の手で押さえる。傷口を押さえる手のひらの僅かな隙間から腕を伝って、血が床に滴った。

「日高! 」

叫んで、秋山が駆け寄り、

「大丈夫かっ? 」

 日高をその場に座らせてから、たまたま近くにあった、取り込んだまま放置されていたと思われる、カゴに入った乾いた洗濯物の中から、赤ちゃんの布オムツだろうか? 幅30センチ、長さ120センチほどの薄手の白い布を輪になるように縫ったものを引っ張り出し、それで日高の肩の関節を強く縛って止血を試みた。

 真姫は踵を返す。

 その顔に一瞬表出したものを、小篠は見逃さず、

(…今、笑った……? )

愕然としながら、真姫を見送った。

(人に怪我をさせて、笑うなんて……)

「なんて子なのっ? 」

藤崎が憤りを露に言う。

 それを、

「やめてよ」

日高は制し、肩で息をしながら自嘲的な笑みを浮かべ、

「ただ1人信用していた人間に裏切られたんだ。当然だよ」

顔面蒼白。前髪が冷や汗で、額に張りつく。

 秋山、

「日高、病院へ行こう」

 日高は首を横に振る。

「これくらいの傷なら、少し休めば、僕の中の光の力が勝手に治してくれます」

 と、そこへ、電話が鳴った。秋山が出、

「……はい、少々お待ち下さい」

言って、受話器の口元に当てるほうを手で押さえて、日高に差し出す。

「日高、執事の中丸さんから。……出れるか? 」

 日高は苦痛に顔を歪めながら頷き、一度、深呼吸をしてから、受け取った。

「もしもし、光士です。……真姫? うん、今、来て、すぐ帰ったよ。…うん、仕方ないよ。……うん。こっちは大丈夫だったから、心配しないで。ただ、真姫に僕の計画がバレちゃったみたいなんだ。中丸さん、真姫がそっちに着く前に、急いで家を出たほうがいい。危険かもしれない。他の皆にも暇を出してくれる? ……真姫の世話? そんなの、いいよ。皆が無事でいてくれることのほうが大事だから。……うん、お願いします」

 電話を切り、秋山に受話器を返した日高は、大きく息を吐きながら、体力を全て使い果たしたようにガックリと頭を垂れた。

 藤崎が日高に歩み寄って、その顔を覗きこみ、

「病院に行かないなら、とりあえず、横になったほうがいいわ」

優しく語りかけ、秋山を仰ぎ見る。

「オジサンのベッド、使っていいでしょ? 」

「ああ」

 秋山の答えを確認してから、藤崎、

「シノちゃん、手伝ってくれる? 」

 


 小篠は言われるまま、藤崎の後について隣の部屋へ。

 隣の部屋は寝室。部屋の入口から見て奥にベビーベッド、手前にシングルベッドが2つ並んでいた。

 シングルベッドのうち片方はキチンと整えられ、枕の上に畳んだ花柄のパジャマが置かれており、もう片方は足側に丸まった掛布団、枕の近くには大量の少年漫画が乱雑に置かれ、シワクチャの服が散乱している。

 藤崎は、散らかっているほうのベッドをテキパキと片付け始めた。

 小篠も一緒に片付けようとするが、服ひとつ畳むにも、藤崎のように手際よくいかない。

 小篠が感心して藤崎を見ていると、藤崎は照れ、

「うち、あたしが物心ついた時には、お父さんと2人きりだったから、小学生の頃から、家事はあたしの仕事だったの。だから、ただの慣れよ」

言ってから、小篠の手元に目をやり、

「それに、畳んだ後はシノちゃんのほうがキレイじゃない? そんなに丁寧にやらなくても、ベッドの横に退けて置くのに邪魔にならない程度でいいのよ」

 その後は、小篠も藤崎を見習って適当を心がけてみた。


 2人がかりで片付け終え、藤崎、大きな声で向こうの部屋の2人を呼ぶ。

 秋山に支えられて寝室に入って来た日高は、先程より幾分、回復しているように見えた。日高の言っていた光の力か、頬に赤みが戻っている。


「すみません……」

 ベッドに横たわった日高は、自分を囲む小篠・秋山・藤崎の顔を見回してから、天井を見つめ、

「……僕は、順番を間違った」

悲痛な面持ち。

「皆を集めて真姫を殺すことを考える前に、どうして、真姫とキチンと向き合わなかったんだろう。真姫に悪気は無かったんだから、闇変化を作り出していることに気づいた時点で、叱って、傍にいてやるべきだった。それだけで済む話だったかも知れないのに……」

 空気が重い。小篠は耐えきれず口を開く。

「日高クン、そんなに自分を責めないで」

 藤崎が続いた。

「そうよ。過ぎてしまったことは、仕方ないわ。大切なのは、これからどうするか。あたしもシノちゃんもオジサンも、自分の大切な人が闇変化になった、その時から、今の日高クンと同じ痛みをずっと抱えてる。抱えていくしかないの。ちゃんと前を向いて、これからどうしたらいいのか、一緒に考えよう」

 精一杯励まそうとする藤崎の言葉を、日高は、

「無理だよ。考えられない。同じ痛み? 全然違うよ」

視線は天井に向けたまま、皮肉げな笑みと共に打ち消す。

「確かに闇変化は、変化した人の寂しさや悲しみが元になっているけど、ほとんどの場合、その感情を与えた相手に特に非があるわけでも、変化した本人に問題があるわけでもなくて、ただ運悪く、真姫に目をつけられてしまっただけだと思うんだ。それに、真姫を殺すことで、彼らは皆のところへ、以前の姿に戻って帰ってくるしね。……僕も、さっきまでは、殺すことで真姫自身救われると思ってた。呪われた運命から解き放ってやれると、勝手に思い込んでた。それが自分の使命であるとさえ思ってたんだ。独り善がりもいいトコだよ」

「呪われた、運命……? 」

あまりに穏やかでない言葉に、小篠は、眉間にシワを寄せた。

 今、小篠の周囲は物騒だ。物騒な出来事が起き、物騒な言葉が飛び交う。

 しかし、それらが、運命、という言葉で、起こるべくして起こった仕方のないものなのだとされてしまうのは、本当に、穏やかでないにも程がある、と。

 日高の言った「呪われた運命」は、真姫のものであって、小篠や世の中のものではないが、巻き込まれている以上、同じことだ。

 日高によれば、日高家には、特殊な力を持つ者が時々生まれたと言う。

 その力の根本は、光。光の力を持つ者……光の者だけが、代々、日高家を継いできた。

 考え方として、光と闇は表裏一体。一方の存在無くして、もう一方の存在はありえない。例えば、日高家に在って光の力を持たない者は、光と闇をバランスよく持って生まれたため、力が相殺されたと言える。つまり、光の者が1人生まれた後には、闇を根本とする力を持つ者……闇の者が生まれてくることになる。

 古くから、闇の者は、この世の全ての光を滅ぼす悪しき者とされ、生まれると同時に処分することが日高家の習わしとなっていた。

 先に生まれたのが光の者ならば、次子を儲けないことで闇の者の出現を防ぐことは可能だが、先に生まれたのが闇の者であったり、光と闇が同時に生まれる双子では、防ぎようが無い。

 日高と真姫は双子だ。日高兄妹の出生当時、まだ若かったこともあり、両親は、その古い習わしの元となっている日高家に伝わる古い詩の中の、何を指しているのかも分からない「この世の全ての光」などのために、我が子を手に掛けることなどとても出来ず、真姫を隔離、管理した。日高にさえ、その存在を隠していたらしい。

「僕が真姫の存在を知ったのは、5歳の時だった」 

ぽつりぽつりと、日高は言葉を紡いでいく。

「僕の家には、1つだけ、僕が出入を禁止されていた部屋があったんだけど、ある日、その部屋に父が食事を運んでいるのを偶然見かけて、どうしても気になって、夜中、両親が眠るのを待って行ってみたんだ。……そこに、真姫がいた。奇妙な部屋だったよ。10畳の広さに、ベッドと、隅のほうにトイレがあるだけで、あとは何も無いんだ。小さな子供の部屋なのに、オモチャのひとつも無かった。その部屋に鍵はかかっていなかったけど、真姫は、部屋から一歩も出たことがないって言った。『部屋から出てはいけない』っていう父の言いつけを守って、出ようと考えたことすら無いらしかった。後で知った話、部屋には父の手で強力な結界が張られていて、闇の者である真姫は、出ようにも出られないようになっていたんだけどね。でも本人は、生まれてからずっと、そうしてきたから、閉じ込められている自覚なんて無くて、父が3度の食事と体を拭くためのお湯を運んで来る1日計4回、父と少しの会話を交わすことを純粋に楽しみにしているみたいだった。僕が行った時も、『早く朝にならないかなあ。お父さんに会いたいなあ』って、言ってたんだ。僕は生まれて初めて、父に反感を持った。僕の父のことを『お父さん』と言ってはいたけど、その時には、まだ何処の誰とも分からない真姫が、何だか可哀相で……。それで直接、父に抗議したら、逆に、すごく怒られた。真姫が僕の妹だということも含めて事情を説明した上で、父は改めて僕に真姫と会うことを禁止し、今度はドアに鍵もかけた。だけど、僕は会いに行ったよ。だって、嬉しかったんだ。自分に妹がいるって知って。幼稚園の友達には皆、兄弟がいるのに、僕だけ一人っ子だと思っていたから……。ドアには鍵をかけられてしまったけど、窓の鍵は内側からだったから、行けば真姫が開けてくれたしね。2階だったけど、頑張った。真姫と会うのが解禁になったのは半年前、両親が仕事でどうしても留守にしなければならなくなって、中丸さんと一緒に真姫の世話をするよう託された時だった。……妹がいるって知って、どんなに嬉しくても、会いたくても、解禁になるまで待てればよかったのにね。半年前の僕なら、もう、色々分かってたのに……。まだ幼かった頃の僕が遊びに行く度に、不用意に、真姫に部屋の外の世界の楽しさを話して、結果的に寂しさを教え、両親への不信を植え付けてしまった。真姫は父との関係だけで満たされていたんだから、そのままそっとしておけば良かったんだ。……ううん、半年前の僕も、つい数分前までの僕も、色々なんて分かってなかったかな……? 真姫が友達欲しさに闇変化を作り出したのを、真姫から直接話を聞く前に、やっぱり闇の者は闇の者なのか、なんて思い悩んで、殺すしかないなんて結論を急いだりして……。両親に相談したくて、連絡とろうとしたんだけど、とれなくて……。僕が何とかしなきゃ、って、気持ちが焦ってしまったのかもね……。……皆に闇姫の正体を言わないでいたのは、敵を、闇姫という名の化け物紛いの人物だと思っていてくれたほうが、気軽に殺せるんじゃないかって考えたからなんだ。多分、もう、皆、生半可な気持ちじゃ真姫を殺せなくなってるよ。僕の妹だって、知ってしまったからね。僕にも、出来ない。皆には闇変化を傷つけることも出来る道具なんか渡しておきながら、我が儘だと思われるかも知れないけど、皆を集めたのは、真姫を、この手で殺さなくても済むようにするためだけだったんだ。闇の者だからと諦めたつもりでも、結局それは真姫のためでもあるのだと自分に強く言い聞かせても、いざ殺そうという段になって、体が言うことを聞かなくなると思う。…妹だから……」

 長い長い話。小篠には、まるで遠い別世界の話のようでもあり、これまでよりも、日高や闇姫の一件を身近に感じられる話でもあった。

 日高、深く息を吐き、掠れた声で、

「…説明、このくらいでいいかな……? 」

言って、ゆっくりと瞼を閉じ、

「悪いけど、暫く1人にしてよ……」

語尾の震えが、日高の心中を正直に語った。

「ああ、ゆっくり休め」

 秋山の言葉を残し、小篠たち一同は寝室を出る。

 秋山は襖を閉め、心配げに軽く眉を寄せ、寝室を振り返った。 

 藤崎も、無言で襖を見つめる。

 小篠もまた、

(日高クン……)

同じく。

 と、その時、クルルルル……。小篠の腹の虫が鳴いた。

(ヤダ……)

小篠は恥ずかしさに小さく小さくなりながら、腹を押さえる。

 秋山と藤崎が、同時に、フッと柔らかな笑みをこぼした。

 小篠は、ますます恥ずかしくなる。顔が熱い。真っ赤になっているのが、自分で分かった。

 秋山、

「もう、昼だからな」

 応えて藤崎、

「そうね。まだ何か、食べるものある? 」

「ねえな。飲み物はあるが……。パンも、朝、食っちまったし」

 秋山の返事に、藤崎は、考える様子を見せながら、

「買物、行きましょうか。日高クンも、何か食べれば少しは元気になるかもしれないし……。…闇変化、は、大丈夫よ、きっと。サッと行って帰ってくるくらいなら」

 秋山も、考えながら、といった感じで、

「そう、だな……。行くか」

 その答えを受け、藤崎、

「シノちゃん、私服持ってきた? 」

 それまで、すぐ傍にいるにもかかわらず、恥ずかしさのため遠くに聞いていた秋山と藤崎の会話。突然、自分に話を振られ、小篠は、今ひとつ話を掴めないまま、しかし、恥ずかしさからは少し立ち直って、

「……? あ、うん……」

「じゃあ、着替えて。この時間、制服だと目立つわ」

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