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闇姫魔鬼  作者: 獅兜舞桂
1/13

* 1 *



(また、遅くなっちゃった……! )

 小篠萌花こしのもえかは高等部校舎を出、すっかり暗くなった、丘ひとつを占有した広い学園敷地内の小道を、初等部校舎に隣接する初等部低学年専用の遊具のある広場「なかよしひろば」へと急ぐ。

 11月の夕方6時過ぎの外の空気は、ずっと暖房の効いた屋内にいた者にとっては、いい感じに冷たい。だが、ずっと外で待たされていた者にとっては……?  

 今日と同じく遅くなってしまった昨日、少し大きめの制服に身を包んだ初等部1年生の弟・ようが、他に誰もいない広場で、1人、つまらなそうな顔をしながら、広場の用途を考えれば本来必要の無い外灯に照らされ、広場の入口左手側のブランコで、覚えたての立ち漕ぎをしていた姿が目に浮かんだ。それから、その後つないだ手の冷たさも……。

 普段も部活でそれなりに遅いのだが、完全下校の放送が流れる頃には、片付けも着替えも終え、葉と合流している。こんなに遅くなったのは、葉の入学以来、昨日と今日くらいだ。


 小篠は息を切らしながら、広場入口に到着。中を覗いた。が、そこにいるはずの葉の姿は無かった。

(……? )

小篠は、ゆっくりと広場の中に歩を進めながら、

「ヨウくん……? 」

辺りを見回す。

 広場の中は、シンと静まり返っていた。まさか、と、あってはならない考えが、小篠の頭を過ぎる。

 このところ、小篠の住む市内では、物騒な事件がたて続けに起こっている。身近には無いが、テレビのニュースなどでは、小さな子供を狙った犯罪なども、よく聞く。しかし、小篠姉弟の通うこの学園・明陽大学附属日高学園めいようだいがくふぞくひだかがくえんは、市内から孤立するような形で在り、関係者以外は、そうそう近づかない。その上、生徒・児童がいる時間帯には、小篠姉弟が登下校時に通る正門をはじめとする全ての門に警備員が常駐しているため、絶対に大丈夫だと思っていた。と、言うより、そんな危険……学園内で、何か、犯罪に巻き込まれる危険など、大丈夫かどうかなど、考えてみたことも無かった。…1人にさせては、いけなかったのかも知れない……。

(どうしよう……! )

小篠は泣きそうになりながら、

「ヨウくんっ! 」

葉の名を呼ぶ。

 その時、

「わっ! 」

 小篠の背後で大声。

 反射的に振り返る小篠。

 見れば、ブランコのすぐ隣のベンチの背もたれの向こう、頭悪そうな感じで、「わっ! 」の形に口を開いたままの、顔をいっぱいに使った葉の笑顔。

「ネエネが くるのが みえたから、おどかそうと おもって、かくれてたんだー」

言いながら、葉は、ベンチの後ろから出、楽しげに、小篠に駆け寄ってきた。

「びっくりした? 」

 小篠はホッとして、いっきに力が抜け、もー……、と言いながら、地面に座り込んでしまった。涙が、パタパタと落ちる。

(でも良かった、何ともなくて……)

 涙に雑ざって、なぜか、笑いが込み上げてきた。



                    *



 正門をくぐる際、脇にある警備員室の警備員に、小篠は会釈し、葉は無邪気に手を振る。

 警備員が笑顔で手を振り返してくれるのを待ってから、葉は、満足げに頷いて、先に門を出て待っている小篠のもとへ。

 門を出ると、葉は、自然に小篠の空いている右手に手を伸ばし、握る。

 つないだ手を揺らし、丘を下りながら、葉、突然、少し沈んだ声になって、

「ネエネ、カリンちゃん は? 」

「カリンちゃん? って、ネエネのお友達の、田中花梨たなかかりんちゃん? 」

 田中花梨は、小篠とは初等部5年生の時から現在までの連続6年間クラスメイト。自宅へも何度か遊びに来たことがあるため、葉とも面識がある。

 聞き返す小篠に頷いた葉は、元気が無い。

「花梨ちゃんが、どうかしたの? 」

「あのね、きょうも こなかったんだー」

 聞けば、葉は放課後、なかよしひろばで小篠を待っている間、よく、帰宅部である田中に遊んでもらっていたらしい。だが、ここ数日、広場に姿を見せず、寂しかったのだと言う。

 今は、18日後に迫った文化祭の準備期間。部活の発表のある文化部を除いたクラス全員でクラスの展示発表の準備をしている。昨日・今日と小篠が広場に来るのが遅くなったのは、そのためだ。当然、普段は帰りの早い帰宅部も、完全下校の6時まで教室に残っている。広場には、来れない。実際、昨日も一昨日も田中は準備に参加していたし、今日だって、ついさっきまで、小篠と一緒にいた……というか、実は、田中が気遣ってくれたおかげで、小篠は、まだクラスメイトたちが教室に残っている中、少し早く抜け出せて来れていた。

 小篠、葉に分かり易いよう言葉を選び、

「もうすぐ、ネエネの学校、お祭りがあるの。花梨ちゃん、そのお祭りの仕度をしてるんだよ。だから、広場に遊びに来れないの」

「そっかあ……」

 寂しそうな葉。

 小篠はちょっと可哀想になり、意識して優しい口調で、

「お祭りには、ヨウくんも、ネエネと一緒に行こうね。花梨ちゃんにも会えるよ」

「うんっ! 」

葉は、目をキラキラさせて返事。

 すっかり元気を取り戻した葉に、つないだ手を痛いくらいに大きく揺らされて歩きながら、小篠は、

(全然知らなかった……)

葉と遊んでくれたことについて、今度、田中にキチンと礼を言っておかなければ、と思った。




 正門から続く丘の私道を下りきると、大きな道路にT字で突き当たる。そこを、自宅方向へ。直線500メートルほど歩くとある商店街の店は、皆、昼間の活気を僅かに残しつつ、一様に店頭の明かりを落として、閉店準備を始めていた。

 その商店街を通り抜けて少し行った住宅街の一角にあるコンビニに立ち寄り、小篠たち姉弟は夕食を選ぶ。

(ハンバーグ弁当……エビフライ弁当……)

 小篠は、色々な弁当が並ぶ冷蔵のケースの前で頭を悩ます。焼肉弁当は昨日食べた。カレーは一昨日。カツ丼、天丼、中華丼、チャーハン、ピラフ、スパゲティ、ヒレカツ弁当に幕の内弁当……どれも最近、食べたばかりの気がする。毎日、コンビニ弁当。完全に厭きていながらも、特に悩まず パッと決められる日のほうが多いのだが、時々、とても嫌になり、何を食べていいか分からなくなる。しかし、自炊は、母から火を使うことを禁止されているため出来ない。それ以前に、家庭科の授業の調理実習で、大抵、皿洗いくらいしかしない小篠。料理など、ほとんど作れない。

 小篠の隣で、

「ボク、これに しよー! 」

嬉しそうとも楽しそうとも取れるニコニコ顔、明るい調子で言って、葉が、おにぎり弁当を手に取る。

 小篠は驚き、思わず、

「また? 」

 それは、おにぎり2個と唐揚3個とタクアン2切れのセット。葉は、昨日も一昨日も、その前も、それを食べていたはずだ。それどころか、土・日も先週中も、ずっとそれだったような……。

 小篠の問いに、葉は、

「だって、すきだもん」

ニコニコのまま返した。

 今日は給食も唐揚だった。…厭きないのだろうか……? 

(いいけど……)

 小篠は、葉からおにぎり弁当を受け取り、自分も、さんざん悩んだ末に、やっと、あまり夕食に食べたい物ではないが、ハムとタマゴとトマトのサンドイッチを選び、レジを済ませた。

 小篠が学校のカバンを持っている左手にコンビニの袋も持ち、右手を空けると、葉が当然の顔をして右手を握ってくる。



                    *



 自宅へは、学園方向から見てコンビニ手前の道路を入って真っ直ぐ行くのが一番近いのだが、このところ市内で立て続けに起こっている物騒な事件に、夕方帰宅する姉弟の身を案じた母の、

「出来るだけ人通りの多い道を帰りなさい」

との言いつけを守って、葉と手をつないだ小篠は遠回り。

 葉連れでは本当に遠い、その道のりを、やっとの思いで辿り着き、開けた玄関のドアの向こうは、真っ暗。

 暗闇が怖い葉は玄関の外で待ち、小篠が先に入って靴を脱ぎ、玄関の明かりをつける。

 瞬間、イイイイイ……と、静寂の音が聞こえ始めた。

 小篠の家は、共働き家庭。両親の帰りは、母が大体、夜10時過ぎ、父は深夜だ。

 誰もいなかった家は、明かりをつけてから鳴り始めたばかりの静寂の音を、葉が足を踏み入れた途端、ピタッと止める。

 小篠、靴を脱いでいる葉に、

「ヨウくん、先にお部屋に行って、着替えと宿題ね」

声を掛ける。 

 葉は、まだ、すべきことを自分から進んで出来ない。放っておくと、いつまででもダラダラと遊んでしまう。そのため、葉に何かをさせたい時には、いちいち声を掛け、背中を押してあげなければならない。

 はーい、と、素直に返事をし、葉は、自分の通り道の明かりを全てつけながら、階段を上った先、2階左奥の自分の部屋へ。

 小篠は、夕食が入ったコンビニの袋をリビングのテーブルに置いてから、2階の左手前の自分の部屋で着替え、葉の部屋へ。

 葉は既に着替え終え、机に向かって学校の宿題をしていた。

 帰宅したら、制服を汚さないよう、すぐに着替え。次に葉の宿題、というのが、母が決めた日課の順序だ。

 小篠は、床に脱ぎ散らかされた葉の制服の上着とズボンを拾い、ハンガーに掛けてから、葉の手元を覗く。

 今日は、算数のプリント。たった今、始めたところらしい。まだ1問目だ。

 傍から見守る小篠。途中、葉の間違いに気付き、あ、と小さく声を上げては、なーに? と聞かれ、教えるのは1通り終わってからとの考えから、あ、何でもない、何でもない、続けて続けて、と返すパターンの繰り返し。

 葉は、どうやら問題文を読むのが苦手らしい。計算問題で「やりかた(答えを導き出すまでの経緯)も かきましょう」と書いてあるのに、書いていない。答えは合っている。プリントに描かれている「えを みて」その絵に合った文章問題を自分で作る問題では、絵を完全に無視。だが、そこに書かれている数字に合った問題は作れている。

 今日のプリントだけではない。いつも、そんな間違い方だ。問題をきちんと読み取る力をつけることが必要。一問一問、一緒に問題を読み、一緒に解きながら、という教え方は向かない気がしたのだ。

 葉が最後の問題を終えるのを待ち、小篠は、葉に、(いつも言うことだが)問題をよく読むようアドバイスし、計算問題の「やりかたも かきましょう」と、問題文を作る問題の「えを みて」の部分にアンダーラインを引いてみせる。

「あ、そうかー」

言ってから、真剣な表情で、額を机にくっつきそうなくらい近づけて鉛筆を動かす葉。

 無事、プリントを終え、次は国語の音読の宿題。ここ数日間は、短い詩を読んでいる。

 葉は暗記してしまっているらしく、一応、教科書を開いてはいるが、目で文字を追っている様子は無い。

 音読を済ませた葉から、小篠は、音読カードなるハガキ大のカードを渡され、その保護者欄にサインをする。

 それで宿題は終了。

 次の日課は、時間割表を指さし確認しながら、葉の明日の学校の仕度。

 教科書とノート、その他の持ち物も全てランドセルの中に揃え、制服のポケットの中のハンカチを洗濯済みのものに換え、制服の下に着るポロシャツと靴下も、洗濯したものをベッドの枕元に用意して、完了。

「さ、ごはん ごはん」

 楽しげな独り言を言いつつ部屋を出て行く葉の後ろに、小篠は、葉が脱いだポロシャツと靴下と使用済みハンカチ、それから今日使った体育着を手に続き、自分の部屋に寄って、自分の脱いだ制服のワイシャツと靴下、使用済みハンカチを持って、階段を下りる。

 小篠が、手にしていた洗濯物を洗面所の洗濯機に放り込んでからリビングに行くと、葉が、ソファに座ってテレビのバラエティ番組を観ながら、おにぎり弁当のフタを開けるのに悪戦苦闘していた。

 小篠は、ちょっと笑ってしまいながら開けてやり、自分も葉の隣に腰を下ろしてサンドイッチを食べる。

 食べ終えると、小篠は、洗面所奥の浴室へ。

 浴室の壁と壁に渡したサオに干してある洗濯物を、洗濯物干し用ハンガーごと、洗面所内の棚に引っ掛ける形で移動させてから、フタの閉まった浴槽の中を覗く。

 午後8時に湯が溜まるよう設定してあるとおり溜まっていることを確認。葉のバスタオルとパジャマと下着を用意して、リビングの葉に風呂に入るよう声を掛けに行く。

 テレビに見入ってしまってなかなか入ろうとしない葉を、何とか風呂へと追いやり、葉の入浴中に、リビングのテーブルの上の夕食のゴミを片付け、自分のバスタオルやパジャマを用意。

 葉と入れ替わりに入浴。

 風呂から出、小篠は、またテレビの前に座っている葉に、もう歯を磨いて寝るように言う。

 テレビに対して少し未練がある様子ながら素直に返事をした葉が、歯を磨き、トイレを済ませ、階段を上って自分の部屋に入っていくのを見届けてから、小篠は1度、フウーッと、長く息を吐いた。

 ここまでで、母から頼まれた葉関連の日課は終了。



                      *



 リビングへ戻り、つけっ放しだったテレビを消そうとした小篠だが、

(? )

リモコンが見当たらない。

 キョロキョロと部屋中を見回して目だけで探しつつ、これからやらなければいけない宿題のことなどを考えながら、テレビ本体の電源スイッチを押して消し、宿題をやるため自分の部屋へ行くべく踵を返した。

 その時、

「待って! 」

背後から、はっきりと小篠を呼び止める人の声。

 小篠はギクリとして足を止め、振り返る。

 声の主は、艶やかな長いストレートの黒髪と黒目がちの大きな目が印象的な、小篠と同じ年頃の少女。消したはずのテレビの中から、真っ直ぐに小篠を見つめていた。

 小篠は一瞬固まったが、落ち着いて考えてみれば、ただ、テレビがついていただけの話。

 今、小篠は、考え事をしながら、しかも、よそ見をしながらテレビを消した。確かに消えたと、画面を見て確認などもしていない。本当に、ちゃんと消したのかと言えば、自信が無かった。

 今度こそ、きちんと意識して電源に手を伸ばす小篠。

 瞬間、目を開けていられないほどの突風が邪魔をした。

 小篠は吹き飛ばされて尻もちをつく。

 窓は開けていない。風など吹くはずがなかった。

 何が何だか分からないまま、とりあえず顔を両腕でカバーし、痛いくらいに吹きつけてくる風を防いで目を開けた小篠は、腕と腕の隙間、目の前に見た。華奢な体に髪を纏わらせて立ち、小篠を見下ろしている、テレビの中にいた少女の姿を。

 少女は小篠と目が合うと、淡い色の花が咲く時のように、フワッと微笑んだ。

 同時に風が止む。

 小篠は呆然としてしまいながら腕を下ろした。

 恐怖は感じない。恐怖どころか何の考えも浮かばず、頭の中は真っ白。その状態に自分で気付いたが、特に、どうにかしようとも思わなかった。

 静かに小篠を見つめるだけの少女は、優しくて強烈な存在感。真っ白な空間を支配する。

 少女は小篠に、手のひらを上に向けて、差し出した。

 小篠は、自分の意識はハッキリしていながらも、まるで操られてでもいるかのように、吸い寄せられるように、ゆっくりと右手を伸ばして少女の手のひらの上に置き、立ち上がらせてもらう。

 少女、

「私は『闇姫やみひめ』」

言って、ニコッと明るく笑い、

「あなたは? 」

表情を保って小篠の答えを待つ。

「…小篠、萌花……」

相変わらず、小篠はボーッと、聞かれるままに鈍く返した。

 そんな小篠に少女は、

「萌花サン」

そっと小篠の右手を両手で包み、

「私は、あなたの味方」

労わるように優しく、

「私、知っているのです。萌花サン、本当は寂しいのでしょう? 辛いのでしょう? 」

(…寂しい……? 辛い……? )

 ボーッとしたままの頭で、鈍く、何となく、といった感覚で、小篠は、そうかも知れない、と思う。

 時々、小篠は懐かしく振り返っていた。近所に住んでいた母方の祖母が、両親に代わって自分や葉の面倒をみてくれていた頃のことを……。

 小学生の小篠が帰宅すると、祖母は、外に干した洗濯物を、葉をかまいながら取り込んでいたりした。当然、葉の世話などする必要の無い小篠は、着替え、宿題を済ませ、夕食までの時間を自分の好きなように過ごし、祖母が作った夕食を食べ、風呂に入り、就寝までの時間を、また、自分の好きに過ごしてから、太陽の匂いのするパジャマや布団に包まれて眠った。

 中学生になってからも、部活を終えて帰宅後、完全に自分のペースで、勉強したり、その他、好きなことをして過ごせた。たまに母が早く帰ると、夕食をとる母の隣に座り、その日の出来事などを話して、褒めてもらったり、慰めてもらったり……。

 両親とも、小篠が小学生だった頃には、今ほど仕事が忙しくなく、休日出勤などなくて、平日休みのため小篠が学校から帰ってからだが、よく、小篠と葉を連れて、公園などで暗くなるまで遊んでくれた。

 ……ここ最近、母の顔を見るのは、母が帰宅後、小篠の部屋を覗きに来る時くらい。父は、帰宅が深夜なため、暫く会っていない。 

 多分、自分は、もっと、父や母に甘えたい。

 今年3月、祖父の定年退職を機に長年の夢だった田舎暮らしを実現するため祖母が祖父と共に引っ越すことが決まったことで悩んでいた母を気遣い、小篠自ら買って出た葉の世話も、これまで特に考えたことはなかったが、負担に感じてたような気もする。

「あなたは、何も悪くないのに……」

 優しく優しく、重ねられていく少女の言葉。

 温かな毛布に、くるまれる安らぎ。…癒される……。

 少女の言葉によって初めて気づかされたばかりの寂しさが、知らず知らず確実に溜まっていた、負担感からきたであろう日々の疲れが、小篠の中で、スウッと解けて、無くなった。心地よい脱力感。幸せな気持ちになる。

 瞼が、重い。

 小篠の体は、風に吹かれて揺れる背の高い草のごとく不安定になった。

 少女は細い肩で受け止め、

「父親を、恨めばいいのです。母親を、憎めばいいのです」

更に言葉を重ねた。

 その途端、

(……っ? )

小篠の思考回路は完全復活。短い夢から、いっきに醒める。

「どうして? お父さんもお母さんも、悪くないよ。少し寂しいけど、仕事だから仕方ないし」

 寂しさは、父や母を好きであればこそだと思う。恨んだり憎んだり出来るようなら、きっと初めから寂しくなどない。それに、確かに葉の世話は大変だが、それで母が喜んでくれるのなら自分も嬉しいし、葉がいてくれなかったら、自分は絶対に、もっと寂しかった。

 小篠がそう言った直後、天井のほうから強い光。小篠は目を細める。

 少女は両手で顔を覆い、叫びを上げて消えた。

 小篠の細めた視界が揺れる。


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