ガチ系彼氏ヅカ系彼女
※いきなり下ネタっぽい話から始まります
「特隊の体長って、やっぱイイ体してるよな」
思わず飲んでいたお茶を吹きそうになった。
場所は碧軍第二部隊の中央食堂。時間は丁度午前の訓練が終わった正午のお昼時。少ないながら女性隊員がいる中、声も落とさず言い切ったその言葉は食堂内にそこそこ響いた。
「まぁ……綺麗な筋肉しているよなぁ」
一人が同意すれば、そこかしこで声が出始める。
声もいいだのあの筋肉触ってみたいだの……。
彼らは 女性隊員の冷たい視線に気付いていないのだろうか。無論自分も冷たい視線を送っている。視線に温度があれば奴らが凍りつくぐらいのとびっきり冷たい物をだ。
「……あの人なら抱いて、」
いけない。
思わず立て掛けていた剣を床に落としてしまった。
剣を拾い上げ、静まり返った周囲を見渡す。
青ざめた隊員が何人か見えたが、もう遅い。
「 ゲオルト・マティアス少尉」
先程間違いなくアレなことを言いかけた発端の男の名前を呼べば、彼は青ざめた顔を白くさせる。既に溜飲は下がっているが、落とし前は付けなくてはならない。
「貴公の性癖が特殊であることに、何か言うつもりはない。人それぞれの個性だ。だがな」
ここで一旦切って、凄惨な笑みを浮かべてやる。
「時と場所は考えるべきだなァ? 午後の訓練、特別仕様にしてやる。感謝しろ」
震えながら敬礼する男を見て、やはろ躾は大事だと再確認した。
***
「と、いうことがあってな」
「ちょっと待て。その話を聞いて俺はどういう顔をすればいいんだ。彼女が調教師みたいになってると慄けばいいのか? 」
場所は 下町の老舗のバー。時間は勤務終了した月も高い深夜。自分達以外にも壮年の男が数人一人酒を楽しんでいる。静かな雰囲気の此処は一人酒にはもってこいの穴場だ。
自分は彼氏を連れ込んで絡み酒をしているが。
「考えてみろ。自分の部下が彼氏の尻を狙っていると知ってしまった私の気持ちを! いや、私に懸想されても困るが……なんというか、こう……負けた気になる」
グダグダの酔っているのは自覚している。
しかし酒を口に運ぶ手は止まらない。止める気もない。
財布も控えているし、溺れるぐらい酔ってしまいたい。
「知るかよ?! これから味方を見ても尻を隠さないといけないってか、過労死するわ」
「もういっそ掘られろ」
「おまえ完全に酔ってるだろ! 」
特隊……特別工作部隊の隊長である自分の彼氏はいい男だ。ああ、いい男だとも。その筋肉に一目惚れもしたさ。
しかし自分含め女性陣を差し置いて男の視線を釘付けにするのは納得がいかない。男はみんな同性愛者なのかとすら思ってしまう。
こうして私服の上からも分かる筋肉……それも無駄がない引き締まった綺麗な筋肉。しかしそれは胸筋だ、おっぱいではない。男は皆おっぱい星人と言っていた近所のシズちゃん(ロリ巨乳)は嘘を吐いていたというのか。
尻だって、カッチカチだぞ。訓練して筋肉達磨な私も固いがそれにも増して固いぞ。エッチな男は尻しか見ないと言っていた近所のおばちゃん(グラマラス)は嘘を吐いていたというのか。
この欲張りボディ(筋肉)め!
「そういうがな、おまえこそどうなんだよ? 」
「 なにがだ」
残念ながら目の前の筋肉小悪魔と違って私は男の視線を受けたことがない。これっぽっちもない。
同世代の女子どころか男子すら抜きかねない高い背に、力強く幅広い肩幅。美人な母でなく男前な父に似た挙句顰めっ面が癖になった顔。
今彼氏がいることすら奇跡のような非モテ人生を送ってきたし、現在記録更新中である。
「うちの女性隊員は皆おまえの話しかしないんだけど。というか全部隊でも女性隊員に人気の隊員no.1はおまえだろ。知ってんだぞ、おまえがこの前の愛の日に女から花受け取った数! 」
「 ……それがどうした」
幼い頃から幼馴染の少女達の騎士役であったし、今となっては現役騎士だ。
愛の日といっても、好きな人ではなく世話になっている人に花を渡すことも珍しくないご時世だ。気にすることはないだろう。
勿論、日頃からレディファーストを心掛けているしフェミニストを気取っている自覚はある。
しかし、別にそういった下心は感じたことがない。
「一万二千五百六十七。一万超えてんだぞ。隊員に限っても六百十五だ。おかしいだろ」
「おまえも同じぐらい貰っただろう」
「ああ貰ったさ、白い花をな! 」
愛の日は花を送る日だ。女は色鮮やかな花を、男は白い花を。
自分は色鮮やかな花に、彼は白い花に囲まれた。……要するにそういうことだ。
「……静かに酒を飲もうと来てみれば。卿ら何を言い荒らそっているのだ」
「「……閣下! 」」
バーの扉付近には呆れて溜息を吐く美貌の将軍がいた。
言ってはなんだがこんな場末の酒飲み場には相応しくない高貴オブ高貴な方だ。
愛の日に受け取る花は老若男女問わず、モテランキングの殿堂入りを果たしたカリスマ閣下である。
「いえ、その……閣下のお耳に入れる程のことでは」
かくいう自分も彼の信者の一人だ。いや国民ならば誰にとっても彼の人はヒーローだ。違いない。
あまりにも下らない話を聞かせる訳にはいかないと回らない頭で言い繕おうと思考するも。
「彼女が女性にモテるという話です」
憮然とした面の筋肉の妖精さんによってぶち壊されてしまった。全くなんということをしてくれるのだでもその顔可愛いな上腕二頭筋がピクピク動いているのも非常にナイス。
「違う、私の彼氏が男にモテすぎるという話だ」
「おい、ちょ、おま」
自分が女性にモテるというのは非常に納得がいっていないので却下だ。彼と違って劣情を抱かれるなんてことも聞いたことも感じたこともない。
「ふふ、やはり卿ら付き合っていたのだな」
そういえば職場恋愛はよろしくないと自分達の関係は秘密だった。いや、閣下なら大丈夫だろう。口が固い方だし何より話が分かる。
しかし焦る彼の顔も可愛いな、焦って傾いたグラスから酒が飛び散って服が濡れてしまっているじゃないか。
ドジ可愛いが筋肉が透けて見えてしまうのは色々よろしくない。着ていたコートを脱いで掛けてやる。サイズは合わないが多少隠れるだろう。
「確かに紳士的でさぞ女に人気があることだろう」
「真面目な反面隙がある所にグッとくる男もいるということか」
「成る程、大変興味深い」
閣下は優雅に酒……ではなく水を飲みながら分析しているようだ。
目元を人差し指で叩く時は目の前の物を分析する閣下の癖だ。閣下ファンなら知らなければモグりと言われる基礎中の基礎情報。
しかしこうして間近で見れるとは感激の鼻血が出てしまいそうだ。
「……」
何故かコートが返却された。
その上守るように抱きすくめられた。解せぬ。
筋肉に抱き締められて嬉しいが、酒でオーバーヒートしている自分にとっては暑苦しい。
「心配せずとも、卿の恋人のソレはただの憧憬だ。白馬の王子を見るような……そう、正しくその人が巷の女から受けているものと同じだ」
成る程。
自分は女性から憧れられる立場にいるらしい。
まあこんな素敵な筋肉と会えるし閣下ともお近付きになれるし給料もいい。
確かに騎士とは能力さえあれば花形物件だ。
ああ、でもやはり私が騎士になれて一番良かったと思えることは。
彼と、会えたことだろうか。
「しかし、よく卿がそのような可愛いらしい恋人を見つけられたな」
「……幸運だったと自分でも思いますよ」
「その幸運を離さんようにな。そら、そんな面をしていては逃げてしまうぞ」
「 余計な御世話です」
「そして男が寄ってくるぞ」
「……」
「ふふふ」
彼女
実はお姉様と呼び慕ってくる後輩がいる。意外とミーハー。
彼氏
イメージはNINJA。初期案では寡黙キャラだったが一言目から設定が吹き飛んだ。
設定薄めの恋愛リハビリ。
3000文字で終わってしまう薄い内容でしたが、読者様に何か芽生えがあれば幸いです。
いらない所を削ろうとして何か削り過ぎてしまうような…いつか削りなしで出してみようかと思いつつ。
ここまで 読んで下さりありがとうございます。
ではまた別の物語で。