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Lv.50 ミクローシュ・アルジェント=エステルハージ

 慌ただしい週末を過ごした後、寮に戻ると寮内は週末の出来事について色々な話が飛び交っていた。正しいものも有り、間違ったものもあり、突拍子も無い、と笑い飛ばされていた話も有った。


 ……強ち間違っても居ないのだが、と独りほくそ笑み自室に戻る。


 やや暫くすると扉が叩かれ、私の側近……と言う名目の悪友、イクセル・グラナート=クロイツェルが訪ねて来た。控えていた侍従に可愛い甥っ子から貰った――強請ったとも言う――緑茶を用意させ、人払いをする。

 どうぞ、と勧めると一礼し、香り高い茶を一口飲み、私に向き直る。


「ミクローシュ様、週末は挨拶もそこそこに御前を辞去し、失礼致しました」

「イクス、人払いはしてある。私室では堅苦しいのは抜きに、と言ったろう? …其れで弟御は無事だったかい?」

 私がそう話を向けると、イクセルは照れた様に態度を崩した。

「ああ、騎士団や冒険者ギルドの対応が早かったからか、父の予想より遥かに早く解決してくれて。母も喜んでいた」

「それは良かった」

 にこりと微笑み、私も緑茶を飲み怒濤の三日間を振り返る。



 休みを控えた週末の雷竜曜日(トンドルォディマ)、鉱山で事故が起きたと言う連絡が入り、弟が其れに巻き込まれたイクセルは使者の指示に従い、学院を後にした。その後私にも使者が寄越され、王城へと向かう事となった。

 王城には国王陛下に嫁いだ姉、ソフィア・グレイス王后陛下が憔悴して待っていた。同行していた父は、陛下―――義兄上と重臣たちとの対策会議に出席する為、姉を私に託していった。


 姉と私は十歳以上年齢が離れており、一緒に育った記憶は実は無い。其れでも折に触れ可愛がってくれた記憶はあり、気付けば王族となっていた姉に対し、寂しい想いもした気がする。

 然し婚姻後も何呉と私を気遣い、可愛がってくれた姉と義兄―――両陛下には、感謝している。お陰で王城に幼い頃から出入りしていた事で、貴重な書物や芸術に触れる事が出来たし、裏の世界(権力に拘わる彼是)を知る事も出来た。将来父の後を嗣ぎ、侯爵となる身としては、早い内に権力や政治の裏側を見る事が出来たのは、悪くなかったと思う。

 尤もそう言えば、きっと甥っ子は私の事を腹黒いと言うのだろうな、と言うのは容易に想像出来る。可愛らしく頬を膨らませて。



 私には二人の甥が居るが、第一王子・クラウド殿下が今回、(くだん)の事故に巻き込まれた。

 本来なら未だ就学前の年齢なのだが、本人の希望と側近候補――否、あれは既に確定しているので側近で良いだろう――兼友人二人と同学年であれば、身分を隠していたいと言う甥っ子の希望に添えるだろうと一年繰り上がりの入学となった。その事が仇となってしまった訳だ。


 甥が入学したのは、表向きは貴族向けの王立学校である。表向き、と言うのは入学の対象が貴族に留まらず、庶民にも門戸が開かれているからだ。

 今現在入学している八割は貴族の子弟だが、残り二割は富裕な庶民となっている。尤もその庶民の殆どは、貴族と縁続き―――つまり親兄弟に貴族に嫁いだ者、又は迎えた者が居る訳だ。

 この王立学校は、甥が入学するに合わせて作られた新設校である。甥自身知らぬ事だが、実は運営に当たり出資金の一割から二割は甥の個人資産からなる。残りは父である国王陛下、他貴族の寄付による。

 僅か五歳の甥の個人資産で二割も賄えるのか、と言う疑問にはその程度ならば可能だろうと言える。何せ甥にはその自覚は……と言うか存在を知らされて無い様だが、王家の持つ広大な領地の内、第一子に与えられる領地に加え、暫定だが王位継承者としての領地、そして母方、つまり我がエステルハージ侯爵家より僅かばかりだが初孫へ移譲された領地(王太子領と隣接している土地を入手し、譲った)を所有しているので、固定収入がある。其れに加え、どうやら細々と発明品を作っては特許を取ったり、商品化をしたりして収入を得ているらしく、結構な財産持ちなのだ。

 近い将来、領地経営について学ぶ日が来るだろうが、その時自分の持つ資産に嘸かし驚くだろうと思うと、笑いが止まらない。


 そんな学校だが、実はこの学校こそ初めての試みで創られた全寮制の初等学校でもある。中等科以上ならば半数以上は常設されている寮制度を、初等科に設け自立を促した。父母と離れて暮らす子弟は元々多いので、寮生活で孤独に苛まれる問題は少ないと思うが、自身を世話する者たち―――侍女や従僕が居なければ靴紐を結ぶ事はおろか、シャツも満足に着られない貴族の子弟が、僅かな使用人の数に堪えられるかどうか。自立と成長を見守るだけだ。


 今までも貴族・庶民拘わらず万民に向けた初等教育を施す学校があるが、貴族の子弟の教育は、家庭教師が主だ。

 私も十歳になるまでは、家庭教師が付けられていた。十歳以降は人脈を求めて初等学校とは行かないまでも、小さな集団で教育を続け、十二歳で中等教育を受ける為、今の学院に入学する事となった。


 この『小さな集団クラインプリヴァチェラ』だが、私たち貴族の子弟の場合は多くても十人程。各子息の館を持ち回りで行うか、一番爵位の高い子息の館で行うか、様々だ。

 剣術や体術、その他二人組で行う諸々の人数合わせの為、偶数になる事が多い。そしてより優秀な教師を雇う事が重要だ。


 翻って貴族以外、商人や職人等の子弟の場合、初等学校に通うよりも、働いたり見習いとして修業する者が多かった。

 然しその働き先、修行先で充分で無いにしろ、教育は受けている。簡単な読み書きと少しの計算。此れ等は支払われるべき賃金に不正が無いか確認するもので、多くの場合は自分の名前が書ける程度だった。

 十二歳になって、より上を目指す者は士官学校や魔法学園、総合学院を選ぶ。そうでない場合は神殿や孤児院、有志の家などが学びの場であり、そういった場所では幼い者から成人間際の若者、様々な年齢の人間が学んでいた。


 慣習として、十三歳からは貴族も庶民も自立する為の準備を始めるが、内容は様々だ。学問を修めたい者や魔法を究めたい者、私の様に継嗣として学びたい者は、其々専門の学舎(まなびや)が有るし、何かの職に就きたいのならば、親方に弟子入りして技術を学ぶと言う者も居る。

 其れ等の前段階として、基礎を学ぶ初等学校が出来たが、始めの内は就学率は惨憺たるものだった。

 貴族や富裕層は自宅での個人授業が有効と言われていたし、庶民の間では―――特に貧しい者は幼くとも一端の稼ぎ手であった為、『役に立たない』学問よりも、明日の食い扶持が重要だったからだ。


 そんなバラバラだった教育を、義務と言う形で始めたのは、他国での成果が有っての事。初めは手探りで始めた初等教育。懸念は多かったが、一つづつ問題を改善したものの、やはり意識を根底から変えさせるのは中々困難で、其処を僅か二年で庶民の識字率を向上させ、就学率も上げたのは甥の功績である。

 正直な事を言えば、未だに庶民に教育は無駄、余計な知恵を付けさせるな、と言う意見は出る。だが他国の、特に大国と呼ばれ革新的な政を行っている国の実情を知れば声は小さくなる。


 優風国(ウィンディア)西六邦聖帝国(ヘスペリア)は、庶民の識字率が六割を越えている。その為か庶出の文官や士官は多く、有能だ。

 貴族だけでなく、庶民も政に関わる為、不正が抑えられているのだ。と言うか、仕官する程有能な庶民は、国に対しての意識が非常に高く、またそう言う意識の者を選んでいるので、不正が起きにくくなっている。

 不正に関しては全く無い訳では無いし、この先増えないとも限らないが、現段階では先ず先ずと言った所だ。

 そう言った他国の事情が明らかになれば、当然自国でも、の流れになる。


 就学率が格段に上がったのは、甥っ子が提案した給食制度による。

 一日の食事に困る家も、子供が学校に通いさえすれば子供の昼食の心配は無い。それどころか、確かに収入は減るかも知れないが、通学する事で支給される家族の人数分の麺麭は、幼い子が働いて手にする賃金よりも余程足しになる。

 幾ら働き手と言っても、幼い内は限度があるし、賃金も内容に見合いごく僅か。其れでも働かせねば暮らしていけない貧しい家庭にとって、確実に一家族の一食分と本人の昼食分が学校に行きさえすれば手に入るのだ。行かせない話は無い。

 其れに、所謂穀潰しの親への対策として、学校に一定時間――昼を含めて五時間ほど――居なければ支給は無い。途中で抜けて他所で働かせる事は出来ない様になっている。

 大人なら兎も角、子供の稼ぎなどたかが知れている。

 支給される麺麭分の賃金を得る為に拘束される時間と比べれば、学校に行った方が明らかに率が良い。真面な親なら学校に通わせる方が良いと気付くし、学校が終わってからも日が暮れるまでは時間がある。家の手伝いをする時間は充分に有るし、お使い程度の仕事なら出来なく無い。

 その結果が就学率の向上だ。表立って甥の功績だと発表されていないが、叔父として鼻が高い。言わないが。



 イクセルとの情報交換で得たのは、甥っ子が事故当時、何をしていたかだ。

 私からは極秘と前置きして、騎士団や冒険者ギルド、その他鉱山関係者の情報を伝え――勿論公にして良い部分だけだ。後日(つまび)らかにされるが、予め此の程度なら話しても構わないと言われた部分を伝えた――、イクセルからは弟―――ザハリアーシュの視点からの話を。

 生憎と甥っ子・クラウド殿下の視点は聞けず終いだったので、大変興味深かった。何せ救出されるや直ぐに昏倒し、ほぼ一昼夜昏々と眠り続けて、目が覚めたのは私が城を辞去する直前である。詳しい話など聞き様が無い。

 ヤーデ将軍の孫、ルフトとブラウシュタイン侯爵の嫡子、ラインハルトからも話は聞いたが、視点は多い程おもし……多い程興味深い。二人からとはまた違う話が聞けた。


「ふうん? 其れはまた、ギルドの方も問題が有るかな? 幾ら簡単と思っていたからと言って、結果的に子供達を危険に曝す真似をした訳だしね」


 ギルドからの護衛が昇格試験を兼ねてだと聞かされてはいたが、現場での護衛の態度を聞き、顔を顰める。イクセルも憤慨しているのか、腕を組み背凭れに寄り掛かり大きく頷く。

「其れについては弟も怒っていた。だが結果論だとも言っていたよ。ギルドだってまさか竜が出るとは思わなかったろうし、鉱山の見学の護衛なんて、一ツ星や二ツ星くらいしか請けないだろうってさ。全く、もう少し狼狽えるなりして、子供らしくても良いと思うんだがなぁ!」

 肩を竦めるイクセルに、此方も苦笑する。


 決して不出来では無い、寧ろ優秀なイクセルだが弟は輪を掛けて優秀だ。

 嫉妬するなと言う方が無理だが、とは言え可愛くない訳では無い。どちらかと言えば可愛がっている方であり、私も甥っ子を嫉妬半分可愛さ半分で見ているので、気持ちは判る。


 私の苦笑に気付いたのか、イクセルが違う話を向けてきた。

「そう言えば、救助に加わった冒険者が、(ザハ)の級友と取り残された話はしたろう?」

「ああ、それで騎士団と冒険者の混成救助隊が組まれた筈だよ」

「…その冒険者の特徴が、白髪の大男だって言うんだけど……」

「……けど?」

「………」

 何か言いたげに此方を見詰めるイクセルだが、私としても何を聞き出したいのか判らないので、問われるのをじっと待つ。


 さて、何を知りたいのやら。


 白髪の大男の正体? 其れなら簡単に答えられる。稀代の冒険者、七ツ星グウィン・レパードだ。

 ザハリアーシュの級友がどうなったか? 無事助け出され、親元に帰っているよ?

 教えられない事は一つだ。その級友が私の甥であり、第一王子であると言う事。ばれているかも知れないが、私からは教えない、此れが最低の譲れない所だ。


 無言で待っていると、イクセルの方が音を上げた。


「…ザハが心配しているんだよ、その白髪の冒険者と友人が無事救出されたのか、怪我は無いのかって。ミクロスなら知っているだろう?」

「何故『私なら』かはさておき、二人とも無事ではあるよ。但し冒険者の方は、故意に取り残される状態を作った、と言う事と、救助に貢献した事を相殺出来るか鑑みて、騎士団預かりになっているみたいだね」

 私の答えにイクセルが頷く。

「冒険者の方は父からも聞いた。…変わった人らしいな」

「常識は敢えて無視するらしいよ? …まぁ七ツ星なんて最高位の冒険者だ、変わり者でもなければ務まらないんじゃ無いのかな?」

「! やっぱり、隻眼の白豹か! 今度機会が有ったら紹介して貰えるか?」

 目を輝かせるイクセルは、どうやら七ツ星の冒険者に興味津々の様だ。其れはそうだろう、何せ若くして伝説と言わしめた冒険者だ。彼の冒険譚に心躍らせない男は居ない。


 斯く言う私も彼に興味は有る。


 甥を……と言うより、関係者の殆どを煙に巻ける人種には、興味以上に親近感がわく。是非とも秘訣を教わりたい。


 だがイクセルまで影響されたら、折角の癒しが無くなる。彼は私の黒さを知りつつ付き合ってくれる、甥と同様に貴重な存在なのだ。なので一応忠告として変わり者だと(先程と同じ言葉を)伝えると、今更何を、とばかりに呆れられた。


「其れを言ったらミクロスも充分変わり者だろうね」

「脈々と続く貴族なんて、変わり者でも無ければやっていけないんじゃ無いかな。…イクスも私と付き合える時点で充分変わり者だよね」

「其れは否定しないが、ミクロスの悪影響の結果だと思う」


 大袈裟に溜め息を吐いたイクセルが、「ところで」と話を変えた。

「もう直に夏期休暇だけど、ミクロスは予定を立てたか?」

 予想外に話が飛んで、答えに詰まる。

「…何時も通り、かな? 夏の館(サマーハウス)に避暑に行って、誘いが有れば社交の付き合いと領地の勉強?」


 未成年であるが故に社交と言っても大したものでは無い。母に連れられ茶会に出席か、近隣の別荘に呼ばれるか。

 二~三年前ならいざ知らず、今は遠出で無ければ保護者の付き添い無しで出掛ける事が出来る。遠出も成人した年長者が付き添うならば、血縁は関係無いので問題は無い。


 イクセルが何処かに行こうと誘うので有れば、行くのは吝かで無いが、何を改まって言うのだろうと不思議に思う。

 疑問と期待が入り交じり、イクセルの言葉を待つ。


「其れなら何日か我が家のサマーハウスに滞在しないか? 弟も喜ぶし両親も歓迎する」

「其れは嬉しい申し出だが、迷惑では? 第一避暑地が同じとは限らないだろう?」

「同じだろう? 去年避暑地の商店街でバッタリ会ったじゃ無いか」

 言われてみればそうだった、と思い出す。

「お互い多少は自由が利く歳になった訳だし、どうかな?」

「……父に確認してみるよ」

 唐突ともそうでも無いとも取れる提案だが、未だ父の保護下である以上、父の判断が必要なのでそう言うと、イクセルが何か企んだ顔つきになった。

「金髪に青灰色の瞳の友人をザハが気にしていてね? 避暑地に呼べないものかと相談されたんだが、どう思う?」

「……どうと言われても? 年齢的に保護者が居なければ難しいんじゃ無いかな?」

「やっぱりそうか」

 さて、この話はどう転がるのか。期待して待つ。

 しかし続く言葉は思ってもいない場所に転がった。

「関係無い話だけど、ミクロスは最近第一王子殿下とはお会いしていないのか? 以前は良く王城に出向いていたと思うが」

「……殿下も今年から忙しいからね、遠慮しているんだ」

「その割に公式行事にはお出でにならない様だけど? ああ、いや光竜曜日の行事には出られているか」

 孤児院の慰問や神殿や各ギルドの視察等、甥の休日に合わせて予定を立てる為、どうしても光竜曜日に偏ってしまう。然程多くは無いので捌けるが、平日の行事にはどうしても不参加となる。


 其れにしても何故こんなに話が飛ぶのか。

 隻眼の白豹(グウィン・レパード)から始まり、サマーハウスの誘い、甥の事。

 イクセルの不自然な話題が、どう転がって纏まるのか。何となく予想がついてきた。


「第一王子殿下の公務については、父からも聞いている。神殿の視察では、国王陛下譲りの金髪が陽に映えて輝き、賢そうな落ち着いた青灰色の瞳が王妃様を思わせるとか。…まるで誰かの友人の様な容姿だね?」

「ソウカナー? ソウカモネー?」

「……棒読み過ぎるよ……」

 ガクリと肩を落とすイクセルに、フフと笑う。

「まぁ殿下の夏の御予定は、御公務でお忙しいと聞いている。ただ昨年は王后陛下の御懐妊で、王家の方々は避暑地には行かられず、王都で夏を過ごした。今年は若しかすると避暑地に行かれるかも知れないね」

 その時帯同する騎士の中には家族連れの、ザハリアーシュと同年齢の子供が居るかも、等と嘯くとイクセルも頷いた。

「では避暑地の散策時に、偶然ザハの同級生と出逢っても、何ら可笑しくは無いね?」

「其れは勿論。私達だって、そうだったしね」

「出掛けた先で偶然出逢って、其のまま一緒に遊ぶのは友人なら当たり前だしね」

「避暑地でまで王都の慣習を煩くは言わないと思うよ」

 二人揃ってニコリと笑う。

 半ば化かし合いの態を擁しているが、こればかりは仕方無い。嫡子としての教育が出来ている、と言う事だ。


 王都では貴族の子弟の外出は結構制限がある。

 先ず五歳以下は、そもそも領地から出る事は無い。

 王都に居を構えている場合、両親の何方か及び乳母・侍女・護衛にガチガチに固められた上での外出となる。とは言え其れは高位貴族の場合だ。男爵や騎士爵、一代貴族辺りは割と自由だと聞いている。

 六歳になって初の社交が、王城でのガーデンパーティー。それ以降は十歳までは制限があるものの、十歳以降は付添人さえいれば近所で有れば行き来できる。

 私自身大手を振って出歩ける様になったのは、今年中等科学校に入学してからだ。十三歳以降は付添人若しくは従者が居れば外出は自由となる。

 庶民の子等は、幼い内から自由に出歩けるのに――冒険者ギルドに子供向けの依頼が有るのは、その為だ。子供向けの簡単な依頼が有るお陰で、小銭稼ぎの一つになっている――貴族の子弟は不自由な事だ、と若干嘆かわしく思いつつも立場が違うから、と諦めてもいた。だが今年からは其れも解消され、授業の一環として冒険者登録も済ませたので、王都外への冒険も出来る様になった。

 いつか甥と冒険するのも楽しそうだ。


 多分あの子(クラウド)の事だ、上手に身分を暈した上で冒険者登録くらい出来るだろう。

 冒険者登録は、身分や出自を誤魔化せないとされているが、其れは全てを馬鹿正直に登録した場合。内容が正しければ、記入漏れが多少有った所で不都合は無い。それにギルドは犯罪歴の無い人間であれば、どんな身分であろうと冒険者登録は可能だ。

 以前ヘスペリアを訪問した際に、冒険者ギルド本部を訪ねたと聞いた。その時に冒険者に興味を抱いた様だから――帰国後に、騎士団と冒険者ギルドとの連携を提案した事からも、其れは窺える――案外この夏にでも、子供向けのお使い依頼位は挑戦するかも知れない。


 そう考えると、愉しくなってきた。

 避暑地にもギルドの支部は在る事だし、それとなく勧めてみよう。


 私は甥が何をしでか……するか楽しみだし、恐らくザハリアーシュも甥が気になる様だから、避暑地で偶然出逢って(ヽヽヽヽヽヽ)仲良くなる切っ掛けになれば良いし。


 ―――と、暢気に考えていたのだが、その後驚いたのは、気難しくて他人の顔と名前を覚えない(覚える気が無い)と噂の隻眼の白豹が、どうやら甥を気に入ったらしい、と言う事。

 騎士団で連日鍛練をしている甥に、魔法や剣術を実地で教えているらしい、と聞いたのは夏休みに入る直前である。

 お陰で(と言うのも妙な話だが)先に避暑地に出掛けたイクセルから、連日問い合わせの手紙が届く。隻眼の白豹を紹介するのは吝かで無いが、さて、どう説明すれば良いのやら。そして私自身が彼に覚えて貰えるかどうか。


 白い書翰箋を前に、何と返事を書こうかと悩む事となった。




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