Lv.41
さて。俺の記憶が正しければ、鉱山の事故と言うのは何も問題が無ければ、救出には然程時間は掛からない。
ただ此れは問題が無ければ、の話であり、今回の様な大規模な坑道の崩落、落盤と言うのは結構時間がかかっていた筈だ。
勿論落盤事故の場合でも二十四時間内に救出される事も多々あるが、逆に一ヶ月以上かかってしまう、と言うのも良く有る話。その差は規模に因るんだろう。
結果は最良を望みたいが、経過は最悪を想定して行動した方が良いだろう。…何せ、竜が出たと言う話も有るし。
そんな事を思いつつ、ぐるぐると鍋を掻き回す。……うん、良い味だ。昆布が良い仕事をしている。
大鍋一杯に作った出汁を、厨房に有った容器に入れ直して次の準備。…芋が沢山有るから、マッシュポテトにでもするか。其のままでも良いし、サラダにも使えるし。コロッケとかグラタンにも出来るし。汎用性が高くて大変宜しい。
因みに此れ等の材料は、勿論俺の道具袋からだ。どうせ劣化しないから、と乾物や根菜類をガンガン詰め込んでいたのが役に立った。
正直な事を言えば焼菓子が未だ有るのだが、甘い菓子ばかりを渡して、兵糧が底を突いた時に粗食に耐えられないと困る、と言う理由で今出して有る分以上はギリギリまで隠す事にした。此の判断は強ち間違っていないと思うが、今の所は俺の指示に従ってくれている子供達が、今後の展開に因ってはどうかな? とも思うので、様子見だ。
尤も悲観はしていない。俺に反感があってもザックには従うだろうし、当のザックは俺と共闘(?)中だ。上手い事やってくれるだろう、多分。
食材の現地調達も視野に入れているが、そうなる前に救出されると良いんだが。
「……ボウヤ何をやっているの?」
「非常食作りです」
何故か眉間を指で揉みながらアンさんが訊ねるので、俺も正直に答える。…何故其処で首を振る。解せぬ。
「腹が減っては戦は出来ぬと言いましてね? 人間お腹が一杯なら不安は減るんですよ?」
「……其れは判るけど。…ハァ、こんな子供に諭されるなんて……」
どうやらアイデンティティと戦っているらしい。頑張れ、俺と関わる大人は八割がた此の洗礼を受けている。
此処で少々アンさん達の説明を。
俺達学園の生徒の護衛の依頼を受けたアンさん達一行。今捜索に出ているヤンさんとリンさんが一ツ星冒険者。アンさんが二ツ星。行方不明中のジンさんと、既に地上に戻っている二人――ダンとケンと言うらしい――が三ツ星。どうやらこの三ツ星冒険者達がアンさん達三人のランク昇格試験の判定員なのだそうだ。
冒険者ランクは、受けた依頼内容と回数に応じてポイントが貯まるが、一定ポイントが貯まると昇格試験が有り、認められればランクが上がる。
何故一ツ星と二ツ星の昇格試験が同じ依頼なのかと言えば、チェックポイントが違うらしい。確認するポイントが違うので、同じ依頼でも判定員側からすると、内容は全く違うそうだ。
其れでまぁ、ジンさんとリンさんが同じ村出身で、ジンさんとアンさんが冒険者仲間? リンさんとヤンさんが同期。アンさんとリンさんが冒険者仲間、らしい。
ダンさんとケンさんはジンさんの仲間だけど、ヤンさん達とは今回初めて会ったそうだ。
―――話を聞いて似た名前ばかりで混乱したのは秘密だ。
其れにしても。
「来ないなぁ……」
デュオ先生達が捜索に出てから、一時間以上経っている。
そう早くは見付からないだろうから、戻って来る事は期待していないが、何らかの連絡は有るんじゃないかと思っていたのだが。
連絡系の魔法って無いんだっけ……?
不安になってアンさんに訊いてみる。
「アンさん、デュオ先生達から何か連絡が来ていませんか? ホラ、仲間同士の特典で遠隔通話が可能な魔導具を持っているとか、スキルが有るとか」
「悪いけれど無いわ。其れに仲間と言っても、先刻ジンの捜索に出る時、貴方達の先生をパーティーメンバーに組み込むのに、一時解散したから。有ったとしても使えないわ」
「そうですか……」
ショボンとする俺を決まり悪そうに見るアンさん。
まぁ碌な装備も無しに依頼を受けたのは問題だが、危険を伴う依頼では無かった筈なので、其れは仕方が無いか、と思う。ただ多分、試験官だと言う三人はそう言う魔導具を持っていたんでは無いかと思われる。担当者が迷子になった時とか非常事態用に。
其れでいて当の試験官が地上に戻っていたり行方不明だったりで、役立た……げふん。危機管理が機能していな……アレ何だろう、言い繕えない。
兎に角、アンさん達も不用意では有るが、其処まで気にする事でも無い。多分今回の試験は落ちるだろうが。と言うか試験自体が無かった事になると思う。仕切り直しだろう。
俺が非常食作りに勤しんでいる間に、脱出経路作りは粛々と進んで……いなかった。
やはり六歳児の集団で、体力も無ければ集中力も無い。疲れた身体に鞭打っても心が折れるだけだ。
そんな訳で炊き出し。
炊き出しと言っても、出汁に一寸乾燥茸と乾燥野菜を浮かべたシンプルな物だ。ただ疲れた身体に温かい汁物は身に滲みる様で。
「おいしい……」
一様にホッとした表情になっていた。
「変わった味のスープですのね」
「コンソメとはちがうな」
其処彼処で感想が呟かれるが、概ね好評だ。
だが全員とはいかず、俺に否定的な連中は飲み食いせずに固まって、不満を言ってるみたいだ。
余り不満ばかり言う様なら、言えない様にするか。
別に拳に訴えるつもりは無い。
仕事もしないで嘆き合うだけだから不満が出るのであって、其れなら何かさせれば良いだけだ。見た所一人が愚痴っているのを、周りが頷いているだけなので、其の『一人』を離せば良い。俺だと反感が募るだけなので、ザックにでも預けよう。
そう思ってザックを探すと、どうやら向こうも俺に用が有ったらしい。目が合ったら近付いて来た。
「クラウド、其処の者たちだが、……どうする?」
案の定ザックの用件は、固まって不満を言っているグループについてだった。
別に俺だけだったら気にしないが、固まって不満を募らされて周囲の雰囲気が悪くなるのも、引き摺られて人数が増加するのも不味い。
「ザックの方で上手く使ってくれないか? 俺だと反発するだろ、多分」
「引き受けるのは構わないが、恐らく使えないぞ、彼等は。使える者は端から腐らない」
デスヨネー、って結構辛辣だな。
だがザックも彼等を放置して雰囲気が悪化するより、自分の監視下で動かす事を承知してくれたので、後は丸投げにする事にした。本当にザックは優秀だ。…マジで六歳なのか?
本当の所、体力を温存させる為に何もしないで待っていても良いのだが、其れだと悪い考えになりがちで不安が増大するだけだと思う。先程の連中が良い例だ。不安と不満の矛先を俺に向けて、精神安定を図っている。
そんな中で、小手先の作業でも何かしていれば気休めになるし、『自分が救出作業の一端を担った』事は自信にも自尊心にも響くだろう。
取り敢えず不安要素は心配無くなったので、次の心配事。
瓦礫に埋もれた出入口の僅かな隙間、デュオ先生達が通り抜けられる大きさ、と言う事は子供なら余裕の空間と言う事で。一人づつ脱出する事も考えたのだが、外と言うか室外がどうなっているのか判らないので、様子見だ。
大丈夫と思いたいのだが、幾ら子供の軽い体重でも何度も荷重が掛かれば、崩れないとも限らない。魔法で強化すると言う手も有るのだが、崩れない様に固定強化したら、穴を広げようとした時に困る。
さてどうしたものかと頭を捻ったが、上手い事浮かばないので一旦放置。
俺が今一番心配しているのは、飲み水と空気である。
今の所ライフラインは機能しているが、何時何時使えなくなるかは判らない。但し水と空気以外は動力が魔石なので、いざとなれば俺が魔石に魔力を補充しても良い。補充の仕方はディランさんや長老に散々教わった。
明かりに関しては心配はしていない。今使っている照明は魔石が動力だから何とか出来るだろうし、『灯火』の魔法は初級中の初級だ。少なくとも生徒全員が使えるので、交代で使えば魔力切れも起こさない。
肝心の水と空気だが、水は今の所厨房の水道が生きている。
蛇口を捻れば水が出る、と言うのは魔法でも何でも無く、水圧のお陰なので水源が確保されていれば大丈夫、の筈。活栓を閉められたら不味いとは思うが、防災上の理由なら致し方無いし。
その時は魔法で水を作っても良いんだが……。飲めなくは無いんだが……あんまり旨くないのでオススメしない。
魔法で作れる水は、二種類。精霊に協力して貰う分を含めると三種かな?
一つは空気中や地中、身近に含まれる水分を集めて水の塊にする方法。此れはそんなに不味くない。但し身近に有る水分量によって、出来る量が変わる。後は場所によって味が変わる。見た目は変わらないのだが、味とか臭いが結構……。精霊が協力してくれるのは、此方にあたるのかな? 味は格段に良いらしい。俺は試した事無いけど、そう言う魔導師が居た。多分精霊が集めた水分を浄化しているんじゃ無いだろうか。
もう一つは、水分を集めるのでは無く、作ってしまう物。
何が違うかと言うと、前者は元々有った水を集めるもの。
地中は地下水が有るから、集めるイメージは湧き易いと思う。空気中の水分に関しては、雲や霧を想像して欲しい。百%の水分を含む空気に振動を与えると、衝撃で雨になると聞いた事が有るが、そんな感じ。
後者は水分では無く、分子レベルで水を作る、所謂H2O。
此れも元々有ったものと言えなくも無いんだが、水素と酸素の化合物が空気中に含まれる水分と同じかと訊かれたら、微妙だと思う。いや、同じだって意見は有るだろうけど、感覚的に。
何と言えば良いんだろう。
ミネラルウォーターの話をしている最中に、軟水と硬水なら軟水の方が出汁を取るのに向いてるよね、じゃあ珈琲は? と話したら、軟水が良いなら大学の研究室で作っている超純水で良いじゃん、と言われるみたいな……良く判らん? ゴメン、俺も良く判らない。
そう言えばこの話、学生時代の友人と話していた時に割り込んで来た奴が言ったんだった。
将来喫茶店をやると言っていた友人が、水出珈琲にするか、サイフォンかドリップかネルかフィルターかと議論して、使う水も水道水か天然水かと……懐かしい。
純水にすればと割り込んで来た奴は、その後友人に暫く無視されていた。話が噛み合わない奴と付き合うのは時間の無駄とか言っていたが、其れもどうかと思うぞ。今更こんな事を言うのも何だが。若気の至りにしておこう。北原、お前の事だ。
閑話休題。
話を戻すが、水は最悪魔法で作れる。そして空気だが、幸いな事に今の所ガスが出ていると言う話は無いので、当分の間心配は無い。
事務所を兼ねた管理室の連絡管と、壊れた昇降機から空気の流れが有る限りは窒息とかは無いだろう。
此処はやはり長時間閉じ込められた場合に、ガスが発生したり新たな崩落で空気の通り道が塞がれない事を祈るしか無い。
デュオ先生達がなかなか戻らない中で、俺が出来る事と言えば地上との連絡と、子供達への配慮だろうか。
一応パニックにならない様に、作業をさせて気を逸らせたり、いっその事眠らせたりとかした訳だが。お陰で目に見える不満は無い――居なくも無いがザックに任せた――し、俺もそろそろ炊き出しは止めて、前線と言うかこの場合は瓦礫撤去の先陣を切るべきか。
そんな事を考えている間に、地上からまた連絡。
騎士団や魔導師団が鉱山に到着し、冒険者も続々と鉱山入りしているそうだ。此れで漸く救助活動が進む。
…と思ったのだが、竜が出没した関係ですんなりとはいかないらしい。
瓦礫で埋まった昇降機は、足の踏み場が無い上に壁が脆くて危険らしい。冒険者なら大丈夫かと思ったが、意外と深いんだそうな。そうかいな。
で。各坑道の入口から枝分かれした坑道の、崩れていない場所からある程度まで近付いて、其れから瓦礫の撤去作業をしつつ此方への侵入経路を探るとか。
結構手間隙かけて救出経路を探っている。此方も迷惑にならない様に頑張ろう。
ところで俺の持っているスキル、【探索】と【自動地図】だが、今の所全く以て役に立っていない。
【探索】は範囲が半径五メートルしか無いし、【自動地図】も一フロアの半分しか機能してくれない。
その内スキル上げしようなんて後回しにしないで、もう少しスキルレベルを上げておくんだった、と思っても後の祭り。…そう言えば青龍からの加護で使える様になる治癒魔法、アレも碌に使えない。まさかこんなに早く使いたくなる機会が有るとは思わないじゃん! 地上に戻ったら、鍛練に組み込もう。
今からでも出来るのは【探索】かな。回数を重ねて行けば、少しはレベルも上がって探索範囲が広がる筈だ。
小声で呪文を唱えると、やはり半径五メートル以内しか情報が出て来ない。
【地図】を覚えたのは、多分二歳頃だと思うが、覚えたてのスキルに興味津々で直ぐに呪文を唱えたのを覚えている。その時はいきなり目の前に地図が出て驚いた。視界に半透明の平面図が出て、初めは何かと思ったんだが、良く見れば見覚えの有る配置で、城の地図かと思い当たった。
その後の訓練とレベル上げで、【探索】と【自動地図】が使える様になって、其処で止めてしまった。当座は必要無いと思ったのと、ぶっちゃけ王子様教育と平行してやるには何かを諦めなければならなくて、俺が選んだのが剣だった、と言う事だ。
其れについて後悔はしていないが、もう少しレベルを上げても良かったとは思う。まさか六歳にもならない内に冒険者スキルが必要になるとは思ってもいなかった。
取り敢えず、少しでもレベルが上がる事を期待し、【探索】を続ける事にした。幸いと言って良いのか、スキルレベルに対して俺の魔力の方が多いので、魔力切れの心配は未だ無い。呪文を唱えて少しづつではあるが、表示時間が長くなって行くのが判り面白い。
目の前に現れる地図に変化が出るのを待っていると、何回目かの挑戦で探索範囲が広がった。
壁際に立つと、地図が昇降機前の広間のギリギリ手前を映したので、もう少し頑張れば昇降機まで届くんでは無いだろうか。俄然遣る気が出る。
正直に言う。
俺一人なら脱出は簡単だ、と思う。あと二~三人程度なら、連れて行ける。
だが全員は無理だ。大人もいるし。(そう言えばガイドのオッチャンは気絶したままだが大丈夫だろうか)
全員を救出するにはやはり外部からの協力が不可欠で、俺達も一丸となる必要が有る。
一応俺が考えた案は、昇降機を利用する方法。本体では無く鋼条の方。
ヘンドリクセン先生の話だと、壁やら何やらが脆くて崩れやすいそうだが、壁を強化・固定して崩れない様にすれば何とかなる気がする。
鋼条に籠なり装着帯なりを取り付ければ、引き上げは簡単だと思う。
だが俺が思い付く様な事を他人が考えない事は無い訳で。実行していないと言う事は、当然問題が有ると言う事だ。
うむむ、と考えながら瓦礫を退かしていると、ライがそっと近付き、素朴な疑問を口に出した。
「クラウド、何で岩をちまちま補強したり退かしたりしているの? クラウドなら魔法で地上までの穴が掘れるでしょう?」
「…ああ、それムリ。弾かれる」
「ん……? あ、結界?」
俺の応えに不思議そうな顔をしたが、どうやら気が付いたらしい。
魔法を使えば一発で解決、とならないのには理由が有る。
先程から瓦礫を退かしたり補強したりしているが、此れは既に崩れているものだから出来るのだ。そして崩れている物が無くならなければ、発破系の魔法は使えない。そう言う術式が鉱山には組み込まれている。
此れは鉱山で無闇と掘り過ぎない様にする為の措置で、山全体を覆う形で術式が組まれている。掘り過ぎないと言うのは、勿論落盤を防ぐ為だ。案内書には書いていないが、以前父と鉱山の視察に行った時に教わった。
先に説明した通り、切り出し作業は魔法で行われ、鉱夫達の手によりある程度の大きさの岩と貴石とに分けられる。この切り出し作業で縦横無尽に魔法で穴をあけたら、立ち所に事故が起きてしまう。其れを防ぐ為に、坑道は一定の傾斜以上で穴をあけ様とすると、魔法が解除される様になっている。
其れに実を言えば鉱石、と言うか宝石はパワーストーンと言うだけ有って、魔法との親和性・伝導性が非常に高い。魔法陣を組み込んだ護符や魔除け等が、上質な宝石で有れば有る程向いているのはその為だ。
魔力の影響を受け易い鉱脈の近くで、不必要な魔力を流したらどうなるか。発破系は火属性の魔法と相場は決まっている。―――本当は一概には言えないのだが、此処は敢えて一般論。
火属性の魔法に触れた鉱脈は、火属性に影響される。大体生活魔法は火属性が多いので、困る事は無いのだが、やはり其ればかりになるのは頂けない。
そんな訳で魔法による切り出し作業は、最小限の影響となる様に計算されているのだ。
俺が問答無用で横穴をあけたとする。其処までは良い。だが地上まで延々と緩やかな勾配で横穴をあけ続けるには、相当の魔力が必要だし、同時に崩れない様に補強もしなければならないとなると一人では無理だ。
今いるメンバーで考えると、ライとザックが有力候補で次点でサシャとラーク、フェリシティー嬢だろうか。
横方向でも其れだけ手間が掛かると言うのに、縦方向、つまり地上への脱出経路を作るのは、結界が邪魔をする。無理に穴をあけるとなれば、上下左右全方向に注意を向けないと更なる崩落が起こるかも知れないし、最悪穴があくどころか、床も天井も壁も崩れる危険が有る。
仮定でも無理をさせるかもしれないとなると、やはり此処は大人しく救助を待つ方が良い。
折角俺を信じて捜索に出たデュオ先生にも、地上で見守っているヘンドリクセン先生にも、勝手な事をやらかしては申し訳が立たない。
―――だがせめてデュオ先生が戻れば、情報が共有出来れば、一歩踏み込む事が出来るのでは無いか? そう、思う。
もうこう言う非常事態で、遠慮はしていられない。…王子だと言うのは未だバレたくないが、遠慮遺憾無く頑張らせて貰いたい。体力以外は隠して無いし。て言うか体力以外は無理に隠そうとしなくても、結構気にされないと言うのが判った。
良く考えれば、幾ら貴族で資質が高くても、突き詰めれば未だ子供で、目先にぶら下がっている目立つ事しか気にならない訳で。百点までしか無い試験で満点を取れば、そりゃあ凄いと思われるだろうが、他にも居れば凄さは減る。仮令二百点取れる実力が有っても、百点までしか無ければ結果は同じな訳だ。
勉強なんて試験の結果で位しか目に見える指標は無い。普段の言動で判る様になるのは、少なくとも二~三年先だ。だから目に見えて判る運動と言うか体力方面を隠していたが、非常時にそんな事も言ってられない。
デュオ先生が戻ったら、遠慮無くやらせて貰う。
多分だが、冒険者の中ではデュオ先生が一番ランクが上だ。自分では三ツ星とか言ってたが、実力自体は四ツ星位有るんじゃ無かろうか。
其の割に探索やら何やらが余り使えないと言うのは、……脳筋、なんだろうな。
デュオ先生が戻れば、此の場所での責任者はデュオ先生になる。様子を見に行きたいと言ったら反対はされるだろうが、竜が出たと言う情報を知れば、そうも言っていられないと許可するだろう。何せ最近の先生方の俺の扱いが雑だ。
―――そんな事を考えてデュオ先生が戻るのを待っていた俺が、ヤンさんが離脱符を使ったせいで捜索隊一行が地上に戻ってしまった、と知らされるのはもう少し先の話。




