Lv.34
はぁ~っ、とタメ息一つ。
ただ今絶賛寛ぎ中である。
何処で、と言われれば温泉……と言いたい所だが、正解は城の俺の私室のバルコニー。
天気も良いので大きめの盥を持ち込み、朝から水を張って待つ事二時間暫し。日向水が出来た所で湯を追加して、即席露天風呂にしてみた。
後から魔法で水を温かくすりゃ良いんじゃネ? と気が付いたが、こう言う風に、まったり時間を使うのも良いだろう、と思い直した。
燦々と陽射しが降り注ぐ中、ぱちゃぱちゃと湯に漬かって疲れを癒す。
一日中負荷付きで動いていたからか、久し振りに筋肉痛になった。治癒魔法で治せば? と言われそうだが、身体の出来上がっていない俺が筋肉痛で魔法なんぞ使ったら、副作用が出る。主に背が伸びないとか筋肉が付かないとか背が伸びないとか背が伸びないとか……うん、一応気にしているんだ。しつこくてゴメン。
まぁそんな訳なので沐浴で疲れを癒してマス。
「あぁうぅ~」
「何だ? 水鉄砲、面白いか?」
指を組んでお湯をピュッと飛ばすと、楽しいのかキャッキャと笑う弟。
露天風呂+弟=俺の癒し。
うん、完璧だ。
朝イチで風呂の用意をしていた俺に、デューが沐浴する時間を教えてくれたのはマーシャである。普段寮生活で弟との触れ合いが少なくて不満だったので、早速乳母に連絡して一緒に沐浴する事にした。
勿論安全の為、傍には乳母と侍女、護衛まで付いている。五歳幼児と乳幼児二人きりで沐浴等危険過ぎる。
そんな訳で皆に見守られる中、俺はデューと遊んでいた。
因みに格好だが、裸では無い。
物心、と言うか記憶が戻って以来、幼児でいる事と、幼児らしい振る舞いをする事には納得していたのだが、どうにも成人男子としての変な羞恥心が残っていたのか、女性の前で下半身を曝すのが途轍も無く恥ずかしい。
なので下着と言うか、体操服のズボンを穿いての入浴……てかもうプールだな、うん。
盥の縁に背中を預けて、伸ばした脚の間に弟を座らせる。うっかり倒れて溺れない様に俺に寄り掛からせて遊ぶ。水鉄砲でキャッキャと喜び、タオルを湯に浸けてブクブクと泡を出せば不思議そうに見つめ。
俺の弟、超可愛い。
可愛くて何時までも構いたい。妹だったら溺愛し過ぎて嫌われるレベルかも知れない。
弟でも溺愛し過ぎだと言われそうだが、一応教育は確りするつもりだからね?
前世の弟とは歳が離れて居たから、可愛いとは思ったが照れ臭さもあってあんまり構ってやらなかった。一回り近く離れてたんだ、仕方無いと思う。それに道場で扱かれてた真っ最中で、構う気力も無かったとも言えた。
その分可愛いと思ってるのかも知れないが、可愛いは正義と言うし。出来るだけ構いつつ、嫌われない程度に厳しく接し、立派な王子様に育てたい。…育てるのは俺じゃないけど。気分、気分。
運動会だが、あの後は特に厭がらせも揉め事も無く(有るには有ったが別件である)、順調に終わった。
午後二つ目の競技は百メートル。続いてムカデ競争、四百メートルリレー。
良く考えなくても午後の競技はダンス以外、俺は出突っ張りで結構忙しかった。
百メートルは再びギデオンと対決し、余裕で一着。だけど次の走者のライがまさかの転倒で、何とか頑張ったものの三位だった。
ムカデ競争に関しては……練習が足りなかったのか、転ける転ける。ただ其れは他の班も同様で、焦れば焦る程転倒する悪循環。
そんな中で一位になったのは、唯一初めから慎重に一歩一歩進んでいたマリウスのチームだった。俺は二位。
そして最終の四百メートルリレー。第一走者はルフト、続いてサシャ、レイフ、ライの順でアンカーが俺。
最初に差をつけてから、足の遅いサシャが落ち着いて走れる様にして、多少順位が下がっても、俺の前にライが居れば差は縮むだろうと思っての順番だ。
嬉しい誤算だったのは、サシャがかなり頑張った事。最初に訓練を始めた時、下手をしたら最下位まで落ちるかな、と思わせる走りをするサシャだったが、訓練を続けている内にかなり速くなり、本番では五人に抜かされたものの六位をキープしてくれた。レイフも同様。抜く事は出来なかったが、距離を縮めてくれたので続くライが団子状に走る先頭集団をごぼう抜き。キャー、と女の子達の歓声が上がった所で俺にバトンタッチ。
バトンタッチとは言うものの、実際は襷である。襷を受け取りそのまま一着でゴールした。
そしてザックとの勝負だが、途中経過から判る様に俺の勝ちであった。…ただ有耶無耶の内にザックとの勝負が無かった事と言うか、俺の勝ちで良いじゃん、みたいな雰囲気になっていた。校外活動の研究発表はどうすんだ。
何だかんだで楽しい運動会だったが、問題が有ったのは閉会間際。予てから懸念していた通り、ライの護符の効果が切れた。
いきなりライの銀髪が艶を放ち虹色に煌めいた所で、慌てて頭からタオルを被せて其れを隠し、ルフトにライを任せて俺は大会本部にすっ飛んで行くと、預けてあった護符を受け取り、全速力で戻った。多分一瞬の出来事だったんじゃ無いかと思う。
突然の事にポカーンとするクラスメイト達に愛想笑いで誤魔化し、閉会式に臨んだのは最早良い思い出と言って良いのかどうなのか。
余談ではあるが閉会直後、俺の全力疾走を見たデュオ先生から呼び出された。
手を抜いた云々を蒸し返されるのも厭だったので、先手必勝。例のトトカルチョの件を持ち出して、焦る胴元から約束通り六割取り上げ、嘆いた所でそっと俺の道具袋からジュースと焼菓子を差し出した。一学年分と教職員分。
「デュオ先生からの差し入れと言う事で、皆に配って下さい、ね?」
その代わり、もう二度と生徒でトトカルチョすんな、と釘を刺したら滂沱の涙で頷かれた。
「俺の顔を立ててくれるのかっ?! ク、クラウド~ッ!!」
ガバと抱き付かれそうだったので、あっさり躱してその場を辞した。
百人分以上の飲物と焼菓子を俺が何処から手に入れたとか、気にしなかった所がデュオ先生らしいと思うと同時に、どう運ぶのかな~、と少しだけ心配したが、帰りがけに無事配られたので先生も道具袋を持っていたんだろう。多分。
とまぁそんな感じで終わった運動会、教室で解散してから寮に戻って荷物を纏め、待ち合わせていたマーシャ達と城に戻った。何時もは一人なので最短コースを走って帰るのだが、マーシャ達が一緒なので大人しく徒歩で。ちゃんと辻馬車にも乗って。乗り合いなのに乗客の八割が知り合いと言う……。一緒に乗り合わせてしまった乗客は、車内の妙な雰囲気――護衛が醸し出す緊張感とか、運動会の後の高揚感なんか――に戸惑って居たっぽいので、何だか済まんかった、と思う。
城に戻って体を洗って着替えたら、体力の限界だったらしい。そのまま珍しく寝てしまい、朝まで起きる事は無かった。そのせいで、筋肉痛になったとも言える。何時もは就寝前にもストレッチをして体を解しているから、本当に筋肉痛とは御無沙汰だ。
ボンヤリしていたら、デューが御機嫌斜めになっていた。あー、遊んでやるのが疎かになっていたか。
パンパンと小さな掌で水面を叩いて抗議らしきものをしていたが、段々楽しくなってきたのか笑いだした。
「きゃわー、あにゃあにゃ」
「そうか楽しいか。じゃあ良いもの見せてやるからこっち見て~」
「うぅ?」
キョトンとするデューの目の前に、握った手を見せる。そのままゆっくり拳を開くと、其処から大小の水滴が浮かび上がる。
ゆっくりとふよふよと浮かぶ水滴を、少しずつ寄せて大きな水球にすると、デューの目が大きく見開かれた。そのまま水球を上下左右に動かし、デューの傍に寄せれば、不思議そうに水球に手を伸ばしてその中に入れて動かした。
そこで水球を壊しても良かったのだが、吃驚して泣かれても困るので、暫くそのまま好きに触らせる。
手を動かす度にふよんふよんと水球が不特定に動くのが面白いのか、夢中になっていたが、そろそろ頃合いだろう。激しく手を動かした所を見計らって、パンと弾けさせた。
いきなり水球が弾けて吃驚して固まった弟だが、弾けた水滴がシャワーの様にキラキラと降り注いだのを見て、大喜びしてくれた。
良かった、これで泣かれたら此方がトラウマだ。
「あにゅーえ、あにゅーえ、しゅー、しゅー!」
俺を見上げて笑うデューが、興奮しながら喃語を叫んだが……。
ゑ、ナニコレ、俺の聞き間違いか、気のせいか?
恐る恐る乳母の顔を見る。
すると俺の疑問を予想していたのか、乳母はにっこりと笑って言った。
「デュー殿下におかれましては、最近盛んにお喋りされる様になりまして……未だ仰られる言葉は判りませんが、殿下にとっては意味の在る言葉でしょう。クラウド殿下はどう思われましたか?」
「……兄上、凄いと言われた気がします」
「うぅ?」
ボーッとデューを見つめると、不思議そうに見つめ返された。
じわじわと嬉しさが込み上げる。
「凄い!! 俺の事、判るのか? もう一回、言ってみろ? 兄上でもにーにでも良いぞ?」
ギュッと抱き締め頬擦りしてから、デューに強請る。偶然でも何でも、兄と認識され呼ばれるのは嬉しい。
「にうにう? まんまー」
「違う、にーに」
「ふえ……」
「あ、こら泣くな。にーにが悪かった、これ見て機嫌直せ、な?」
強制しようとしたのが悪かったのか、愚図り始めた弟に慌てて御機嫌取りをする。もう一度先程と同じ様に水滴から水球を作り――もっと大きいものだが――弾けさせて虹を作れば、直ぐに興味を示し、笑い始めた。
それから暫く、デューが呟く度に一喜一憂する俺が居たのだった。
さて、そんな可愛い弟との触れ合いも終わり、午後早々。俺が今居るのは馬場である。相棒は勿論、青馬のエドヴァルド。例の、俺を気に入り主人(仮)とした馬だ。
名前は半分俺が付けた。
フィルかルドルフ、オグリと迷ったが、オグリは芦毛だしルドルフだとトナカイを彷彿とさせるし、フィルではフィルさんが居るのだ、悪いし気まずい、と悩んでいる内に何となく喋る馬のエドを思い出して、エドが良いと言ったら叔父上が正式名エドヴァルドと登録した。
叔父的に馬に『狼』と付けたくは無かった様で、『幸福の守護者』となった。それも結構御大層と思うのだが、大型で堂々とした風格だけはある馬なので、守護者と付けたくなる気持ちは判らないでも無い。
学校に通い始めてから余り、と言うか殆ど馬場に姿を見せなかったので、忘れられているかと思ったがそんな事は全く無かった。
久し振りに馬場に顔を出した俺に真っ先に気が付いたのはフィルさん。
「クラウド殿下、此方にお見えになるとは珍しいですね。そうそう、昨日はお疲れで御座いました。ゆっくりと御休みになられましたか?」
「はい、お陰様で。フィルさんも応援有り難う御座いました」
会釈して答えれば用件を訊かれたので、久し振りに乗馬をしに来たと言うと、其れでは、と馬場に案内された。
この時はエドの事は全く考えておらず、騎士達と訓練したり自由に駆け回る馬を見ていた。一通り馬の様子を見て、厩舎に行こうか、と思った所で騒ぎが起こった。
「何事だ! 殿下がいらっしゃられているのに何を騒いでいる!!」
馬を驚かさない様に静かに怒るフィルさんだが、騒ぎの現場は奥の馬房。飼い葉が散らばり、柵が壊されている。何事が起きたのかと目を剥くと、馬丁の一人が慌てて説明してくれた。
「フィル様、エドヴァルドが……」
言うや否や俺の背後から蹄の音が響き、振り返る間も無く頭に衝撃。
「エドヴァルドッ!!」
「で、殿下っ!!」
焦りまくるフィルさんや馬丁達を余所に、もっしゃもっしゃと俺の髪の毛はエドに食まれる羽目になった。
どうやら俺が馬場に来た事にいち早く気付き、馬房を壊……脱け出しグルリと厩舎を回って馬場に行こうとして、俺が厩舎に向かった事に気付いて追い掛けてきた様だった。
散々馬丁や当直の騎士に謝られたが、馬のやる事だし気にするな、とは言ったが、流石に簡単に柵が壊される様では管理が杜撰だと言われても仕方無いので、その辺はしっかりしろと釘を刺した。
俺個人としては笑って済ませられる事案だったのだが、仮にも王族が逃げた馬に襲われて、何も罰が無いのでは外聞を憚ると言うか沽券に関わると言うか何と言うか。要はシモジモに示しがつかないと言う訳で、キチンと報告書を作成の後、管理体制を見直し二度と起こさない事を約束させた。
特にフィルさんは以前エドに振り切られて俺を一時行方不明にさせた経緯が有るので、一部の人間から厳しい目で見られている。これ以上の失態は出来ないし、罰も与えられないとあっては更に厳しい目で見られる。この辺が落とし所だろう。王族って面倒臭いのな。
そして今現在。
馬場をゆっくりと常歩で回る。
ゆらゆら前後に揺られていると眠くなるが、頑張って起きる。落馬したらまた大事になるし、エドには色々言いたい事もある。
「…だからな、暫く相手をしなかったのは悪かった。だけど俺も不在の間にやる事が溜まって、そっちも片付けなけりゃならないんだ、仕方無いだろう?」
俺の言葉にブルルと嘶くが、何で俺は彼女に浮気を疑われた様な言い訳を、馬に対してしているんだろう? 然もコイツ牡だし。
訥々と諭していると、急に駈足になった。グン、と身体が後ろに傾いだが直ぐに体勢を立て直す。
大型のエドに合う鞍は特注品で、通常は叔父――サーペンタイン隊長――が使っている。俺はその鞍に更に子供用の鞍――チャイルドシートと思って良い――を取り付けているので、振り落とされたりする心配は先ず無いのだが、其れでも急な行動には反応し辛い。落とされない様に確り手綱を握り、前を確認すると障害コースが見えた。…ってオイ!
「わーっ!! 莫迦バカ! 大人用のコースなんて危ないだろッ?! お前は余裕かも知れないが、俺に余裕は無いぞッ!!」
焦る俺を無視して、エドは障害を一つ越え――――コースから逸れると、再び常歩に戻る。
必死に鞍と手綱にしがみついていたので、振り落とされると言う事は無かったが、心臓がかなりヤバい。バクバク言ってる。
それでも――――うん、障害を飛び越えた時の爽快感とか、満足度とか。馬との一体感なんかが普段の鍛練とはまた違った充実感が有った。
ポクポクと歩くエドの首を軽く叩きながら、話し掛ける。
「なぁ、俺は今学校に行ってて、お前に時間が取れなかったのは済まないと思ってる。けどお前だって普段は叔父上の世話になっているんだろう? 少しは我慢してくれよ」
俺の言葉に不機嫌そうに鼻を鳴らす。然し俺だってそう毎回頭を食まれても困る。
どう宥めれば良いのやら、と考えたが何故今回わざわざ馬場まで来たのかを思い出し、初心に戻る事にした。
取り敢えず乗馬を思い切り楽しみ、世話も確りと熟す。此れしか無い。
学校に行く様になってからの俺の日課は、朝は早起きしてライ達と軽く体操、それから城まで走って訓練所で剣の鍛練。その後学校に戻って授業を受けたら、放課後は日が暮れる迄は体を鍛えて、その後は勉強。主に魔法と宿題。聞いただけだとギッシリ詰め込んでいるみたいだが、実はそうでもない。
ちょこちょこと休憩もとっているし、遊びながらやっている面もあるので然程苦痛でも無い。何より自分から努力して上を目指したいと言っての転生、然も努力すればしただけ結果が出るとなれば、努力のし甲斐もある。
そんな中で昨日の運動会の真っ最中、俺に齎された玄武からの情報。
馬と話せるか、と訊かれ真っ先に思ったのはエドの事だ。生憎懐かれてはいるが話した事は無い。そもそも馬と話す事が出来るのか、と言う疑問は俺のスキルを見直したら無いとは言えなくなった。
初めて乗馬に挑戦した時に取得したスキル、【ふれあい! 動物王国】は【語学堪能】のスキルと合わせて動物と話せる様になると言うものだった。
スキルを取得してから、やたらと小鳥に懐かれる様になり、会話は出来ないものの俺の言葉は理解している様で……実際、エドに話し掛けると命令を良く聞いてくれるし、不満が有れば抗議と言う名の毛繕いを始める。勿論俺が厭がるからだ。
折角玄武情報で馬と会話が出来れば良い事が有る(かも知れない)と判ったのだ、スキルレベルを上げない手は無い。
【語学堪能】については、此の世界の共通語の他に、魔法語と古代言語を堪能に話せれば良いのだろうか。
基本此の世界、共通語さえ話せればどの国に行っても問題無い。だが一応現地の言葉も有るので、誰もが二ヶ国語は話せる。勿論外国とは縁の無い人間は別だ。どの国も王都に近い地域程共通語で話し、地方に行けば行く程現地語となる。
隣接する国が多い東大陸等は、国境沿いの地域では三ヶ国・四ヶ国語は当たり前だと言う。
だとすれば東大陸の言葉も覚えるべきだろう。エーデルシュタインが宝石の一大産出国の為、各国からの取引や外交も有る。共通語で問題無いとはいえ、相手国の言葉を話せれば好印象を与えられる。
馬と話すと言う目的が、外国語を習う事に繋がるのだから不思議なものである。
後は【ふれあい! 動物王国】のレベル上げだが、何時の間にか結構上がっていた。多分小鳥達のお陰だと思う。自然とレベルが上がる様だが、積極的に動物と関われば、猶良いと思う。
暫くエドの相手をして馬場を回り、常歩・速足・駈足・襲歩と順に練習していると、馬術のスキルレベルが面白い様に上がる。一応フィルさんに付いて貰って指示に従いながら、悪い所を直しているので、初めて乗馬をした時に比べたら上達はかなり早いと思う。
ある程度気の済むまで馬を走らせてから、厩舎に戻って早速馬の手入れ。
ブラッシングをして序でにマッサージ。大型のエドの世話はかなり大変だが、俺にブラッシングされて気持ち良さそうにしているので頑張れる。
五歳児の身体で馬の世話は大変だが、踏み台を使ったり魔法を活用したりで色々頑張ってみた。
一寸頑張り過ぎて、馬丁に「私共の仕事を奪う気ですか」と言われて目が覚めた。頑張り過ぎも良くない。
馬房の柵は修理されていたので、世話をして直ぐに戻す事も出来たのだが、心配そうに見ている馬丁が気の毒だったので、至らぬ所も有るが世話の続きを、と言ってエドを引き渡した。
途端にホッとした顔になった馬丁が、お世辞であろうが俺の手際を誉めてくれた。俺の小さな身体では不十分だった場所をブラッシングしながらエドの体調を確認している間に、俺も飼い葉桶に餌を入れたり水を用意したりと頑張って一通り終わってから部屋に戻る。勿論エドが馬房に戻るのを確認してからだ。
正直頑張り過ぎて更に筋肉痛が追加されたが、今回はストレッチしたりマッサージ等やったので翌日に響く事は無い、と思う。
毎日、は無理なので時間の取れる時は出来るだけ馬場に顔を出す事にしようと思う。顔だけでなく、世話が出来る時はなるべく世話をし、話し掛ける。そうすればエドも少しは満足するだろうし、少しずつでも世話をしていく内に話せる様になるかも、と言う期待もある。
馬と話す事でどんな良い事が起こるのか、起こらないのか。やってみなければ判らないので、頑張ってみよう、と思う。
……ただ、無理に頑張ろうと思って行う事より、無意識に頑張ってる事の方が続くんだよな。
俺の場合、体を鍛える事、魔法を学ぶ事。其れ等は好きでやっているので、頑張っている気がしない。適度に手を抜いている時も有るし。
好きこそ物の上手なれ、で乗馬も好きだから続けられると思う。今まで時間の遣り繰りが下手だったから、城に戻っても乗馬に時間を割けなかった訳だし。つい優先順位で剣術とか弟とか魔法や食生活に行ってたが、以前の様に週に何回と決めて乗馬に充てれば問題無いだろう。
で。俺はこの時気付いていなかったのだが、【語学堪能】スキル、実はレベルが無かった。初めからカンスト状態。後で調べて判った事だが、他の言語スキルの複合型スキルで、取得は難しいが得られればそれだけで語学学習が容易になるそうだ。
俺の場合、ベースとなる日本語の他に、異世界共通語が理解出来た時に取得したのだが、他のスキルの取得のし易さから見て、何らかのチートが発動したのでは無いかと疑っている。怪しいのは【水の杜の客人】と言う加護なので、いつかラディンに逢うなり、四神の誰かしらに遭ったら訊いてみたいと思う。




