Lv.28
「…ここで精霊による魔法と魔術師たちが編み出した魔術に違いが表れます。使用する魔法が高度である程、力の強い精霊の協力が必要となり、魔術であれば本人の……」
魔法授業の座学である。
必要最低限の知識を教える、と言う名目で行われているのだが、何と言うか……子供相手にしては専門的な気がする。理解が追い付かないのでは? と言う俺の危惧そのままに、教室内は半数以上が夢の国に旅立っていそうだ。まともに聞いているのは数人、他は飽きてこっそり遊んでいるか寝ているか。
俺は魔導師長に教えを受けていたので、この程度の話なら何とか理解出来る。復習になって良いな、と思うし、最近どうも伸び悩んでいるので、何か良い対策が浮かぶかも、と思って聞いている。身長では無い、魔法だ。
ただ、頭打ちと言う事は無い筈だ。俺のスキル、【限界無限】は限界レベルを更に越えて先へ行けるのだから、何か他の理由が有る筈だ。
それも有って、何かヒントは無いかな、と大人しく授業を受けているのだが……。
ヘンドリクセン先生は気付いている筈なのに、淡々と授業を続けていて、一人、また一人と脱落者が出る。
結果。恐らく最後の牙城で有っただろう、ザックが陥落した事により、先生は俺の目の前に立ち苦笑した。
「やれやれ手強いですね、クラウド氏は」
「あ、やっぱりわざとですか?」
「わざと、とは?」
「小難しい事を言って退屈させて、生徒を眠らせる……かな?」
俺の答に先生はニンマリと口角を上げる。
どうやら俺の答は正解だった様だ。正解でなくては俺も困る。何せ授業が始まる前、先生はわざとらしくも、「集中力を高める為に」と香を薫いた。それも有りかと思ったのだが、薫かれた香は甘く落ち着いた匂いで、おかしいな、と思っていたのだ。昼も過ぎお腹がくちくなった子供が、座って小難しい話を聞かされ、沈静効果の有りそうな香を嗅いで……寝るなと言う方が難しいと思う。
先生は誰も起きていないから、と言う理由で俺を教卓近くに呼び、向かい合って座る。
教卓の上には、先程まで子守唄代わりに読まれていた魔法書。表紙を見ると……。
「先生、何故初等教育課程の俺達に高等魔術書を読んでるんですか」
思わずジト目で睨むが、効果は無い様だ。愉しげに笑われてしまった。
「なに、眠らせる事が目的だからして。子供達が眠れる内容なら何でも良かったのですよ」
そう言ってヘンドリクセン先生は、ひょいと脇に在った本を取る。そちらは表紙に、『やさしいまほうのはなし~はじめてのせいれいまほう~』と書かれていた。…あからさまに子供向けの入門書、と言うより絵本の域だ。
見た事が無い本なので、頼んで見せてもらう。パラパラと流し読みだが、見る限り子供向けに易しく書かれた入門書だ。精霊魔法、と謳ってある様に火水風土の属性について判りやすく説明されていて、初めてでも無理無く理解できる内容だと思う。
――――そう思って本を閉じて返そうとしたら。
『【精霊魔法】の基礎を習得しました。新たな魔法を習得することが可能になりました』
ピコーンと何時ものアレだ。だがその内容に「ん?」と思う。
説明をよくよく読んでみれば、どうも俺は精霊魔法に関して基礎が出来ていなかったらしい。そのせいで魔法知識や技術が片寄っていたらしく、中途半端に精霊魔法を理解したつもりでいたが為に、ここ最近伸び悩んでいた、と言う事だ。
確かに魔法陣を構築するのに、時々詰まっていたりした。基礎が出来ていなかったなら、そりゃ当たり前だ。
良く考えれば、白虎から貰った魔導書。あれは初級魔法の組み合わせでも、効果の高い結果が得られる呪文が結構有った。基礎さえ押さえればある程度は何とかなる、と言う証左じゃ無いか。
初級魔法の頁に幾つか白紙が有ったが、あれはつまり俺のレベル云々より、基礎が無いから見せられない、と言う事か。
……白紙が有った時に気が付けよ、俺!
はぁ、と溜め息を吐いたが直ぐに思い直す。今回、精霊魔法の基礎を習得して新たな魔法を習得出来る様になった、と言う事は白紙の頁も読める様になったと言う事じゃ無いか?
うん、俄然気になる。
「先生、自習していて良いですか?」
片手を道具袋に触れながら訊ねると、快く了承された。
「では私は予定通り読み聞かせでもしますかねぇ」
先生はそう言うと、先程まで読んでいた高等魔術書――――ではなく、絵本の方を読み始めた。
ゆっくりと落ち着いた声で、何度も繰り返し読み聞かせる。その傍らで俺は静かに魔導書を読み耽る。
思っていた通り、幾つか落丁みたいに抜けていた頁が埋まっていた。それらは全て精霊魔法に関する物で、成る程、基礎は大切だな、と思い知らされる。
そう言えば俺が魔法の勉強を始めた頃は、独学だった。一応基本は押さたつもりだったが、読み飛ばしていたのかも知れない。
面白い様に吸収し蓄積される魔法の知識に、次々と本の内容を難しい物に変えていって……。長老に教わる頃は、とっくに上級魔導書に手を着けていたので、基礎が歯抜けだった事に気付かれなかったのだろう。
パラリパラリと頁を捲る俺と、先生の足音と本を読み上げる声。生徒は皆夢の中で……ああ、そうか。コレ睡眠学習だ。判りやすい内容を繰り返して、無意識下に記憶させる。
確か情報や知識は覚醒時には雑多な情報として脳に残り、そのままでは何れ忘れられる情報なのだが、眠る事により情報が整理され蓄積される、と聞いた事がある。勿論此れは前世知識で。それを利用したのが睡眠学習法だ。
実際は効果が無いとされたが、半覚醒状態で覚えた事を深い睡眠時に記憶させれば効果が期待出来るとか何とか。前世の俺が生きていた頃は、未だ明確な結論は出ていなかった様に思う。
俺が思うに、ヘンドリクセン先生は俺達生徒を意図的に眠らせて、睡眠学習を行っている。理由は推測でしかないが、俺達の年齢的に昼寝の時間が必要だと思ったのが一つ、魔法の基礎知識を繰り返し深層心理に叩き込む事に因って、土台となる基礎を習得させようとしているのでは無いか、と言うのがもう一つの理由だ。若しかして前世ではハッキリとした効果の結論が出ていなかった睡眠学習だが、この世界では確立された手法なのかな、と思う。効果的な香を薫いたり、読み手がそう言う意図を持っているなら、記憶に刻み込む、なんて魔法も有るのかも知れないし。…今度調べてみよう。
静かに時間が流れて、魔導書を読んでいた筈の俺も、何時しか意識がぐらつき気が付いたら眠っていた。
ヘンドリクセン先生恐るべし。
魔法学の授業が終わる頃、俺は爽やかな目覚めを迎えた。
周囲を見回すと、未だ殆どの生徒が夢の中だ。クン、と鼻を嗅ぐと、寝入り端に薫かれていた香とはまた違った香り。此れは多分寝過ぎ防止の為に、時間に合わせて自然に目が覚める様に薫いたんだな、と思う。寝落ちしていたが、香の効果か俺の睡眠のタイミングが合っていたのか、スッキリ爽やかな目覚めだった。
落ちる直前まで読んでいた魔導書の内容も、頭の中で整理され落ち着いている気がする。
取り敢えず欠伸一つしてから、伸びをしてみた。本の少し凝っているのか、ミシミシと軋む感じがしたので、軽くストレッチをして体を解す。
そんな事をしている間に、次々と生徒が起き出した。ボンヤリした様子の子供が大半で、状況把握が出来ていないらしい。目が覚めたら部屋では無く、教室だった事に驚いているみたいだ。
「クラウド、起きてた?」
「いや、俺も寝てて、今起きたところ」
コッソリ訊ねるルフトに答えると、あからさまにホッとしていた。うんまぁお前真っ先に撃沈してたものな。
静かだった教室が騒めき始め、全員が起きた所でヘンドリクセン先生がパンと手を打ち鳴らした。
ハッと教卓に注目が集まったと同時に、先生が授業の終了を宣言する。そして引き続き、休憩を挟んでからの毎日行われている学級会。要は日々の問題点とか学校からの伝達事項とか、ちょっと学力に差が有る様なら補講とか。
今回は学校からの行事のお知らせだった。
結構目白押しと言うか、夏休み前に予定が立て続けに組まれている。
直近の予定は、運動会だ。
夏初月の最後の週。風待月、つまり雨期の前に日頃の成果、成長を家族に見せよう、と言う……勿論発案者は俺だ。だって小学校の楽しみと言ったら、運動会と遠足だろう? 開校前に学校行事を色々考え、コレは入れといてくれ、と頼んだものだ。
入学してから約半年、子供の成長を見るには良い機会だと思う。…つい先日、一週間休みがあったがそれはノーカンで。
後は学習発表会。…って何だ?
配られたプリントで確認すると、どうやら某かの研究をしてそれを発表すると言う事らしいが……文化祭みたいなものかな? 初級学校の内は必要無いと思って特に推して居なかったんだが、若しかすると中級学校や上級学校での行事を取り入れたのかも知れない。一年生しか居ないのに、学習発表も何も無いと思うんだが、これも子供の成長を見るって事かな? これは俺も経験が無い事だし、行き当たりばったりの試行錯誤で良いか。
その他では夏休み直前に基礎テスト、二回ほど地域学習見学。行先は市場と鉱山。…鉱山は以前父と行った事が有る。同じ場所だと顔が知られていて不味いだろうか? それとももう二年前の事だし、顔なんか忘れているか?
まぁ我が国の鉱山は数え切れない程有るし、学校から日帰りで行ける距離なら高が知れているだろう。気にする事も無いか。
関係無くも無い話だが、実はこの世界、移動手段は結構多彩だ。長距離なら転移門、海や川は船が有り、空は飛空船か飛龍。陸上は個人なら徒歩か馬か竜や魔獣に単騎で、集団なら箱形の乗り物を馬達に繋げて移動する。所謂馬車だが、定員は結構多い。二十人くらいは余裕で運べる上に、魔石を組み込む事に因って軽量化され、更に定員が増えている。多分一学年丸々運ぶのも余裕だろう。収容する箱が有れば、であるが。
一クラス位は魔石が無くても余裕なので、見学には馬車を使う事になるだろう。
ヘスペリアで皇都と王都を往き来するのに使った馬車は、四輪箱馬車で辻馬車より少し小さめだった。だからこそ盗賊に襲われ掛けたのだが、小さめとはいえそれでも結構な大きさはある。大人四人が定員でも馭者は含まれないし、無理矢理詰めれば八人はいける気がする。て言うか実際俺と父の乗っていた馬車以外はもう少し大型で、十人程は乗っていたと思う。護衛は馬だったし。だから随行者全員での移動でも三台の馬車で済んだ訳だ。
多頭立ての馬車なら、八人どころか大型の車輌が使えるので一台で済んだだろう。使わなかったのは単に空きが無かったのと、やはり貴族がすし詰め状態で馬車に乗るのは外聞が悪いと思ったからだ。要は優雅に見えない。面倒臭いよな、貴族って。
他に目ぼしい予定は無いかとプリントを確認していると、プリントに影が射した。顔を上げるとシールとラークである。後ろには苦笑したザック。
「おい、クラウド! お前みたいななまいきなヤツ、ほんとうは声もかけたくないんだけどな!」
「しかたなくだぞ! しかたなく声をかけてやってるんだからな!」
…何だコイツら、どんなツンデレだ。ちょっと可愛いと思っちゃったじゃないか、このお坊っちゃまどもめ。…ほら見ろ、後ろでザックが頭を抱えている。
先日の落とし穴の一件以来、面白いくらい二人の態度は激変した。
ザックに釘を刺されたのも勿論有るんだろうが、俺が反撃したのも堪えたんだろう。基本お坊っちゃまだからな。
逆らわないと思っていた相手に逆らわれたのだ、普通なら面白くなく更に虐めって言うか風当たり? が強くなるんだろうが、釘を刺された上、此方の方が実力が上だ。どうにもならない。素直に歩み寄るのも出来ないし、ついこの態度になるんだろうなぁ……。
ついニマニマしてしまう頬を引き締め、何の用かと訊ねる。すると二人ではなく、後ろにいたザックが前に出て話し始めた。
「クラウド、君と正々堂々勝負すると言う話だが、今の所自分は君に勝っていない。違うか?」
「……負けてもいないんじゃ無いか?」
これは本当。
何せザックは非常に優秀だ。それこそどんなチートだよ、と言う位には。
俺みたいに前世補正が有るなら兎も角、優秀過ぎてちょっと吃驚。単純な小テストならお互い満点で勝敗がつかなかったりする。
あ、因みにライもかなりチートだ。彼も俺並みに努力すれば結果が身に付くみたいだ。そう言うスキルじゃ無くて、本当に努力の結果で知力体力その他諸々上昇系スキルを得て、そうなったらしい。
転生直前水の杜の主が「努力を惜しまない人間は好きですよ」と言っていたが、この世界そのものがそう言う傾向らしい。努力すれば報われる……って素晴らしいな、おい。
ちょっと思考がずれたが、目の前のザックは俺の言葉には余り納得していない様だ。
「勉強は確かに表面上は差が有る様には見えないかも知れないが、運動は確実に君の方が上だろう。正直ルフトやラインハルトにも負けていると思う」
「…じゃあ一緒に朝の鍛練でもするか?」
「……いや、それは逆に足手まといだろうから止めておく。そうではなくてだな、その……」
俺の誘いに一瞬目を輝かせたが、首を振って断る。
言い澱むザックの次の言葉を待つと、焦れたのかラークが代わりに言った。
「今度ある運動会と学習発表会。それで勝負しよう!」
「どちらが父兄の評価が高いか、で比べるのはどうだろうか?」
ラークの言葉を引き継ぎ、ザックが提案する。
「俺は良いけど、発表会は班単位だろう? 評価は個人になるのか? それとも班か?」
「ああ、そうか……単純に評価は出来ないか……」
少し困った表情のザックだが、俺は、と言えば。
気分が高揚している。
楽しい、と言う気分がピッタリだ。
身分を問わない好敵手が欲しいと願った俺の――――
多分俺は満面の笑みを浮かべて居るんだろう。ザックが驚いた顔で俺を見詰めていた。
「良いよ、やろう。学習発表会が班単位なら、運動会も同じメンバーでやった方が良いよな? 人数はどうする? 三人? 班まるごとでやるか?」
矢継ぎ早に提案する俺を、戸惑いながら「良いのか?」と呟くザックだが、良いに決まっている。
別にルールは決めていなかったんだ。団体だろうが個人だろうが、勝負は勝負。それに団体の方が個人のレベルの違いで実力が均等に出来る……よな?
それに慢心するなと言われそうだが、『現在』でないとザックは俺に勝てないと思う。
体格的に俺の方が小さい今現在、運動能力は鍛練していた分俺の方が有利だが、体格で差が出る競技の場合はその限りでは無い。勉強に至ってはテストの結果を見るだけなら同等である。
勿論ザックは此れからも努力して実力を上げていくだろうが、限界が有る筈。翻って俺に限界は無い。将来に行けば行く程、実力に差が出てしまうと思うのだ。だからタイミングとしては今が丁度良い筈。
「学習発表会は班割で一クラス五班程度、って規定が有るみたいだな。だったらそれに合わせるか」
「では六人で?」
「…実力差を無くすって言うなら、成績で割り振るべきか?」
「「ザハリアーシュさまと同じ班が良い!」」
「…ソコは変えないから。コッチもライとルフトは決定だから、残り三人、だな」
ああでもないこうでもないと言い続け、結局は先生に頼る事となった。何せ埒が明かない。
ザックチームは人選に問題が無ければ、直ぐにメンバーは決まるだろう。問題は俺だ。何せクラスの半分はつい先日まで俺の事を平民だと莫迦にして蔑んでいた奴等だ。誘った所で乗ってこないだろう。
まぁその内の何人かは、俺の怒り様に驚いて、後ザックの対応を見て多少は態度を改めてくれたが、それとこれとは話が違うだろうし。
どうするか、と思いつつもなるようにしかならないな、と取り敢えず先生に頼る。
結果。
割と良い人選になったのは、何だ。運が良いのか、人徳かカッコ笑い。
ザックチームは運動も勉強も実力派揃いとなったらしい。
意外な、と言うか考えてみれば当たり前だが、シールとラークは結構成績が良かったらしい。そうでなくてはザックも側に居る事を許さなかっただろうしな。
俺の方は運動が突出しているのでそれのハンデとなるべく人物を選出したら、何とレイフとサシャだった。何と言うミラクル。仲の良い相手で良かった。
残る一人も順当に決まるかに思えたのだが……発表会のメンバーと同じにするとなると、一班に一人は必ず女の子を入れなければならなかったらしい。
一応成績とか鑑みて誘ったが、恥ずかしいとか言って断られた。男ばっかりの班だからかと思ったんだが、どう考えても女の子二人以上の班なんてそう幾つも作れない。だから断られたって事は、やっぱり俺のせいかな? ザックの方は割合すんなり決まったみたいだし。ちょっと凹む。
それでも候補の何人かに聞いてみたら、一人引き受けてくれた。聞いたらレイフの幼馴染みらしい。何かホンワカ癒し系で、可愛いと思ったんだが、レイフの婚約者なんだと……けっ。お似合いだよ、爆発しろ。
「クラウドさま、よろしくお願いいたしますわね?」
「こちらこそ、宜しく。えーと、レティシア嬢?」
「どうぞレティとお呼びくださいませ」
にこにこほんわか。うん、癒し系だ。おっとりレイフとはお似合いかも知れない。
「悪いな、勝手に巻き込んでしまって」
「いいえ、レイフさまと同じ班になれましたもの、光栄ですわ」
「がんばろうね~、レティ」
「はい、レイフさま」
…二人の世界だな。仲善き事は美しき哉。善哉善哉……って、何だろう俺の周囲はバカップルホイホイでも有るのか。
ふと見ると俺以外は甘い雰囲気の二人をニコニコと見ている。何だ、羨む俺が悪いのか。ああ違う、単に恋愛と友情の線引きが甘いだけだ。子供だもんな。こんな時だけ前世年齢を持ち出す俺もどうかと思うが、勝手にやさぐれるよりは建設的になろう。
その後。
話し合いの結果、学習発表会の結果はやはり父兄の評価が高い方が勝ち。運動会は個人競技と団体競技が有るので、各々の成績をポイントにして合計した結果を比べる事にした。
一位なら五ポイント、二位なら四ポイント、と言った具合だ。
クラス対抗なので、団体戦は同じチームになる。だからポイントは均等に割り振る競技が多いだろうが、玉入れなんかは――すまん、運動会と言えばコレだ! と構想段階で捩じ込んだ。他は綱引きとリレー、ムカデ競争を行う予定だ――入れた玉の数でポイントを振れると思う。
何だかんだで細かい決め事も纏まり、じゃあ正々堂々とな、と握手して別れた。……のだが。
「な、クラウド良いだろ?」
「ダメです、聖職者が何を言っているんですか」
「いや、俺は神官じゃ無ェぞ?」
「教職に在る人間は聖職者なんです」
「いやいやいや、兎に角良いだろ? 稼がせてやるぞ?」
……デュオ先生である。あろう事か、俺とザックの勝負を知り――知った経緯は当然、メンバーを決める為に成績を確認しに行った事からだ――トトカルチョを持ち掛けてきた。確かに以前トリスティア先生のウッカリが何時バレるか、賭けに参加したがデュオ先生は何時もこんな事をしているんだろうか? と言うか、生徒に持ち掛けるなよ、と言いたい。
金銭が絡んでる訳じゃ無いから良いだろう? と言われたが、そう言う問題じゃ無い。
「六・四」
「え?」
「俺の取り分六で。負かりません」
「いや、そりゃ暴利だろ? 精々二・八だろ!」
「良いですよ、校長先生に言いましょうか? 生徒を賭けの対象にしようとしているって?」
「う~、じゃあ三では?」
「こーちょーせんせー、お話が~」
「四! お前が四だ‼」
「六で」
「五……」
「六」
「ご……ろ、六……」
「では確りと、今後とも御指導御鞭撻の程、宜しく御願い申し上げます」
にっこりと言ったら、泣かれた。良い大人が情け無い。
別に俺は暴利を貪りたかったのでは無く、単に生徒で賭け事は止めて欲しいと思って言っただけだ。だから無茶な配分を言ったのに……受けちゃうんだもんなぁ。余程好きなのか、賭け事。
俺に話を振らず、勝手にやれば良いのに、とも思ったが言わないでおく。何時か気が付いた時に、どんな反応をするのか見ものである。
今回も職員や護衛などの学校関係者でトトカルチョを行う様だが、校長先生には話を通さない様だ。…拗ねるぞ?
理由としては当日は来賓や父兄の対応に追われて賭けどころでは無いだろう、との事だが、其処まで配慮するなら賭けそのものを止めたら良いのに、と思う。止めないのがデュオ先生なんだろうな……。
まぁ取り敢えず、勝つ為にもサシャとレイフを鍛えるか。