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Lv.01

 エーデルシュタイン王国。

 小さな島国ではあるが、世界でも有数の宝石の産地であり、加工・輸出をしている豊かな国である。風光明媚でも知られ、豊かな自然と穏やかな気候により、観光も盛んな国。

 そんな豊かな小国の待望の第一王子として生まれたのがこの俺、クラウド・アルマース=エーデルリヒトである。

 因みに『名前・家名=爵名』となっている。あと数年経つと、成人名も付けられ、人によっては真名と呼ばれる、魔法使いが秘する名を付けられる。何でも大きな力を使う魔法使いは、真名を捧げる事に拠って魔力を行使するそうな。逆に言うと、真名を持たないヤツは、大きな魔法は使えないらしい。成る程、良く判らん!

 前世と同じ名前になったのは、単なる偶然か作為的な物なのか、判別が付け辛いが愛着の有った名前なので良しとしよう。


 因みに前世の俺の名前、蔵人は母の趣味である。

 武道を嗜む一族のくせに、中身は夫婦揃ってオタクだった。親父は萌え豚でお袋は貴腐人だ。

 名前の由来は、某国民的RPGの主人公から。余計な情報だが、弟は英人(えいと)で、これも某国民的以下略。

 俺の名前を知った祖父は大層喜んだ。名前の由来を訊ねられ、咄嗟に祖父の名前、内蔵助から一文字貰った、と言う両親の言い訳を信じたからだ。まぁそのお陰か、祖父からは大層可愛がられ、厳しく躾られ修行させられたのも今となっては良い思い出だ。…多分。


 転生して、そのまま第二の人生を送るのかと思ったらそうでは無かった様で、俺の前世の記憶が蘇ったのは一歳になるかならずやの頃だった。

 恐らく転生して直ぐに記憶が蘇ったら逆に前世の記憶が邪魔をして、記憶の混乱は無かっただろうが、言葉の習得は遅くなったのでは無いだろうか。

 乳児期から膨大な量の異世界言語を浴びせられ、少しずつ脳内で言語の整理が行われたのだろう。記憶を取り戻した時、俺の中で言語に対する齟齬は一切無かった。そして自我も余り確立されていなかったからか、記憶の融合は恐ろしくスムーズだった。

 と言うか元々俺自身として転生したのだから、生まれ落ちた時から俺は俺だった訳なのだが。

 そう言えばその際、脳内に『【語学堪能】のスキルを得ました』と音声と共にフリップが流れた。真っ先に思ったのは、何のゲーム効果音だよ! だったが、これ以降何かスキルを得る度に流れる様になった。

 他人からそんな話は聞いた事が無いので、もしかするとラディン――俺の転生に干渉した人物――からのサービスなのかもしれない。


 さて、そんな俺の容姿はと言えば、毛先に行く程淡い金色に輝く髪は根元は金褐色で、父親と同じ色だった。瞳は青灰色で、此方は母親譲り。

 顔立ちは両親どちらにも似ていたが、何故か凡庸な雰囲気で、少々ガッカリされたらしい。何故あの美男美女から? と言う事だろう。

 だが待って欲しい。今の俺は三歳だが、自分の顔を見て思うのは、将来有望、と言う事だった。

 確かに見かけは凡庸だが、良く見れば両親に似ていると言われるだけ有って、造作の一つ一つは整っている。この顔は成長期の過ごし方次第で、幾らでも化ける、と俺の前世からの知識と経験が訴えている。

 それに、美形の顔を何種類も用意し合成すると、平均化されて普通の顔になると聞く。要はパーツと配置の問題だ。

 怠惰に過ごせば凡庸どころかボンクラだろうが、理知的にも精悍にもなれそうだ。そして俺は、これからの人生、努力すると誓ったのだ。ならば精進あるのみ。男に磨きをかけてやる。


 所で今俺は両親と共に神殿に来ている。

 産まれて三年、無事成長した事を報告する為だ。六歳の時にも同様に神殿を参詣するらしい。

 ねぇ、それ何て七五三? と訊きたくなった。…まぁ異世界でも子供の成長の無事を祈るのは変わらない、と言う事だろう。

 因みに生後七日の時にも訪れたらしい。その時に、名付けとスキルや加護の確認をするそうだ。

 当時俺の持つスキルの確認をした時は、結構な騒ぎになったそうだ。何せ今までに見た事も聞いた事も無いスキルだったからだ。

 謎のスキルに周囲は困惑したものの、流石は司祭長の年の功と言うべきか、彼の一声で騒ぎは収まった。

「殿下に与えられたスキルは、嘗て見た事の無いものでは有りますが、努力を惜しまず、知識を探求する、と言う意味が見て取れます。地位や身分に慢心する事無く、努力を怠らない人物とあらば、次代の王として素晴らしき才能かと存じます」

 もうね、こんな事言われたとなっちゃ努力有るのみだろ?

 この言葉が無かったら、俺は第二子以降男児が生まれたら、王位継承権を外される所だったらしいデス。要は役立たずそうなのはイラネって事だよね。

 あ、この継承権を外す発言は、両親が言った訳では無い。何処ぞの阿呆貴族たちだ。

 聞いた所に因ると、結婚して五年、子宝に恵まれなかった王妃の代わりに新たに側妃を宛がって、世継ぎを、と言う動きが有ったそうだ。まぁその側妃の父親が権力を握りたい、と言う構図だろう。両親は政略結婚だが相思相愛の鴛鴦夫婦だ。側妃を宛がった所で見向きもされないと思うんだが、欲の有る奴はそう思わないらしい。莫迦な話だ。

 この発言を聞いた、俺を溺愛し始めていた父は激怒して、ソイツ等に暫く出仕しなくて良いって言ったそうな。要は謹慎しろ、と。

 蒼くなって発言を撤回したらしいが、受け入れて貰えず、結局ソイツ等は王の不興を買った莫迦、と言う事で出世コースから外され、肩身の狭い思いをしている。はい、絶賛現在進行形なう。

 別に王位が欲しい訳じゃ無いが、最初から選択肢から外されるのは納得いかない。なので、この司祭長の言葉には感謝してもしきれない。未だこの神殿の最高責任者として在籍しているそうなので、出来る事なら礼の一つも言っておきたい。


 言いたいのだが。


「父上、司祭さまはお忙しいのでしょうか。先ほどからかなり待たされています」

「…そう()くな。もしかすると、また何やら珍しいスキルが有ったやも知れぬぞ?」

 父の言葉に一応頷き、引き下がる。…そう言う事なら、多分、新しいスキルの確認に時間が掛かっているのでは無く、今までに俺が入手したスキルの数に、時間が掛かっているのだろう、と思ったからだ。

 何だかんだで初スキルをゲットしてから現在まで、俺の入手スキルは30を超えている。…だって事有る毎にゲットするんだもん。しかも複合スキル(似た系統のスキルを合体させたもの。例えば『体力上昇』と『魔力上昇』『知力上昇』等上昇系スキル五つで『上昇効率(プラス)』など)も有ったりして、何だか(よわい)三歳にして凄いチート予備軍だな、と思う。

 取り敢えず待ち時間暇なので、護衛騎士たちに纏わりついて剣の稽古の真似事を強請ったり、母に甘えて父に妬きもちやかせてみたり。何と言うか護衛騎士の視線が生温かいぜ。

 そんなこんなで暫くして、漸く司祭長がやって来た。

「大変お待たせ致しました。御無礼お許し下され」

「構わぬ。今も王子の成長ぶりを楽しんでいた所。待たされたとは思わぬよ」

 二人の遣り取りの間に、俺は身嗜みを整える。ピシッと背筋を伸ばした所で、司祭長が此方を向いた。

「妃殿下も御機嫌麗しゅう存じます。王子殿下も、覚えてはおられぬでしょうが、三年前殿下の御名を付けさせて頂きました、この神殿の司祭長、セガールと申します。お見知り置きを」

「クラウド・アルマースです。ぼくの初参詣には大変お世話になったと、伺っています。その節は有り難うございました」

 一気に言うと、司祭長は目を丸くした後、笑い出した。

「これはこれは御丁寧に。殿下におかれましては健やかに利発に御成長なられたようで、一臣下として喜ばしく存じます」

「そうであろう? 王子は才気煥発、好奇心旺盛でな。其方が言った通り、なかなかに将来有望だ」

「その様ですな。幼くして此ほどのスキルを習得しているのも、頷けます」

 司祭長はそう言って、俺の持っているスキルの数と、種類を挙げていった。つらつら挙げられるスキルに、両親も護衛騎士も驚いている。

「御存知の通り、スキルはただ持っていれば良いと言う訳では御座いません。活用し、初めて意味を為します」

 更なる一層の努力と修練を、と言われ、俺は勿論「はい」と返事をした。


 その後型通りの儀式を行い、城に戻るか、と言う所で司祭長に呼び止められる。

「殿下の御名は私が付けたと言いましたが、実はそれは建て前で、実際は神託により下されたものです」

「それはどういう意味だ?」

 初耳らしく、父が聞き咎める。

「御存知の通りこの神殿はこの国の主祭殿として、信仰される全ての神や聖霊を祀っております。そして主祭神として祀られているのが、翠晶館の主様で、其方からの御神託で御座います」

 司祭長は其処まで言って、俺と目の高さを合わせるように跪き、手を握る。

「クラウド殿下、貴方様に神託で名前が下された時、何故と疑問に思いましたが、本日判りました。殿下の秘された加護、『水の杜の客人』に因り、神殿は何時でも殿下を歓迎致します。困った時は何なりと、この年寄りをお頼り下さいませ」

 そう言って握った手をそのまま額につける。

 あれ、この動作って何か意味が有った筈。戸惑って父を見上げると、頷かれた。


 わ か ん ね ぇ よ !!


 仕方無しに頷きかけ、コレじゃ司祭長が判らないので「頼む」と一言。顔を上げた所で微笑んでみた。

 中身は兎も角、見かけは幼児の無邪気な笑顔に、司祭長も笑顔を返してくれた。

 父を見上げると、微笑みながら頭を撫でられた。うん、間違ってはいないようだ。それにしても美形の微笑み、見慣れてきたが目が眩むな!

 その後、何故か神殿を出るまで司祭長と手を繋ぎながら歩き、別れ際には「次にお会いする時は、是非『爺』と呼んでくだされ」と言われた。

「…セガールじいさま?」

 首を傾げてそう言ってみたらば、物凄く喜ばれた。

 それはまぁ良いんだが、俺コレで三人目だぞ? 宰相と将軍にも、爺さんと呼べと強請られたんだが。俺もしかして爺さんキラーか?

 そう思った瞬間、馴染みの効果音と共に『【好々爺の親愛】の加護を得ました』と流れた。

 …いらねぇよ! と言い掛けたが、一応内容を確認する。

 読んで字の如く、爺さん婆さんからの親愛と協力を受けやすくなる、と言うモノだった……。うん、まぁ、アレだ。大臣とか貴族の当主とか、一応40代が多いが、実質権力を握っているのは、その父親、つまりは引退した爺さん共だったりするし。彼等の受けが良いって言うのは、ある意味強味かも知れない。

 でも何か、何だか、微妙だなー、と言う感は拭えない。そう思うのは俺だけでしょうか?


 それにしても、すっかり流していたが翠晶館の主ってアレだよな? 水の杜の客人って言ってたし。

 ラディン・ラル・ディーン=ラディン。

 神殿の主祭神に祀られてるって、やっぱり神じゃねぇか!

 あと、神託で決まったって、ラディンが俺の前世の名前をそのまま伝えただけじゃん! 思い切り作為的だったな!!


 納得いかないまま、馬車に揺られ城に戻った俺は、昼寝もそこそこにストレス発散の為、騎士団の訓練所にお邪魔し、素振り・打ち込み・走り込みをしたのだった。

 途中で将軍に見つかり、有無を言わさず執務室に連れ込まれ、お菓子とミルクをご馳走になり、昼寝をした。後で将軍の補佐官に礼を言われたが、何でも俺が寝ている間、将軍が大人しく執務室に籠もって書類を片付けてくれたお陰で、大分仕事が捗ったとの事。

 礼を言われる様な事では無い筈だが、爺ちゃんどれだけ仕事を溜め込んで居たんだよ……。補佐官の日頃の苦労が偲ばれるな。


 訓練所を後にした俺は、そのまま自分の部屋に戻り、侍女と遊んだり本を読んだりと充実した時間を過ごした。

 後で聞いた話によると、俺とおやつとお昼寝の時間を一緒に過ごしたと、将軍がわざわざ宰相を訪ねて自慢して、一触即発の状態だったそうだ。

 父が笑って教えてくれたが、何やってるんだよ、(ジジィ)どもは……。

 思わず頭が痛くなった俺は悪くないと思う。


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