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Lv.11

 驚くべき事が起きた。

 いや、予感はしていたし、ある意味当たり前っちゃあ当たり前の事なんだが、俺にとっては急な事だったので、驚天動地と言うか、青天の霹靂と言うか、兎に角驚いた。


 気が付いたら、弟が出来てましたー。


 …何で気が付かなかった、俺!!


 何か城が慌ただしいなー、とは思ってたんだよ! いきなり呼ばれて、緊張顔の父が「大丈夫だ」とか言ってて、何が大丈夫なのかポカーンとしてて。気が付いたら目の前に赤ん坊が差し出された。

「弟君です」

 ほーら、可愛いだろう~? と、メロメロな表情の父の顔と、目の前の赤ん坊の顔を見比べ、固まる事数秒。


「はあぁぁぁぁぁっ?」


 ―――叫んだ俺は悪くない。



 どうも俺が朝も早くから騎士団に入り浸り、魔法院に出掛け、作法やらダンスやら読み書き計算ほにゃららら、と忙しくしている間に、両親も忙しくって言うかリア充爆発しろな展開になっていたらしく。

 元々公務で忙しい両親とは食事時と、予め約束を取り付けてからの面会位しか顔を会わせられなかったし、俺が個人的に忙しくなってからは更にすれ違いが増えたし。

 父とはそれでも時々執務室を訪ねて色々話す事は有ったが、母は主に父のせいで朝から顔を合わせる事は多くは無かった。動ける時は王妃としての公務が忙しくて、俺と過ごす時間は余り無い。それでも一応毎日会ってくれて居たのだから、愛されてるなぁ、と思う。最近は会うのが減って、忙しいのかな、と思っていた。体型も然程変化が見られなかったし、まさか妊娠していたとは思いもしなかった。

 父は俺の事を溺愛しているが、母は更に溺愛しており、夜の営みはそれはもう……俺から言う事では無いので割愛するが、正直五年も子供が出来なかったのが可笑しいくらいの二人なのだ。

 それが第二子誕生ですって。然も王子様ですよ、奥様!

 …んー、これで俺に若し何か有ったとしても大丈夫だな。…と言う冗談は扨措き、弟の顔をじっと見る。

 …うん、美乳児だ。顔は皺くちゃだし未だ目も開いていないから何とも言えないが、多分将来美形。そうか。やっぱり美形は産まれた時から美形なんだな、フフフ……等とちょっと遠い目をしてみたり。

 あー、でも赤ん坊ってやっぱり可愛いわー。和む。

 俺が弟に和んでいたら、産婆代わりなのか神殿から派遣された治療師のお姉さんと侍女のメイアが、肩を震わせ俯いていた。あれ、俺そんなに笑いを堪えなきゃならない程みっともない顔してた? ちょっと落ち込むぞ。


 その後、俺は父と一緒に母を見舞い、疲労の色の濃い母は父に任せるとして、もう一度弟に会いに行った。…っても隣の部屋だが。

 …父よ、産後疲れてる母に無体をするなよ。言われなくても判るだろうけど。人目もあるし大丈夫だと思……あ、人目気にしないな、主に父。

 んー……まぁキス以上っつーか、ヤバそうになったらドクターストップが掛かるだろう、多分、うん。

 俺の内心の葛藤とか心配は放っておいて、今は弟だ。設えられた小さな寝台で眠る弟を、そっと覗きこむ。

 良く眠っていて、両手を確りと握り締めている。その小さな手に指を近付けると赤ん坊の習性で、俺の指を握り締めて放さない。把握反射ってヤツ。多分。結構力強いが、我慢出来ない程でも無いので放っておく。

 うん、可愛い。やっぱ赤ん坊って偉大だ。癒される。

 自分の事にかまけて弟に忘れられるのも嫌なので、適度に構おう。でも構い過ぎるのは良く無い。前世でも弟がいたし、祖父の構えていた道場で師範代みたいな事もやっていたから、子供の扱いには慣れている筈。

 それにしても、と、ふと思う。

 ラノベ何かだとこういう場合、産まれるのは妹じゃね? ツンデレの。でなきゃ双子の男女でさ、妹ツンデレ弟反抗期、みたいな?

 反抗期は構わないが、嫌われるのは勘弁なので、構いつつ甘やかし、良い兄貴でいる事に徹しよう。出来れば立ち位置としては、熱血主人公を脇で見守る優しく厳しい兄貴的なナニか。主人公は弟に任せて良い。俺は自分磨き……って言うとスイーツな人みたいなので、修行と言い直す。修行で忙しい。

 指を握らせたまま、反対の手で柔らかい頬をぷにぷにとつつく。やっぱり和む。

 余り弄り過ぎたら泣くかな、と思い程々で止めてはまたつつく、みたいな事をしていたら、付き添っていた治療師のお姉さんが、「抱いてみますか?」と言ってきた。

 産まれたばかりの嬰児を四歳児に抱かせる…だと……?


「抱きます」


 即答である。


 流石に立って抱くのは危ないので、座ってから渡してもらう。恐る恐る抱いた弟は、柔らかくてふにゃふにゃしてて、思ったよりも重かった。未だ首が据わっていないので、動かない様に上手く体を傾かせ、軽く揺する。

 ゆらゆら揺すられて気持ち良いのだろうか? 泣く事も無く大人しく俺に抱かれている。少し抱くのに慣れたので、慎重に片手で抱えて、頭をそっと撫でると、弟はにぱあっと笑ってくれた。新生児微笑だと言うのは判っている。だが、だが……。

「笑った! ね、笑いました!」

 嬉しくて俺まで全開で笑って叫ぶと、治療師のお姉さんとメイアが二人して俯いていた。…だから何故俯く。凹むぞ。


 あ、因みに当然ながら『育児』スキル頂きました。


 その後は一応両親に挨拶してから自室に戻った。

 気にしません。父の目が泳いでたとか、母の顔が妙に赤かったとか。襟元がかなり乱れて、釦がかけ違ってたとか。気にしたら敗けだ。

 でも父上、少し遠慮しよう?


 自室に戻った俺は、体操服に着替えて訓練所に向かった。今日はライもルフトも休みの日なので、待たせたと言う事は無い。リシャールさんは居るだろうが、二人が居ない時は自分の訓練を優先して貰っている。俺は元々一人で訓練していたから、自主練はお手のものである。

 何時も通り進めたいと、一礼してから準備運動を始める。

 何だかんだ言いつつも、ラジオ体操――夏休みのお友達、掛け声が何年経っても変わらない、日本人なら誰しもが習うアレだ――が一番準備運動には向いている。何と言っても全身運動。前世の俺は某軍隊式訓練法(ブートキャンプ)は厳し過ぎて慣れる前にリタイアした。その他の運動は何故か女性向けの物(ダイエット)ばかりで試す気にもならなかった。なので敢えてラジオ体操。気分が乗れば第二までやっちゃうよ。第三はシラネ。

 心の中でBGMを奏でつつ、深呼吸して終わり。二~三度ジャンプしてから駆け出す。

 一人の時は自由に走る。緩急つけて大地を踏みこみ、壁を蹴って宙を跳んだり。最近は十回連続で前転側転出来る様になった。で、着地と同時にまたダッシュ。其れを何周かして、ゆっくり流して走るのは終わり。軽く息が上がる程度で止めた方が続けられるので、余り無茶はしない。かと言ってそれに慣れ過ぎても、鍛える事にはならないので、軽く負荷をかけてもいる。

 ラディンが言っていた通り、俺の身体は鍛えれば鍛える程強くなっているらしく、以前は持つ事も難しかった長剣(ロングソード)が最近やっと持てる様になった。未だ持てると言うだけなので、振るう位にはなりたい。それと、やはり俺としては刀が欲しいので、何処かからでも情報が欲しい。此処はやはりギルドか?


 ギルドは実は三種類ある。

 冒険者ギルド、商工ギルド、魔術師ギルドだ。役割は各々その名の通りだが、冒険者ギルドに登録すると、もれなく他のギルドにも自動登録となる。逆は無い。

 何故なら、登録した街から離れない冒険者は居ないが、その逆――店舗や研究所を構えておいて街から離れる商売人や魔術師――は少ないからだ。居ない訳でも無い。各ギルドでネットワークが発達しているし、転移門(ゲート)――規模とか役割を考えると、空港と思ってくれれば良い――のお陰で国を跨いでの移動も出来る。冒険者にならなくても良いなら、ならずに済まして街の中で商売なり研究なりに没頭する者は多い。

 街中でしか活動しないなら、冒険者ギルドに登録する必要は無い。各々の所属するギルドに登録すれば良い。商人や職人なら商工ギルド、魔術師なら魔術師ギルドと言う風に。

 各々特化したギルドを纏めるのが冒険者ギルドなのは、単に冒険者になる魔術師や職人がいるからだけでは無い。彼等が冒険中に得た新たな技術や研究結果等を、ギルドを通じて広める役目も担っているし、逆に不在がちな冒険者に新たな知識を伝える役目も有る。いちいち各ギルドに赴かなくては確認出来ないなど、愚の骨頂だ、と昔誰かが言ったそうだ。全くその通りだと思う。

 冒険者は世界を股に掛けて各地を探検したり、魔物を討伐したり忙しい。時には緊急依頼で東西の大陸を往き来したりもする過酷な職業でもある。そんな彼等の中に少なからず居る、魔術師や職人たち。魔術師は攻撃魔法や治癒魔法等を必要とされる他に、自らの力を試す為にも、冒険する。職人はより良い素材を得るために。様々な思惑が絡み冒険者家業は成り立っている。

 話が長くなったが、ギルドにはあらゆる情報が集まっている。だから若しかしたら俺の欲しい情報が有るかもしれない。

 出来れば刀が手に入れば良い。でなければ流通している地域。秋津洲(アキツシマ)か、果ての東皇国(オリエストール)が怪しいと思っている。最悪何処にも存在していなかったら、俺のスキル(ググレーカス)を駆使して、鍛造させても良いと思っている。その時はドワーフの鍛冶屋を頼ろうと思う。見た事は無いが、存在はしているそうだ。エルフや獣人も居るらしいが、そちらも見た事は無い。…彼等の存在を知った時、キタコレファンタジー! と思ったんだが、魔法が有る時点で既に立派なファンタジーだと言うのに、何だか当たり前過ぎて麻痺していたらしい。ちょっと反省。


 ドワーフの鍛冶屋が何処まで刀を鍛造出来るか、そもそも玉鋼とか折り返し鍛錬とか技術的に可能か等々、疑問は尽きない。

 そんな事を考えながら何時も通り柔軟体操をしていたら、笑い声が降ってきた。

 見上げたら、また端正な顔だよ。叔父、サーペンタイン隊長が微笑みながら俺を見ていた。

「…何時もながら柔らかい体ですね。良く其処まで曲げられるものかと感心致します」

 言われて気が付いたが、俯せの筈なのに目の前に足首があった。背後から、「殿下、怖っ!」「折れる、背骨折れる!!」と声がする。…うん、俺も客観的に見たら怖い。

 そんな訳でススス、と腰を上げて上体を起こす。良し、これで元通り。振り返ると、二人程涙目で抱き合ってる騎士が居た。…正直済まんかった。ホラーなポーズ見せて。

 視線を泳がせつつ叔父に挨拶をする。

「サーペンタイン隊長、こんにちは。今日は執務は無いんですか?」

「御機嫌よう、クラウド殿下。はい、偶には体を動かしませんと鈍りますので」

 にこりと微笑む叔父の姿が眩しい。

 そう言えば俺の事を気に入っている例の青毛だが、どうやら叔父の事も気に入ったらしく、普段は叔父の騎馬になる事に落ち着いたらしい。馬場に俺が現れると、一目散に駆けて来るのは変わらないが、落ち着き先が決まって良かった。

 見事な青毛に跨がる金髪の騎士。絵になり過ぎる。嘸かし人気が出るだろう。

 そんな事を漫然と考えていたら、叔父からまた話し掛けられた。

「それはそうと、弟御がお生まれになったそうですね。おめでとうございます」

「有難う御座います、もう弟には会いましたか?」

「いいえ、今は勤務中ですので、それは。非番になりましたら妻子を連れて伺います。」

 父の妹である叔母を差し置いて、会うわけには行かないってヤツかな? 何とも義理堅い。

 やや暫く叔父と話し、また訓練を再開した。

 今日も良く眠れそうである。


 訓練後、また弟に癒されるべく会いに行ったら、宰相が来ていた。

 弟を見てトロンと蕩けた顔をしていた。そうだろう、可愛かろう、俺の弟は! ちょっと誇らしい気分になったので、声を掛けてみた。

「セバスじいちゃん、こんにちは!」

「ク、ククク、クラウド殿下! ち、ちち違います! こ、ここ此れはですな、決して殿下が……」

 何故だか酷くキョドられた。何か知らんが少し落ち着け。

「セバスじいちゃん、しーーっ! 弟が起きちゃうでしょ?」

 口に指を当ててそう言うと、宰相も慌てて口を閉ざす。弟を見ると―――良し、泣いてない。良く眠っている。結構大物かもしれん、俺の弟は。

 先程と同じ様に小さな手に指を握らせて、宰相に話し掛ける。

「可愛いでしょ、俺の弟~。早くお七夜になって名付けの儀式しないかなぁ。」

 うっとりとそう呟き、同意を得ようと顔を上げたら何故か。治療師のお姉さんとメイア、宰相の三人が固まって悶えていた。何なんだ一体。


 それから暫くは、俺の日課に弟と触れ合うことが追加されたのであった。



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