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衝撃

「どけろ」


 笑顔を繕うこともせず、それは本当に冷たい声だった。

「冗談だよ! 冗談!」

 ばっと体を起こす圭吾さん。俺は、隆二さんが怒っていることに胸がバクバクとうるさいほど鳴っていた。

(隆二さんが怒ってる! 凄く怖い!)

「ほら、こいつが童貞の卒業の仕方教えてほしいっていうから、ちょっとしたジェスチャーで教えてあげてたんだよ」

 流石にまずいと思ったのか、慌てて言い訳をする圭吾さん。

「ちょ、なんで童貞ってばらしてるんですか」

 俺も慌てて体を起こした。

 隆二さんは頭でも痛いのか眉間を押さえて、大きく息を吐いた。

「…そう。とりあえず今日ゆうた君は俺の部屋で俺と寝よう」


「ええ!?」

 俺は心底情けない声をだした。

「な、ずるい! 俺だけ仲間外れかよ! なんで」

 またもや隆二さんはスッと冷たい目で圭吾さんを見た。それはもう、本当に別人のように。

「お前、昨日に引き続き… 安心して同じ部屋で寝させれるか」

「そんな」

 それ以上なにも言えなかった圭吾さんを部屋に残して、俺は進められるままに風呂に入った。


 始めて入る寝室は、仕事用の机とキングサイズのベットとタンスがあるだけで、リビングと変わらないくらいシンプルでおしゃれだった。

「荷物は好きな所に置いていいからね。ゆうた君は俺と同じベットじゃ嫌だと思うけど、今日だけ我慢してね」

「い、いえいえ! 嫌だなんて!」

「明日から圭吾が泊るの禁止にするよ。せめて君がいる間は」

「ええ! そんな悪いですよ。それに、圭吾さんと話すの楽しいですし」

「えっと、本当に大丈夫? 無理してない?」

「はい。全然大丈夫です! なんか色々とすいません」

 心配してくれる隆二さんはいつもの優しい感じだった。俺はそのことにすごく安心してしまった。

「でも、ああいう時は冗談でもはっきりと断らないとだめだよ」

「す、すいません」

 俺は今日、ひたすら謝ってばっかりだ。

「とりあえずもう寝よう。俺も風呂に入ってくるから」

「は、はい」


 隆二さんが出て行った。俺は少しどきどきして眠れそうになかった。圭吾さんが俺を押し倒した時を思い出す。

(俺もいつか誰かにああいうことするのか。出来るかな)


 俺が大切な人を押し倒す。


(え! 何考えてるんだ俺! なんで隆二さんを押し倒す想像してんだよ! け、圭吾さんの所為だ、あんなこと言って…)

 一人青ざめたり赤くなったりと百面相をしながら、ふっと息をついてベットに座っていると、机の下に写真のようなものが見えた。

「落としてるの気づいてないのかな? 拾っとこう」


 写真を手に取る。

 そこに映っている人を見て、俺の頭は真っ白になった。

 俺は、拾ってはいけないものを拾ってしまったのだ。


「どうしてこの人の写真が」


 そこには穏やかに笑う見覚えのある人の姿。その横には大学生くらいの少し幼い隆二さんが同じように微笑んでいた。俺は、その写真に雷に打たれたような衝撃を受けていた。受け入れがたい、信じられないことだ。


「…どうして笑ってるの?」

 写真が揺れていると思ったら、俺の手が震えていた。

「俺には笑った顔、一度も見せてくれたことなかったのに」

 他人の空似だったらよかった。でも間違うはずがない。


「…なんでだよ父さん」



× × × ×


「どういうつもりだ圭吾」

 リビングで壁に寄りかかり、難しい顔をする隆二。

「なにが?」

 ただ事ではない空気を感じ取った圭吾はぎくりとした。

「ゆうた君をどうしたいんだ」

 ふっと息を吐いて小さく笑う圭吾。

「別に? 何しても反応が初々しいからつい面白くてな。なんか小動物みたいだ」

「面白がるのはいいけど、そろそろいい加減にしてくれないか?」

 その言葉に少しむっとする圭吾。

「保護者面か。お前こそ、なんでそんなに守ろうとするんだよ」

「え?」

「ただのいとこなんだろ? あいつ、人に慣れてませんって感じだから、いい訓練になってるだろ」

「それなんだけど」

 隆二は言葉を選ぶかのように少し間を置いた。

「?」

「ゆうた君、いつもなぜかビクビクしてるんだ。洗濯物の時もそうだけど時々怯えている顔をしている」

「なにに怯えるっているんだ?」

 圭吾は今までを思い出すように斜め上に視線を向けた。

「…もしかして、怒られることについて? あいつ昔いじめられてたとか家で暴力あってるとか?」

 隆二はすぐに首を振った。

「そんなことはないと思うけど… ゆうた君のお母さんは優しい人だし」

「母親じゃないなら父親か。そういやあいつ、今は母親と二人暮らしっていってたもんな」

「そんなわけないじゃないか!」

 急に声を荒げた隆二に驚く圭吾。

「え?」

「す、すまない」

「父親のことも知ってるのか?」

「まあ、ちょっと… 」

 歯切れの悪い返事だった。

「?」

「まあ、今考えたってしかたない。今日はもう寝よう。くれぐれもゆうた君に余計なことを言うなよ」

「ああ」

 ぱたんと扉を閉め部屋を出て行く隆二。それを怪訝な表情で見送る圭吾。


「余計なことって、そりゃどこの部分についてだ?」


一人称なのに反則して、一部3人称にしてしまいました。 …ま、いっか。

あれやこれやと思い付きで書いていましたが、何とかラストが決まりました。


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