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イケメンってなにしてもイケメン

 映画は素晴らしかった。

 大好きなアニメが念願の映画化ということで、とても観たかったものだったし。


 ただ、俺は隣の人の反応をヒヤヒヤと確認しながらで、あまり集中できなかった。


 周りの観客は、小学生がほとんどを占め、一部の大人はその子どもの親か、俺みたいなオタクのみ。その中で、一人浮いているような存在であるこの人は、気まずくないんだろうか。


 スタッフロールが始まったが、先ほどから反応はない。


 きっと、想像していたものよりも低年齢向き過ぎて、ドンびいているのかもしれない。

 先に言っておくけど、俺のせいじゃない。彼は自ら自分とは違うテリトリーに勝手に踏み込んできただけだ。


「…今どきのアニメって」


 俺はどきりとした。次にくる言葉はなんだろう。

(俺のことは嫌いになっても魔法少女マジョカのことは嫌いにならないでください! …って言ってみようかな)


「なんだか、すごいね。ちょっとラストは感動しちゃったよ」

 イケメン――――! さわやかな反応過ぎて俺はうなずくことしかできなかった。


「もうこんな時間か。せっかくだからこの後、コーヒーでも飲みに行く?」

「あ、はい」

 スマートな誘導。これが俺と彼のレベルの違いだ。



 外は、ぽつりぽつりと雨が降ってきた。

 家が近所でよく来るとおすすめの小奇麗な喫茶店に連れていってもらった。店内は、そこそこお客さんが入っており、子供が少ないせいか静かなラジオの曲とちょっとした人々の話し声だけの良い雰囲気のお店だった。


「ねえ、みちこおばさんは元気?」

 母親の名前がでて、この人は本当にいとこなんだと不用心にも今更気づいた。


「あ、母は元気です。親族とはあんまり付き合いが好きじゃないみたいで、ばあちゃんの家とかにも何十年もいってませんけど」

「あー確かに、君と会ったのおじいさんのお葬式くらいだからね」

「あんな昔なのに、よく俺だってわかりましたね」

 店員さんがコーヒーを持ってきた。俺はフレッシュと砂糖2こ入れたが、目の前のイケメンはブラックで飲んでいる。


「一応、みちこおばさんとうちの母は、2,3年に一回は会ってたみたいで、家に来られるんだ。その時にこゆたくんの写真を中学校や高校の姿を時々見させてもらったててさ」

「そうだったんだ。な、なんだか、恥ずかしいですね」

「あんまり変わってなかったからすぐにわかったよ」

 ふふっと笑っている。なぜだか嫌味に聞こえないから不思議だ。


「今は仕事なにしてるの?」

 少し恥ずかしかったが、嘘を言うわけにはいかない。

「コンビニの店員です。あの、長谷さんは?」

「ああ、隆二でいいよ。いとこなんだし、敬語じゃなくていいしね」

「いや、年上ですから… じゃあ、隆二さんは何の仕事してるんですか?」

「俺は一応ウェブデザイナーかな。まだ、見習い中だけど」

「か、かっこいい」

「そうかな? あ、ゆうたくってパソコンとかって使う?」

「は、はい(2チャンネルとゲーム攻略くらいしかみないけど)」

「ちょっと仕事の参考に色々聞いてみたいんだけど…」

 すべてがカッコよすぎる。どうやったらそんな風になれるんだろうか。


 しばらく、他愛のない話をしてお腹がすいたのでそのまま喫茶店でご飯を食べた。話し上手な隆二さんとの会話は、人見知りで会話の下手な俺でも尽きることなく、気づけば3時間も経っていた。


 ピロッテロリンピーン。携帯のアニメの着信が流れる。慌てて音が聞こえないように手で押さえるが、顔が赤くなってしまう。


「あ、僕も着信あるみたいだから、ちょっと失礼するよ」

 さっと立ち上がりトイレの方へ歩いていく。

「すごいなー。きっとモテるんだろうな。あ、メールは、母さんからだ」

『あんたいつまで遊んでるの! 部屋の片づけもしないで!』

 それは怒っている内容だった。

(げっ。俺ももう大人なんだし放っておいてくれよ。部屋が汚くたって別に関係ないだろ)

 沸々と怒りが込み上げてきた。実家に頼って暮らしている俺も悪いけど休みの日くらい小言を言われたくない。


「だから、それはこの前も言っただろ!」


 大きな声に驚いて声の方をみると、ずっと物静かでおとなしそうな隆二さんが電話越しの相手とどうやら喧嘩をしているみたいだった。

(大丈夫かな? 俺の怒りなんてくだらないことだけど、あの人が怒るって相当なことなんじゃないかな)

 しばらく言い合っていたようだが、話が終わったのか電話を切り、席に戻ってきた。


「ごめんね。うるさかった?」

「いえいえ! 俺は問題ないですけど、隆二さん大丈夫ですか?」

「ああ、情けないことにさっき振られた相手だよ」

 俺は驚きすぎて思わず大きな声を出してしまった。

「え! 隆二さんみたいな人でも振られることってあるんですか!」

「そりゃ、もちろんだよ。最近は喧嘩も多かったしね」

「意外だな。だって、隆二さん王子様みたいだし」

「王子様?」

「! (しまった! 言葉にだしちゃった!)」

 きょとんとした表情の後、大きな声を出して笑いだす隆二。


「あー可笑し。俺なんて普通だよ。久々に腹抱えてわらったよ」

 目の端に溜まった涙をぬぐう。俺は今日一番の真っ赤な顔をしていただろう。

「あ、あの、今日は本当にありがとうございました! 俺、そろそろ帰ります」

「え? ああ。こちらこそ付き合ってもらってありがとう」


 会計をしようとすると、隆二さんはすっと伝票を持ち、俺がオロオロとしている間に「今日は俺が払うよ」とさらっと言われお会計をしてくれた。

(な、情けない)


 外に出ると、天気は小雨だったのがいつの間にか大雨に変わっていた。横降りの強風もあり、台風が来るのではないかというくらいだ。

「俺、帰れるかな」

「うわー。こんなにひどい雨になってたんだ。もしかしたら電車止まってるかもね」

「えー! どうしよう! 隆二さんは大丈夫なんですか?」

「僕は近いから大丈夫だけど」

 外は降り止む気配のない天候。諦めた方がいいだろう。

「えーと、じゃあ、俺そこらへんのネカフェに泊ります。本当にありがとうございます」

 隆二は何か考えるようなしぐさをする。そして、俺の思いもよらぬことを発言した。


「じゃあ、俺の家に来る?」

ゆうた君は2週間に一回はネカフェの住人になります。ある意味第2のホームです。

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