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恐怖の出会い

俺は彼女いない歴23年。

コンビニのしがない店員さ!


 こんな2行で自己紹介が出来てしまうなんて、悲しくて仕方がないけれどそれも今日でおさらばだ。なぜなら、これからオンラインゲームで知り合った女子、アサミさん(24)と初対面する予定である。


『公園の時計前に着いたよ』

『ごめん!電車が遅れたみたい! もう少しで着くよ』

『慌てなくて大丈夫だよ』


こんなちょっとしたやり取りでも、鼻の下は延びてしまう。ああ、楽しみだ。楽しみすぎて、生まれて初めて香水なんてつけてしまった。臭くないだろうか。



そもそも、彼女との出会いはオンラインゲーム『ミラクル・デ・ミラクル』という、オンラインでチームを組んで魔法をつかって悪い魔女を倒すというありきたりなゲームだ。アサミさんは中々相棒が見つけられず、一人で冒険をしていたぼっちな俺に気づいてくれて声をかけてくれた。それから、チャットでやり取りをするようになり、好きな映画の話で盛り上がって、独り身同士一緒に見に行こうとなったのだ。


ちらりと時計を見る。予定時間が3分すぎたが、別に怒りなど湧いてこない。それどころか、そわそわして叫びだしたいくらいだ。


「お待たせ~」

 背後から俺に向けてであろう声がする。今、俺はどんな顔をしているだろうか。どうにか、平常心を保とうと深呼吸をして、振り返る。

「いや、俺も今きたばっかりで…」

 俺の表情は凍り付いた。

「電車が遅れるなんて最悪ー」

(それは、俺のセリフだ)





 そこには、俺の三倍はあるであろう、まさにミラクルな女が立っていた。服は、ゴスロリといわれるフリフリとした服で、胸元のボタンは今にもはちきれそうである。頭の両端には、ツインテールの髪がひょこひょこ揺れているが、それ以上に頭のてっぺんについている髪飾りが虎の頭の形で、まるで彼女を噛みついているようにしか見えない。君は、なぜそれを選んだ!


「映画遅れるわねー。ふん、ふん。あれ? なんか、臭くない?」

「え、そうかな?」

「やだー! 香水? ちょっとつけすぎよ」

 胸にぐさりと突き刺さった。こんな遅刻して謝りもしない女に、臭いと言われれば立ち直れないのも無理はないだろう。

「俺、用事思い出したからちょっと帰ろうかな~って思ってて」

「何言ってんの!? わざわざ隣町から来たってのに。早く行くわよ」

 アサミさんは無理やり俺の腕を掴んで、引きずるように無理やり進んでいった。まるで、お相撲さんにどこか未知なる世界へ連れて行かれる気分だ。

「ちょっと、待って! 腕がちぎれる」

「あはは。人の手が簡単にちぎれるわけないでしょ」

 豪快に笑う目の前の人に、恐怖を感じずにいはいられない。半ば、半泣き状態になっていた俺に逃げる術は思いつかなかった。


「ちょっと待って、君、ゆうたくんだろ?」

「え?」

「約束の時間になってこないと思ったら、デートだったのか?」

「い、いや、違うんだ!ごめん! ブッキングしちゃってたみたいでさ」

「先に約束してたのは俺の方だから、悪いけど失礼するよ」


 そういうと、その人は俺の肩を掴んでアサミさんとの距離を取ってくれた。

「ほ、本当にごめんね」

「ふざけんじゃないわよ!」

 怒り出した彼女の顔は、やはりお相撲さんが戦いに挑む時の顔だった。


「さ、行こう!」

 彼女を無視して、颯爽と走り出したその人に、俺も慌ててついていく。後ろから、色々と俺を罵声する言葉がさんざんと聞こえてきたが、追いかけてくる様子はなかった。


「はあ、はあ。ひ、久しぶりに走ったよ」

「あの、助けてもらってありがとうございます。えっと、あなたはどちら様で」

 よく見ると、助けてくれたその人は、今風のモテそうなイケメンだった。

「あれ? 本当にわかんない? ゆうたくん。いとこの長谷隆二だよ。君のお母さんの姉の息子で、君の確か、えーと2こ上だよ」

「えーと、ご、ごめんなさい。人の顔を覚えるの苦手で」

 こんなイケメンと正面からまともに会話なんてしたことがないから、さっきとは違う緊張をしてしまう。

「まあ、無理もないか。小さい頃だったしね。それよりも、さっきの女の人どうしたの? たまたま見てたけど、初対面の人っぽかったね」

 俺はようやく、先ほどの衝撃的な時間を落ち着いて振り返ることができた。

「あー。オンラインで知り合った人で、気があって映画を観ようってことになったけど、あんなに力強いなんて思ってなかった」

 恐怖を感じる出会いなんて初めてだった。手を見ると、くっきりと人の手の痕がついていた。あのまま引っ張られ過ぎたら、本当にひねりつぶされるんじゃないかと思ったくらいだ。


「だめだよ、ゆうたくん。見ず知らずの人とそんな警戒心もなしにあったら」

 返す言葉もでなかった。自分はか弱い女でもないし、万が一のことがあっても大丈夫だと思っていたら、とんだしっぺ返しを食らった気分だ。

「さっきは思わず逃げちゃったけど、連絡先を知っている相手なら、一応丁寧に謝っときなよ」

「…はい」


 相手の冷静な言葉に、2つしか歳が違わない相手が別世界の存在に見える。その腕をよく見てみれば、ブランド物の腕時計をしている。 

「もう、こんな時間か… なんの映画を観ようとしてたの?」

「えっと、…ま、『魔法少女マジョデアルカの宇宙旅行』」

 このタイトルを普通の人に言うのは、とてつもなく恥ずかしかった。正直言って、俺はオタクだ。そんな男に興味を持つなんて、やっぱりさっきみたいな子くらいなんじゃないだろうか。

「お、俺、さっきの子に直接謝ってきます。俺みたいなキモオタなんて相手にしてくれるのは、ああいった変わった人くらいだと思うし」

「じゃあ、その映画俺と観に行く?」

 俺は耳を疑った。

「え、そんな、俺に気を使わなくったっていいでんすよ。絶対に、普通の大人が見たらつまらない映画だし」

「実はさっき振られてね。予定のデートがなくなったし、暇してたんだ。なんか、普段観ないような映画を観るのもいいかなって」

 

 その人は、仕草一つ一つがカッコよかった。小柄な俺に比べて足がすごく長いし、服装もおしゃれだし俺とは真逆の人種だ。本当にこの男が振られたのかは疑問だが、映画を観たかったのもあるし無理に断ることも出来ず、そのまま映画を観に行くことになった。


今現在は、主人公はいたってノーマルです。

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