閑話1 そういえば忘れていました
主人公視点ではありません。
グリーゼ(正人)はあることを忘れていたことに気が付いた。
(この世界では婚約とか結婚になにも相手に贈らないのか?)
それは、テレーゼと結ばれてから少したった頃、
落ち着きを取り戻したあたりだった。
気になったのだがまさかテレーゼに聞くのはどうかと思った、
彼女の両親にもだ、では誰に聞けばよいのか?
里の人に聞くのも変だ、彼らは自分の正体を知らないのだから、
王宮でも自分の正体を知らないメイドや兵士に聞くわけにもいかない。
散々考えた挙句彼が向かったのは、グリーゼの両親のもとだった。
両親は快くグリーゼ(正人)を迎え入れてくれた。
死んだ息子の姿を借りている自分に含むものがあるのではないかと
思っていたのだが、どうもそうでは無いようだ。
「・・・というわけで自分のいた世界では指輪などを送るのが慣習だったのですが。」
「なるほど、こちらの慣習では、婚約の時に男から宝石を送り、結婚の時にそれを加工して
ペンダントやチョーカーにしてあげるのです。」
父親のディルクはそう教えてくれた。
「実は、宝石はグリーゼが親同士で婚約を決めた時、王都で買い求めたものがあるのです、
テレーゼ様には結局渡すことが出来ませんでしたが。」
母親のエルナはそういって小さな袋から宝石を出す、婚約話の後テレーゼが里を出て行ったため
渡すことが出来ず、母親に預けていたらしい。
宝石は蜂蜜色をした石に光の加減で白い模様が見える、
向こうの世界ではクリソベル・キャッツアイというものだ、
こちらの世界では獣眼石という比較的ポピュラーな石らしい。
「これを、テレーゼ様にお使いになれば良いでしょう。」
「いや、これは大事な物なのでは?」
グリーゼの残した物なのだし。
正人はそう思ったのだが、彼らとしては、テレーゼの元にあったほうが、
グリーゼが喜ぶと思っているようだ、それならばと正人はありがたくいただくことにした。
その後、勧められて食事などをした後、正人の生い立ちや境遇の話になり、
彼が、元の世界で天涯孤独の身の上であることを知り、
あることを提案するのであった。
「そうか、親子となるということか、良いことではあるが、マサト殿はよろしいのか?」
次の日正人は里長に会いに行っていた。
昨日話したことを報告するためである。
話した内容とは、正人がグリーゼの両親と親子関係を結ぶと言うものであった、
養子ということになるのだが、外見は実子のグリーゼなわけだし、
気持ちのありようといったところである。
「自分もそのほうが良いと考えた上でのことですので。」
正直、ここまで事態が嵌ってしまっているなら、逆により良く嵌っていたほうが良いと、
一種の開き直りのようなものである。
それに後々のことを考えると、後ろ盾になってくれる人がいた方がありがたいからだ。
アウラートゥス 族は獣王国連合の中では中位だが、
グリーゼ(正人)の功績のおかげで王国内の地位はかなり向上している。
まして、王女の婿になれば、当然その実家はさらに優遇されるだろう。
勇者だ英雄だとかもてはやされた末路が悲惨な話は向こうの世界の物語や歴史で
散々見ているため、自身に降りかかった以上、放置は出来ないのであった。
「なんにせよ、里でのお披露目はもう少し先になるが・・・」
里の方では王国軍が周囲を警戒するために駐留しているが
あれから魔獣の出現は報告されていない、
難民キャンプからの帰還の準備を進めているところである。
したがって二人の結婚の披露はその後となるわけだ。
正人はその足で王都へ出かけていった、あることを頼むためにである。
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それから、三日後、グリーゼ(正人)はテレーゼを連れて王都を散策していた。
王宮に詰めてばかりだと気がめいるから息抜きにと言う理由である。
二人とも服装はその辺の市民が着ているような服を着ており、
見た目は市中の若いカップルといったところである。
名前の割には意外と顔を知られていないのか、英雄グリーゼだと騒ぐ人はいない。
おかげでゆっくりと屋台で買い食いしたり、店を冷やかしたり出来たのである。
そうして、ある宝飾店の前に着きいかにも自然に中に連れ立って入った。
「いらっしゃいませ、お待ちしておりました。」
店主がすっ飛んできて恭しく礼をしたので、テレーゼは少し驚いたようだ。
「あれは出来てるかい?」
「もちろんでございます、ここにお持ちしております。」
店員が持ってきた箱を受け取った店主がふたを開け中身を披露する。
「おお、すごいな。」
「きれいです・・・」
それは上品なデザインのチョーカーであった、白金の地金にアクセントで獣眼石が付いていて
その周りを金剛石がちりばめられている。
グリーゼはそれを手に取ると、テレーゼにつけてやる。
「よく似合うよ。」
「え?これは・・・」
「結婚の証だよ。」
「っ、それは、」
「遅くなってすまなかったな。」
テレーゼは泣いた・・・。
落ち着いたテレーゼを連れて花屋で花を買う正人
そして、人気の無い公園に行った。
日は傾きかけており夕方の喧騒が始まろうとしている。
テレーゼは首のチョーカーに手をあててうれしそうである。
正人はその様子に微笑むと、テレーゼを抱き寄せ、
「ちょっと挨拶に行かないとな。」
そしてある魔法のトリガーを引くのであった。
その直後二人は別の場所に居た、
「転移魔法・・・あなた、使えたの?」
テレーゼが問うと、正人は「ああ」と答えた。
転移魔法が使えたならすぐにルアンに戻れそうなものだが、
この魔法の欠点としては、行った事のあるとこにしか行けないのと、
たとえば今回のように転移に巻き込まれたのでは位置がわからないために
転移できないのである。
だから獣王都からアウラートゥスの里までならば転移は可能だ。
里の様子は草が伸びてきている以外はあまり変わりが無いようだ。
二人は墓地に赴きある墓の前に花を手向けた。
墓碑銘は書いてないがこれはグリーゼの物である。
「グリーゼ、お前の用意した石はほれ、こうやってテレーゼがつけているぞ、
テレーゼは俺が守る、約束は果たすからな。」
「グリーゼ、貴方のことはこの石と共にあります、決して忘れることはありません。」
二人は銘の無いお墓に祈りを捧げるのであった。
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次回は6月6日18時予定です。




