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閑話10 雪の降る日に 後編

思い切り長くなりました。


テレーゼ視点です。


2/8話数が間違っていたのを修正しました。

 外宮の仕事は問題なくこなしていけた。

礼儀作法については特に問われていないのだが、あれば越した事はない、

内宮に出入りする事もあるからだ、

私がそれに通じている事を知った上司から、内宮へ出向く仕事を割り振られる事になった、

教えていたリィリィも一緒だ。


内宮は貴族や王族が居る所なのでやはり豪華絢爛な内装をしている、

獣王国の内宮よりも煌びやかね・・・

仕事を上がって部屋でリィリィとおしゃべりしていると、

「姉さまはあちらの王宮に勤めていたんですか?」と聞かれた。


「一、二度行った事があるだけよ、勤める予定だったんだけどね。」


そう話すと、「凄いですね、だから礼儀作法に詳しいんですか!」と、

尊敬の眼差しで見てくる、少し恥ずかしかった。


婚約者の話をすると、彼女は目を輝かせて、

「幼馴染が婚約者って、お姉さま素敵ですね。」と言う。


私は、すこしピンとこない。


「うーん、グリーゼのことは、子供のころから一緒に遊んだりしてるし、

好きだとは思うけど、結婚とか考えるとどうなのかなと思うのよね。」


「そうなんですか?」


「うん、あんまり近すぎてわからなくなるって言うのかな、

だから、少し離れてみたら判るかもって思ったのもあるのよ。」


そう、離れて暮らしてみると感じるのは彼が傍にいないことが寂しく感じられる事だ。


やはり、私は「グリーゼ」が好きなようだ。

だが、彼には婚約は破棄しても良いと書置きしている。

いつか里に帰った時に彼の傍に別の女性がいる可能性が大きいのだ。

その時私はどうすればいいのだろうか?


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「内宮勤務ですか?」


私は、上司から転属を告げられていた。

リィリィも一緒である、礼儀作法が出来るものが対象なのだ、

急にであるが神官が神の力で異世界から勇者を召喚するので、

そのお世話をするメイドの確保のためだそうだ。


リィリィは給金が上がって仕送りが増やせると喜んでいる、

私はその勇者に興味が出てきた、

彼らを召喚するのはこの世界の異変の対応なのだ、

魔獣の増加は世界全体の問題となっており、このルアンでも滅ぼされた村は数知れず、

軍も出動しているがどうにもならないようだ。

神官の話ではこのままではさらに恐ろしい事が起こるので、

神が異世界より勇者達を呼び寄せ、異変の解決を図るのだとか、

そのために各国が連合して対応する事も知ったが、

獣王国連合はそれに参加を拒否していると言う、

原因はこの国ルアンの獣人差別に原因があるというのだが、

貴族達の中にそのような考えが多いようだ、

少なくとも庶民の間ではあまり感じないからだ。

こういうのはやはり実際に体験して見ないと判らない。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


そして、ついに勇者一行がやって来た。

召喚魔法陣から現れた彼らは若い多数の女性と二人の男性だった。

彼らは見たところ普通の人族にしか見えない、

どのような秘めたる力を持っているのか?


幸い私は、彼らのお世話係りとして近くに行く事になる、

そうなればそれを見ることも出来るだろう、

その幸運を噛み締めながらワゴンに載った身の回り品を運んでいると。


突然、その手を引くものが!


引き釣り込まれたのは、普段使われていない招待客ゲストを泊める部屋。

相手には見覚えがある、内宮に上がって最初の日にじろじろ見ていた男だ、

確か、この国で権勢を振るう公爵の甥にあたる男で子爵だったはずだ。


「見目麗しいのう、なにとって食おうというわけではない、

いや味見すると言う点ではそうかも知れんがな。」


そう言って、ベッドに押し倒してきた、制服が乱れ髪留めが外れる。

肩の処の生地が破れる音がした。


「やめて、ください。」


「気に入ったら妾の一人に迎えてやる、おとなしくするんだな。」


「!」


その言葉を聞いたときに私の中で何かが弾けた。

そして思い浮かぶのは彼の顔。


「放して!」


男の手を振り払い、突き飛ばした。

男はつんのめって手に握っていた黒いものを床に落とした、

黒いもの・・・カチューシャだ!


「な、おお前は、み耳が!」


相手の狼狽する声にハッとなった。

耳を見られてしまったのだ。


私はとっさにドアを開けて廊下に飛び出した。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「獣人だ!」


「スパイを捕まえろ!逃がすな!」


あの男が呼んだのだろう、王宮守護の騎士達の叫び声がする。

どうやら追い詰められている様だ。

廊下の両端から声がする、挟まれたようだ。

とっさに目の前のドアを開けた。


中にいたのは召喚された勇者だった、二人いる男性の若い方だ。

目を見開いている、急な登場と私の耳をみて驚いているようだ。

すぐにドアを閉めたが、外の声は近づいてくる、

こうなったら{あれ}を使うしかない。


「君は?」


私の目の前の彼が声をかける、その問いに答える前に、

ドアが乱暴に開けられ、騎士達が乱入してくる。


「そいつはスパイです!お下がりください!」


もう猶予はない、私は彼に向って走りペンダントを引きちぎり床に投げた。


直後、床に魔法陣が現れて光り輝く、私と彼の足元で。

そして光に包まれて意識が遠くなった。








「テレーゼの耳は綺麗だな。」


そう言ってグリーゼが耳をなでてくれる。

私は為すがままになりながらはにかんでいる、きっと顔が赤くなっているだろう。

そうしてそのまま二人は・・・「!」


これは夢だ!と思ったら目が覚めた。


目を覚ますと間の前にはさっきの彼がいて私を覗き込んでいる。


「!ここは?」


「こっちが聞きたいな。」


「!!あんたは!」


「転移に巻き込んでおいてそれはないだろう。」


「すまん・・・」


そして辺りを見回す、その風景には見覚えがある、懐かしい故郷の森。

アウラートゥス の森だ 。


転移に成功したらしい・・・でも王宮からここまでどれほど離れているのか、

たしか1万5000キロル (キロ)は離れているはずだ。

足元に落ちているアイテムを拾いながら私は彼の質問に答えることになった。





私達は森の中を歩いている。


あれからお互いの事を話、現状を確認しあって、里に向う事にしたのだ。

転移に巻き込んだ彼、マサト・タカムラはこれだけの長距離を転移した原因を自分の魔力のせいだと言った。

携帯転移魔法陣はその中の人物の魔力を使って転移する。

彼の魔力が巨大だったので里までの転移が可能になったようだ。

だがあくまでこれは設定された場所に戻るだけのアイテムで逆は出来ない。

そのために、マサトは帰れなくなってしまったのだ。


里に帰れば転移魔法が使える者が居るかも知れないのでとりあえず向う事になった。

後ろを歩いているマサトの頬には私の手形が付いている、

彼が私の耳を触ったからだ。

反射的に叩いてしまった、私の耳を触っていいのはグリーゼだけよ。


里が近づいてきた、私は不安と期待とに揺れ動いている。

グリーゼに会える、でも彼はどう思っているのか、その思いでだ。

両親はどういうだろう?里の皆は?不安がもたげてくる。


その時後ろでマサトが声を上げた。


「テレーゼ!」


「里の様子がおかしい!」


言われて耳を澄ます、おかしい!この距離で何も音がしない。

人がたくさんいるはずなのにその気配もない。


足が速くなり最後には駆け出した、

そして門の前に来て私は最悪を目にする事になる。


「なんてこと・・・」


門が破壊されていた、柵もいたるところが壊されている。

中に入ると原因がわかった。


魔獣・・・その死骸がいたるところに転がっている、

そしてその間に里の者、身に付けている防具から従士たちとわかる彼らの遺体があった。

私は周囲見ぬまま近づいていくと。


「ぐるぅぅぅっぅう」


熊魔獣がすぐ傍にいた、体が動かない・・・

そこに光の弾が飛んできて魔獣を貫き、魔獣は声も上げずに倒れた。

振り向くとマサトが構えていた、魔法で助けてくれたのだ。

私はいつしか涙を流していたようだ、倒れている見知った人たち、

せめて誰か生きている人はいないのかそれだけを念じていた・・・


壊れた家や焼けた家の確認をして見ると住人のほとんどは逃れたみたいだ、

倒れているのは従士隊の者達だ、きっと避難する時間を稼ぐために戦った者達だろう。

マサトに手伝ってもらって彼らを火葬して埋葬する事にした、

このまま置いておくわけにはいかない・・・

アルノー、ヨハン、ゲロルト・・・

彼らの遺体を集めて遺品を集めていく、

その中に彼がいないのを確認し不謹慎にも私は安堵していた。

そうしていると「これで最後だ。」と声が後ろから掛かった。

マサトの声に振り返ると、マサトが抱きかかえる人物が目に入った。


・・・


うそだよね。


私は立っている事が出来なかった、「グリーゼ!どうして?」





私は降ろされたグリーゼに取りすがって泣いていた。

どうやって彼の傍に行ったのかすら判らない。


「・・・レーゼ、テレーゼ」 声がする・・・


驚いて見るとグリーゼが眼を開けて話している。


「俺はもう死んでいるらしい、だが未練の気持ちが強すぎて魂が残ってしまったようだ。」


そんな、そんなことって。



「テレーゼ、帰って来てくれたんだな、俺はお前に謝りたかった、

だから未練が残ったようだ。

お前を縛るようなことをしてすまなかった、だが俺はお前が好きだったんだ。

そのことを言いたくて止まってしまったようだ、もう皆のところに行くよ。

長や他の者たちは獣王都に逃れたはずだ、行けば会えるだろう。」


私は頷く事しかできなかった。


そして彼はマサトに向き声をかけた。


「テレーゼの選んだ男にお願いする、彼女を頼んだ、幸せにしてやってくれ。」


頷くマサト、そしてグリーゼは目を閉じてものを言わなくなった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


私は、回想を終了する。


「結局、私はどうしたら良かったんでしょうか?」


隣にいる彼(グリーゼ=マサト)はそっと私の肩に手を回して言った。


「だれも正しいとか間違いだとは言えない、

ただ、君がここに居て傍に俺がいる、それが答えだよ。」


その答えは、融合した二つの魂のうちグリーゼが言っているのが私にはわかった。


「君がルアンに行っていてマサトとここに転移したから、

グリーゼはここに居る事が出来るんだ、こんなにうれしい事はない。」


もしもが叶う魔道具があったとしても、

彼女が里に居ても魔獣の侵攻は防げなかっただろうと彼は言う。


そして魔族の更なる攻勢にこの国は滅んでいたかも知れないのだと。


その言葉に私は救われた気持ちになった、彼らの優しさに涙が溢れる、

そんな私を抱き寄せながら彼は微笑んだ。





ありがとう。




ここまで読んでいただいて有難うございます。

誤字・脱字などありましたらお知らせください。

感想や評価などあれば今後の励みになります

よろしくお願いします。

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