閑話9 雪の降る日に 中篇
テレーゼ視点です。
2/8話数が間違っていたのを修正しました。
王都に着いて、まずは知り合いのところに向う、里の出身で王都で商会を開いている者だ。
「これは姫様、急にどうされました?」
「なかなか決まらなかったけど、王宮に出仕することになったの。」
もちろん、これは嘘だ、家出したなんてそんなの言える訳がない。
「そうですか、ではすぐに王宮に?」
「身支度とかあるので行くのは一週間後の予定です、それまで置いてもらえますか?」
「もちろんです。」
そうして、とりあえず王都での拠点を確保した、
もっともすぐに里から捜索に来るだろうし、ここもすぐにわかるだろう。
夜、宛がわれた部屋で荷物の確認をする、
鞄の中には密かに用意した旅に必要な物が入っている、
おばの家に預けた荷物としてこつこつと集めたものだ、
路銀も今まで貯めたお金を全部持ってきている。
目的地までは何とかいける額だ。
首にかけているペンダントに手をやる。
これはただの装飾品ではない、
携帯転移魔法陣を刻んだアイテムだ。
いざと言う時にと親に渡された魔道具だ、
転移先は アウラートゥスの森になっている。
もっともこれも距離に比例して魔力が十分でないと効果がないので、
今から行くところではあまり役にたたない、
自分の魔力ではせいぜい数十キロ飛べるかどうかなのだから。
翌日、王宮に上がる時に着る服を見に行くと口実を作って出かける。
途中、郵便局に行き手紙を投函する。
昨日夜書いたもので、無事に王都に着いた事、
しばらく見聞を深めるために旅をすることを認めてある。
もちろん謝罪の言葉も、婚約は無かったことにしてもらっても良いと書いておいた。
でも、その一文を書く時に少し手が止まった、
本当にいいのだろうか?自分の気持ちはどうなのか?
「でも、あのままではいられないから、私は行かなくては。」
そう思って書き終え封をした。
商業区の真ん中辺りにある魔導サービスギルドに着いた。
ここは魔法を使った各種のサービスが受けられる。
私が必要とするのは転移サービスだ。
転移魔法陣を使って瞬間的に遠くの街に移動する事が出来る。
急な旅や、急ぎの荷物や手紙などを送るためにある。
私は受付でお金を払って申し込む。
「転移ですね、ちょうど五分後に魔力が貯まりますので出発します。」
運もいいようだ、すぐに出発できるみたいだ。
私は魔法陣のある部屋に歩いて行った。
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王都にテレーゼが行った事を知った長とグリーゼたちの下に手紙が届いた。
すぐさま、王都に捜索に行ったが、テレーゼの立ち寄った知り合いのところには、
最初の日だけ泊まって出て行ったという、
そこにも置手紙があり、探さないでくれと書かれていた。
彼らはそれに従わず必死に捜索したが判らなかった。
魔導サービスギルドはお客のプライバシーにかかわる事の情報は出さないので、
そこで捜査の手がかりが切れたのも大きかった。
彼らは結局里に戻るしかなかった。
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私はいまコリントの冒険者ギルドにいる、
ここで冒険者登録をして旅をしながら目的地に行くつもりだ。
冒険者ギルドのいいところは個人主義ということで登録した情報をよそに教えない事だ。
そうで無ければ登録してすぐに里の者が迎えに来るだろう。
私は、商隊の護衛などの依頼を受けて目的地まで進んでいった。
そして一ヵ月後、私はルアン王国の王都にいる。
人族の国に行くのは初めてで私は辺りを見回している。
ちなみに獣人差別があるということなので私は{耳}を隠している。
カチューシャを着けてごまかしている。
私の種族は耳としっぽが無ければ人族そのままなのだ。
「まずは街の見聞ね。」
街中を色々見て回る、獣王国連合とは違った町並みに興味を引かれる、
見たことも無い物やお店があり興味深い。
カラオケって何だろう?店の外に長蛇の列が出来ていて驚きである。
「でも、仕事も探さなくてはね。」
商業ギルドで仕事を探す事は出来そうに無い、
差別されている獣人であることがばれてしまうからだ。
求人も人族が基本で見つかりそうに無い。
そこで口入屋に行ってみた、ここは商業ギルドに加入できない人たちが仕事を探すところで、
条件の良い仕事は少ないが正体を隠して働くには都合が良い。
そこで外宮メイドの仕事の募集を見つけた、下働きだが寮は完備しているし、
自分ひとりで暮らしていくには十分だ、
早速紹介してもらい王宮に向った。
その時一緒に面接を受けたのがリィリィと言う少女だった。
まだギルドに加入できない年齢なので口入屋に行ったのだとか。
面接を受けてすぐに二人とも採用になった、人手不足だったようだ。
寮も同室になった私達はすぐに親しくなった。
仕事について一ヶ月、職場にもなじんだ。
彼女に里に居た時身に付けた礼儀作法を教える、
王宮勤めになる予定だったので習っていたのだ。
でも私には獣人であるという秘密がある、
お風呂は無いので湯浴みしたり部屋で体を拭くくらいしか出来ないが、
私は人に見られるわけにはいかないのだ。
なるべく時間をずらしたりしていたがついにリィリィに耳を見られてしまった。
王宮には獣人は居る事ができない、この国の貴族たちは獣人が嫌いなのだ。
「もうここには居られないね。」
耳を見て立ち竦むリィリィにつぶやくように話す、
すると、彼女は「私は見ていません、姉さまも気にしないで!」 と言ってくれた。
彼女は私を差別しない、同じ人として見てくれている、
そう思うとうれしかった、「ありがとう」と言って抱きしめた。
こんな経験も悪くない、その時の私はそう思っていた。
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