閑話4 出産の立会い
主人公視点ではありません
正人と結婚した者達のなかで最初に妊娠したのはカチヤである。
彼女は、妻達の中では非戦闘員に当たるのでそうなったのである。
順調に経過をすごしてきてもうすぐ生まれる月になったところで問題が起きた、
何者かの{世界}への侵攻、それがこの世界にも来るであろうということで、
その備えに正人たちは急に忙しくなったのだ。
大変な事だとは判っている、けれども少し寂しい気持ちになるカチヤであった。
「大丈夫よ、妾が傍にいるから。」
そういうのはミリヤムである、彼女も妊娠しており、予定ではカチヤより二ヶ月後に母になる予定である。
安定期であるゆえにこうして獣王都より転移で来ているのだ。
「わざわざすいません。」
「気に病む事は無い、そなたも、勇者の妻、同じ立場じゃ、助けあうのは当然じゃ。」
ミリヤムはこうして年下のカチヤを妹のように労わってくれるので、カチヤも心安まるのであった。
世間話をしているうちに、亜由美達が言っていた話題になった。
「出産の時に向こうの世界では夫が立ち会うことがあるらしいの。」
「ええ、向こうでは結構普通らしいです。」
ウエルネスト(改)では考えられない話である。
「でも、傍にいて手を握っていてもらえるだけでも嬉しいかも。」
「そうじゃな、そう思うといい風習なのかも知れんな。」
「ただ、向こうの世界でも受け付けない人がいるとは美月が言っておったな。」
「そうですね、やはり恥ずかしいという気もしますし、
自分が苦しんでいるのを見て欲しくないかもって思いますね。」
ちなみに、その話を周りの者にしてみたが、反対であった。
やはりそのような慣習が無いゆえに受け入れられないようだ。
「では、外で待ってもらうしかないの。」
「そうですね、忙しくなければいいんですが。」
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予定日を一日過ぎた午後、カチヤは産気づいた。
直ちに、周りはお産の準備に入り、里の新しく作られた病院に入れられ、
グリーゼ(正人)に連絡が行った。
それに応えて直ちに駆けつける彼であった。
結局立ち会うことは周囲の反対で出来なかったので、分娩室の向かいの控え室で待つことになった。
そこにはミリヤムやはつゆきに亜由美達が一緒に待っていた。
美月は分娩を手伝った経験があるので手伝いに入っている。
どうしてそんな経験が?と聞くと。
「うちの一族は自分一人でも産むことが出来るようにおしえられるんだよぉ。」
という返事であった、さすが諜報と暗殺を生業とする一族だけのことはあると感心する一同。
部屋の中で耳を澄ませていても分娩室の声や物音は聞こえない。
実は分娩室から声などが聞こえてきたら、外で待っているものがいたたまれないだろうという事で、
防音効果のある魔道具が配置されていて廊下にいても全く何も聞こえないようになっている。
このアイテムは昔からあるものでヨウコの物ではないのが意外な感じを受けたのだが、
ウエルネスト(オリジナル)の魔法技術はこのような生活方面ではかなり進んでいて、
地球世界よりも充実している部分なのだ。
グリーゼ(正人)は、一人で待っていたらきっと不安でおろおろと歩き回ったりしただろうなと思う。
そういう意味ではみんなにいてもらって居ることに感謝していた。
「やはり、落ち着かぬか?」
ディルクが聞いて来る、彼にとっても初孫なのでやはり落ち着かぬのだろう。
「大丈夫ですよ、カチヤは強い子ですから。」
エルナは経験者だけあって落ち着いている。
そうこうしているうちに、扉が開き、美月が入ってくる。
「生まれたよぉ!男の子だよぉ!」
ドアの向こうから元気な泣き声が聞こえる、その声を聞いて、喜び合う皆。
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すやすやと眠る赤ん坊は人族も、獣人も変わらない、
違うのは耳としっぽだけである。
「かわいいねえ、お母さん(カチヤ)似なのかな~。」
「鼻筋なんかはお父さん(グリーゼ)似でしょ!」
囲んでいる皆は好き好きに言っている。
ベッドに横たわるカチヤも嬉しそうだ、出産直後にグリーゼに「ありがとう、よく頑張ったね。」
と言われたのが一番嬉しかったそうである。
「そういえば名前は?」
亜由美が聞くと、グリーゼ(正人)は用意していた紙を開いて皆に見せた。
「男の子とほとんど判ってたからな、二人で決めていたんだ。」
そこには{リュート・アウラートゥス}と書かれていた。
「リュートちゃんか!いい名前だね。」
美奈が言うと皆頷いて笑った。
その日は使徒の襲来の事を忘れてお祝いをするのであった。
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