16話 再召喚 前編
主人公視点ではありません
はつゆきが消えてから、三日が過ぎた、
正人の手の中に残ったのは魔結晶のついたリングと魔法のポーチだけだった。
それを手にして彼は隔絶空間の中に消えていった、
皆はそれを見ていることしか出来なかった。
知らせを受けてヨウコが戻ってきたがその時には彼は空間から出てきていた。
「正人・・・話は聞いた。」
「ああ、彼女が身を挺してくれなかったら死んでいただろう。」
「・・・」
「次の襲撃があるかもしれない、それに備えなくてはな。」
「あっああ。」
「ウエスネスト(改)が心配だ、行くぞ。」
「わかった。」
いつもと変わらない彼だった。
だが、皆知っている、彼が時間の流れの違う空間内でどれほどの時間をすごしたのかを、
どれほどの涙を流したのかを。
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正人について来た女性陣は、ルアン王宮の会議室に集まっていた、
亜由美が発言する。
「普段どおりに振舞ってはいるけど見ていられない。」
「そうなのじゃ、どこかとは言えんがなにかが足りない感じじゃ。」
ミリヤムも気になっている、彼女は妊娠しているので傍に居なかったため余計に無念だったようだ。
そして、はつゆきが最後に言っていた「未来を変える」という言葉が話題となり、
その事を知るしらゆきが語りだした。
「{予見視}ははつゆきが元々持っていたスキルなの、
彼女が最初に召喚された時に、正人が戦う姿が見えた、
最初は自分をその戦いに使うために呼び出したのかと疑っていたみたいだけど
本当は彼が戦いに巻き込まれるビジョンだった。」
それがプラチナこと美奈との出会いだったわけである。
「その時に自分のスキルに気が付いたわけ、
そして神との修行でその力も強化されたの、
次に見えたのはコリントの時、あの魔獣の大群が押し寄せる事と、
自分がその魔獣に殺される事だったの。」
その言葉に言葉を失う皆。
「でも、そのビジョンは回避された、そう彼女のおかげで。」
そう言って美奈の方を見る。
「彼女が身を挺して護ってくれたので未来が書き換わったの。」
「そんな、私は夢中でやったことなのに。」
美奈は非常に驚いた感じであった。
「そこで彼女は、未来を書き換えるには代償が必要だという事に気が付いたの。」
「それがあれにつながるのね。」
クリスが頷く、彼女の行動が理解できたようだ。
「そう、彼女は正人が使徒にやられる姿を視たの、それを覆すためと言って、
皆に備えをさせた、そして私に{創神の修行}をしてくれた。」
はつゆきしか使えなかった力をしらゆきが使えたわけを皆理解した。
「でも、それは自分が身代わりになった後の事のためでもあったのよ!」
しらゆきの声と口調が変わった、激しさを内に秘めている。
「あの娘は私にも黙っていたの!自分がどうするのかを、でなければ私は、私は・・・」
下を向いたしらゆきの頬から涙がこぼれた、すずなみは「姉さま・・・」とぐすぐすと泣き、
他の皆も涙をこらえる事が出来なかった。
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しばらくたって、皆が落ち着いたころ、ヨウコが会議室に入ってきた。
彼女は師匠である上級神筆頭と交信していたのだ。
「どうでしたか?」
ルーダ女王の問いに、首を振るヨウコ。
「再召喚の方法は師匠でも思いつかないそうだ、まだ死人をよみがえらす方が簡単だと言われた。」
「やはり、{依り代}が必要だと?」
クリスが問う。
「そうだ、だが元の世界は融合で失われているしそれも出来ない。」
また、すずなみの持っている天羽々斬も召喚には使えなかった、
渡された時に所有者がすずなみに書き換えられていたからだ。
「ですが、オリジナルの地球世界ならどうなんです?」
美奈が諦め切れないのか問う。
「もう、はつゆき自体がいないんだ、用途廃止で解体されてしまっている。」
しらゆきが辛そうな顔で告げる。
「私の時のように出来ませんか?たしか大戦時の前世である初雪は・・・」
あやなみが自分が召喚されたときのことを持ち出した、
すでに解体されていた彼女は前世の自分が沈んでいたソロモン海で召喚されたのだ。
「ああ、ブインの沖にいるはずだ、だがあちらには行く事が出来ない、
行けば向こうの世界に何が起こるかわからないからな。」
「それに、あちらの世界からはつゆきさんを召喚してもはたしてそれは彼女なのでしょうか?」
クリスの発言に不審な顔をする者たち。
「あちらの世界と貴方達の世界は元は同じとはいえ別の道を進みました、
あちらの彼女がこちらのはつゆきさんでは無い可能性が高いと思います。」
その指摘に愕然とする皆。
「では?彼女はどこに?」
「戻る場所も無くさまよっているのか、もしくは消滅してしまったのか。」
「よしてください!」
ヨウコの発言に縁起でもないと声を荒げる亜由美。
「・・・ ・・・」
打つべき手が見つからず沈黙する皆。
ガチャリ。
扉が開いて入ってきたのはここにいなかった美月である。
「どうしたのぉ?みんなぁ。」
訳を聞くと自分の用件を告げる。
「若林さんがくるそうよぉ。」
話していると足音がして若林が入ってくる。
そしてこう叫んだ。
「みんな、はつゆきを召喚できるぞ!」
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