14話 悲しみの結末
残酷な描写があります。
途中から視点が変わります。
長くなりました、前後編にしようかと思いましたが、区切りにくいので
そのままにしてあります。
目の前の出来事がスローモーションで写っている。
光槍がアグサスの結界に刺さっていく、奴はあわてて結界を強化しているようだがもう遅い、
結界をじわじわと焼き切るように刺さっていき半ばまで刺さったところで結界が砕け散り、
奴の体の中心に槍が突き立った。
だが、俺はそんな事はどうでも良かった。
目の前で爆散したはつゆきの兵装の破片が地上に向って散らばりながら落ちていく、
そこに向けて移動していた。
リングに触れて魔力を送ると、虚空から現れたのは可変形ゴーレム、その飛行形態だ。
ゴーレムたちは空間魔法で格納機能を持っているから出来る事だ。
その背面にしらゆきと飛び移り機体を降下させる。
砕けた兵装の破片に向かう。
破片はキラキラと輝きながら光の粒子になって消えていく。
俺はその中に目指すものを探して突っ込んでいく。
そして見つけた。
頭を下にして落ちていく黒髪の彼女、はつゆきがそこに居た。
俺はゴーレムも蒼い魔力で覆い全速でそこに向う、
地表が大きく見えてきている、だが構わない!
一気に詰め寄り彼女の下に回りこみ、彼女を抱きかかえた。
すでに地表は目の前だがそのまま機体を水平にして地上に不時着する。
魔力の壁に地表が削られていく、そのまま地上を滑っていき止まった。
そして、腕の中の彼女がそこに居る事に安堵した。
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アグサスの結界に槍が刺さった時点まで戻す。
槍が刺さった時点ではアグサスは心配していなかった、
自分の結界に自信があったからだ。
だが、槍がじわじわと結界を貫いてきた時には驚愕した。
「ばかな!結界を破るだと!」
あわてて結界を強化しようとしたが手遅れだった。
結界にヒビが入ったかと思うと直後に砕け、槍が体の中心に突き立ったからだ。
「ぐわぁ!」
うめきながらも、槍を抜こうとした時。
「やらせないよ!」
上から叫び声が聞こえた。
「はぁぁぁぁー!」
気合を込めて刀を振り下ろしているのはすずなみである。
「裂空V字切り!」
振り下ろし跳ね上げる、刹那の斬撃で、アグサスの両手、両足を切り飛ばした。
「ぎゃぁぁぁぁあーーーー」
思わず悲鳴を上げるアグサス。
「さすが、姉さまの神剣。」
すずなみが使った刀は 天羽々斬である。
なぜ彼女が持っているのか?
それを明かす間もなく声がまた聞こえた。
「まきなみ、目標を撃ち砕く。」
アグサスの直上にチェインガンを構えたまきなみが引き金を引く。
ガガガガガガァガガガガガガガガガガガッがガガガガガガガ
吐き出される破壊の弾丸がアグサスを襲う。
「ぐわぁぁあああああああああああ」
無数の弾丸でズタボロになりながらもまだ生きていた。
さすが恐るべき生命力である。
「まだだ、まだ終わりはしない。」
そこへ。
「では、これで終ってもらいましょう(もらいます。)」
また声がして、光り輝くリングがアグサスを何十にも絡めとる。
{妖精乃輪斬!}
どうやら締め付けつつ輪切りにしてしまうという凶悪な魔法のようだ。
それを為した者が目の前に現れる。
「貴方がいかに神同様に強くあろうともこれで終わりですね。」
冷ややかに睨みつけているのはクリスである。
「そしてこれがとどめよ!」
{九字滅却炎}
周りに九つの青白く燃える火の玉を従えているのは九つの尾を持つ者、
天狐モードのリアンナであった。
火の玉がアグサスを取り囲み取り付くと一気に燃え上がり焼いていく。
「ぐぐぐ、見事だ・・・もうしわけありません・・・ここまでのようです。」
誰かに語るかのように声を振り絞るとその直後リングが締まり輪切りにしていく、
そして、槍が輝きを増した直後に弾け、粉々になった体を青白い炎が焼き尽くし、
後には何も残らなかった。
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腕の中に納まっているはつゆきは意識が無い様だ、
俺は魔力が枯渇しているであろう彼女に魔力を送り込みつつ、
治癒魔法をかけている。
彼女の腕輪についている魔結晶に輝きが戻り魔力が満たされた事を示した。
魔法のポーチの中の魔力石も満タンのはずだ。
もちろん彼女のほうも・・・
「変だわ、魔力が回復していない!」
しらゆきがあわてている。
「そんな馬鹿な!」
魔力は十分に送られているはずだ。
そこに、すずなみとまきなみ、クリスとリアンナが駆けつけた。
「彼女に送り込まれている魔力が抜けていってます。」
クリスが魔力の流れを視て言った。
「受け付けないほど弱っているのかも。」
「そんな、治癒魔法もかけているのに!」
「それも効いていないようです、魔法がすり抜けています。」
「姉さま!」 すずなみが叫ぶ、その声に反応したのか、黒髪の彼女の目が開いた。
「はつゆき!」
彼女は俺を見ていたが、一言ポツリと「良かった」と言った。
そこにテレーゼたちも駆けつけた、治癒魔法が効かないと知らされると。
「{森の癒し}を使います。」といってリアンナに目配せをした。
二人が同時に詠唱する、{森の癒しスクウェア!}
天狐モードのリアンナはいつの間にか森の癒しを使えるようになっていた、
二人で唱えるこの合成魔法は死後すぐのものならば生き返らせることも出来るのではというほどの魔法だ。
これなら・・・
「そんな!」
クリスが叫ぶ、「森の癒しが効かないなんて。」
周りに居た者たちの怪我が勝手に治っていった。
「魔法がすり抜けて周りの者達に作用しています、本人には全く効いていません。」
どういうことなのだろう?
呆然としていると、はつゆきが言った。
「限界以上に力を使ったから・・・でも後悔はしていない。」
「でも!それだと!」
「いいの、未来を変えるためには必要な代償だったのだから。」
「未来を変える?どういうことなんだ?」
それには応えずはつゆきは微笑んだ。
「私は願った、あなたを護る事を、そしてそれがかなえられた、嬉しいの。」
「そんな!いつまでも、ずっと一緒だと言ったじゃないか!」
「それが叶わないのは残念だけど、十分に幸せだった。」
そして、周りを見回して、言った。
「皆、正人のことをお願いします。」
「姉さま!」 すずなみが泣きながら叫ぶ。
「すずなみ、天羽々斬、大事にしてね、まきなみも、正人のことお願いね。」
「姉さま・・・」 まきなみの頬に二筋の涙が伝う。
「あんた、バカよ・・・こんなことをして、私だけ置いていくなんて。」
しらゆきが震える声ではつゆきに言う。
「ごめんね、でも貴方がいるから正人が護れた、ありがとう、これからもお願いします。」
そこまで言うと息が切れたのかため息を一つつき、正人の方に顔を向けた。
「ごめん、もう何も見えなくなってしまった・・・最後にお願い、抱きしめて。」
俺は彼女を抱きしめてキスをした、彼女は見えなくなった目から涙を一筋流し・・・
「さよなら」
最後にそう言った。
抱きしめている体が軽くなっていく、見ると体が光の粒子になって消えて行った。
そして、彼女はこの世界から消えた。
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