閑話 2 マサトVSグリーゼ 後編
今回も主人公視点ではありません
序盤の魔法による攻防はどちらも決め手を欠くまま膠着状態におわった。
そこで二人は自陣営の前に置かれた得物を手にして戦うことになる。
グリーゼは得意の槍を持ち、正人は刀を持って対峙する。
お互いの出方を伺う牽制の動きをしつつ打ち込む隙を探す二人。
場が動いたのは、皆が永遠にも感じられて、だが数分のことだったのだが、
どちらからともなく動きだした、そして間合いを詰めて打ち合う二人。
キィン! 正人の打ち込みをグリーゼが槍で受け流し反撃の回転を行う。
回転の勢いの付いた槍が正人を襲う!
正人は受け止めるが、 ギャリィン! 受けたまま飛ばされてしまう。
ウエイト差と獣人族との基礎体力の差が出た瞬間であった。
「おい、これなら・・・グリーゼ様の勝利だ。」
「やはり人族と獣人族の体力差はいかんともしがたいな。」
観客は口々にグリーゼ有利を口にした。
だが、正人は飛ばされつつも体勢を立て直しグリーゼの攻撃をいなしていく。
剛がグリーゼならば正人は柔といったところである、
怒涛の攻撃を凌ぎながら、逆に隙を突いて反撃する姿は観客を瞠目させた。
「やるな、あの人族の勇者も。」
「流石マサト様!感動です!」
正人を応援していた陣営が盛り上がる。
そのまま攻防がしばらく続いていたが、やはり決着は付かぬままであった。
「まあ、当然だけどね。」
亜由美は当然とばかりに言う。
らちが明かないと思ったか二人は魔力を纏って攻撃体勢に持っていくつもりのようだ、
両者とも蒼の魔力を身に纏いナックルガードを発動させて得物を手放す。
刹那、中央で激突する二つの蒼い輝き、そして闘技場の中を狭しと飛び回りつつ打ち合う、
だがどちらも有効な打撃を与えられない。
グリーゼが打ち出した拳をマサトが叩くようにして迎撃する、
反動で体制の崩れたグリーゼの背後に回りこみ拳を打ち込もうとするも、
グリーゼは前に逃れつつ体勢を立て直し拳同士が打ち合わされる。
そして打ち合うたびに魔力の奔流が障壁を震わせる、
観客たちは不安を覚えつつもこの後に起こる事が気になり、席を立つものは居ない。
「やはり、らちがあかないな。」
どちらともなく言葉を発し魔力の出力を上げていく、
蒼の魔力の上に金の魔力が集まっていく。
「あの技は妾と対戦したときよりも強力だ、一気に方をつけることにしたいらしいな・・・」
ミリヤムがつぶやくとその時の所を見ていないカチヤが不安げにしている。
ミリヤムは微笑むとその肩をそっと叩いた、「心配ない、あれは演出だ。」つまりは見せかけの
攻撃だと言っているのだ。
そして、金色に染まった魔力を纏った二人は闘技場の中央に向き合う形で互いの拳を打ち込んだ。
「「マジック・バースト!」」
直後に結界の中は金色の光に溢れ、振動と共に轟音が闘技場全体に響いた。
観客からは悲鳴や怒号が起こる、「何が起こったんだ!!」ある観客の叫びは闘技場の皆が感じていたものだった。
行き場のなくなった金色の魔力は結界の天頂部分を突き破り噴き出した、その様は金色の柱が天に向ってそびえているように見え、遠くの町からも良く見えたという。
結界の中は光で見えなくなっていたので周りの者たちは中の二人がどうなっているのか判らなかった。
やがて光が薄れると拳を打ち込んだ体勢のままの二人が見えた。
「「ここまでだな。」」両者が同時に言葉を発し、構えを解く。
これ以上は両者とも戦えないという事の表明であった。
審判が「引き分け!」と宣告する。
そしてそのままの位置で両者が握手すると、会場は割れんばかりの拍手で覆われた。
観客は両勇者の健闘を讃え、皆立ち上がって拍手した。
それまで、いがみ合っていた者たちも肩を組み笑顔で勇者の名前を呼んでいる。
どうやら、ルアン、獣王国両方の考えていた方向にうまくいったようである。
VIP席に居た、両国のトップクラスの者たちが安堵の表情で顔を見合わせているのが見える。
闘技場の上に居る二人にコーナーに居た皆がやってきた。
「お疲れ様。」
はつゆきが二人に声を掛けると、二人はにこりとして「「ああ、うまくいったみたいだな。」」と答えた。
後ろの方では「よーし!これで総取りだ!」という声がする。
声の主はヨウコでどうやら勝負の結果の賭けに参加していたようだ。
正人たちは呆れたが、ヨウコは平気な顔である。
「こうやって資金を稼がないとロケットとかリニアとか作れないからな。」
その言葉通り、最初に国からの資金が出なかった事もあって異世界からの知識で作った物を売ることで資金を稼いでいたのであった。
そのために作ったヨウコが影のオーナーを勤める会社群はウエルネスト改の経済を牛耳る複合企業 (コングロマリット)と化している。
「たくましいと言ったらいいのか・・・」
リアンナがため息を吐きつつ言うと、「そうでないと神様らしくないですよ。」と、
テレーゼが笑いながら言った。
違いないとマサト=グリーゼも苦笑いをするのであった。
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