7話 蠱毒 (こどく)
主人公は出ていません
{神殿}の最下層にそれはあった、罪を犯した元の神々を収容する場所、
ここでは一切の力を使うことも許されず、体を氷漬けにされて動かす事さえ出来ない。
この地獄のような場所をいつしかコキュートスと呼ぶようになっていた。
そこに上級神筆頭が訪れていた、それは彼がよく知る者に直接問いただしたいことがあったからだ。
「おや?どうされました?」
首から下の自由を奪われ、
精神に異常を来たしてもおかしくない環境なのに平然としている彼に
内心舌を巻きながら、言葉を掛ける。
「結構元気そうだな。」
「見かけだけはね。」
「聞きたいことがあるんだが、いいかね。」
「なんなりと、答えられる事であれば。」
「他の神は退屈しのぎの娯楽だったのだろうが、なぜダークコロッセオなどに手を染めた?」
「それは、取調べの席で申し上げたとおり・・・」
「自分の育てた者たちがどの位の強さなのか知りたくなった。」
「その通りです、その誘惑に負けたんですよ、それとも別の見解がおありで?」
「もう二百周期前の話になるかな・・・まだ君が駆け出しだった頃、一つの世界が滅んだ事があったな。」
「覚えていますよ、昨日のことのように、確か近くの星の爆発の影響でしたか。」
「あの時君はあの世界を放棄した神に怒っていたな。」
「{運命}あいつはそれで片付けましたからね、{運命}だから滅んでも仕方がない、
助けられなかったと言い切りましたからね。」
それまで、微笑んでしゃべっていた彼の顔はいつしか怒りの色を含んでいた。
「そのとき君は言っていた、強くあらねばならない、強くしなければってね。」
「よく、覚えていましたね。」
「今回の真実はそこにあるんじゃないのか?」
「・・・ ・・・」
「君はあの時の事を・・・」
「ははっ、やはり隠し事は出来ませんね。」
「・・・ ・・・」
「その通りです、これは{蠱毒 }なんですよ。」
「どういうことだ?」
「彼らを強くしなくてはいけない、たとえ神が見捨てても生き延びられるほどには。」
「そのためには、戦わせ、勝ち抜いたものたちを集めてさらに強くする。」
「狭い世界に押し込めて争わせ、生き残ったものをさらに鍛える。」
「そうすれば、管理神が居なくても彼らは生きる事が出来る。」
「お前・・・」
「おかしいですか?でも僕はそれしかないと思った、この世界で彼らが生きていくためには、
自らを強くしてこそだという事を教えたかった。」
「なぜ、私に相談しなかったんだ、もっとより良い方法があったはずだ。」
「貴方は僕のよき友人ですが、考え方は古くて相容れません、相談すれば、
きっと貴方は止めたでしょう、僕の計画を。」
「ああ、友誼と職務は別物だ、私が知っていれば、全力で止めただろう。」
「ですよね、だからこそ僕は貴方を友人に持てて良かったと思ってます。」
そう言って微笑む青年、筆頭は表情を変えないようにするのを苦労した。
「そうか、ではもう何も言うまい、残念だ。」
「僕も残念です、あとすこし、もう少し、強くしたかった。」
「・・・ ・・・」
筆頭は踵をかえして帰ろうとして、立ち止まった。
「今度のダークコロッセオの予定地だが。」
「?」
「二百周期まえに滅んだあの世界だったんだ・・・知っていたかい?」
「・・・知らなかったですよ。」
「そうか、あの世界はいま新しい管理神が再生させているところだよ。」
「!」
「彼はやってくれると思う、君が望んでたどり着けなかった場所に。」
「・・・ ・・・」
そうして筆頭が出て行き、静寂に包まれる。
「世界を再生・・・彼か。」
そのつぶやきは誰も聞くことはなかった。
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