9話 魔獣
出てきたのは・・・よくいる奴だ
それは、魔力の柱といったほうがわかりやすいか、
小高い丘の向こうに赤黒い光の柱が見える。
アミィがそちらに駆けていく、俺もそれについていく。
「はい、はい、了解です、対象の確認を取れ次第又連絡します。」
アミィが通信機みたいなものでどこかと連絡を取っている、
応援を呼ぶらしい。
そして俺が付いてきてるのに気が付き、振り向いて言った。
「先輩は避難してください、危険です」
「なにがあったんだ?」
「おそらく魔獣が現れたんです、ここからは私だけで行きます、先輩あとで又話しましょう、では。」
そのまま前を向きおそらくは身体強化魔法を使ったのかものすごいスピードで向かっていく。
(魔獣については情報があるよ)
はつゆきからだ、会話からすぐに調べてくれたらしい。
(文字通り魔法特性をもつ獣で大概は凶暴で理性がない、
何より固有の魔法攻撃をしてくる危険な生き物と定義されている。)
そんなものがいるのか、知らなかったな。
(魔獣の存在は秘匿されてるみたい、世の中が混乱しないようにしてるのかも)
なるほどね、相当やばい代物なのね、来るなとは言われたけどほっとくわけにもいかないな。
(気をつけて、こちらも急行するから。)
(わかった、目標を見たら解析頼むな。)
身体能力強化をかけて俺もアミィの後を追った。
丘を回りこんだところで見えたのはブルーの髪をなびかせ蒼を基調とした
コスチュームを身に纏った少女
魔法少女アミィがこちらに背を向けて立っている、
その向こうに見えるのは・・・
ヒグマを二回り大きくしたような巨体に爛々と輝く赤い目そして頭部には犀のような角、鋭い牙を見せつつそれは咆哮する。
「グウワワワワワォォォォンンッン」
(なんだ?アレが魔獣?めちゃくちゃやばそうなんですけど)
(国防軍ライブラリ照合中、適合1、 名称、 (仮称)ベヒモス )
何で(仮称)なんだと突っ込みしつつも、
アレはいくらなんでもやばすぎると思った。
アミィはどこかに報告してるようだ、
「ええ、ベヒモスです、応援は? えっ!そんなに!間に合いません!周囲には人家も!」
どうやら応援がすぐには来ない感じだな・・・
「でも!何もしないわけには!はぃ!!!!!」
ベヒモスがアミィへ突進してきた!
アミィはこちらの方へ跳び避けた、避けたところにベヒモスの巨体がダイブする。
ズシィッィィィィィイン!!
飛び散る土砂に石も混ざり辺りに散乱する。
アミィと目が合った!
「先輩!何で来たんです?!早く逃げてください、!」
「アミィはどうするんだ?増援はまだなのか?」
「私はこいつを食い止めます、それが任務です!増援は早くて2時間はかかります、だから早く逃げて!」
2時間、絶望的な時間だ、その間にベヒモスは周りを破壊尽くしてしまう、
学校も近いし少しいけば団地がある、間に合わないだろう、
だが自分に出来ることは少ない、
人気のない山の方に逃げてベヒモスを誘導するしかないだろう、
おそらくアミィもそうするはずだ。
俺は来た道を戻り始めた、アミィも俺と同じほうに向かい途中で振り返ると腕を前に突き出した、
「氷結の礫よ敵を打ち据えよ、(氷礫!)」
腕より噴出した魔力が氷の礫になりベヒモスに殺到した、ベヒモスの注意をこちらに向けるのに成功した。
礫の効果はないようだがベヒモスにはアミィがターゲットになったようだ、
俺が先行しその後をアミィが止まって挑発しつつベヒモスを山の中につれて行く、
このまま時間までいけるかと思ったところでアレは起こった。
ベヒモスの頭の角が赤く光り、焔が吹き上がる、
吹き上がった焔はまるで意思をもったもののようにうごめきながらアミィに殺到した、
気が付いたアミィが防壁の呪文で氷の壁を作るが、
焔は壁をやすやすと貫き、ベヒモスに背を向けて走るアミィの後ろの地面に着弾して爆発した!
「アミィ!」
吹き飛ぶアミィ、俺はアミィに駆け寄る、
「ひでぇ」
焔が着弾した時に飛び散った熱せられた土や石が背中に襲い掛かりコスチュームの防御を食い破っていた、
ひどい火傷だ、
「ヒール×10」
重ねがけしたヒールのショートカットを発動させて治療する、だが火傷はひどく治りは遅かった。
「せ・ん・ぱ・い・・魔法を?」
「しゃべるな!」
ズシン・ズシンとベヒモスが足音を響かせてこちらに近づいてくる、そして止まり溜めを作っている、
突進する気だ!
「シールド×複合×100」
トリガーを引く、
ベヒモスと俺たちの中間点に虹色の障壁が出現した、直後ベヒモスが突進するが、シールドがそれを阻む
今回は属性の違うシールドを100枚重ねたせいか、防ぐことが出来た。
そしてベヒモスの周囲すべてにその障壁を張り巡らせた。
さらに俺は荷物の中からCCPペーパーの束を取り出し、袋を破って投げた、
A4用紙が撒き散らされる、俺は魔法のショートカットを発動させる。
「木の葉旋風×氷結×50」
旋風がベヒモスを覆い巻き上げられた用紙が氷結で凍りながらベヒモスにまとわり付いていく、
凍りついた用紙はベヒモスの目を耳を覆い隠しさらに凍っていく。
さすがに50重ねがけすると体内の魔力が出て行くのがわかるのだが容量の底は知れない、
いまさらながら、自分が怖い。
グゥゥゥゥゥゥゥリュゥゥゥゥ・・・・・・
バキバキに凍ったベヒモスがうなる、もっともこれでもわずかしか足止めは出来ないだろう。
(はつゆき!SSMを打ち込んでくれ!全弾最大出力だ!)
(了解!マーカーを打ち込んで!すぐに発射する。)
はつゆきに頼んだのは艦対艦ミサイルハープーンだ、
カタログ上では120キロ以上の射程を持つ、
はつゆきの装備の中では最大の切り札だ。
いかにベヒモスとてこの攻撃には耐えられまい、
照準を定めるマーカーをベヒモスの頭部に打ち込む、
ベヒモスの頭部に淡い光が点いた。
だが、ベヒモスは攻撃を受けるのを察したのか結界を発動する、
赤く輝く結界がベヒモスを包む。
「あれでは・攻撃が・・・通らない」
アミィが喘ぎながらしゃべる。
「結界を壊す!」
俺の現時点での切り札を切ることにした、「こういうこともあろうかと」
作っておいたショートカット、
だが俺の持つ魔法力が尽きればそこで終わりだ、
だが、やるしかない。
「光弾×1000×100」
初級魔法の光弾はせいぜい下級のゴースト位にしか効かない魔法弾だがそれを1000重ね、
100ほど出現させる。
ものすごい勢いで魔力が吸い出されていく、ふらつき片ひざをついてしまう。
「先輩!」
アミィが叫ぶ、だが大丈夫だ、賭けに勝った、
大量に魔力は放出したが枯渇しなかった、
俺の周りには100の光弾、重ねがけされ圧縮されたその一つ一つの中は光が渦を巻いている。
(SSM着弾まであと10秒!)
「いっけー!」
放たれた光弾はベヒモスの結界に突き刺さっていき、 バキィィィィィィィィ!と
結界を破壊した。
直後にベヒモスの上空から降ってくる白い長槍、
はつゆきの放ったそれは音速の速さで寸分狂いなくベヒモスに突き刺さっていく、
ハープーンの爆発でベヒモスの周りを巡らせたシールドの中は溶鉱炉のようになり追加のシールドを出す羽目になった。
ベヒモスはその中に沈んでいく、すでに頭を爆砕されて死んでいるようだ。
周りが火事になってはまずいので結界上空から大量の水を落とす。
火が消えた後はベヒモスだった黒い消し炭が残った。
それも細かい粒になって消えていく、
「魔獣は死ぬと魔素に戻ると言われています・・・もう・安心・・です・・・」
アミィはそれだけを搾り出すように言うと、気を失った。
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次回投稿は5月10日18時の予定です。