13話 リアンナの戦い
主人公視点ではありません。
リアンナと対峙しているマルクラージはリアンナが、
魔族の魔法で従者を倒したのを見て驚いたようだった。
だが、すぐに気持ちを切り替えたのかにやりと笑って話す。
「従者を殺っていい気になっているようですが、所詮物まねの魔法、
魔将たる私には通じない理屈です。」
そして、懐から黒い球体を複数出して回りに浮かべる。
「さあ、私を倒せるならばやってみるがいいでしょう。」
リアンナはその声に触発された訳ではないが直ちに魔法を行使した。
{雷撃} 稲妻が魔将に放たれた。
稲妻は魔将に迫り命中するかと思ったとき、浮いている球体が赤黒く光り、
稲妻はそれに惹かれるように軌道をそらし、球体に命中した。
球体は稲妻を飲み込んでしまった。
「これは!」
「ふふふ、貴方の魔法が優れていてもこの{暴食者}がある限り効きませんよ。」
リアンナはその名前を聞いて思い当たる事があった、
それはギリルの記憶、ここに来る前の(戦場)で聞いた言葉。
ギリルがこの世界に来る前戦っていた場所で、
戦いが終盤に近づいていた頃の事であった、
敵の勇者たちがこちらの本陣に最後の切り込みを計った時、
その迎撃に{暴食者}が使われその甲斐あってついに勇者たちを討ち取ったと聞いた。
その兵器がこれであったのか。
「さて、そちらの攻撃は封じましたので今度はこちらの番ですね。」
マルクラージは魔法で真空の刃を飛ばし、リアンナを撃とうとした。
それらをかわし、弾きながら今度は{刻槍}を繰り出す、
受け止めた得物を砕くこれならばいかに{暴食者}でも・・・、
だが、槍はそれに触れた時に消えて、吸い込まれてしまった。
「これでもだめなのか?」
リアンナは心が折れそうになるのをギリルがかろうじて支える状態になった。
「まだ、戦える!」
今度は腰の剣を抜き魔将に迫る、魔力を込めた剣が先ほど雷撃と刻槍を受けた{暴食者}に
触れた時に、剣の魔力が一気に無くなったのである。
そして魔力を食べた{暴食者}はヒビが入ったかと思うと砕けてしまった。
(どういうことだ?)
どうやら吸収できる魔力に限界があるようだ。
浮いている{暴食者}は八つ。
(ならば、あれを行えばすべてを倒す事が出来るはず。)
だが、その魔法は未だリアンナが成功させた事の無い魔法。
以前里が襲われた時に使おうとしたが失敗し、彼女は魔族に捕まってしまったのだ。
その記憶がフラッシュバックして、彼女を苦しめる。
そこに、現れたのはギリルの精神だ、(今は私が居る、今度は出来る!)
そう、自分はもう一人ではない、二人の力をあわせればきっと出来る。
彼女はキッ!とマルクラージを睨み、魔法の準備をする。
飛んでくる風の刃を潜り、彼女は詠唱する。
(比類なき力を持つ先祖の霊に祈る、我に力を与えたまえ、何者にも負けぬ力を!)
リアンナの周りに魔力が集まっていく。
「そんなことしてもすべて吸い込んでやるわ」
そういって構える魔将。
そして、リアンナの魔法が発動する、{ノイン・シュバンツアクセラレート}
直後リアンナが光に包まれた。
地上でその光をみた亜由美が正人に言った、
「リアンナが!」
「大丈夫だ、彼女にはギリルが付いているから成功するさ。」
光が収まった後に居るのはリアンナだった、
見たところは変わりがない・・・と思われたが、
彼女の背後にあるものが変化していた。
それはしっぽである、一本であるはずのしっぽが増えていたのである。
「九尾?」
「そうさ、彼女の本当の力、あれがリアンナの切り札だ。」
九尾を持つ狐、天狐がリアンナの本当の姿といっても過言ではない。
この世界は複製され、改造された世界ゆえに獣人など人族から改造された者たちは、
ヨウコが適当に作ったと思われがちだが、
実は異世界に存在する獣人などのデータを基に変更されており、
そのオリジナルとなんら変わらないスペックを持っている。
リアンナの居た里ノースウルペースは天狐の流れを汲む獣人で、
稀に「先祖帰り」と呼ばれる者が生まれる事がある、
神官を両親に持つリアンナもその素質を持って生まれてきていたのだ。
「いざ、参る!」
リアンナは、剣を構え気を練る。
周囲に集まった魔力が収束し九つの球体を形成する。
球体はスパークを飛ばしながら圧縮されてついにはソフトボール大くらいまでになった。
「ぐぬぬぬっ、それしきの物{暴食者}に食い尽くせぬものは無いのだ!」
マルクラージは吼え今度は火球を飛ばす。
それらはすべてリアンナに届く前に球体に弾かれて行った。
そして、リアンナは一気に球体を飛ばし、マルクラージに肉薄する。
{暴食者}を盾に守りを固める魔将だが、
球体が触れると、{暴食者}は脆くも砕けてしまった。
「まさか!そんな馬鹿な!」
「消えろ!!」
剣を一閃し、魔将と交差するリアンナ。
「馬鹿な!お前はまさか・・・ギリル?」
ここに来てマルクラージは気が付いた、剣さばきと使った魔法、そして・・・
彼に突き刺さった九つの球体から感じた魔力の質。
「もう、その名前の者はいない、ここに居るのは、リアンナ・マリス・ノースウルペース。」
「私の負けのようです、無念。」
マルクラージに一筋の線が走りそこから体がずれて行き二つに別れた。
そして、突き刺さった球体が光り弾けた後には、
何も残らなかった。
リアンナの勝利である。
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次回投稿は8月5日19時の予定です