9話 ハーミットの森
隠者の森は森大陸の中央部に広がる原生林のことである。
森林資源と森の中央部から流れるハーミット大河の源流はこの森の豊かさを約束している。
これだけ豊かな森なのにここに住んでいるのは中心部にいるエルフたちだけである。
そのほかの種族は回りに里を作り森の周辺部で活動しているようだ。
エルフ以外の種族が森に入らないのは、
入るとどんな優秀なハンターや冒険者でも道に迷ってしまうからだ。
それだけ、ここの森の中心部にあると言われるハーミットに到達するのは容易な事ではないのだ。
しかし、そんな常識を覆すのは森の中心部にあるハーミットの里に向う俺たちだろう。
「やっと完成したぞ、時間結構かかったけどね。」
タブレット形携帯端末を掲げてやってきたのはヨウコである。
そう、衛星写真を元にMAPを作り導きの星(GPS)で現在地を教える、魔道具である。
見ると森林に囲まれた都市の衛星写真が映し出されており、そこに光点が点滅している、
そこが、現在位置を示しているわけだ。
そして、隠者の森の中心部に向けてなぞっていくと、
丁度中心部に何か周囲の森とは違うなにかが映っている。
「なんだ、これは?」
「これだろ?これはな・・・」 ヨウコはにやりと笑うとすこしもったいぶってからしゃべった。
「世界樹だ。」
「なんだって?」
「エルフ、特にハイエルフの居る里だ、あって不思議じゃないだろう?」
「まあ、お約束の類だよな。」
全く油断も隙も無い世界だ、
ファンタジーを全力で主張しながらリアル世界の物が持ち込まれ過ぎていて、
カオス世界と化している。
そう言うとヨウコが呆れた顔をして言った。
「護衛艦たち連れてきといてそんなことしれっとよく言う!」
失礼な!スカウトしろといったのはお前だろ!
言い争っても誰も得をしないのでスルーして世界樹の話に戻す。
「結構回りより高いみたいだな、どのくらいの高さなんだ?」
「この写真では正確な高さはわからない、切り替えないとな」
そう言ってヨウコは端末のアイコンを押して画面を切り替えた。
真上からの写真が俯瞰した写真に切り替わる、
すると周りの森から突出する世界樹が良くわかる。
さらに、画面の色が紫に変わると俺は思わずうなってしまった。
「世界樹が天まで伸びている。」
「そうだ、今の画像は魔眼モードで写した写真だ、
あの樹は見た目はほんの少し回りより高い樹だと誤認させているが、
実際は衛星軌道まで枝葉が伸びている。」
誰がそんなことと言いかけて、間違いなくエルフたちの仕業だと気づいた。
よほど自分たちの里によそ者を連れてきたくないらしい。
「今回は私も行くぞ。」
ヨウコがそう宣言する、エルフに色々聞きたい事があるそうだ。
「そういや、この世界の異変の原因解決はどうなったんだ?」
そう、魔獣をいくら駆逐しようが、
大本である世界の歪を直さねばこの世界は、いずれ崩壊する。
「そのためにも彼らの協力がいるんだ。」
彼らの協力?
「あの世界樹がキーなんだ、この世界の歪みの原因は、
世界を循環している魔素などの力の流れがおかしくなっているからだ。」
「そのために、ホットスポットが出来たりして魔獣が湧いたりするんだ。」
「最終的には歪んだ力が決壊して地表に噴出し、世界は滅んでしまう。」
「対策としては、力の流れを制御する魔道具を内蔵した杭を地下に打ち込んで
流れを正常化する方法をとる予定にしている。」
「だが世界樹があれば、その制御が非常に楽になる、
もともと世界樹は宇宙から魔素などを集めて根に送り、
地表の力の流れを制御してその世界の豊饒に寄与する存在だからな。」
「ハイエルフたちはその世界樹とある意味共生関係にある種族なんだ。」
「彼らの協力が得られればこの世界の修復は完全になるだろう。」
それは是非お願いしたいところだ。
「杭を打ち込むところも例の魔眼で写す衛星写真で決定する事になる、
杭とそれを打ち込む魔道具も完成してるから、こちらの話が決まれば早いぞ。」
「じゃあ準備出来次第出発だな。」
俺はみんなにその事を伝えに行くのであった。
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二日後の朝俺たちは出発した、
オルスタヤードから隠者の森までは整備された街道があり、
魔導車が行きかっている、俺たちも用意した車で街道を進んでいる。
車内ではリイナさんがなぜか俺の隣にすわり体を預けている、
どうしてこうなった?
「隠者の森について情報をお伝えするためです、
けっ決してやましい事はありませんから!」
と、言ってるけど耳はぴくぴくさせてるし、しっぽはぶんぶん振れている、
でもネコ耳にネコしっぽなのに犬のような喜びようなんだ?
(気にしたら負けだ。) ヨウコ、お前が言うか!
「この調子で行けば、森の最外郭部へは十二時間位でしょうか。
そこにある町で一泊して森に入ります。」
途中休憩をしながら進む事になる、これならオスプレイの方が早かったか?
(そう思ったんだけど、降りれそうな場所がなかった。)
ひゅうががそう答える、ヨウコと例の端末で写真を解析したところ、
上空からはそのような広場らしきものがなかったようだ。
まあ、あせらず行こうか。
ふとリイナの反対側の席に座っているはつゆきを見るとにこっと笑って言った。
「エルフの里の世界樹ってどんなのか楽しみ。」
そうだな、行ってみてのお楽しみだな。
俺は流れる車窓をから空を見上げながらそう思った。
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