序説 過去・望 ~彼の黒歴史メモリー~
そこは死の世界だった。
骸。骸。骸。
骸の山。少年にとっての地獄がそこに存在した。
兎、鹿、熊。
少年が愛したそれらは皆全て物言わぬ骸と化していた。
そして少年自身もまた、その列に加わろうとしていた。
流れだす生命、その残量が尽きるまであとわずかの時間もないだろう。
少年の胸中を占めるのは恐怖・・・ではなかった。
それでは苦痛か・・・確かに感じるがどうでも良かった。
ならばなにか・・・憎悪。
悲嘆、苦悩、憤怒、諦観、絶望、そして憎悪。それらが混じりあった負の狂念。
少年はそれに満たされていた。
ああ、よくも奪ったな。大事だったのに。愛していたのに。もう戻らない。
どうしてこの手からすり抜けてしまったんだろう。ああ、決まっている。それは俺が弱いから。
許せない。許せない。許せない。何よりも自分の弱さが許せない。
この身が鬼であったなら、なくすことはなかっただろう。
ああ、力、力、力、力、力が、ただ力が欲しい。
そして少年の目に写ったのは、空を紅く染める己が最愛。
死の世界にもう一つの地獄が具現した。
そこには死の気配があった。
枯れ木の様な体。色のない髪。窪んだ眼窩。
まるで骸のよう。彼にとっての地獄がそこに存在した。
力のない手。か細い呼吸。力のない笑み。
彼の最愛に死の影が迫っていた。
そして彼の心にもまた同様に死の影が迫っていた。
流れだす生命、その残量が尽きるまであとわずかもないだろう。
彼の胸中にあるのは悲嘆・・・それもある、が弱い。
では苦悩か・・・それもある、が弱い。
ならばなにか・・・憎悪。
悲嘆、苦悩、憤怒、諦観、絶望、そして憎悪、それらが混じり合った狂念。
彼はそれに満たされていた。
ああ、なぜだ。大事だったのに。愛していたのに。・・・ことが出来ない。
なのにどうして・・・が出来ないんだろう。ああ、決まっている。それは私が弱いから。
許せない。許せない。許せない。何よりも自分の弱さが許せない。
この身が・・・であったなら、・・・をなくすことはなかっただろう。
ああ、力、力、力、力、力が、ただ・・・力が欲しい。
そして彼の目に写ったのは、・・・と呟く己が最愛。
彼の世界にもう一つの地獄が具現した。