番外編 卒業
華恋たちの卒業式のときの物語です。
時はこくこくと進んでいき、今日は私たちの卒業式。
私は2年生、3年生と首席をキープし続け、姫になることが確実となった。海斗は1年生から3年生までずっと首席だったから学園一の騎士になることが確実となっている。
「卒業生、入場」
そう先生が言い、卒業生たちは次々と入場していく。
本当に卒業するんだ。全然実感ないや。
卒業生が入場し終わり、第1部、第2部が終わって卒業生が退場する前まできた。
「では、今年度の優秀者を発表いたします。呼ばれた者は返事をし、ステージに上るように」
今年度の姫と騎士の発表だろう。
「今年度の優秀者、姫、3年A組、星名華恋」
「はい!」
私は返事をし、ステージへと上がった。
「騎士、3年S組、水瀬海斗」
「はい!」
海斗も返事をして、ステージへと上がった。
「今年度の優秀者は二人とも、学園の姫、騎士の一人となります」
私が学園の姫? そんなはずない。私、1年生のときこの学園にいなかったし。あとで理事長に聞いてみよう。
「では、二人にはこれを」
私はネックレス、海斗はピアスをもらった。
「学園の姫、騎士の証です」
こんなものまでもらえるんだ。
卒業式は終わり、私は理事長室へと向かった。
このネックレスは返さないと。
コンコン
「星名です」
「入りなさい」
「失礼します」
私はそう言い、中へと入った。
「来ると思ってたわ。学園のプリンセスのことでしょ?」
「はい」
理事長、わかってるってことは間違えたのではないのか。
「私は1年生のときこの学園にはいなかった。学園のプリンセスになれるはずがありません」
3年間首席を取り続けた者が学園のプリンセス学園のプリンセスとなる。ならば、私は確実になれない。
「転校してきた生徒なら、転校してきてからずっと首席を取り続ければ別に良いの。それに、あなたが転入するときに受けた試験、あの問題はね、1年生のときのテストの問題なのよ。それでもあなたが一番だった。だからあなたは学園のプリンセスに選ばれたの。別に間違えたとかじゃないのよ」
だからあんなに問題があったのか。今納得した。
「そういうことでしたか。突然来て申し訳ありませんでした。失礼します」
私は礼をして、理事長室を出た。
「お久しぶり。星名華恋さん」
理事長室を出たところで、聞き覚えのある声がした。
忘れるはずのない、あの人の声だ。
「どうかなさいましたか? 藤堂凛さん」
そう、そこにいたのは藤堂凛だった。
「ちょっと話がしたいんだけど、いいかしら?」
これから寮に戻らなくちゃいけないけど、すぐに終わらせればいいだろう。私も聞きたいことがあるし。
「いいですよ。私も、あなたに聞きたいことがあるんです」
私たちは中庭で話をすることにした。
「では、先に私の質問に答えてもらいます」
私は自分から話を切り出した。
「どうぞ」
向こうが話したいこととも関係しているだろうから。
「なぜ空港で、海斗を無理やりにでも連れて行かなかったんですか? あなた、海斗のことが好きなんでしょ」
あの日、海斗と少し会話をしてから彼女は日本を去った。好きならば、自分の傍にいてほしいと思うものだろう。
「丁度良いわ。私もそのことについて話そうと思ってたから、話してあげる」
やっぱり関係してたか。
「確かに私は海斗のことが好きよ。小さい頃からずっとね。私たちは幼馴染。小さい頃から仲が良かったわ。一時帰国したとき、海斗が私以外の女と契約してるって聞いてね。それであんたって知ったわ。だからあんたのことを調べたわ。何か脅せるものでもないかってね。でも、何にもなかったわ。あなたはこの学園に来てから、最初のテストでは首席を取り、他のクラスの連中に絡まれても自分でどうにかして。本当にすごいと思ったわ。でもね、だからこそあんたを許せなかった。だから海斗とあんたを離れ離れにしてやろうと思ったわ」
私は、すごくなんてない。藤堂さんのほうが、私よりも断然すごいと思う。
「海斗に私と契約してって頼んだわ。でもね、海斗は断ったの」
断った? だって、契約解除したじゃん。
「だから賭けを持ちかけたの。あんたとの賭けは、あんたを試すためのただの遊び」
やっぱり本気じゃなかったんだ。
「賭けの内容は、私が日本を発つまで私と契約をする。そして、私が日本を発つまでに、あなたが契約してと言いに来なかったら、そのまま私の執事として生活するというものよ。海斗はその賭けにのった。あいつは俺のたった一人の主だ。絶対に、俺のところに来るって、自信満々に言ってね」
海斗、そんなこと言ってたんだ。
「そしてあなたは空港に来た。もう少し遅かったら私の勝ちだったんだけどね。だから海斗を置いて日本を発ったの」
そういうことか。
「藤堂さんのことは苦手です。でも感謝してるんです。あなたのおかげで大切な人がどういう存在なのか知ることができたから。すっごく感謝してるんです。それに、藤堂さんは私の憧れでもあるんです。すっごく美人で、お嬢様って感じで、みんなの憧れの的で。すごいなって思ってるんです。それと、私、あの賭けで勝ちました。だから私の言うこと、一つだけ聞いてもらいます。絶対、幸せになってください。ならなかったら、本当に怒りますから」
幸せになってほしい。人間は、幸せになるために生きていると思うから。幸せを手に入れるために、生まれてきたと思うから。
「何それ。意味がわからないわ。言われなくたって、あんたよりも絶対幸せになってやるわよ」
いつもの藤堂さんだ。
「藤堂さん、私、まだこれから行くところがあるのでこれで失礼します」
「ええ、わかったわ」
すぐに寮へと向かった。
「華恋!」
寮に向かう途中、誰かに名を呼ばれた。
「瑠香! どうしたの?」
声のしたほうを見ると、瑠香が走ってきた。
「どうしたのじゃない! 親友を一人残して、勝手にどっか行かないでよ。探したんだから。華恋とまだ、いっぱい話していたいのに」
そういうことか。
「ごめんごめん。用事が済んだら瑠香のところに行こうと思ってたんだ。まだやることあるから、教室で待っててくれる? すぐに行くから」
「わかった、すぐに来てね」
「了解!」
私は瑠香にそう言い、寮へと走った。
私は寮に着き、自分の部屋の扉を勢いよく開けた。
「やっと見つけたよ、海斗」
式が終わってすぐに姿を消したから探してたんだよね。
「どうしたんだよ、華恋」
海斗、顔引きつってる。
「海斗に聞きたいことがあるの」
私は開いていた扉を閉めながらそう言った。
「もう逃がさないからね、海斗」
そう言いながら、私は笑った。
「海斗、イギリスに行くっていうのは本当かな。私、そんな話一言も聞いてないんだけどな。どういうことかな」
たぶん私の周りには黒いオーラが漂っているだろう。
「その話は、本当だ。俺は、お前を支えていくにはまだまだ未熟なんだ。だから、イギリスで5年間勉強して、お前にふさわしい人間になって、帰ってくる。だから、5年間、待っててくれ」
5年間……。
卒業は、自分の歩むべき道をより確かなものとしてくれる。自分の進むべき道を進んでいく、第一歩となる。海斗の進むべき道がそうならば、私は応援するよ。本当は、5年も待ってられない。ずっと私の傍にいてほしい。でも……。
「海斗、それはあなたの幸せにつながりますか?」
海斗が幸せになるためなら、私はいくらでも待つ。
「ああ、繋がるよ」
好きな人の幸せを、心から願ってる。
「わかった。それまでには、少しは星名グループのトップにふさわしい人間になっとくよ。いってらっしゃい」
私は笑顔でそう言った。
こういうときは、笑顔で見送らないとね。
「いってくる」
海斗はそう言って、私の横を通り過ぎて寮を出て行った。
その瞬間、私の目からは涙が流れた。
最近は泣いてなかったんだけどなあ。さて、次は教室に行かないと。
私は涙を拭い、教室へと向かった。
「瑠香、おまたせ」
私はそう言いながら、教室の扉を開いた。
もう卒業式が終わって結構時間が経ってるから、誰もいない。
「華恋ー!」
「瑠香!?」
瑠香が勢いよく抱きついてきた。
「瑠香、どうしたの?」
瑠香、いつもと声が違うような。
「華恋、もっと一緒にいたいよ」
瑠香、泣いてるの?
「瑠香、瑠香が私を呼ぶなら私はどこにいようと駆け付ける。何があっても瑠香の傍に行くから。会いたくなったら電話して。すぐに行くから。仕事があろうがなんだろうが、絶対に行くから。瑠香から来てもらってもいい。仕事中断してでも、瑠香の話聞くから。一日中だったとしても聞く。瑠香は、私の大切な人だから。瑠香は、私の一番の親友だから」
瑠香は、私の支えだから。
「そうだね。じゃあ、約束しよう。私たちはずっと親友。親友が困ってるときは、絶対に助けるって」
「うん、約束」
私たちは新たな約束を交わした。
人は出会いと別れを積み重ねて生きている。入学式は出会い。卒業式は別れ。
別れがあっても、人の気持ちまでを別れさせることはできない。むしろ、より強くするのかもしれない。私たちは悲しみと喜びを積み重ねることによってどんどん強くなっていくんだ。




