秘密特訓
もう2月へと入った。
2月……つまり、もうすぐ1年で最大のイベント、舞踏会が開催されるということだ。
舞踏会は、有名な会社・グループのトップ、その関係者が見に来る。だから自分の家系をアピールすることにも繋がる。
舞踏会では生徒たちがダンスを披露する。主と執事がペアを組み、華麗なダンスを見せた者にはスノープリンセスという称号が与えられる。
私は星名グループの次期後継者として、両親のように、強くて優しい人間に近づくために、スノープリンセスになる。
そう意気込んでいるのは良いものの、一つ問題がある。私は、一回もダンスをしたことがない。もちろんやり方なんて知らない。どうしようー!
「華恋、お前、ダンスやったことあんのか?」
痛いところをつかれた。
「ないです……」
絶対海斗馬鹿にする。星名グループの次期後継者がダンスやったことないなんて、星名家の恥だ。
「まあ、そりゃあそうだよな」
「えっ!?」
海斗、一人で納得してるし。もっと馬鹿にするかと思った。
「じゃあ、俺が秘密特訓してやるよ」
海斗はにやりと笑った。
この笑みは……嫌な予感がする。
「どうする? 華恋」
星名グループの次期後継者として、ダンスぐらいできないとだめだろうし。
「……お願いします」
私は頭を下げた。
嫌な予感はするけど、やっとかないと本番困るし。
そんなこんなで、次の日の夜から舞踏会まで毎日練習することになった。放課後だとまだ多くの生徒が練習しているため、夜にやることにした。舞踏会の2週間ほど前から会場である体育館は開いているため、出入りは自由となっている。
星名グループの次期後継者が全然ダンスできないなんて知られたくないし。
「華恋、行くぞ」
「うん」
私たちは体育館に向かった。
「じゃぁ始めるぞ」
そう海斗が言い、音楽が流れ始めた。
「1、2、3、4。1、2、3、4。1、2、うっ……」
あっ!
「ごめん……」
また踏んでしまった。
「別に大丈夫だ。お前は自分のことだけに集中してれば良いんだよ」
「うん」
「お前はもっと肩の力を抜け。もっと楽にしてれば良い」
そう言われても今は無理そうだ。だって、こんな近くに海斗がいるんだもん。私、やばいぐらいにドキドキしてる。心臓の音、海斗に聞かれちゃいそうだよー。
「海斗、痛いならもうやめよう。これ以上やったら海斗の足、もっと酷くなっちゃうよ」
これ以上、海斗に迷惑をかけるわけにはいかない。
「だが――」
「大丈夫だよ。まだ舞踏会まで時間はある。2、3日練習は休もう。もうすぐテストもあるんだし」
舞踏会の丁度1週間前に、今年度最後のテストがある。テスト結果は舞踏会の日に発表されるため、学園に訪れる人も見る可能性が高い。そのあとにダンスを見るとなれば、どのくらいテストと両立することができているのか、どっちを選んだのかを見分けることができる。それが学園側の狙いなのだろう。
「わかった」
海斗は不満そうな顔をしていたが、了承してくれた。
私たちは寮に戻って、それぞれ自分のやるべきことをやった。
私は先にお風呂に入って、そのあとにテスト勉強。
海斗はテスト勉強をして、私がお風呂から出たあと、お風呂に入って行った。
今の時刻は10時少し前。海斗、もう寝てるかな?
私は自分の部屋を出て、海斗の部屋の前に立った。
勝手に人の部屋に入るのは気が引けるけど、しかたない。
私は静かに海斗の部屋の扉を開いた。
海斗、寝てる。
私は扉を閉め、寮を出た。
向かった先は体育館。
この時間なら練習しに来る人もいないだろうから、練習しやすい。
「1、2、3、4。1、2、3、4。1、2、3、4」
結構できるようになってきた。
「こんな時間に何やってんだ?」
誰!?
私は声のしたほうに振り返った。
「海斗!」
なんで海斗がここに?
「寝てたんじゃないの?」
「寝てねぇよ。勝手に人の部屋に入りやがって」
うっ……。
「ごめんなさい」
確かにそれは私が悪い。
「じゃあ入った罰ってことで理由を聞かせろよ」
「理由?」
なんの?
「なんで怒ったのか」
えっ!?
「怒ってなんかないよ」
怒るわけないじゃん。
「怒ってるのは海斗のほうでしょ?」
「怒ってねえよ」
えっ!?
「だってさっき執事スマイルだったじゃん」
二人っきりのときは怒ってるとき以外しないもん。
「すまん。あれは怒っててやったんじゃないんだ」
「えっ?」
じゃあどうして?
「焦ってんだよ。お前の力になりたくてダンスを教えるなんて言っちまったけど、俺なんかの指導で本当に良いのかって不安になる」
海斗もプレッシャーを感じてたんだ。
「私は海斗だから頼んだの。海斗のおかげで結構できるようになったんだよ」
海斗は急に片膝を付いた。
「私と、踊っていただけますか?」
そう言いながら、海斗は私に手を差し出した。
「はい」
私は海斗の手を取り、踊った。
まだリズムが合わないところとかあるけど、でも、少しは上達してると思う。
「肩の力、もっと抜いて」
楽に。
「華恋、すっごく上手くなってるよ。合格」
頬にキスされた。
「何すんのよ!」
「ご褒美」
なっ……。私、絶対顔赤い。
海斗といると毎日がすごく楽しい。海斗といるとドキドキが止まらない。これが、人を好きになるってことなのかな。




