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離れ離れ

 藤堂凜が帰国してから、数週間が経った。

 彼女がフランスに行く日が近づくにつれ、ある噂が流れ始めた。

 『藤堂凜が海斗を連れて、フランスに行く』

 その噂について、多くの生徒がそれが本当か本人に聞いた。彼女の席は私の前のため、当然その答えも耳に入ってくる。

 『本当』

 それが彼女の出した答えだった。

 私は不安でいっぱいだった。

 海斗と長い間会えなくなってしまう。海斗が私の手の届かないところに行ってしまう。それが、すごく嫌だった。

「華恋、大丈夫? 顔色悪いけど」 瑠香が私の席へと来て、そう言ってきた。

「大丈夫だよ」

 私はにこっと笑った。

 本当は大丈夫じゃないけど、藤堂凜がいるところで大丈夫じゃないなんて、言いたくない。

「華恋、ちょっと屋上いかない?」

 屋上? まだ次の授業が始まるまで時間もあるし、大丈夫か。

「うん」

 私は自分の席を離れ、瑠香と一緒に屋上へと向かった。

「華恋、華恋は今、何がしたい?」

 何がしたい?

「どういう意味?」

「海斗様を取り戻したい? それとも、凜様が相手だから敵わないって言って、このままずっと会えなくなって、あとから後悔する?」

 後悔はしたくない。海斗とも離れたくない。でも……。

「海斗を取り戻したい。でも、どうすればいいかわかんない」

 海斗が契約を解除したのは自分の意思だろうし。

「華恋は、海斗様と一緒にいたいんでしょ? なら、その気持ちを素直に伝えてみればいいんじゃない? あとは海斗様次第。自分のやれること、精一杯やってみれば?」

 瑠香……。

「瑠香の言う通りだね。私、頑張ってみる」

 行動しないと、何も始まらないよね。

「私はいつでも華恋の味方だから。応援してるよ、華恋」

「うん。ありがとう、瑠香。もうすぐ授業始まるし、戻ろう」

「うん」

 私たちは屋上を出て、教室へと向かった。

 放課後になり、私は寮へと戻った。

 今日は大量の宿題が出て、明日までに全てやらなければならない。

 だが、いざ取りかかろうとしても海斗のことを考えてしまう。

「ただいま」

 私がリビングで勉強していると、翔が帰ってきた。

「おかえり、翔」

 私はペンを置いて、翔のほうを向いた。

「今日、華恋の当番だったよな?」

 あっ! 忘れてた。

「ごめん! すぐに作るね」

 すっかり忘れてた。

「華恋が忘れるなんて珍しいね。そこまで華恋の気を引くのは、あの裏切り者の執事さんかな?」

 「違う! 海斗は裏切ってなんかない」

 裏切ってなんか……ない。

「俺、海斗のことなんて言ってないんだけど」

 翔は満面の笑みを浮かべた。

 翔がそんなふうに言う人って言ったら、海斗しかいないじゃん。

「やっぱり、海斗のこと考えてたんだ」

「違う!」

「華恋が焦ってる。俺、華恋が焦ってるところ初めて見たよ。華恋、海斗のことが好きなんでしょ? 海斗が戻ってくるって、信じてるんでしょ?」

 翔の言う通りだ。私は海斗が好きで、契約が解除されたとしてもまた戻ってくるって、あの子どものような無邪気な笑顔を見せてくれるって信じてるんだ。

「私、海斗が好き。私、海斗がここを去る前に残していった言葉を信じてみたい。だから、ごめんなさい」

 私はそう言って、頭を下げた。

「華恋、顔を上げて」

 翔がそう言うので、私は顔を上げた。

「海斗は、戻ってくると思う。だって海斗、華恋と契約してから変わったから」

 変わった?

「どう、変わったの?」

 知りたい、私と契約する前の海斗を。

「海斗はね、自分が仕えるべき主を探してたんだ。でも、この学園にはそんな人はいなかった。だから、何か物足りなさそうな感じだったんだ。でも、華恋と契約してから毎日の学園生活を楽しんでるって感じになったんだ。表情豊かになって、いっつも華恋のことばっかり話してるんだ」

 私のことばっかり。

「海斗は、もし自分が仕えるべき主が見つかったら、その人に、『My Lord』って言葉を伝えるんだって。それを伝えた人だけに仕えて、一生傍にいるって」

 My……Lord。そんな意味が込められてたんだ。

 私はその場で、涙を流した

 海斗、大好きだよ。私は、あなたのくれたこの言葉を信じてるから。

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