ふさわしい人間になるために
「なんで……なんでいっつも、私が泣いてるとあんたが来るのよ。この学園に来てから、なんで一人で泣けないのよ」
この学園に来る前は、いつも一人で泣いて、次の日にはリセットできてたのに。今は、できない。
「俺が、お前の執事だから。お前が泣いてるなら、一人で抱え込まないように傍にいる。お前が困ってるなら、何があっても助けに行く」
意味わかんない。どうして、私なんかにそんなことするの?
「いい迷惑よ」
そんなの、迷惑なだけだ。
「その言葉は、ありがとうということにしとくよ。意地っ張りなお嬢様」
なんでもわかっちゃうんだ。こいつの前じゃ、私の癖も意味なさそう。良いのか悪いのか、わかんないや。
「お前、実家に電話したけど帰ってくるなって言われたんだろう?」
なっ……なんでそんなことが!?
「なんでわかんのよ」
当たってるけど、正直に言うのは嫌だ。
「そう言うってことは、図星だな。本当、お前ってわかりやすいな。まあ、お前の泣きそうなことぐらいわかるからな」
何者だよ、こいつ……
「どうしたら、祖母に認めてもらえるかな? 何もしないよりは、良いと思うから」
行動しないと、何も始まらない。
「一番良いのは、姫になることだな」
姫?
「何? それ」
「この学園で、1年間ずっと首席を取り続けた者のことだ。普通科では姫、執事科では騎士と言われる。3年間ずーと首席を取り続けた普通科の生徒は学園の姫の一人に、執事科の生徒は学園一の騎士の一人になれるんだ。言っておくが、普通科はAクラス、執事科はSクラスの首席を取った者だけだからな。他のクラスの首席は姫、騎士にはなれない」
なんかすごそう。
「姫になれば、その家系の評価を上げることができる」
じゃあ、これから2年間ずっと首席を取らないといけないの?
「あとは、2月に行われる舞踏会で、スノープリンセスになることだな」
スノープリンセス? 舞踏会?
私が首を傾げていると、海斗が呆れたような顔をしながら答えた。
「舞踏会は、1年で最大のイベントだ。そのため、有名な会社・グループのトップが見に来るんだ。その舞踏会で良い成績を残した者が、スノープリンセスになれる。自分の家系のアピールにもなる絶好の機会ってことだ」
大変そう。
「今からやるなら、テストで良い点をとることだな。夏休み明けにはすぐにテストだから、勉強も頑張らないとな」
ん? 今、テストって言った?
「この前終わったばっかりなのに?」
そんなすぐにテストなの?
「言ってなかったか? この学園のテストは、6月の下旬、9月の上旬、11月の中旬、2月の下旬にあるんだ」
嘘でしょー!?
「1回目のテストで1位をとったとはいえ、油断してたらすぐに落ちるぞ」
最悪だ……。
「夏休みも長いし、大丈夫だろう?」
確かに夏休みは長いけど。
「頑張る」
まあ、どうせやるなら自分の最高を出さないと損だし、頑張るとしますか。