第一章-3
ロギゥは無数のゴブリン群れを一人で向かい撃っていた。
「ハァハァ…ッ。」
目の前の一体を切り伏してもすぐ前から粗末な作りの斧や剣などが振り下ろされてくる。
幻術だとわかっていても心が折れそうになる。死んだほうがましなのではないかと幾度となく思う。
切っても切っても数が減ることはない。これを本当にクナタクトはすべて葬ったのだろうか?
しかし、生きているということは事実なのだと、目の前の光景とは少し遠い場所で思考する。
すでにロギゥの手には剣はなかった。
ナイフとこぶしを使い、敵の剣をいなし・奪い・投げ・殺す。
返り血として浴びた最初に殺したゴブリンの体液に感じた不快感もすでに無くなっている。
どうすれば生き残れるのかなどという計算された思考もすでに無くなった。
ただ効率よく殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す…
ナイフの軌道はより洗練され、疲れているはずなのに一撃で魔物を葬る。
敵の攻撃をより体力と衝撃の少ない方法で避ける。
単純作業のように殺し続ける。
体からはゴブリンの血と汗で塗れ、混じり合って滴り落ちる。
体は熱くなり、よりこぶしとナイフは鮮明な線を描く。
イメージと自身の動きがシンクロされ、狙いどおりに体が動く。
だが、3年前。あの森で感じた熱を感じない。生命が燃えるようなあの感じに、
体は熱いしかし、頭が冷めていた。
冷静になっているのではない、冷めているのだ。
これが幻術だとわかっているからなのか?
それでも、切られれば、殴られれば痛みを感じる。
より深くあの時を思えば思うほど、遠くに感じる。
ただ襲ってきて沈む魔物たちを目を通して脳で見るように、冷めた頭で感じていた。
(魔物が弱いからか?)
しかしロギゥはそれも否定する。
初めて何の知らせもなく幻術ないでドラゴンと対峙した時もあの熱は感じなかった。
フールリザードよりもはるかに強かったにも関わらず。
感じられない・・・。
「まさか、あれをクリアするとはのぅ」
ロギゥたちは、火を囲み夕食をとっていた。クナタクトから称賛の声を与えられるが、ロギゥの顔はすぐれない。あの森での感覚が結局はつかめなかったのである。体と頭は疲れていたが、それよりも心の虚脱感のほうが勝っていた。約3時間は剣を振っていたし、体中の筋肉が悲鳴を上げていた。
それでも、わからなかった。強くなる感覚がなかった。
あの森以来、自分が強くなっているという感覚が無くなっていた。
3年間で力もついた。技術も知識も比べられないほど詰め込んだ。
それでもあの時の自分には到底及ばないと感じられた。
ロギゥはその感覚を引きずり続けていた。