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プロローグ4

血抜きまで終わったロギゥは先ほど剥いだウサギとベルゴウムが狩ってきたシカの皮をなめす為にまず、皮についている微小な肉などを全て削ぎにかかった。なめすのはかなり時間のかかる作業であるが、もう何度もやっているロギゥは手際よく削いでいく。これがついたままだと良いなめし皮ができないのである。


「ベルゴウムはさ、なんでそんなに強くなったの?」


皮の削ぎ落しもひと段落ついたところで、ロギゥがそんなことを言った。


「おーどうしたんだ、いきなり。」


ベルゴウムはシカを追うときに特に魔法も使った様子もなく、純粋な身体能力だけで狩りをしている。それがわかっていたロギゥは自分の境遇のことを考え、どうやったらベルゴウムのように強くなれるのかを知りたかったのである。


「いやさ、ベルゴウムは魔法も使っていないのに強いから。僕もそういう風になれるのかなって思って。」


ロギゥが魔法が使えないことを知っていたベルゴウムは少し考えたような顔をしていった。


「なんでそんなに強さを求めるんだ。」


質問を質問で返された、ロギゥはそのベルゴウムのまっすぐな視線に射抜かれたような緊張を覚えたがそれでも答えた。


「僕は魔法が使えないから、他の子供たちみたいに、父さんや母さんを魔法使いになることで助けてあげられないし…。今だって、僕が弱いせいで心配をかけている。強ければ…自分の身を守れるくらいになれば、父さんや母さんだってもう泣かずに済むのに。そんな姿を見ていて僕は苦しいんだ。それに…」


ロギゥは別に人を傷つけたいわけではなかった。自分が散々魔法の実験台にされ怪我をさせられたが、それを特に怨んではいなかったロギゥ。さすがに、一緒なって遊べと言われれば抵抗があるが、別に敵意を持っているわけでもないし復讐したいとは微塵も思っていなかった。


「それに…なんだ。」


「強ければもっといろんな場所に行けるし、世界を見ることができるから…ベルゴウムが一人で行っている森の奥にだって興味があるんだ。でも僕じゃ行けない。だからもっと強くなればいろんなものを見られると思うんだ!」


「世界が見たい」それがロギゥの夢だった。この広大な大陸はもちろん、夜空に映るちりばめられた星々にもそれぞれ世界があると東の大国であるギア=カラクノートン連邦国、通称「技術の国」の科学者が言っているのを町で聞いたことがある。

科学という魔法とはまた違う法則によって存在する技術があるらしく、カラクノートンではその科学技術を応用してかなり発展した国だと言われている。最近は魔法との併用によるさらなる技術向上の研究をしていると言われている。


ロギゥの眼には復讐や憎悪といったものが一切なかった。聖人君主のような全てに慈悲を与えんとするような眼の輝きではない。まるでそんな感情に支配されることが時間の無駄だと言わんとするように。ベルゴウムはそんな少し変わった考え方をする少年の眼を見ていた。



「なるほど、お前は自分のために強くなりたいんだな。」



その一言とともにベルゴウムの眼が冷たくなったことに気がついたロギゥは寒気がした。


「お前は、両親に不安な思いをさせて、悲しむ姿が見たくないから強くなりたい。世界が見たいから強くなりたい。お前の欲求のために強さを求めるわけだ。」


それを言われたロギゥは最初は意味がわからなかった。


「なんで!僕はみんなみたいに力を振るわない!人に悲しみをもたらす為に強くなりたいんじゃない!」


世界に屈しない力がほしいと言ったロギゥであったが、それは世界が理不尽な力で自分を押しつぶすことを知っているからだ。ロギゥはその力を自分の力で撥ね退けようとしている。そこに生まれる他の意思を無視して…。


「では、その強さにねじ伏せられた思いはどうする?今のお前は良い。きっと無闇に力を振るわないだろう。だがお前の欲求が他の方に向いたときはどうする。自分のためにしか力を振るわない奴は、いずれ何かを傷つける。」


「そんなことない!」


ベルゴウムの言葉を撥ね退けるロギゥは癇癪を起す年相応の子供に見えた。

「そんなに怒るな。別にそれが悪いって言っているわけではない。」ベルゴウムはそう続けた。


「その力は、何かを傷つけ、いずれお前を傷つける。それを覚えておいてくれればいい。」


ロギゥが聖人君主でなければベルゴウムもそれにしかりだ、世界の意思、理を全て一人の心で受け止めるには人の器は小さすぎる。それを人生をもって知っていたベルゴウムはその時の傷でロギゥがさらに自分の傷を押し広げないようにとおもってかけた言葉だった。


「冷たい目をしたのは真剣身をもたせるためだ。許してくれ」


そう言ってベルゴウムはまた柔らかい表情に戻った。が急に雰囲気の変わるベルゴウムに対して理解ができないのか首をかしげている子供なロギゥだった。




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