プロローグ2
「わるかったよ。これでいいんだろ。」
ロギゥは手元にあった袋を少女に突き出すと、それをひったくるように奪う少女。
「あるならば、さっさとわたしにくればいいでしょう。そういった嫌がらせのどこがおもしろいのかわからないしわかりたくもないわ。あなたって最低な人間ね。わたしだったらどんなに嫌な人間に対しても約束を絶対に守るわ」
大人びた話し方や声音をしているが、わざわざ、自分のことをいうところが年相応の態度である。ロギゥとしてはそんな気は全くなくただ単に読みたくなったから本を読んでいただけであり、別に嫌がらせをしてやろうとかそういったことではないのだ。少女との約束より本を読むほうが重要だったのである。
少女は言いたいことをいってさっさと行ってしまった。
「あれはお前が悪いのぅロギゥ?」
「!?」
いきなり背後から聞こえた老人の声に反射的に後ろを向くロギゥ。
その動きはこどもにしては無駄がなさすぎた。
「普段からそんな動きをしていたら、警戒されるぞぅ?」
後ろにいたのは齢60過ぎたぐらいの男だった。しゃべり方の割に、体はしっかりとしており、白というよりか銀に近い髪と髭が特徴的な初老の男である。
「クナタクト、おどかすなよ。というか気配をさせずに背後を取られたら誰だっておどろくだろう。」
クナタクトと呼ばれた初老の男は、「それもそうか」とつかみどころのない笑いを残して消えてしまった。あまり珍しくもない転移魔法であるが、その発動まで魔法を使おうとしているとも思わせないような態度で、消える時も何事もなかったかのようにまるで幻が消えるような感じだった。とはいえロギゥはその魔法を使うことに気がついてはいたが。
ロギゥは少し変わった体質で、魔力というものが全くない人間であった。
魔力がないということは誰でも使える魔法も使えなず、年端もいかないこどもが出せる指先をちょっと光らすことすらできない。
まったくもって不便な体質であった。
それの変わりにしては全くと言っていいほど代わりにならないたった一つの能力が、魔力を持っている人間の数百倍魔力に敏感であるということだった。
原理は簡単である、魔力を持つ人間は常に暖かい空気を身にまとっているようなもので、同じく暖かい空気(他の魔力)が周囲に来ても環境の変化に気がつかないが、ロギゥはその暖かい空気(魔力)がないため暖かい空気の中に入ると暖かく感じるのである。
そのため、魔力に触れるとそれを感じるし、集中して目を凝らせば見ることもできる。そういうと結構便利なのではと思うかもしれないが、敏感ということはそれだけ影響を受けやすいということであるからして、魔法はロギゥにとって鬼門だった。
ちょっとした魔力での火でも魔力のあるなしでは数倍から数十倍のダメージ差があるのだった。
そんな、体質の少年が平和な幼少期を迎えられるはずもなく、ことごとく子供が持ち得る残虐性の餌食にされた。
子供といえど少し才のある子は初級の攻撃魔法などを放てるし、そんな子供は世界中から見たらごくごく一般的である。
ただでさえ魔法の使えない幼いロギゥが、ちょっとした魔法で吹っ飛ぶ、大げさにのたうちまわると知った子供たちはロギゥをおもちゃに当然のごとく扱った。
何度死地をさまよったかわからないほどぼろぼろにされたロギゥを見て両親は泣いた。
「何もできない私たちを許して」と母は泣きながらロギゥを看病し、ロギゥに魔法を放った子供の家に怒鳴りこみに行った父は「うちの子はそんなひどいことはしていません。」と押し返され、去り際に「うちのこの魔法の練習台にしてあげているのだからありがたいと思いなさいよ」とつぶやかれたことに激怒し、その場で魔法を使い、一家全員に怪我を負わせて町の軍に捕まり牢に入った。
ロギゥが住んでいた国では魔法が使えることは当たり前だったが、初級までは誰でもが使いこなせるのだが、そこから上の存在である魔法使いになるには才能と弛まぬ努力が必要である、そのために子供の親のほとんどは魔法学校に入りを子供に求める。魔法学校は学費などは一切かからない代わりに、非常に高いレベルの試験をクリアしなければならないのだが、クリアさえすればすべてが合格になるので、こどものころからありとあらゆる方法で魔法を学ばせ、しかし平民にはお金がなく、またすぐに興味を失ってしまう子供たちに魔法を使わせるには、ロギゥは非常に良い教材だったのである。
そんなロギゥに転機が訪れたのは10歳のときだった。