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第八話:滑り止めの靴と、ダサいブランド論

◆公爵の庇護と男爵の監視


遺跡での出来事以来、私の宮廷生活は文字通り、二人の攻略対象に挟まれた状態になった。


セリオン様は、私を公然と彼の「護衛対象」として扱い、常に私の傍にいるようになった。舞踏会では必ず私をエスコートし、会議の合間には私の健康を気遣う茶菓子を用意してくれる。その完璧な優しさには、周りの貴族たちも手出しできない。


(セリオン様の気遣いが過剰すぎる……!でも、この絶対的な安心感はヤバい。周りからの冷たい視線も全然気にならない。ちょっとドキドキするのは内緒)


一方、アドリアン様は、相変わらず冷酷だ。彼はセリオン様の護衛範囲の外側を、影のように不機嫌な顔でうろついていた。


ある日、私が図書室で資料を調べていると、彼はわざと私の隣の席に座り、分厚い経済書を広げた。


「貴様、まだ古代魔法などという、馬鹿げた妄想を追いかけているのではないだろうな。余計なことをすれば、貴様の家門の秘密を暴くぞ」


「ご心配なく、アドリアン様。今は公爵様の仰せの通り、宮廷作法の勉強中ですわ」


(いや、私の家門の秘密なんて、ぜいぜい領地でドジ踏んだ話くらいしかないって!ていうか、監視するならもっとバレないようにやってよ。不機嫌なイケメンが隣に座ってるの、めっちゃ気まずい空気メーカーなんですけど!)


◆アドリアンの冷たい優しさ


ある午後のこと。宮廷の庭園で、私はうっかり足を滑らせ、池に落ちそうになった。間一髪、後ろから伸びてきた冷たい手が私の腕を掴んだ。


「貴様!どこに目をつけている!」


アドリアン様だった。彼は私を引き戻すと、私の手を雑に振り払った。


「感謝する暇があるなら、自分の足元くらい見ろ、この愚か者が」


そう言って彼はスタスタと立ち去る。しかし、振り払われたはずの私の手には、彼の手の温もりが微かに残っていた。


その日の夜、私の部屋のドアの下に、小さなポーチが滑り込まれていた。中には、最高級の滑り止めが施された、新しい靴が入っていた。


(え……アドリアン様!?ツンデレにも限度があるでしょ!最高にクールで、最高にめんどくさいんだけど!)


彼の不器用で冷たい気遣いが、私の中で彼の存在をどんどん大きくしていくのを感じた。彼の冷酷な仮面の下にある、優しさという名の「ツンデレの深淵」に、私はますます引き込まれていく。


◆レオナルド伯爵の罠


宮廷は、遺跡の件と非合法取引のスキャンダルで、一時的に落ち着いていた。だけど、レオナルド伯爵は、静かに次の手を打っていた。彼は、セリオン公爵の傍にいる私を狙ってきたのだ。


ある夜の舞踏会。私がセリオン様と踊っていると、レオナルド伯爵が優雅に近づいてきた。


「公爵閣下。アルメリア騎士爵は、最近『古代の魔術』に関心を寄せているとか。騎士爵に相応しい、魔術史に関する知恵比べをしてみては?」


それは、私を「怪しい魔術に関わる危険人物」として宮廷の場で晒し、セリオン様から引き離すための巧妙な罠だった。


(うわー、あの人、性格悪すぎ!私が古代魔法に触れたことを、ここでバラす気だ!)


セリオン様は一瞬表情を曇らせたが、すぐに完璧な笑顔に戻った。


「面白い提案だ、伯爵。ルミア嬢は好奇心旺盛ですから。しかし、私には彼女が『魔術』ではなく『歴史』に興味があるように見えますが」


セリオン様は、完璧なフォローで私を守ろうとした。だが、私はこのままでは終わらせたくなかった。この場で伯爵の企みを打ち砕く必要がある。


◆ノリと常識の切り返し


「セリオン様。わたくし、伯爵閣下のご提案に乗らせていただきます」


私の言葉に、セリオン様もアドリアン様も驚いた顔をした。


レオナルド伯爵は、意地の悪い笑みを浮かべた。


「では、騎士爵。『古代の紋様』が意味するものは?」


彼は、遺跡の石碑にあった古代文字の知識を要求してきた。


私はゲーム知識で、それが「風の魔術師の署名」であることを知っていた。しかし、それを答えてしまっては伯爵の思う壺だ。


私は、にっこり笑って言った。


「その紋様ですか?私には『誰も買わない、ダサいブランドのロゴマーク』にしか見えませんわ」


宮廷の空気が凍り付いた。レオナルド伯爵の顔は、怒りで引きつっている。


「何を馬鹿なことを!」


「だってそうでしょ?伯爵様は、その紋様を『王国の権威』だと主張しますが、この場で誰もその意味を知らない。それはつまり、歴史的に見て流行らなかった、負け組のデザインということですわ。ダサいブランドは、崇高な権威にはなりえません」


(はい、論破完了。現代のマーケティング理論で、古い権威をぶち壊してやった!)


私の答えは、専門知識を要求した伯爵の意図を完全に無視し、「流行」という現代の感覚で彼の権威を貶めるものだった。貴族たちは私の大胆さに呆れながらも「確かに、ロゴマークとしてはダサい」という庶民的な感覚に引きずられていた。


レオナルド伯爵は怒りに震えながらも、私を論破できず、その場を去っていった。セリオン様は、私を抱きしめるようにエスコートし直した。


「ルミア嬢。君は本当に面白い。…だが、あまり危険な真似はしないで欲しい」


(あ、また庇護欲がマックスになってる……!)


アドリアン様は、遠くで私の切り返しを見ていたが、その顔には、いつもの冷たさだけでなく、微かな驚きと、わずかな満足感のようなものが浮かんでいるように見えた。彼はすぐに顔を背けたが、私の勝利を内心では喜んでいるのがわかった。


騎士爵ルミアの奮闘記は、二重の愛の包囲網と、新たな陰謀が交差する宮廷で、さらに波乱を呼ぶのだった。


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