第三話:騎士爵の壁と、冷徹な共闘の始まり
◆騎士爵の噂と公爵の優しさ
(あの、奇妙なダンスの騎士爵ね)
小競技会での「格式なき正確さ」と、「謎の舞踏」は、またたく間に宮廷の格好のゴシップとなっていた。
私は相変わらず、優雅なフリをして宮廷を歩く。そのたびに注がれる好奇と軽蔑の視線に、内心は叫び出しそうだった。
(もう、みんな私に興味津々すぎでしょ。芸能人かよ!変なステップ踏んだだけなのにさ!)
セリオン様は、そんな私をさりげなく庇ってくれる。
ある日、廊下でわざと私に体当たりを仕掛けてきた侯爵令嬢がいたときのこと。彼女は私を平然と無視して去ろうとしたが、セリオン様は振り返りもせず、静かに、しかし有無を言わせない絶対零度の口調で彼女を呼び止めた。
「侯爵令嬢。アルメリア騎士爵に対し、故意に不敬な行いをしたことを、彼女に謝罪しなさい」
その時のセリオン様の威圧感は、空間の空気を凍らせ、侯爵令嬢は震え上がった。
(え、ヤバ。セリオン様、怒るとガチで怖いじゃん……。絶対零度の公爵様だ……。でも、私のために……正直うれしい!)
彼の庇護はありがたかった。けど、その完璧すぎる優しさは、私を「守られるだけの、価値なき存在」に固定してしまうように感じた。
(このままじゃ、本当にただのお人形さんルートじゃん。私が立場の改善を目指している意味がない)
私は立場を確立するため、侍女たちのゴシップルートから情報収集を続けた。その中で、アドリアン・フォン・シュタイン男爵が、いつも不機嫌な理由の「裏事情」を知ってしまった。
(え、アドリアン様って、そんなにヤバかったの!?)
彼のシュタイン男爵家は、想像以上に深刻な没落の危機に瀕していた。古い家柄のプライドと、重すぎる家門の借金を抱え、彼は一人で夜遅くまで焦燥していたらしい。
(はぁ、あの冷酷なイケメンが、実は過労死寸前のブラック企業社長みたいなもんか……。ギャップ萌えってレベルじゃないんだけど、見てらんないわー)
彼の人間的な苦悩を知ったことで、私のアドリアン様への認識は大きく変わった。
◆アドリアンの孤独と騎士爵の危機
そんな中、騎士爵である私の家が、地位を巡る小派閥の陰謀に再び巻き込まれそうになる。前回回避した共同事業の失敗を、今度は「騎士爵ルミアの父が裏で不正を働いた」と、でっちあげて印象操作しようというのだ。
(最悪!今度は家族まで巻き込みやがった!ほんっとに陰湿なんだから!)
窮地に立たされた私を救ったのは、匿名で送られてきた一枚のメモだった。
◆秘密の共闘と感情の誤算
そのメモには、でっちあげに使われた証拠の「決定的な矛盾点」が、簡潔な文字で書かれていた。筆跡は、アドリアン様のものに酷似している。その情報は、彼の家門にも不利益になりかねないものだった。
私はその情報を使って、陰謀の罠をギリギリで回避し、すぐに彼に真意を問うことにした。
裏庭の隅、灯りも届かない暗がりで、私はアドリアン様を待ち伏せた。彼は相変わらず仏頂面で、目の下にはうっすらとクマが張り付いている。
「アドリアン様。どうして、私を助けたんですか?あの情報、あなたが出してくれたんですよね」
彼は冷酷な視線を私に突きつけた。
「勘違いするな、アルメリア騎士爵。貴様が不様に失敗し、地位を失うことで、宮廷の秩序が乱れる。それが、私の貴族としてのプライドが許せないだけだ」
(出たよ、ツンツンオブツン!助けといて『お前がうざいから掃除した』って言ってるようなもんだよ!プライド高すぎでしょ!)
だけど、私は知っている。彼の言葉は、彼が「助けた」という事実を、彼の重いプライドで必死に隠しているだけだと。
私は改めて、彼の抱える没落の危機と、私の騎士爵の地位が持つ「白紙の可能性」が、共通の危機として繋がり始めていることを感じた。
「わかりました。そういうことにします。……でも、あなた、一人で背負い込みすぎですよ。その顔、まるで目の下にクマが張り付いたゾンビですよ?」
その言葉に、彼の冷徹な表情が一瞬崩れた。しかし彼はすぐに視線を逸らし、荒々しく言った。
「余計な口を挟むな!早く失せろ、騎士爵!」
(あ、しまった。ちょっと踏み込みすぎたかも。でも、ちょっとだけ、彼の本音に触れられた気がする)
セリオン様は私を「守る」という絶対的な愛で包み込もうとする。しかし、アドリアン様は私を「突き放す」ことで、彼のプライドを守ろうとしている。
(この宮廷で生き残るため、そして、あの冷徹な男爵をギャフンと言わせるためにも……。私は自分の足で立つしかない!)
騎士爵ルミアの宮廷奮闘記は、二人の攻略対象との間に、さらに複雑な感情を絡ませながら、第二幕へと進んでいくのだった。




