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7.お菓子好き美少女と甘い香り

 鈴菜にお菓子を食べさせ満足してもらった夕方。この日はバイトシフトになってないこともあって、事務室でくつろげる気楽な時間だと思いながら部屋に入るとそこにいたのは――


「――あ、お帰りなさーい! じゃなくて、お疲れさまでーす!」

「た、ただいま?」


 母さんが様子を見に来たときに見学に来ていた美少女が、何でか事務室の中で店のお菓子を食べながらくつろいでいた。


 ……何でこの子がここに?


「あはっ、お兄さんって面白い人なんだぁ~?」

「ど、どうもありがとう?」

「うん。どういたしまして~」


 ……というか。


「あの~そこは俺が寝る場所なんですけど……」


 この子には伝えてない、もしくは誰も教えてない?


「うん。店内忙しそうにしてたから、ここで待たせてもらってたの。静稀しずきさん、そろそろ来るはずなんだけどね~」

「え、母さんが?」

「そ。お兄さんのお母さん」

「えっと、君は結構シフトに入る感じですか? だからこの部屋……」


 ううむ、それにしても何だろう。この子から甘い香りがする……。もちろんお菓子を食べてるし、この部屋自体にお菓子の在庫が置いてあるから匂いくらいはするはずだけど。


 この子も気になるけど鼻に届く甘そうな香りが気になる。


「お部屋はまだ出来ないみたいだから、しばらくここで休むしかないんだって~。なんか、お兄さんってここで寝泊まりしてるんだよね?」

「まぁ、そうですね」

「お兄さんってなぎと同い年だよね? だから、いいよタメ口で」


 なぬ!?


 俺をお兄さん呼びしてるのに同い年?


 もしや誕生日が早いとか遅いとか、そういう話なのか。そもそも出会ってまだ自己紹介もしてないのに何でそんな情報を――あ。


「あら、早く来たんだ? 凪ちゃん」

「お疲れさまでーす! うん、早く着いちゃった」


 元々約束でもあったのか、母さんが部屋に入ってきた。ああ、そうか母さんが俺のことを教えているか。一緒にバイトするわけだし。


「凪ちゃん。なに食べてたの?」

「おいしい棒! あ、匂いキツいよね、ごめん」


 おいしい棒の香りじゃなくてこの子から甘い香りがしたけど、俺の気のせいだったかもしれないな。それか、俺の勝手なイメージか。


「それはいいけれど、そこで貴俊が寝てるから気を付けてね?」 

「うん。それは大丈夫」


 ここまで仲良しにしてるということは、かなり期待の新人なのでは。


「母さん。この子はどれくらいバイトを?」

「あ、そうだった。凪ちゃん。自己紹介して」


 母さんがそう言うと、凪と呼ばれる子はその場ですくっと立ち上がって。


()()()()()()、凪は宇草うぐさなぎって言いまーす! 年下に見えたかもだけど、同い年なのでよろしくでーす!」

「宇草凪さんだね。俺は黒山――」

「貴俊お兄さんだよね。静稀さんから先に聞いてまーす。よろしく~!」


 随分人懐っこい子だな。何で俺だけ『お兄さん』と呼ばれるのか意味が分からないけど。


 しかし、母さんから特に言及がないからあまり意味は無さそう。


「貴俊。()()件、彼女に伝えてくれた?」


 鈴菜が事務室で眠れなくなる件か。


「いや……まだ」


 困ったな、全然話せる感じじゃないんだよな。


「新しいお部屋はまだ何とも言えないけど、凪ちゃんもしばらくこの部屋を使うから早いとこ話しておきなさいよ?」

「え? 宇草さんも?」


 思わず彼女を見るも、菓子に夢中なのか俺なんか見ちゃいない。


「だからあんた、今日からこの部屋のソファで寝て」

「えぇ!? え、布団は俺のなのに?」

「すでに凪ちゃんが布団の上にいるのに追い出せるの?」

「…………いや」


 布団の上でお菓子を食べてる時点で嫌な予感はしたんだよな。


「とにかく、仕事のこともそうだけど凪ちゃんと仲良くしなさいね。慣れてくれないとあなたも困ることになるだろうから」


 そう言って母さんは事務室から出て行った。


 ……というか、この子にどれだけ期待してるんだよ。今までほとんど支店に顔を出すなんてなかったのに。


「静稀さん、行っちゃったね~」

「あの人、忙しい人だから」


 俺の布団の上でお菓子を食べていたと思ったら、彼女は寝転がりながら片方の腕 で頭を支えてその姿勢で俺を見つめてくる。

 

「……な、なに?」

「この布団にお兄さんの彼女を寝かせてたんだ?」


 宇草さんは布団に鼻を近づけ、クンクンと臭いを嗅ぎながらそんなことを言ってきた。


「ぶふっ!? か、彼女じゃないよ。幼馴染だよ!」

「幼馴染~? 付き合ってるんだ?」

「付き合ってないよ」


 なぜそんなことを訊くのやら。


「そうなんだ~? じゃあ平気だよね」

「うん?」


 寝転がっていた宇草さんが体を起こし、正座の体勢になって俺を見てくる。


「お兄さん。こっち、こっちこっち!」


 などと言いながら、彼女は自分の膝をパンパンと叩いている。


「え?」


 まさかいきなり膝枕でもするつもりか?


「何もしないからそんな警戒しないでいいよ。お兄さんの布団に気になるところがあるから見て欲しいところがあるだけ~」

「あ、もしかしてなんか置いてあった?」

「えっちぃ本はなかったよ」

「置いてません! というか、事務室だからね?」


 鈴菜が眠りにくるし、そもそもここは会社の事務室。俺の個人的な物は布団と学業関係以外、基本的に持ってきてはならないという決まりがある。


「意外に真面目なんだ? いいね、そういうの好き~」


 ……まるで挑発してるように思えるが、とりあえず何か置きっぱなしにしてたかもしれない。


 そう思って宇草さんが座っている隣に移動すると――


「――隙あり~!!」

「ぷわっ!?」

「あはは~引っ掛かった~!」


 何をされたかと思えば、タオルケットを思いきりかぶせられて視界を完全に封じられた。同い年と聞いていたが、やってることがちっちゃい子供のいたずらそのものだった。 


 薄いタオルケットなのですぐにどけて彼女に何か言おうとするも、強い力で押さえつけられているのか、タオルケットをどけることが出来ない。


「えっと、何してるのかな?」

「そのまま黙って聞いてくれたら放してあげるね~」

「……聞きます」

「凪のことは、これからさなぎって呼んでいいからね。()()()()とか、その呼ばれ方はこれから意味なくなるし。凪ちゃんでもいいけど~」


 うぐさなぎ……さなぎ。なるほど。流石にちゃん呼びは抵抗があるし、さなぎでいいならいいか。


「これからもっともっと仲良くしたいから、お兄さんのこと沢山知りたいんだ~。だからお兄さん。凪を拒絶しないで欲しいなぁ~」


 拒絶?


 新しい期待の新人バイトにそんな真似なんか出来るわけない。何より、母さんがかなり期待してるっぽいし。


「拒絶なんてそんなことしないよ」


 俺よりお菓子通でお菓子好きな新人の女子で、しかも美少女。俺も負けないように頑張らねば。


「そっか~! じゃあ、これからもっともっと……も~っと、お兄さんを何とかするために頑張るからね~!」

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