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6.鈴菜ママとの遭遇、そして鈴菜が動き出す?

「貴俊く~ん……汗がぁ~…………」


 鈴菜の首筋付近を見ると、湯上りによる汗が肌を伝うように滴り落ちている。それを見ると、確かにこのまま汗を放置すると湯冷めをさせてしまう。


「し、仕方ない……極力見ないようにしますんで、汗を拭く……で大丈夫ですかね?」

「それでいい~……」


 鈴菜の家の浴室洗面所は皮肉にも何度も利用しているので、小さなタオルの場所は大体把握していて迷うことなく取り出せる。


 といっても、二人で風呂に入る時は鈴菜がバスタオルを準備してくれている。なので俺がどこかの引き出しに触れることはほぼないわけだが、今回はそうもいってられなさそうなので動くしかない。


「え~と、確かこの辺に……」


 人の家の引き出しをゴソゴソとやる動きはゲームではよくやる動きだが、現実だと妙な緊張感があるのは何でなんだろうか。


 しかもそこの住人が許可しているのに。


「貴俊くん、そこは違う~」

「え? 上だっけ、下だっけ?」

「わたしが寄り掛かってる腰付近の~……し、下~……」


 よりにもよって鈴菜が体を寄りかけているのが、引き出しのある棚付近。俺はそこに手を伸ばさなければならない。


「下だな、よ、よし……」


 鈴菜の指示に従って下段の引き出しに向かって手を伸ばすと、目の前にバスタオル姿の鈴菜があって、どうしても慎重にならざるを得ない。


「く、くすぐっ……」

「ま、まてまて! どこにも触れてないからな? それは単なる気のせいだぞ」


 鈴菜の気のせいであって、俺の手は間違いなく引き出しに伸びている。そして見事にヒットし、丁度よさげな汗拭きタオルを発見する。


 あとは拭くだけなのに、その手がなかなか動いてくれない。


 浴室では散々お互いの背中を流し合ってきたはずなのに、どうして洗面所だと途端に緊張してしまうんだろうか?


「さ、寒くなるよぉ~早く~」


 鈴菜はそう言ってるものの、浴室洗面所は一定の温度を保っている。しかし個人の感覚の問題だと思われるのでその通りにしなければ。


 これで風邪でもひかれたら音川に何て言われるかたまったもんじゃないし、鈴菜の親にも謝る必要が出てくる――ということで覚悟を決める。

 

「……首筋はこれでよし、と。次は肩と腕と……」

「ん、ん……ん」


 俺は決して下心などなく、鈴菜の声に興奮を覚え、あわよくば胸に視線を移したいわけじゃない……などなど、鈴菜に対してそんな気持ちを抱かずに黙々と細い足の汗を拭いていると――


「貴俊くん~」

「ひぃっ! ごめんなさ……」

「……わたしって、そんなに魅力ないのかなぁ~」

「そんなことはないと思いますが」


 何せ守ってあげたい女子だし。


 それにしても、なんかぐったりしてるように見えるのは気のせいだろうか? でも具合を悪くしたわけじゃなさそうなんだよな。


「じゃあ、どうしてもっと仲良しになれないのかなぁ?」

「だ、誰と?」

「――くん」


 よく聞こえなかったと思って鈴菜の顔に近づくと、寝息を立てているのが聞こえる。


 もしや今までのは寝言か?

 

 ……本当にどこでも寝れるんだな。


 しかし、流石に服も着てないバスタオル姿で放置するほど鬼畜じゃないので、お姫様抱っこをしてリビングに運ぶ。


 制服の時と違ってバスタオル一枚分しかないせいか、まるで直接肌に触れているような感覚になっている。果たして俺は自分の理性をどこまで保ち続けられるだろうか。


 いくら鈴菜のことを意識してなくても、谷間に目が行くのは本当にどうしようもないわけで――とはいえ、スヤスヤと眠っている鈴菜に何かしたらそれはよろしくないので、俺は冷静さを取り戻し、鈴菜をそっとソファベッドに寝かせる。


「ふぅ……危ない危ない」

「何が危ないのかな? 黒山君」

「いやぁ、もう少しで鈴菜に何かしそうになりそうで……でででで!?」

「したかったらしちゃえば良かったんじゃない? そうしたら、もう決まるんだけどね~」


 音もなく(正確には)俺が鈴菜をベッドに降ろすのに全集中してただけなんだが、まさか背後に鈴菜のママがいるとは予想外過ぎた。


「ご、ごめんなさい!」

「謝るってことは何かしたの?」

「い、いえ、いつものお風呂で、その……」


 俺が言葉の続きを言おうとすると、鈴菜のママさんは無言で頷き、何かを察したように洗面所を覗き込んだ。


 しまった、引き出しまくって元に戻してない。


「あぁ~……そっか。鈴ちゃんがのぼせちゃったのを助けようとしてどさくさ紛れに何かしようとしたけど、未遂に終わったんだ?」

「いえいえいえ! それはしませんよ」


 鈴菜のママさんは、俺と鈴菜が雨降りの時に体を流すだけの行為をしているという特殊な関係を黙認している。それこそガキの頃から同じことをしていたおかげでもあるが、だからといって今はまだ越えては駄目だとも言われたり。


 ……越えるようなことはしてないしな。しかしママさんが帰ってきたとなると、寝ている状態の鈴菜を見守る意味は無いので帰るしかない。


「お、俺は帰ります! お邪魔しました~!!」


 半ば逃げるようにしてタワマンを出てしまったが、明日きちんと謝るしか。


「鈴ちゃん。彼って、鈴ちゃんのこと――?」

「……気持ちが入ってないと思う。だって、わたしに敬語だもん……」

「それじゃあ、鈴ちゃん。明日は――」


 翌日、俺は興奮状態が抜けきれないまま朝を迎えた。


「あ、黒山くん! おはよう! 丁度いいところに!」

「はひっ?」


 教室に入ろうとすると早山先生が珍しく俺に声をかけてきたが、先生のおかげで興奮状態が解消されたので助かった。


「おはようございます! なんですか?」

「浅木さんなんだけど今日お休みだから、帰りにでも様子を見に行ってもらえないかな? もちろん、音川さんも一緒に!」

「え? 浅木、風邪ですか?」


 途中で眠っていたしやっぱり体を冷やしてしまったかも。


「ううん、具合は悪くないみたいだけど、だるいんだって」


 何だ、いつものやつじゃないか。


「だるい……ってそれって、でも俺――」

「分かりました~! 黒山くんと一緒にお見舞いに行ってきま~す!」

「うん、よろしくね」


 音川め、いつの間に。


 何でよりにもよって音川と一緒に行かねばならないんだ?


「黒山くん……一人で行きなよ。てか、行け! バッカじゃないの? 迷うところ違うでしょうに」


 またしてもこいつは。


「先生に頼まれたのにか?」

「知らないし。どうせあんたのせいで鈴菜は休んだに決まってるし!」


 どこまで話しているのか分からないけど、何となく嫌な気分になるな。


「いや、行くけど。何で音川も行かないのか謎なんだが」

「恋路は邪魔しない主義なんで!」

「俺、恋なんかしてたっけ?」

「あと、いい加減変な敬語やめときなよ。休んだ理由、絶対それだし」


 もしや寂しくなりすぎて泣きすぎてるから学校に来れないとか?


「……音川と話してるみたく言えばいいんだよな?」


 ――って、いないし!


 昔に出来たことが出来なくなったのが鈴菜への言葉遣いなわけだが、俺の言葉遣いが休んだ理由なら直すしかないんだろうな。


 放課後になり、昨日ぶりの鈴菜の家の前に着いた。ここに来るまでに、お見舞い品と称して適当な駄菓子を店から買ってきた。


 具合が悪いわけじゃなくて泣いてるだけなら、駄菓子を食べさせるのが一番いいと思ったからだ。


 勝手知ったるエントランスホールで鈴菜の家の呼び鈴を鳴らすとドアを開かれ、家の前に着くとすぐに玄関ドアが開いた。


「わぁ~貴俊くんだぁ、いらっしゃ~い!」

「お、おす」


 あれ? めちゃくちゃ元気だな。


 泣いてもいないし涙の痕もないなんて、音川の奴に騙されたか。


「上がって~!」

「あ、これお見舞いの駄菓子。食べるだろ?」

「うん~。おぉ~! チョコっとマシュマロだぁ~! 大好き~」

「そりゃあ良かった」


 駄菓子の匂いが好きで事務室に寝に来てるんだから、好きじゃないわけがない。しかしそれも夏までなんだよな。


 それを伝えたらそれこそ本当に泣かれてしまいそうで、まだ言えずにいる。


「貴俊く~ん。こっち、座って座って~!」

「はいはい」


 昨日のことなど無かったかのように、鈴菜は機嫌よく俺の隣にちょこんと座りながら棒チョコを口に含んでポリポリと食べだした。


「はい、あ~ん!」

「あ、あ~……」


 俺の口は完全にチョコの投入口になりそうなので、今日は鈴菜の好きなようにしてもらうことにした。


 変な真似をしなければいいわけだしな。


「貴俊くん~お菓子食べたら~一緒にお昼寝タ~イム~!」

「いっ!?」

「わたしが貴俊くんを元気にしてあげる~」


 ……元気にはなるな、間違いなく。


「俺が元気になったら鈴菜も元気になるのかな?」

「わかんな~い」


 良く分からないけど、少しだけ活発というか積極的になった――のか?

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