42.イケメン女子はエロ耐性がない
鈴菜の言う通り俺だけ先に一風呂浴び終わり、自分の部屋でくつろいでいると、俺の部屋に現れたのは寝巻き姿の鈴菜だった。
「えっ? お前、それ……」
「えへへ。セクシーネグリジェ! どうどう? 胸の谷間にグッとくる感じ?」
「おやじっぽいぞ、そのセリフ」
一体どこからネグリジェを取り出したのかはこの際どうでもいいとして、俺を完全に誘惑するつもりの下着なのでは。
「鈴菜、それって誘ってるの?」
「え? 誘うってどこに?」
「いや、だからそれってつまり……俺と一緒に寝るつもりなのかな、と」
「うんうん、寝るためだよ?」
やはりそうなのか?
「そ、そうだよな。そうじゃなきゃ、そんなスケスケの……」
はっきりいって超エロ可愛いとしか言えない。
「そそ。可愛いミニフリルを見つけたんだ~。似合う?」
「に、似合う。似合ってる……」
微妙に俺と会話が嚙み合ってない気がするが、濡れタオルで体を拭いてきたっぽく肌には若干の湿り気が感じられる。
髪だけはシャワーで濡らしてきたようで、明らかに濡れて見える。鈴菜がそのつもりなら、俺としては実行に移すだけなのだが。
「じゃあ、えっと……ベッドで横になるか」
「もう寝るの?」
「そりゃあ……俺はもういつでもいいって思ってるし、それとも部屋の電気を消してからにするか?」
「見えなくなるのは嫌かなぁ」
……なるほど、鈴菜は明るいところがいいのか。
そういや、支店の事務室に眠りに来ていたときに照明が点いていてもすぐに眠っていたんだよな。むしろ暗くした方が眠れないタイプってわけだ。
「じゃあ、このままで」
「うんうん」
そうなると俺がリードすることになるわけだから、俺が先に布団に入っておくか。
「じゃあ先に布団に入るから、だから……」
「貴俊くんのベッドだもんね。お先にどーぞどーぞ」
「お、おぅ。じゃあ上半身だけ裸になっておく」
「ふぇ? あ、暑いもんね」
いや、暑くはないが。
……う~ん?
鈴菜のこの反応って俺が思っているアレと本当に合ってるのか?
ともかく、眠り慣れている自分のベッドに腰掛けてそのままタオルケットの中に下半身を滑り込ませた。
「鈴菜。お前の番だぞ」
「は~い」
何だか緊張感がまるで無いんだが、実はこういうことに恥ずかしさがなかったりするのか?
そうだとすると俺だけ力んでる感じになるんだが。
俺の誘いに従って、鈴菜が細い足をタオルケットの中に入れてくる。その途端、鈴菜から軽い香りのようなものが漂ってきた。
風呂には入ってないはずだが、恐らくシャンプーの香りに違いない。
「……鈴菜」
「うん」
もう後は行動に移すだけ――そう思いながら、鈴菜が強調している胸の谷間に手を差し込み、そのまま潜り込ませた。
「えぇっ!? つ、冷たっっ! 貴俊くん、手が冷たい~」
急で驚いたのか、鈴菜がすぐに体を真横に動かし俺の手を引っ込めさせてしまった。
「ん? わ、悪い……手が冷たかったか?」
「湯冷めしてるんだよ、きっと」
「あ~かもな」
谷間を攻めるのは急すぎたので、セクシーネグリジェの上から手を動かすことにする。
いきなり目的のところに触れるのは驚かせてしまうので、背中をゆっくりと撫でるように動かし、下半身に向かって手の平を滑らせていく。
……のだが、その直後。
「ひぃぇっ!? え? えぇ? く、くすぐったい~」
またしても鈴菜は俺の手の動きに体をビクッとさせ、くすぐられていると思って必死に笑いをこらえている。
「鈴菜も俺の――を触ってもいいから」
「よぉし、負けないよ~!」
そう言いながら鈴菜は俺の脇から両手を入れて、そのまま思いきり指を動かした。
「ぶはっ! ま、まっ――やめ、やめい!! 駄目だって!」
「ほぇ? くすぐり合いじゃないの?」
「……違う。そうじゃなくて、えっと……俺と一緒に寝るってつまり――」
「うんうん? 寝るってことは?」
どうもよく分かってなさそうなので、鈴菜の耳元で今からすることを教えてあげることにした。
「――で、俺が鈴菜を抱き締めてお互い触れ合って、それから――」
「む……無理無理無理無理!!!」
「ぬあっ!?」
俺の囁きを理解した鈴菜は、すぐに拒否反応を示しながらタオルケットを全身に巻いてベッドから起き上がってしまった。
……そんなに拒まなくてもいいのに。
「も、もしかして貴俊くんって最初からそのつもりで?」
普通に本気で怯えてるってことは、鈴菜はそうじゃなかったわけだ。
「合ってるって言ってただろ? 鈴菜はそうじゃなかったの?」
「わたしが思っていたのは、貴俊くんとわたしの好きが通じ合ってるって意味で言ったんだけど、貴俊くんはそうじゃなかったんだ……」
「違う。いや、好きって気持ちは合ってる。けど、鈴菜は俺の気持ちに応える覚悟で俺の家に来たとばかり思っていたから、だから――」
イケメン女子化したとはいえあくまで見た目だけだし、今ではすっかり元通りの鈴菜に戻ってるし、そうなるとやはり鈴菜にはエロ耐性がなかったという結論になる。
「好きって本当?」
「本当。やっと言うけど、鈴菜のことが好きだぞ」
「ん~そっか」
「え、それだけ?」
鈴菜本人に気持ちを伝えるのも初めてなのに、鈴菜は俺に何も言わないつもりなのだろうか?
「貴俊くん。そのままお布団の中で大人しくしててね」
「え、うん」
とりあえず警戒心を下げてくれたのか、全身タオルケット姿のままで鈴菜がもう一度布団の中に入ってくる。
「貴俊くん。自分の目を手で隠して!」
「は、はい」
「そのまま目を閉じたままだよ?」
「流石に開けられない」
反省をしろと言わんばかりに、俺の手によって視界を封じてきた。
「…………そのまま、そのままだよ」
目を閉じなくても自分の手で覆い隠しているので、鈴菜が念を押しても何も出来ずにいると、自分の口元にふわふわとした感触と柔らかさ、そして水分が含まれたような弾力のある感触が唇に重なってきた。
「んん……んむっ…………」
「……んっ、ふっ……」
時間にして数秒程度だったが、重なった感触は間違いなくキスだった。
「貴俊くん、伝わった?」
「伝わった。同じ気持ちって分かった」
言葉よりも行動で示すとか、確かに鈴菜らしいかもしれない。
「だから貴俊くん。まだ、それは無理。でも、分かってくれた?」
鈴菜なりの気持ちをキスに乗せてきた、そんな感じで返事をしてくれたみたいだ。その気持ちに俺は言葉を使わずに、ただ鈴菜をまっすぐに見つめた。
「……うん。じゃあ、一緒にくっついて寝よ?」




