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3.昼休みは別人のように動く女子

「黒山くん、おか~」


 居眠り鈴菜を保健室へ送り教室に戻ると、隣の席の音川が一時間目が始まる前にもかかわらず、静かな教室の中で俺に声をかけながら手を振ってくる。


 鈴菜を抱っこしそこなった男子がいやに大人しいが、おそらく音川が何かしたせい。


「大したことしてない」

「冷静さを出してるけど、女子の柔肌堪能出来て顔赤いのバレバレだぞ」


 音川は鈴菜がいる時といない時で全然性格が違い、普段は気さくに話すサバサバ系女子だ。


「またまたぁ、嬉しいくせに~」


 そしてどういうわけか、俺と鈴菜が上手くいくことを願っているかのような言動を繰り出してくる。


 そうかと思えば、


「鈴菜が戻ってこなかったら私が君の話相手になってあげるから、そうくよくよしなさんな!」

「……それはどうも」


 などと、何を考えているのか分からないミステリー女子でもある。


「んで、浅木を運んだお前の腕は筋肉痛か?」


 音川が話を止めるのを見計らって前の席の木下も話しかけてくる。


「そんなすぐに筋肉痛になってたまるか。鈴菜はともかく、俺の体力は平均だ。木下も似たようなもんだろ」

「まぁな~」


 休み時間になると俺の周りの世話焼き男子が俺を気にかけてくるが、鈴菜というよりもなぜか俺を心配してくることが多いが、俺に何かあれば気軽に買い食い出来なくなるという説が強い。


 保健室送りにされた鈴菜が戻ってきたのは、結局昼休み時間になる直前だった。相当に爆睡したらしく教室に入る前に何度も顔を洗ってきたらしい。


 鈴菜は気の抜けたへらへら笑いをしながら、後ろの席に座る俺に手をひらひらと振ってくるが、俺はあえて無表情で手を上げるだけにしといた。


 そうしないと周りの男子からの嫉妬が半端なくなるからな。


 俺の塩対応に鈴菜は一気に力を抜かしてやる気をすぐに失わせながら自分の席に座るわけだが、そんな鈴菜を見ても正直言って面倒くさいとしか思えない。


 ――のだが、鈴菜を見てから俺に視線を移す音川の刺々しい視線がとてつもなく俺に突き刺さりまくってくるので面倒くさいという顔を出さないように心掛けている。


 昼休み時間に入ると、鈴菜と音川、そして俺の三人は学食に行かず俺の席を囲む形で昼を過ごすのが最近の流れ。


 俺と音川は通学途中のコンビニ飯かカップ麺持参が多いが、鈴菜は購買パンを食べることが多い。購買で買うパンは日持ちするから放課後に買っておくのが楽なのだとか。


 もっとも、当日昼に売り出す限定メニューもあったりするので、そういう時は面倒くさがりながら購買に足を向ける鈴菜の姿をたまに見かける。

 

「あらためて鈴菜、おかえり~。すっごい眠ってすっきりして帰って来たよね~!」

「たっぷり寝られたよ~! ありがと~こころちゃん」


 保健室に運んであげたのは俺なのに、どういうわけか鈴菜は俺ではなく音川に向かって感謝している。


 それってちょっとどうなんだ?


「そこの居眠り女子さん。お礼を言う相手、間違ってませんか?」

「――あ? これだけ元気な姿になって戻ってきたこの子に対して言うことはそれか? 私のおかげで鈴菜を抱っこ出来たってこと、忘れるなマジで!」

「あーはい」


 一年の頃から鈴菜を推していた音川は、幼馴染である俺をまるで親の仇かのような態度で扱ってくる。


 鈴菜が絡まない時はこんな怖い感じの態度じゃないのに、実行委員会に入ってからは鈴菜推しがエスカレートして二重人格を疑うくらいに豹変するようになった。


「まぁまぁまぁ~貴俊くんはちっともおかしくないよ~?」


 鈴菜が俺のフォローをしてくるなんて珍しい。


 たっぷり眠って気分がいいおかげか?


「え、えっと、私はおかしいだなんて一言も言ってないよ? ね〜く・ろ・や・まく~ん?」

「その通りです」


 音川の目が笑ってないんだよな。鈴菜がいない時は普通の女子なのに何でなのか。


「――って、ああ~!!!」

「どうした? 鈴菜」

「こしあん団子買うの忘れてた~~! 急いで行ってくる~!!」


 普段から脱力感が半端なく、ほぼやる気もなければ慌てることのない鈴菜だが、昼休み時間になると大好物の団子シリーズを買いに行くのに、人が変わったように機敏に動く女子と化したりする。


 いや、普段から動けよ。


「はっや~! 本当に鈴菜? 誰か別の人、入ってない?」


 お前もな。


「団子シリーズが昼の購買で売ってることを知ってから別人になった」

「……あ、そうなんだ。で、何であんたは事前に買ってあげてないの?」

「何で鈴菜のものまで俺が買うんだよ! あいつの好物は日替わりだから知らないぞ。それに確か団子シリーズは昼休み限定だ」

「使えねーやつ」


 それは購買に言ってやれよ。


 本来なら、女子二人(それも学園二位の鈴菜がいる)に囲まれて食べる昼休みは他の男子から羨ましがられるものだ。


 だが、音川は男子から見てかなりキツい性格として知られている。そのせいで、だらんとした鈴菜が間にいても相殺出来ない現象が起きた。その結果、俺には何の嫌味も妬みもなくなっているわけだ。


「たでぇまぁ~汗とまらな~い~」


 急行並みに早かった鈴菜が教室に戻ってくると、途端に全身をだらけさせ、勢いよく席へと体を落とす。


 その姿がまた何とも弱々しく見えるとかで、教室にいる男女問わずの人からは思わず駆け寄って肩を貸したくなる現象に襲われるらしい。


 好きなものには本気出すタイプだが持続性が極端に短いだけである。


「鈴菜おかえり~。そこの黒山も鈴菜を心配してたよ」

「ふぇっ? えっ、貴俊くんが~? 本当に~?」

「俺は別に……にっ、忍耐強く鈴菜を待ってましたよ!」


 おお、危ない。音川のカップ麵の残り汁が飛んでくるところだった。


「そうなんだ~えへへ」

「そうそう。黒山くんは全然素直じゃないけど言う時は言う男子だから、もっと体を預けていいと思うよ~」


 本来ならそんなことを言われたら飛び上がって興奮するが、鈴菜の体を俺に預けるということは、()()()()()を意味するからシャレにならない。


「じゃあ~貴俊くん~帰りはおんぶしてくれる感じ~?」

「無理です」


 やれや! などと、音川が無言で脅してくるがそんな甘やかしはあり得ん。


「ん~こしあん美味し~!」

「……」

「……」


 俺と音川が変な空気になりそうなところで、肝心の本人はこしあん団子を美味しそうに口に放り込んでいた。


「明日はな~に~食べよっかなぁ~」

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