24.本店で見かけた新人イケメンの視線
連休中は結局甘えまくってくる凪の思うがままにさせ、支店と実家を往復するだけで終わってしまった。
実家にいながらすぐ隣の本店にはあまり顔を出すこともなかった俺だったが、連休最終日に本店のスタッフさんが騒いでいたので、本店に顔を出してみることにした。
「凪も行く?」
「行かな~い! 本店はお店とか大きすぎて何か嫌だし、パパもいるし……」
「それもそっか」
俺にべったりな凪ではあったが、支店はともかく本店にはパパさんが働いているので、流石に会いたくないとかでついてこなかった。
連休最終日とはいえ、やはり本店は支店と比べられないくらいの盛況ぶり。ここで働いているスタッフの数も倍なので何となく緊張しながら店内へ入ってみた。
「おや? 貴俊君じゃないですか。もしかして手伝いにきてくれたんですか?」
入って早々、凪のパパさんに見つけられすぐに声をかけられた。
「い、いいえ! 俺は支店の品出し担当なので。単なる客ですよ」
「そうですか。いずれ本店を継ぐことになるでしょうし、じっくり眺めてもらっていいですからね」
「そ、そうします」
ふぅ。店を継ぐかどうかはともかく、やっぱり見知った人には見つかってしまうよな。
……というわけで、俺はなるべく目立たないように駄菓子を眺めることに。
本店内をあまり眺めることもないので、在庫ごと商品が置いてある通路をひたすら歩き回って駄菓子を観察していると、レジ周辺が何となく賑やかになっていることに気づいた。
「アサく~ん! 次、こっち~!」
「はわぁぁ……透き通るような声、儚げな瞳……あぁ、推せる……間違いなく」
……ん?
やたらと女性客が集まっているな。もしやどこかのアイドルが体験入店とかしてる?
でもそんな話は支店でも出てないし、アイドルじゃないということはイケメン店員がバイトしてる感じか?
女性客がレジ前に群がっているのに、レジが混雑してる感じじゃないということはレジはスムーズに出来てるんだな。
他のスタッフはあまり騒いでなくてヘルプにも入ってないって、それってかなり優秀な人材なのでは?
とりあえずここじゃない別の区画にいるレジの女性スタッフに訊いてみることにする。
本店は店がデカいからレジも何台もあってそれぞれ場所を分けてるので、そういう意味では該当の人にバレずに訊きだすことが可能だ。
「こんにちは」
「あっ、黒山さん。お疲れ様です~」
「どーも」
さり気なくちらりと向こうの方を見ながら訊いてみると。
「あぁ……凄いイケメンですよね。目を奪われてしまう気持ち、分かりますよ~」
「あの人の名前を訊いてもいいですか?」
「あぁ、それもそうですよね。黒山さんには知る権利がありますもんね。ええと、あの人の名前は……」
あれ? まだ全ての店員に知れ渡ってないのか、
「アサさん……ですね」
「え? 名前がですか?」
アサさん……うん、知らないな。
「そう聞いてますよ。それに短期バイトって話なので、フルネームとかそこまで気にしてなくて」
「確かにそうですね。すみません、ありがとうございます」
「いいえ~」
イケメンを気にする必要は本来俺には全くないが、なぜか気になるというか俺があのレジ付近に近づいた時、あのイケメンから妙な視線を感じてしまった。
俺に何か文句でもあるのか分からないものの、店の関係者として一言くらい挨拶はしておかなければと思った。
――というわけで、イケメンがレジから離れて引っ込むまで奥の倉庫で待っていたら、シフト上がりなのかこっちに向かってくるのが見える。
よし、挨拶しておこう。
「こんにちは、初めまして! 俺は――」
「……お疲れ様です。急ぐので失礼しますよ」
そう言って、俺の名前を名乗る前に通り過ぎて行ってしまった。
「ええ?」
思わず振り向いてイケメンを見るも、よほど急いでいたのか後ろ姿すら見ることが出来なかった。
だがこの倉庫の通路は外に出るために必ず通る場所。もう一度声をかけてみるしかない。
「すみません。さっきはタイムカード打刻急いでたんで。こんちは、アサって言います。黒山くんですよね? 短期で支店の方にも行くかもなので、よろしくです」
再び着替えて出てきたイケメンを正面で待っていると、さっきの態度が悪いと思ったのか、頭を下げながら俺に声をかけてくる。
……なんだ、いいイケメンじゃないか。
しかし中性的な感じで女性とも男性ともとれる不思議な人だ。声は鈴菜に似てるけど、髪はショートだし髪色も黒じゃなくて少し銀髪っぽいし……。
鈴菜に似てるけど全くの別人だな。
「じょ、女性ですよね?」
「……そうだけど?」
「あ、いや……何でもないです。お、お疲れ様です」
「はぁ。どーも。お疲れ様でした。じゃあ、また黒山くん」
なるほど、所謂イケメン女子というやつなんだな。あの言い方だと、多分怒らせてしまったかも。
あとで母さんに伝えておかないと。
……それにしてもショート銀髪のイケメン女子で透き通った声って、なんか不思議な魅力があるな。
とりあえず事務所に顔を出しておくか。
★ ★ ★
もしかしなくても貴俊くんにバレてない?
教室では無理だからせめてバイト先、それも貴俊くんがいる場所で彼を夢中にさせないと何も変わらない。
だから貴俊くんは、義理の妹さんのために今のうちに沢山甘えさせてあげてね。わたしは負けるつもりないから。




