21.強引でも甘えてくる女子が勝つ??
――って、もう見られてた!?
急いで駆けてきた鈴菜が立ち止まっていて、そのうえ俺と目が合って石像のように動かなくなっている。
「おにーさん、どこを見てるの?」
「い、いや……」
「……あぁ~なるほどね」
俺の腕にがっちり絡んで離さない凪は、そのまま俺ごと引っ張って鈴菜の前に行こうと近づく。
「こ、こらこら、強引に俺まで引っ張るなって!」
「え~いいじゃん!」
俺の力よりも強い力で引っ張られ、鈴菜の目の前に来てしまった。しかし、鈴菜はまだ表情どころか全身の動きを止めて呆然としている。
「今朝はどーもです。幼馴染さん」
「ふぇっ? あっ……貴俊くんの妹さんだよね~。初めまして~浅木鈴菜だよ~」
「……は、初めましてって……」
「うんうん。こうしてちゃんと出会うのは初めてだから~」
凪の方が気持ち押されてるように見えるのは気のせいだろうか。それとも鈴菜は朝に起きた出来事すらすでに記憶にないとか、そういうことか?
天然だから不思議じゃないが、凪の牽制に負けてないように見える。
「とりあえず~今ね、貴俊くんと一緒に帰るところだったんだ~。だから、妹さんも一緒に帰ろう~?」
あれ、凪の登場で石像のように固まっていたのに、鈴菜はそこまで脅威と見てないのか?
鈴菜は割と誰とでも仲良くしたがるけど、驚いただけで友好的にしたい感じなんだな。
「え~? 嫌でーす! 見ての通りなんですけど~貴くんは凪のおにーさんなので、単なる幼馴染さんとは仲良くなれませーん!」
そうかと思えば凪はあからさまに鈴菜を敵対してるし。
「……た、貴くん? え、妹さんなのに……えぇ?」
あああ、よりにもよって鈴菜の前でその呼び方をしなくてもいいのに。
「お、おい、さなぎ! そんな言わなくても……」
「だって本当のことだし」
「あまりにも強引すぎるぞ……わ、悪いな、鈴菜。妹が……」
鈴菜の方から歩み寄ってこようとしてきたのに凪はまるで相手にしてないとか、ここまで強く出なくてもいいのに。
「やっぱり響ちゃんが……うん、そっか、そうなんだ……」
さっきまで笑顔を見せていた鈴菜が、下を向きながら何か独り言を呟き始めている。
もしかしなくても泣き出してしまうやつなのでは?
「な、凪! 今すぐ鈴菜に謝れ! 駄目だぞ、あまり強く言うのは」
「え~何で~? 別に年上でもないじゃん。それに幼馴染だったら、こんなことくらいで落ち込むとかないと思うけど」
そう言いながら凪は見せつけるようにして、さらに力を強くして腕を組んでくる。力の入れ具合は俺を鈴菜の方に絶対近づかせないくらい強い。
「ま、参ったな……」
「貴くんの幼馴染さん。凪のおにーさんにどうこうするつもりがあるなら、本気でかかってきたほうがいいですよ~? なんたって凪とおにーさんは、一緒に寝る仲なんだから!」
「寝てないだろ。というか、鈴菜? こいつは俺の妹だからそんな落ち込まなくてもいいからな? 鈴菜~?」
さっきから下を向いたまま落ち込んでる、もしくは何も言わなくなってるが、真面目に心配するくらい沈黙しているのは流石に心配になる。
いつもほわほわしてる彼女なだけに笑顔が消えるのは凄く不安なんだが。
「ふぅん? 何も起きてないただの幼馴染なのにそんなに心配するんだ?」
「ただの幼馴染だからこそ心配する。もちろんそれは、妹であっても同じだと思うけどな」
「ムズカシイことは分かんない~。とにかく、帰ろうよ! 貴くん」
家にいる時は単なる甘え上手の義妹だと思っていたけど、今朝の出来事がきっかけかは不明とはいえ、鈴菜相手でもここまで敵意剥き出しになるなんてかなり独占欲が強い子だな。
「凪。とりあえず一回腕を離してくれ。一回離してくれたら家まではくっついていいから」
鈴菜のメンタルがどうなってるか心配すぎる。
「んー……そんなに気になるんだ? ……まぁいいけど」
少し不機嫌になりながらも、凪は組んできた腕をするりと外して俺から離れた。すでに学園から離れて歩いているとはいえ、音川辺りが目撃して文句を言いにきても不思議はない。
その意味でも俺はすぐに鈴菜の顔を下から覗き込んだ。
「鈴菜~? ど、どうし――」
「貴俊くん。五月の連休がもうすぐあるよね?」
「へっ? あ、あるな。連休がどうかした?」
「連休明けまで教室でも外でも一切、わたしに話しかけなくていいからね~? 貴俊くんは妹さんを思いきり甘やかして過ごせばいいと思うんだ~」
連休明けまで話しかけるな――って、そこまで激怒してるってことか?
ずっと黙り込んでいると思ったらまさかの期間限定絶交とか、鈴菜らしいといえばらしいけど、何でそこに妹の甘やかしが関係してくるんだ。
「え、それって……何で……」
少し離れたところで俺を待っている凪を気にしつつ鈴菜をなだめようとすると、
「貴俊くんが悪いんだよ~? わたしの甘え方じゃ通用しないって見せつけるんだもん……。響ちゃんが教えてくれたとおりだったよ~。貴俊くんは強引に甘えを見せる子に弱すぎなんだよ~。でも~わたしだって負けるわけにはいかないんだよ~」
そう言って鈴菜はいつもと変わらない笑顔を俺に見せてくる。
「負けも何も……」
「貴俊くん」
うっ、いつになく真剣な表情だ。これは真面目に返事をしないと。
「は、はい」
俺の緊張した返事に、鈴菜は口角を上げながら俺に向かって指を差して。
「わたしじゃないわたしに変わってももう遅いんだよ~? 覚悟しろ~!」
間違いなく俺に宣戦布告をしてきてるような気がするが、凪の方も見てるから俺というよりは凪に対して宣言してる感じか。
「……えっと、鈴菜さん?」
鈴菜から一瞬だけ視線を外して凪を見ると、凪は早くしてよねといった感じで俺に向かって舌を出している。
「そんなわけだから~……妹さんと仲良く帰ればいいのだ~! じゃあね、黒山くん、バイバイ~」
「――え」




